47.ギヌヘイム帝国
白百合号に乗って15日後の夜――。
ギヌヘイム帝国のスルト港へ着いた。真っ暗な街は松明で照らされていた。
ここスルト港は、戦前から他国への玄関口となっている港で、戦後はミーズガルズ王国の占領下にあった。
住宅より倉庫やお店が多く並び、所々、大砲の後が残っている。町には町人だけでなくミーズガルズ人の警備員が歩いている。
何人か、はある程度判別出来た。
ギヌヘイム人とミーズガルズ人は、見た目はよく似ているので、服装で判別する。ギヌヘイム人は装身具を身に着ける事が好きで、腕輪や指輪、そしてネックレス等を何重にも着けている。
アールヴ人は人種を分けるとリョース人とデック人に分かれている。リョース人は、色素の薄い髪と肌をしており、デック人は、浅黒い肌をしていた。共通しているのは、耳の先が尖っている事である。
荷降ろしは終わり、今は次の荷物を積んでいる。大きな松明が灯されているが、暗くて見ずらい。
そして桟橋の近くに、豪華な馬車と32人の騎兵隊が待機していた。馬車と騎兵隊は白百合号が着いた後に来ている。
(他国、初めて来たな……)
そんな事を考え周りを見渡していると、桟橋を踏み外した。
海へ落ちそうになり息を飲んだ時、ライアンに腕を掴まれ引き寄せられた。今はレオナールの仕事を手伝わなくて良いらしく、傍に居てくれる。
「危ないよ」
「あ、ありがとう」
ほっと一息吐いた。ライアンは微笑み、リヴィをじっと見つめた。
「ねぇ、リヴィ」
ライアンは、リヴィの腕を掴んだまま問い掛けた。
「なぁに?」
「積荷、降ろしたら何か予定ある?」
「んーん、無いよ」
「じゃあさ、ご飯行こう。ルネさんから許可貰うから、2人だけで」
リヴィの二の腕を掴んでいた手は、するすると下に移動し、手を掴む。
「ライアン、手――」
「暗くてそんな見えてないよ。それに、騎士の条件はキスがダメなだけなんだから」
「……じゃあ条件に付け足す」
「そんなの狡いだろ。どんどん増やすのは無し。あれもこれもなんてキリがない」
「でも、決めるのはこっちだもん。だから――」
「そういう所、レオナール様にそっくりだ」
ライアンはわざと皮肉気味に答えた。
リヴィは唖然とした顔をした後、口を閉じて仏頂面で俯き「分かった」と答えた。ライアンは心の中で煽りが上手くいった事と、リヴィが了承してくれた事に心の中で歓声を上げた。
「でも……人が見てない所だけね」
「分かってるよ。ちゃんと考えてる」
ライアンの表情は、とても嬉しそうな表情だった。久しぶりに、彼のそんな表情を見た気がする。
――嬉しかった。
ライアンの笑っている表情や、嬉しそうな表情が好きだった。ちょっと意地悪そうな顔もまぁ好きだが、やはり純粋に笑っている顔が1番好きだった。
何より、本当は手を繋いでいたい。
(少し……甘えてもいいかな……)
「じゃあ、ご飯行ってくれるよね」
リヴィは、微笑んで頷いた。
(本当は行かないのが1番なのかもしれないけど……)
男の子の気持ちでいるのは大変だった。ライアンがいると崩れそうになる。なるべく一緒に居ないようにしたい気持ちと、居たい気持ちが葛藤する。
「じゃあ、ルネさんに――」
「ライアン」
呼び掛けたのはセルジュだった。リヴィの手を掴んだまま、ライアンは振り向いた。リヴィは慌てて手を離そうとしたが、ライアンは強く握り離せないようにした。
セルジュはその手を見て、眉を上げたが何も言わなかった。
「ちょっ――」
「何でしょう、セルジュさん」
リヴィの抗議の声を無視し、刺がある声でライアンはセルジュに声を出した。
「……船長が呼んでる」
「レオナール様が?」
「そうだ、副船長とルネさんもな」
「……え?」
何故呼ばれるのか分からず眉をひそめる。
「ちょっと行ってくるよ。すぐ戻るから」
そう言って名残惜しそうに、リヴィの手を離した。ライアンはセルジュの横を通り、船長室へと向かった。
あの日以降、ライアンがセルジュに対して一方的に刺々しくなった。
(仲良かったのに、私のせいだ……兄さんから見たら男だから大丈夫、って言ってるのに)
「リヴィ、仕事は終わりだ。出かけるぞ」
「え、ダメ。ルネさんの許可が――」
「それなら大丈夫だ。さっき船長室に入った時に取った」
「そう……でも、それならライアンと先約がある。だから――」
「それも大丈夫だ。なんでかって言うとな――」
ニヤニヤと笑いながら、理由を話した。




