54.キス?2
「やめて!! しっかりして!! 酔すぎ!!!!」
リヴィはセルジュの口を手で抑えた。だがそのまま顔を近付けてくる。狭い見張り台の上では、逃げようにも逃げれなかった。
「別にいーじゃねーか。減るもんじゃねーし」
セルジュの力に負け、だんだんと後ろに倒れそうになる。
「ちょっ……本当に――」
すると、波の音に紛れて馬車と馬が走る音がした。
視線を桟橋の方へ向けると、馬車と騎兵隊が見え、白百合号の専用桟橋近くに止まった。
「か、帰ってきた!! 船長達!! 見て!!」
セルジュは視線をそちらへ向ける。
「あー、帰ってきたな」
顔を近付けるのをやめ、リヴィはほっと一息吐いた。セルジュは何事も無かったかの様に、欠伸をしてニヤリと笑った。
「な、なに?」
「馬鹿みてー。必死に嫌がりすぎ」
「なにそれ!! 嫌がるよ!!!!」
「するわけねーのに必死だから笑うしかねーだろーよ」
(腹立つ!!!!)
何故こうも嫌がる事ばかりするのだろうか。
酔っぱらいは面倒である。ふざけているだけなのだろうが、勘弁して欲しい。
「さーて、そろそろ降りるかー」
そう言って背伸びをした。
「すぐ仕事?」
「いーや。積荷が来てねー」
リヴィは首を傾げた。
「え? でも昨日の夜に――」
「あれだけじゃねーんだ。これから来る」
「そっか。なら僕はシャワー浴びたい」
「お前毎日入ってんの?」
「入れる時は」
「ふーん、あ、そっか。お前、楽園系の店には行かねーもんな」
「う、う……ん」
恋愛対象が男の為、セルジュはそう言ったのだろう。間違ってはいないが、何となく気まずい気持ちになり、再び馬車を見た。
御者が扉を開けて、レオナールとライアンが出る。
ルネが降りて来ないのでセルジュに聞いてみると「多分、積荷と一緒に来る」らしい。
何時もはその役割をヴァルがやっているからだと言う。
「降りるか。先に降りていいぞ」
リヴィは立ち上がり、降りようとした――が、裾とロープを一緒に踏んでしまい、足を踏み外した。「ひっ」と息をのみ、セルジュが咄嗟にリヴィの襟首を掴んで事なきを得た。
「あっぶねーな。降りにくいならそー言えよ」
――殺意が湧く。
登りにくい事は言っているのだから、降りにくい事も気付いて欲しい。
「ちょっと待ってろ」
セルジュは立ち上がり、シュラウドにしがみ付くリヴィの背中に密着するように重なった。
「何する――」
「このまま降りる。後ろから支えてやるから、ゆっくり降りろ」
リヴィが1段降りると、重なってセルジュも一緒に降りた。これではセルジュも降りにくいだろう。
「兄さんは、降りにくくないの?」
「別に? 俺ぐらいになると片手片脚で上り下り出来るからな」
その言葉に少しセルジュを見直した。
ふと馬車の方を見る。騎兵隊の隊長らしき人物が馬を降り、レオナールと話している。ライアンは先に白百合号に乗り、キョロキョロと周りを確認していた。
そして船首を見てそちらの方へ早歩きをし、何かを確認すると、甲板下へと繋がる階段を降りた。
「あいつ何してんだ?」
セルジュは不思議そうに言う。だがリヴィには、ライアンが何をしているのかすぐ分かった。
「僕を探してる」
それを聞いてセルジュはつまらなそうに「ふーん」と言った。リヴィはまた1段降りる。だがセルジュは降りず、そのままだった。
「兄さん、降りないの?」
「お前に重なりながら降りんのやりにくいんだよ。ちょっと待ってろ」
「え? でもさっき――」
「お前が落ちねーよーにしてやってんだから、文句言うな」
矛盾を指摘しただけだが、自分の為にわざわざこの様なやり方で降りているので、反論はしなかった。
ゆっくりと2人で降りる。
シュラウドを半ばまで降りた頃、ライアンは船内を探してリヴィが居ないと分かり、上甲板まで戻ってきた。
ライアンはシュラウドを見て、リヴィが居ることに気付き微笑んだが、直ぐに険しい顔になった。
(あ……嫉妬してる……)
分かりやすい反応だった。もうあと半分なら大丈夫だろうと、セルジュに離れてもらう為、振り向きざまに「兄さん」と呼びかけた時だった。
思った以上にセルジュの顔が近くにあった。そして、唇に柔らかい感触が触れた。リヴィは顔をひきつらせ、急いで顔を離した。
セルジュの唇が、自分の唇に触れてしまった。
「お前……」
「ご、ごめん」
リヴィはライアンの方を見る事が出来ず、セルジュの方を振り向いたままだった。
「キスしたかったんなら言え」
「ち、違う!!!!」
「じゃーなんだよ」
「あ……えっと……もう半分まで来たから大丈夫って……言いたくて……」
「あのなー、そーやって気を抜くと痛い目にあうぞ。ほら、降りるぞ」
結局そのまま降りた。ライアンは近くまで来ていたが、やはり顔を合わせられない。
「何してたの」
怒っている声だった。
「シャワー浴びてくる」
ライアンの問いに答えることが出来ず、その場に居る事も出来ず、逃げるように甲板下へ続く階段の方まで走る。
だがそれと同時に、レオナールが船に乗り込んできた。リヴィは驚き立ち止まり、心臓も一瞬止まった。フェイスベールをしていない今、なるべく髪の毛で顔が見ずらいよう俯く。
レオナールは歩きながら、そんなリヴィを一瞬見た後、時が止まった様に立ち止まった。眉をひそめ、ゆっくりとリヴィに顔を向ける。
「……リヴィ?」
驚きと疑いを含む声色で、リヴィに話し掛けた。リヴィの心臓は早鐘を打つように鳴り響く。
小さく深呼吸をして冷静さを取り戻した。
「何でしょうか、船長」
堂々と声を出した。するとレオナールはハッとするような顔をして「何でもない」と言い船長室へと入った。
(あっぶないーー!!!! でも、風の剣取りに行きずらい……布巻いてあるから大丈夫かな……)
仕方が無いのでそのまま医務室へと向かった。そして医務室へと入ると、ベッドに座り頭を抱えた。
「はぁ」
ライアン以外の男性と唇を重ねたのは、初めてである。
そしてライアンの言っていた『口直しをしたい』理由が分かってしまった。微かに触れ合っただけでそう思うのだ、ライアンはもっとそう思っているに違いなかった。
シャワーを浴びようと思ったが、見張りが居ない事と、この服が1人で脱げない事を思い出した。
(最悪だ……結局ライアンを待たなきゃ……)
大きな溜息を吐き、ベッドへと座り「口直し……」と呟くと、ある事を思い付いた。
「これなら……いけるかも……」




