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39.楽園 ※

少々性的な部分が有ります。

「いやーほんと、ちょーどいー所にあそこに居たよなー、リヴィ。もーこれは運命だって。医務室に居たらどーしよーか、悩んでたんだ」


 もう口は抑えられていない。体は逃げられないよう、肩を組まれ抑えられている。


 大声を出さない事と暴れない事を条件に外された。また暴れたり大声を出したりしたら先程のように抑えられてしまう。


「普通に『来い』って言えば良かったじゃないですか」

「言ったら来るか? 来ねーだろーよ」


 何も言えずにセルジュから顔を背けた。


「でもライアンに『謝りたい』って、喧嘩でもしたのか?」

「兄さんには関係ありません」


 仏頂面で冷たく答えた。さっきからセルジュの顔が近いが、とてもお酒臭かった。

 昼間からずっと飲んでいたに違いない。


「怒るな怒るな。今からたんまり楽しー所に連れてってやるってー」

「いいです、帰りたい。今日疲れてるんです」


 先程暴れすぎたのと、昼間の魔法で疲弊していた。腕を振り払い、逃げれたとしてもすぐ捕まってしまうだろう。


「そんな疲れも吹き飛ぶよーな所に連れてってやるって言ってんの。まったく……ほーら、着いた」


 暗いのと俯きがちに歩いていたので気付かなかったが、ここは昼間ライアンとペルスネージュを探すのに来た、屋台の近くだった。


 5階建ての建物で、木製の看板には【橙源郷 ―飲んで呑まれて楽園へ―】と書かれている。


 中からは男女の高笑いが聞こえた。


「……飲み屋ですか?」

「そーそー、飲み屋」

「僕、お酒飲めないのでこれで――」


 くるっと踵を返そうとしたが止められた。


「ダメー。帰さなーい。飲まなくていーから来いって」


 そうは言うが、ルネからセルジュの飲みに付き合ってはいけないと、前に言われている。何とかして帰れないかと考えるが、建物の入口まで来てしまった。


 セルジュは扉を開けた。リヴィも肩を抑えられたままお店へと入る。


 リヴィは目の前の光景に目を疑った。


 店は確かに飲み屋なのだろう。

 女性定員がお酒を両手に持って、歩いている。

 男性客はその酒を待っている。


 だが、それだけではなかった。


 多くの女性店員は、男性の隣や膝の上に座り、一緒にお酒を楽しんでいる。更にはキスや触れ合っている男女もいる。だが1番驚いたのは、店の女性達が下着姿な所だ。


 学校に両親が飲み屋を経営している友人がいた。その友人の家で夕飯を食べた事がある。相手の両親の顔はとても緊張していたが、友人とご飯が食べれて楽しかったし、美味しかった。

 そしてそこは、こんなお店じゃなかった。


(思ってたのと違う!!!!)


「いらっしゃいませー、ってセルジュ」


 受付にいる60代くらいのふくよかな女性が言った。受付の女性はちゃんと服を着ていた。


「やーやー、アドリエンヌ。だだいまー、ナタリー呼んでー」

「待ってな」


 アドリエンヌは近くにいた10歳前半程の女の子に、ナタリーを呼ぶよう伝えた。その女の子はフリルのついた可愛らしい給仕服を着ていた。


「もう帰ります!」

「照れんなって! 楽しんでけって!」

「ルネさんに外に出るって言ってないんです」

「1刻か2刻で帰るって」

「でも、でも、でも――」

「そんな言ってると、明日の朝までここから何が何でも出さねーぞ。だけど大人しく居るならちゃんと、1、2刻で帰してやる」


 セルジュは意地悪な笑みを浮かべた。リヴィは仕方なく「分かりました」と俯きながら言った。


「よしよし、じゃあ楽しもー」

「セルジュ、おかえりぃ」


 手を振りながらこちらに来る女もまた下着姿だった。色っぽい黒い下着に、透けた上着を着ている。透けているので下着は丸見えだった。


「ナタリー! ほらほらこいつ、可愛い弟後輩。どう?」

「ふぅん」


 セルジュはリヴィの顎を掴み、ナタリーへと向けた。リヴィは顔を背けることも出来ずに、じっとナタリーに見られた。

 

「うん、合格ぅ! サービスしたげるぅ。えーと、名前なんだっけぇ」

「リヴィ」

「そうそう。行きましょお」


 リヴィはセルジュに連れられ、奥の部屋へと入った。部屋には大きなソファとローテーブルがあり、所々、蝋燭に近い明るさの光源灯が光っている。


「ほら座れっ」


 セルジュから背中を押された。仕方なくソファへ座る。セルジュはリヴィの右隣に座った。

 そしてナタリーは部屋から出ていった。


(帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい)


「こーゆー店来たことねーからって、緊張し過ぎ」

「来たことあります、だから帰らせて下さい」

「はい嘘ー。童貞坊ちゃんのリヴィは、絶対来たことありませーん」


 『童貞』の意味は知っていた。クラスメイトから借りた小説に書いてあったからだ。初め意味が分からなく、エマに意味を聞いた。

 一生聞くことの無い言葉と思っていたが、まさかこんな所で再び聞くことになるとは思わなかった。


「何でさっきからそう決めつけるんですか! 酔いすぎですよ! 帰りましょ!」

「帰る? 帰らねーよ。俺、この上でナタリーと1泊するもん」


「……は?」

「ほら、来た事ねーだろ。この店はな、可愛い女の子と飲めるだけじゃなくて、気に入った子と上で1泊も出来る、性なる……聖なる店なのよ」


 リヴィは顔をひきつらせた。帰りたい。そんなリヴィの反応を見て、セルジュは吹き出して笑う。


「はー、おもしれー」


 ぐっと顔を近づけるセルジュと、距離を取ろうとしたが、出来なかった。ナタリーが帰ってきて左隣に座ってきたからだ。


 彼女はリヴィの内太ももを触る。リヴィは急いで脚を閉じると「可愛いぃ」と彼女は言った。

 顔が近く息がかかるがやはり酒臭い。だがそれ以上に、この部屋にはムワッとしたクセのある甘い香りが充満している。


 先程のルネから借りたバニラの香りのヘアオイルとは違い、リヴィにとってその匂いは不快だった。


 酔いそうになる。

 

「だろだろー。いま白百合(リスブロン)号で可愛い系なら一推しよ」


 そして先程の可愛らしい給仕服を着た女の子が部屋へと入ると、酒をグラスへ注ぐ。

 

「僕、お酒飲めないんです……だから、他ので」

「せっかくいー酒サービスしてくれてんだから、ひと口くらい飲めよ」


(『飲まなくていい』って言ってたのに!)


 酔っ払いの言う事を信じてしまい、後悔したのと同時に、しなだれかかるナタリーが触ろうとしてくるので、抑えなければならない。「止めてください」と言ったが、その反応を楽しんでいるようだった。

 脚だけは組んでしっかり閉じた。触られれば無いことがバレてしまう。それは死守しなければならない。だがそうすると、シャツの中に手を入れようとしてくる。


「ホントに飲めないんです。兄さんが全部飲んで良いですから」


 ナタリーの手を必死に止めながら言うのは大変だった。こんなに嫌がっているのに、彼女は笑い楽しそうだった。


「え! いーの!? じゃあ遠慮なーく」


 満足そうにセルジュはグラスを、手に取った。その様子を見てほっとしたのも束の間、ナタリーに耳に息を吹きかけられた。リヴィは「ひっ」と声を出して耳を抑えると、彼女は面白い玩具を見つけた子供の様に笑う。


(早く出たい!! 帰りたい!!)


 白百合(リスブロン)号に乗り、知らない事を知る事は多い。それはとても嬉しいのだが、こんな世界は知らないままで良かった。


「耳が弱いのねぇ」

「え? ちょっと、何するっ、ひあっ!」


 ナタリーはリヴィに抱きつき、耳を甘噛みをしてきた。いつものリヴィなら振り払えただろうが、疲弊した今は難しい。


 そして部屋の匂いに頭がくらくらとしてきていた。


「可愛いー! 虐め倒したぁい」


 身を捩り抵抗すればする程、耳に息を吹きかけたり、噛んだりしてきた。

 そして遂には舐めてきた。

 それがとてもぞわそわし、くすぐったく息が漏れる。


「もう止めて……お願いです……くすぐったい」


 だがナタリーは乗りかかるように体重をかけてくる。


「ちょっと、やめてっ!」


 必然的にセルジュに寄り掛かる。セルジュはそんなリヴィを、ケラケラと笑いながら楽しそうに見ていた。


(酔っ払っいめ!!!!)


「笑ってないで助けてください!」

「何で? 面白いのに」

「どこがですか!?」

「女同士がイチャイチャしてる様に見える。ずっと見てられるだろ?」

「何言ってるんですか!? もう嫌だ! 助け……――ッう」


「――の割には結構気持ちよさそうにしてる」

「してない! くすぐったいんですって!」

「そりゃーそこがリヴィの性感帯だからだ。そのうち気持ちよくなる。ったく、何も知らねー坊ちゃんだな本当に」


 セルジュの言っている意味が分からなかった。くすぐったいものは、くすぐったい。気持ちよくなんか無い。


 リヴィはセルジュを睨み付けたが、くすぐったさを我慢するため、すぐに目を閉じた。何度も息を漏らすような声を出し抵抗した。


「もったいねーな。声出さなきゃ女だ」


 セルジュはリヴィの顎を掴んで自分に向けさせた。


「セルジュもやるぅ?」

 

 ナタリーはリヴィの耳を弄るのをやめる。


「……まさか。お前も衆道が好きなのか?」

「『お前も』って何よぉ。でもぉ、好きか嫌いかで言ったらぁ、好きぃ。隠してるだけで意外といるからねぇ」


(『しゅどう』って何?)


 耳へのくすぐりは終わり、安堵する。

 2人の会話に知らない単語が出てきたが、そんなのはどうでもよかった。


 そしてナタリーが抱きしめる力を緩めた瞬間、急いで振り払って立ち上がった。


「帰る!」


 1歩踏み出したがセルジュに手を掴まれ、引き戻さそうになる。だがそれを何とかしようと、変に踏ん張った結果、失敗し、セルジュの上に対面するように座ってしまった。


 すぐに降りようとしたが、セルジュは腰に手を回す。


「離して下さい!」

「そーしたいけど、隣見てみ」


 セルジュは顎でナタリーを指す。ナタリーはキラキラした目で2人を見ていた。


「な!」

「『な!』って何ですか!?」

「喜んでる」

「だから何なんですか!?」

「好きな女には、いつでもキラキラした目でいてもらいたいだろーよ」


 そして得意気な顔をセルジュはする。


 リヴィはそれにポカンとする。確かに言っている事はそうかもしれないが、それにより後輩は大迷惑を被っている。


「キラキラした目をしてもらいたくて、僕にこんな事するんですか?」


「そうだ。ここに連れてきたのも、ナタリーがリヴィに会いたがったからだ。それと本当に驚くことにな、3つ子――いやいや、何でもねー、今の忘れて。まぁ、他の奴にリヴィと同じ様な事をしよーとすると不快なんだけどな、リヴィには余裕なんだわ。おかげでいー酒飲めんだけど最近飲みすぎて、バレるんじゃねーかと心配もあるんだよな――あ、これも何でもない。忘れて」


「……何の話?」

「忘れろ。とりあえず、リヴィには不快感がねーって話だ。……やべーな酔ってるわ」


「……もう離して貰っていいですか? 頭がくらくらするんです」

「ん? 気分悪いのか」

「多分、この部屋の匂いに酔ったんだと思います」

「あー、もう俺は嗅ぎ慣れてるから忘れてたわ。これな、催淫作用あんだよ」


 聞いたことがない単語だった。


「……さいいん?」

「坊ちゃんへの説明は難しいな。気持ち良くなるって事だ」

「気持ち良くなってないです。もうくらくらするし、疲れて眠いんです」


「……へぇ」


 セルジュはニヤリと笑い、リヴィの背中を触った。


「ひぃ! やめて! くすぐったい!」

「いつもよりくすぐったく感じるだろ? ずっと触り続けてたら気持ちよくなるんだよ。……試してみるか?」

「嫌ですって!」

「よし試そう!」


 相手は酔っ払いだ。全然話を聞いていない。

 いや、聞いているが言う事を聞こうとしてくれない。


 セルジュはリヴィを逃げれない様に抱きしめた。そして背中に触れる。

 嫌がる姿を楽しんでいる様に見える。


 なのでリヴィは目をぎゅっと閉じて我慢し、声を抑えたがやはりくすぐったく、声は漏れてしまう。


 ナタリーはそんな2人を見て、楽しそうにワインを飲んでいた。薄らと目を開けると、セルジュはニヤリと笑っていた。


「はぁ、ずっと見てられるぅ。セルジュ、男抱いたこと無いなら彼で試してみたらぁ? 案外はまるかもよぉ?」

「はぁ!?」


 セルジュの抱きしめる手が緩んだ。


(もう先輩だとか、どうでもいい!!)


 リヴィはナタリーを見てワイングラスを奪い取ると、セルジュへとかけた。


 セルジュは頭も上半身も赤い液体にまみれた。


「おまっ、何す――」

「いい加減にして! ホントに!」


 セルジュを睨みつけ、立ち上がった。


「ったく、冗談がつーじねーな」


 セルジュはシャツを脱ぎ、ナタリーからタオルを貰って頭と体を拭いた。


「冗談!? もう嫌だって……あんなに……」


(はれ……?)


 目眩がし、足下がふらつく。リヴィは頭を抑えた。


「リヴィ?」

「大丈夫です。もう、帰る……構わな……い……で……」


 歩き出したが部屋の扉に着く前に膝を着き、そのまま倒れた。


「リヴィ!?」


 セルジュは慌てて駆け寄り、抱き起こすとリヴィは目をほぼ閉じていた。


「そんな限界なら言えよ」


 その声が薄らと聞こえたリヴィは、一発殴りたくなったが、腕を上げる気力もなくそのまま意識を手放した。

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