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52.勝敗

*****


「ふざけんな! どー考えてもリヴィが優勝だろーよ!!」


 酒屋のカウンターで、セルジュは怒りの大声を出した。カウンター上には大量にお酒が並べられている。


 傍でリヴィが申し訳無さそうに肩を竦めた。


「そんなの分からないだろ。1刻やったら、エミリオかテオが優勝してたかもしれないだろ」


 イーサンがそう言うと、後ろにいたドニはうんうんと頷いた。


 リヴィが男に声を掛けられた後、自分が男であると伝えた。2人は引き下がったが、1人は引き下がらなかった。

 予想と違う反応に戸惑っていると、腕を掴まれ引っ張られた。


 そんな様子を見て、笑っていたセルジュは慌ててリヴィの元へと走った。

 だがその男とは揉めに揉め、走って逃げた。


 結局『新人かわい子ちゃん選手権』は、急遽終了。


 何とも言えない終わり方だった。


「開始早々、3人に声掛けられたんだぞ!」

「最後までやらないと分かんないだろ。試合放棄したのはそっちだ」

「仕方ねーだろーよ!」

「いいから、さっさと買えよ。あ、そっちの酒も1本」


 ギリギリと歯を噛み締めながら、セルジュは店員に酒を頼んだ。


「全部で金4、大銀8、小銀8、銅貨5、鉄貨5だね」

「はぁ!?」


 ゆっくりと振り向き、イーサンとドニを見る。 2人はハイタッチをして笑っていた。


「お前ら覚えてろよ」

「すまんな、明日の朝には忘れてる。それに何時も俺らが負けると、馬鹿みたいに買うのはセルジュだろ」


 何も言えなくなったセルジュは、財布から金貨5枚を出し、お釣りで大銀貨1枚、小銀貨1枚、銅貨4枚、そして鉄貨5枚を貰った。


「リヴィ! 持て!! お前のせーで負けた」

「え……でも、これ全部は重い――」

「いいから持て!」


 お店の人が木箱に入れた酒を、リヴィは1人で持った。


(重っ!!!!)


 銀食器より重い物は持った事が無い――と言うのは言い過ぎだが、ここまで重い物を持ったのは無い。学校でも重い物は持たせて貰えなかったし、ラファル邸では有り得なかった。


 指が千切れそうになり腰も痛かった。それを見たエミリオが小馬鹿にするように笑い「頑張れよー」とイーサンと共に前を歩いて行った。


 ムッとしながら1歩歩くが一瞬よろめき、無理だと感じて降ろした。


「持てないよ」


 シュンと悲しげに俯くと、セルジュは溜息を吐いて、店員に酒を2つの木箱に分けるように頼んだ。


「そっちが軽いからそっち持て」

「ありがとう、兄さん」


 少し嬉しそうにしているリヴィを見て、セルジュはリヴィの頭を両手でグシャグシャにした。


「何するの!」


 セルジュは鼻で笑った。そしてセルジュが前を歩き、リヴィはその後を遅れて歩く。


 白百合(リスブロン)号に着くと、タラップの上でヴァルが船縁に肘を着いて待っていた。セルジュはヴァルに挨拶をすると横を通り過ぎ、船首へと向かった。


「おかえり、リヴィ」

「ただいま、副船長」


 リヴィは木箱を置いて腰を伸ばした。


「重いなら持つか?」


 ヴァルにそう言われ、周りを確認した。皆は船首におり、他に誰も居なかったので、いつもの話し方で話した。


「大丈夫。それに、副船長がそんな事したら変なんじゃない?」

「んー……そうだな。それで、選手権はどうだった」

「私、金貨1枚だった」


「……ん?」

「金貨1枚出すって。最初、男の人が来て大銀貨1枚って言ったんだけど、他に男の人2人増えて、金額がつり上がっていったの。それで最終的に金貨1枚になった」

「ああ……なるほど。声は出さなかったのか?」


「最初びっくりして出せなかったの。金貨1枚ってなってから、慌てて声出したんだけど……1人から『構わない』って言われた。それで揉めちゃって、いろいろあって途中で終わったの」


「……だから帰りが早かったのか」

「そう。それで、試合が途中で終わったのは私のせいだからって、兄さんがお酒買ったの」


 ヴァルはそれを聞いて笑った。リヴィはずっと疑問だった事を質問した。


「これほんとにお父様が考えたの?」


 ヴァルは気まずそうに「そうだ」と答えた。


「アルはふざけた事とか悪戯が好きだったんだ。まぁ、最初は女装させて酌をさせるだけだったんだが、それに少しづつ色んな事が加わってこうなった」

「そうなんだ」


 自分は何か悪戯をされたか考え、そう言えばそうだったかもしれないと思った。

 アルベールは、よくプレゼントをくれた。だが毎回、最初に渡してくるのは吃驚箱(びっくりばこ)だった。最初の3回は驚いたが、4回目以降はもう驚かなかった。


 5歳の誕生日にはプレゼントを用意し忘れたが、そのお陰で白百合(リスブロン)号に乗る約束――レオナールによって破棄された――が出来た。


「嫌な思いさせたな。レオの前じゃ、なかなか庇うのが難しい」

「んーん、全然大丈夫。いつもありがとう」


 リヴィが微笑むと、ヴァルは手を伸ばして頭を撫でそうになったが、船首の方から視線を感じて止めた。


「行ってこい。酒が待ち遠しいとよ」


 ヴァルが船首を見遣り、リヴィは視線を向けた。確かに皆こちらを見ている。


「うん。行ってくる」


 リヴィは再び木箱を持ち上げ船首へと向かい、ヴァルは船長室へと戻った。


「金貨……」


 ヴァルは渋い顔で椅子に座り、テーブルの上に置いた風の剣(シルフィード)を見ながら呟いた。


 立ち娼婦の相場が小銀貨数枚である事を考えると破格である。

 リヴィが声を出した事によって競りは終わったが、もし、声を出さなかったらもっと金額は上乗せされていたに違いない。


 テーブルに置いたワインをひと口飲み、風の剣(シルフィード)を見つめた。


「アル……お前の娘は、お前が予想してたように『モテモテのかわい子ちゃん』になったぞ」


 ふっと笑うと、もうひと口ワインを飲み、椅子に寄りかかった。




***


「ほら、ルネさんよりも副船長と何かありそうだろ」


 イーサンは話し込んでいるリヴィとヴァルを見ながらそう言った。趣味部屋掃除の許可を取った日、ヴァルの行動に違和感を感じ、セルジュとドニに話していた。


「いやあれはただ話してるだけだって。副船長ならルネさんより話しやすいだろーよ」

「でもわざわざ趣味部屋掃除を教えに来たんだぞ。さっき剣だって預けたんだろ?」


 セルジュは唸るような声を上げて悩んだ。


「……2人じゃないの」


 ドニがぼそっと呟く。エミリオはドニを見て目を見開いた。彼が話すのは珍しいからだ。


「どういう意味だよ」

「……2人に関係してるんじゃないの」


 そう言って木箱の中を漁り、ラム酒を1本取ると微笑んだ。そしてもう1本取り出し、テオに渡して座った。テオは頭を下げて、その隣に座る。


「2人……」


 セルジュが腕を組んで考えていると、ヴァルとの会話を終えたリヴィが木箱を持ってこちらに向かって来た。


「お待たせしました」

「お、おう」


 少し変な空気を感じ「何?」と聞いた。


「あー、女装似合ってるなーって思って。それだけだ」


 リヴィは自分を馬鹿にしていたのだと思い「そう……」と気にしない事にした。

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