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41.行方不明

*****


 少し前の話――。


 ルネはリヴィが居なくなり、趣味部屋へと篭った後シャワーを浴びた。


 そして今は薬の在庫確認をしている。


 薬の在庫確認をするのは、次の日の午前中に買い足すからだ。港に着くと無くなる薬は決まっている。


 1つは、二日酔いの薬。

 もう1つは、今数えている薄紫の紙に包まれた薬である。


 この2つの薬は、港へ着けば無くなりが早かった。


「あのぉ……ルネさん。薬をお願いします」


 扉が開き、申し訳なさそうに船員が入ってきた。机の上にあるノートを手に取り、ページを開く。そこには表が書いてあり、名前と購入した薬を書く欄があった。


 表に名前と薬名を書くのは、給料から差し引く為だ。怪我の薬や風邪薬は無料で渡しているが、この2つの薬は有料だった。


「こんな遅い時間に?」

「す、すみません」

「いいえ、別に怒っていませんよ。私が寝ていなくて、本当に良かったですね」


 嫌味ったらしくそう言うと微笑み、彼はバツが悪そうに視線を外した。


「それで、両方です?」

「いえ、二日酔いのは持っているので、避妊薬の方で」


 避妊薬は他の社も作っているが、テュルビュランス社で作る避妊薬が1番避妊率が高い。その為、他より高値ではあるが、貴族や、ある程度給料が良い人物達に買われる。


 使うのは女性だが、買うのは男性だった。


「どうぞ」


 ルネは記入された表を確認し、薄紫の紙に包まれた薬を渡した。彼はそれを受け取り、ルネに礼を言って部屋から出ていった。


 リヴィが部屋から出て行き半刻以上が過ぎ、もうすぐ1刻になろうとしている。ライアンの部屋からもうそろそろ帰ってきてもいい頃である。


 だがまだ帰ってこないリヴィに対して、「遅い」と呟いた。


 今のルネは子供2人を預かっている保護者だ。2人が付き合う事は嬉しく思うが、オデットとヴァルから任されている手前、色々と何かあっては困る。


(何であんな条件に……)


 リヴィから騎士の条件を聞いた時、同じ男としてライアンに同情した。そしてリヴィの無防備っぷりに呆れた。ライアンを信用しているというのもあるが、襲われる可能性を全く考えていない。


 子犬が狼になるわけがない、と思っている。


(我慢強い所と信頼関係を築けているのは、騎士として合格なのでしょうが、たまに可哀想になりますね)


 ライアンの事をリヴィが誘惑しようと試みているので、それもいつまで持つのか心配もある。

 ルネは立ち上がり、ライアンがいるヴァルの部屋へと向かった。


 船内は光源灯が照らす。といっても部屋とは違い、廊下には必要最低限にしかない為、蝋燭よりまし、という程度である。


 狭く、暗く、湿気の多い廊下を歩く。


 昼間リヴィに、伯父はなぜ甲板下に来ないのか、と聞かれ昔の事を思い出した。




 ある日突然「船医をやれ」と、レオナールから言われた。当時、医学校卒業後、テュルビュランス家が経営している病院で医師をやる予定であり、船医では男しか診察しなくなるので「嫌です」と言った。

 だが「いろんな地方の女と出会える」と言われ、了承した。


 ――黒歴史である。


 ヴァルにも言われたが、当時の自分は周りと比べ、少し女癖が悪かったと思う。白百合(リスブロン)号に乗ったことは後悔していないが、あんな一言で乗ることを決意した事は、格好がつかず後悔している。


 レオナールもレオナールで、もっと他の言葉で誘えばよかったのに、とも思うが性格をよく知った上で言った一言なのだろう。

 そして船に乗り、レオナールがあまり甲板下に来ない事に気付いた。何故来ないのかと問えば「狭くて、暗くて、ジメジメしている。人が居れる所じゃない」と言われた。

 そんな所で仕事をしている自分は何なんだと思い、腹を立てると「陰険なお前にピッタリだ」と言われた。アルベールに止められたが、船を降りて家に戻った。


 そして、父親から「レオナール様の力になれ。戻ってくるな、大馬鹿者」と言われ追い出された。

 仕方が無いので船に戻り、父から言われた事を3人に告げると、レオナールとヴァルには大笑いされ、アルベールからは同情された。

 今となってはいい思い出――いや、今でも腹立たしい思い出である。




 過去を回想していると、ヴァルの部屋へと着いた。


「リヴィ、もう戻ってきなさい」


 部屋の扉を叩いたが返答はない。


(え……まさか!!)


 避妊薬をライアンに渡せば良かったと後悔しながら、先程より強めに扉を叩いた。すると扉が開き、ライアンが寝ぼけ眼で出てきた。


「ん……ルネさん、何ですか?」

「服は着てますね。何もしてませんね。そこは褒めますが、リヴィを医務室へ戻しなさい。リヴィに聞いてませんか? 一緒に寝るのは禁止にしています」


「…………へ?」


 目をぱちくりしながらぽかんと口を開けた。

 ライアンの雰囲気からして、リヴィはその事を伝えていないようだ。


「聞いてないのですね。寝ているのなら抱えて連れて行きますから――」

「ちょっと待って下さい! 何の話ですか??」

「何を寝ぼけてるんです? リヴィを出しなさい」

「リヴィですか? 居ないですよ??」


「…………ん?」


 ルネは眉をひそめ、ライアンを見た。ライアンも同じく眉をひそめている。

 お互いに何を言っているのか、分かっていない顔である。


「リヴィがここに来ませんでした?」

「確かにリヴィは来たんですけど、扉を開けた時にはいなかったので、医務室に戻ったんだと思ったんですけど……」


「いいえ、戻ってません。私はずっとライアンの部屋にいるものと……」


 2人は状況を考え、顔をひきつらせた。


「「どこ行った!?」」


 2人は慌てて船内を捜索したが、リヴィは見つからなかった。船底からマストの見張り台まで探し回った。


「いました?」

「いいえ、いません」

「外に出掛けたとか?」

「私に黙って出て行くとは考えられません」


 医務室から出る時、リヴィは毎回――セルジュに連れ出される以外は――行先を言っていた。船外で買い物をしたい場合は、ルネの買い出しと一緒に出掛けており、1人で外出はさせていない。


「そうですけど、船内に居ないのなら外としか……」


 ルネとライアンは、タラップ下で番をしているイーサンの元へと訪れた。




「リヴィですか? 見ましたよ」


 イーサンは、2人に答えた。


「何処に行くって言ってました?」

「行くって言うか、拉致されたってのが正しいですかね」


「……どういう意味です?」

「セルジュがリヴィを羽交い締めにして、船から降りたので。口も抑えられてましたし。リヴィは嫌々って感じですかね? 暴れてましたし」


 イーサンはその時の事を思い出し、余りにも嫌がるリヴィを思い出し「ははっ」と笑った。だがルネは睨みつけてくるので、なにか不味かったかのかと固まった。


「それで、セルジュは何処へ?」

「い、いつもの楽園ですけど……」


 それを聞いてルネは頭を抱えた。1番行かせたくなかった所だ。


「ライアン、お願いがあります」


 ルネはライアンに場所を伝え、迎えに行かせた。




*****


(ここか?)


 ライアンはお店に着いた。中へ入るとクセのある甘い匂いがする。そして、すぐに受付の女性から声をかけられた。


「いらっしゃい、お兄さん。あらぁ、いい顔してる。初めて見る顔だね。1人かい? タイプの子は? 誰でもいいなら私がつこうかい?」


 受付のカウンターにいるふくよかな女性は、冗談気味に言いながら、カウンターから胸の谷間を強調するように身を乗り出した。


「あー、いえ、客ではないんです。セルジュさんを探しています。ここに居ると思うんですが」

「なんだ、いるよ。今は部屋にいるね。連れてきた子が倒れちゃってね」


「え!? 倒れた!?」

「ああ、そうだよ。それで、セルジュが部屋に運んだのさ」

「部屋何処ですか!!」

「5階1号室だよ」


 礼を言ってすぐに部屋へと向かった。ここに来るまで心配で仕方なかった。セルジュに羽交い締めをされ連れて行かれたと、イーサンから聞いた時、怒りで腸が煮えくり返りそうだった。


 リヴィは今日疲れていた。

 早く寝たかったはずだ。


 それなのに自分に謝ろうと部屋に来たのだ。

 あの時すぐに自分が扉を開けていたら、こんな事にはならなかった、と自分を責めていた。


 ――魔法は体力を削る。


 そう父親からも聞いていたし、リヴィからも聞いていた。


 集まりがあった時に、魔法の練習に付き合い、何度も見せて貰った。

 ラファル領にある森の狩場に付き添い、角兎(ジャッカロープ)を狩るのに、疾走しているのを何度も見ている。海辺まで一緒に散歩し、海上に竜巻を起こしたのも何度も見ている。


 倒れたのは体力の限界がきたからだろう。


 魔法を使い過ぎると、「眠い」と言い、その度に背負ってラファル邸へと帰った。


(リヴィ……やっぱり俺は、君の騎士にならないと……)


 部屋を見つけ、扉を開けた。

 

「リヴィ!!」

 

 目の前の光景に目を疑った。上半身裸のセルジュがリヴィを押し倒し、頬に手が触れている。


「……リヴィから離れてください。セルジュさん」


 怒りを押し殺し、静かに冷たくセルジュへ言った。

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