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58.海賊 ※

暴力的表現があります。

「ルネさん、ライアンの傷を見て下さい」


 医務室では何人かの船員達が治療をしている。リヴィがそう言い、ルネが傷口を診て縫う事になった。リヴィは他の船員達の消毒にあたる。


「大きい怪我はこれだけです?」

「そうですね、リヴィと協力して戦ったので。正直、相手もそこまででは……」


「そうでしょうね。今回の海賊達は素人でしょう。向こうの手練は少なかった様です。こちらの怪我人が少ない」


 ルネはそう言いながらライアンの腕を縫った。


 チクチクと痛むが、我慢出来ないほどではない。


 縫われている間、ライアンはずっとリヴィを目で追った。彼女は必死に船員達の看病をしていた。そんな頑張っている彼女の姿を見て、自然と顔は綻ぶ。


「ずっと見てて飽きないんです?」

「へ!?」


 慌てて視線を外した。ルネは面白そうに微笑んだ。


「そんな所はヴァルに似てますね」

「へ……へぇ、そうなんですか」


 両親の恋愛事情は、聞いているとむず痒くなる。リヴィなら楽しそうに聞くだろうが、自分はそうでも無い。

 数分経って、ルネが糸をハサミで切った。


「終わりましたよ」

「ありがとうございます」

「上に戻ります?」

「いや、ちょっとその、父に頼まれて。リヴィの監視を」

「監視?」

「『上甲板に来させるな』と言われてます。あまり見せたくないから、と」

「ああ……なるほど。では、ライアン。リヴィを護ってくれたお礼に……」


 ルネは他の船員の治療にあたっているリヴィを呼ぶ。リヴィは「何でしょう?」と振り向いて答えた。


「ライアンの面倒を見て下さい」

「面倒?」

「なるべく腕を動かさないようにしたいので。水を飲ませたり、汗を拭いたり」

「「え?」」


 リヴィとライアンが同時に声を出す。

 右腕は怪我をしていないので、右腕を使えばいい。なのにそんな事を頼むのはおかしな話だった。


「んー? 右腕使えばいいんじゃないですか?」

「右腕もなるべく使わないようにしたいので」


(ルネさんそれは無理があるって!!!!)


 ルネは自分で言って笑いを堪えている。咳払いをし、なんとか平常心を取り戻した。


「いいですね?」

「う、うーん? あ、はい」


 リヴィは疑問を持ちながら、ライアンの額の汗を拭いた。


「体も拭く?」

「へ?」

「シャツ脱がしてあげる」


(え!? これは、もしかして、凄く嬉しい――いやいや!! 色々とまずいって!!!!)


 ライアンは顔を引きつらせて、ルネに助けを求めるが、ルネは他の船員たちの治療をした。リヴィはライアンのボタンを外していく。


 そこにお湯を持ってきた3つ子の1人が、2人を食い入るように見ていた。




***


 上甲板――。


 右舷船縁近くに、横1列で16人とその前に1人で縛り上げられた海賊が、両膝をついて座らされている。


 怪我をしているが、そんな事は関係ない。


 前に1人座らされているのは海賊船の船長だった。

 白百合(リスブロン)号の船員達は、船刀(カトラス)を手に持ち、海賊の後ろに控えている。ヴァルの近くには、鉄製のバケツに火がくべられ、鉄製の棒が1本入っていた。


 海賊船の船長は、細身の剣を持ったレオナールを睨み付ける。レオナールはそんな彼を見下げ馬鹿にするように鼻で笑った。


「安心したまえ、諸君。お前らの命は有効的に活用する事を約束しよう。スズリの奴らと違って、わざわざ裁判に掛けて縛り首など面倒な事はしない。そんなもの、時間をかけるだけかけて、命を粗末にしているからな」


 海賊船の船長は、ギリッと歯をかみ締め「地獄へ落ちろ」と吐き捨てた。レオナールは「よく言われる」と馬鹿にするよう笑いながら言った。


「死にかけは?」

「捨てたよ」


 ヴァルがそう言うと、レオナールは船長室に向かって歩き出した。


「なら、準備出来次第――」

「この!! 外道!!」


 船長の後ろに並んでいる内の1人、帽子を被った人物が大声を上げた。レオナールは立ち止まり、振り向いて眉をひそめた。他の船員達も眉をひそめたり、首を傾げていた。


「お前は黙れ!!」


 海賊船の船長が、大声を上げた人物を睨みつけた。


「でも! ラッジはまだ息があった! 他の奴らも……なのに、こいつらは海に投げ捨てたんだよ!!」


 レオナールは帽子を被った海賊の元へと歩み寄った。そして、持っていた剣の先で海賊の帽子のつばを上げ、そのまま帽子を落とした。すると、帽子にしまっていた長い黒髪がはらりと落ちた。


「女?」


 彼女は何も言わず、ただレオナールを睨みつけている。


「声が高いと思ったら……海賊は人手不足なのか?」

「海賊じゃない! 私達は、ギヌヘイム人の解放を――」

「またか。それは流行りか? 前もそんな事を言っている海賊がいたぞ」

「違う!! 海賊じゃない!! この奴隷船から、ギヌヘイム人を解放する為に――」

「奴隷船……?」


 レオナールは鼻で笑う。


「何処の馬鹿に吹き込まれたのか知らんが、これは労働力供給船だ。……まぁ……あとは普通の商船だな」


 レオナールが考え事をするように話すと、彼女の隣にいた男が「戯れ言を!」と叫んだ。


「はぁ……今日の奴らはよく喋って煩いな。そうだな……話す時は挙手制……いや、無理か。許可制にする。『話したいです。お願いします』と言え」

「ふざけるな!」


 そう言ったのは女の隣にいた男だった。


「許可なんて誰が――」


 男の言葉は続かなかった。レオナールの剣が、口から後頭部へと突き刺さったからだ。


「許可制だと言ったはずだ」


 冷酷な瞳で見下げ、剣を引き抜く。


「イニャス!!!!」


 女が叫んだ。男はその場で倒れ痙攣し、絶命した。海賊達は憎しみの目でレオナールを見ている。


「邪魔だ」


 イニャスと呼ばれた男の近くにいた船員が、死体の襟首とズボンを掴んで海へ投げ捨てた。


「呪われろ! 地獄へ落ちろ奴隷商人!!」


 女が叫ぶとレオナールは女の髪を鷲掴み、床へと叩き付けた。鈍い音と共に「ぐあッ」と女の声がした。


「ニナ!!」


 船長の男が叫び、立ち上がろうとするが、傍にいたセルジュに取り押さえられた。


 レオナールは女の髪を引っ張り上げた。額と鼻からは血が流れている。そんな女の顔を、しゃがみ込んでじっくり見つめた。


「お前は生かしておいてやる。欲しがっている奴がいるからな」


「……お前らの慰みものにされるくらいなら、死んだ方がましだ」

「慰みもの? お前が? 魅力的な女なら、そうなる事もあるだろう。だが……見た所……お前にそんな魅力は無い。……あの男には有るようだがな」


 女は顔を真っ赤にした。レオナールは乱暴に手を離し、ヴァルに「ルネにやれ」と言う。それを聞いた白百合(リスブロン)号の船員達は、同情の目を女に向けた。


「ヴァル、俺は部屋に戻る」

「あいよ」


 レオナールは踵を返し、船長室へと歩き出した。


「このッ――」


 1人の男が、隠し持っていたナイフで縄を切り、レオナールへと切りかかった。レオナールはその男を見遣ったが、顔色1つ変えず前を向きそのまま歩く。


 白百合(リスブロン)号の船員達もその男を取り押さえる様子はない。


「死――」


 多分、彼は「死ね」と言いたかったのだろう。だがその2文字を最後まで言う事は出来なかった。代わりに、叫ぶ声と、ゴトっと床に右腕が落ちる音がした。


 ヴァルの剣からは血が滴っている。


 男は蹲るように倒れた。ヴァルはその男の襟首を掴み、引きずって船縁へ向かう。


「止めろ! 離せ!」


 何度もそう叫んでいるが、ヴァルは気にせずそのままその男を海へと投げ捨てた。男は「助けて」と叫びながら必死に藻掻くが、片腕を切り落とされ、上手く泳ぐことは出来なかった。


 男は力尽き、そのまま溺れ沈んだ。


「他に海の底で寝たい奴はいるか?」


 ヴァルがそう言うと、海賊達は視線を逸らした。『白百合(リスブロン)号に捕まるなら死んだ方がまし』と思っていても、いざ目の当たりにすると、すぐに死にたいとは思わなかった。


「よし! いいな!」


 明るくヴァルがそう言い、右手で首を触る仕草をすると、海賊達の後ろにいた船員達は、海賊の首に鉄製の首輪を着けた。女以外の海賊達は、首輪に鎖を通して全員繋がっている。


 次に海賊達の左袖を破った。ヴァルは、火がくべられたバケツから鉄製の棒を取り出した。鉄製の棒は、高温に熱せられている。

 海賊船の船長の後ろに居たセルジュに目配せすると、セルジュは船長の背中を膝で踏み、頭を右手で押さえつけた。


「いつか、必ず、お前らに、天罰が――」

「はいはい、分かりました」


 相手の言う事を気にもとめず、ヴァルは男の左腕に棒を押し付けた。


 男は熱さと痛みに我慢するような唸り声を上げた。


 鉄製の棒を離すと、そこには白百合の花が烙印されていた。再び鉄製の棒を熱し、次の人物に烙印をする。


 ――叫び声と唸り声が船に響く。


 最後は女だった。彼女だけは皆と同じ鎖には繋がれず、別の鎖で繋がれ、イーサンがそれを持っていた。


「お前さんには、同情するね」


 ヴァルは哀れみの目で女を見つめた。


「私もあんたには、同情するよ」

「ん? 何でだ?」

「あんな碌でもない男がご主人様なんだろ。黒犬」

「へぇ、俺の事を知ってるとはねぇ」


「知らない奴がいるとでも? 獅子の取り巻きは黒犬と悪魔なんだろ。あんたは悪魔って言うより、尻尾振ってる犬って感じだ」


 その言葉を聞いてヴァルは笑った。


「何でかよく言われんだよなそれ。そんなに俺は尻尾振ってるように見えるか?」


 ヴァルは女ではなくイーサンを見た。イーサンはまさかこちらに聞かれるとは思わず「えっと……」と視線を泳がせ答えを探している。


 イーサンには『尻尾振ってる犬』と言うより『主人に忠実な犬』に見える。だが『尻尾振ってる犬』にみえる理由も分からなくもない。「ニヤケ顔だから『尻尾振ってる犬』に見えるのかも知れません」とは言えなかった。


「答えずらかったな」

「あっ、いえ、違いまして――」

「いい、いい、すまねぇな」


 イーサンはバツが悪そうに視線を外し、ヴァルはニヤけた顔で女を見た。


「さて、お嬢さん。お前さんはこれから悪魔の所に行く。さぞ可愛がってくれるだろうよ」


 ヴァルはイーサンに目配せをする。イーサンは女の背中を膝で押さえ付け、頭を右手で押さえた。そして、ヴァルは腕に烙印を押す。例え女でも、罪人であれば容赦はしない。


 ――男女平等である。


 船員達が海賊を牢屋へと詰め込むのを見届け、ヴァルは医務室へと入っていった。『玩具が手に入った』と伝える為と、ライアンの様子を見る為だった。

 

「ルーネー、よろこ……べ……?」


 目に入ったのは、床に寝っ転がる怪我をした船員達と、2段ベッドの下に座るライアンとリヴィだった。ライアンは何故か、上半身裸の状態で嬉しい様な困った様な顔をして、リヴィに水を飲ませてもらっている。


「何してんだ」


 首を傾げ、リヴィに問うと「ライアンの看病」と答えた。


「え?」

「ぶふっ」


 ルネは吹き出し、よく分かっていないヴァルは不思議な顔で2人を見ていた。

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