表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/89

29.嫉妬心

 目の前にいる彼女は、前と違って髪が短い。長い時も同じ様に思っていたが、短くても可愛いとお世辞ではなく思っている。


 ライアンはリヴィが大好き――いや、愛している。

 ずっと好きだったが、カルム家の跡取りである以上諦めなくてはいけなかった。


 だが母サロメに「何故リヴィの事が好きなのに、他の女の子達と付き合うの?」と言われた。跡取りの問題の事を伝えると「気にしなくていいのに。弟がいるの忘れているの?」と鼻で笑われた。


 ――目から鱗だった。


 その時付き合っていた彼女とすぐに別れ、リヴィに交際を申し込むと良い返事をもらった。今まで我慢していたせいか、気持ちが止まる事は無かった。


 あの騎士の話以来リヴィと話せていなかった。

 彼女はほぼ、医務室に引きこもっていたからだ。


 前と違いこんなにも近くに居るのに話せないというのは、なんとも言えないもどかしさを覚える。やっと会えたと思えばそっぽを向かれた。その後ずっとリヴィを見ていたが、一切こちらを気にしている様子はなかった。


 本当は今すぐ――触れたい、抱き締めたい、唇を重ねたい。


 白百合(リスブロン)号に1カ月も他の男達と居られるのは嫌で仕方がない。母親から話を聞いた時から心配で仕方がなかった。だがリヴィは男の子になっているし、問題ないと自身に言い聞かせた。


 それなのに――。


 リヴィはセルジュに後ろから抱きつかれていた――実際はちょっと違うが。だが、腹立たしい事にその出来事のお陰でリヴィと話せている。せっかく話せているのに、気持ちは苛々しっぱなしだった。


 さっきはとても子供っぽい発言をしてしまった。このままではまともに会話が出来そうに無い。この嫉妬した気持ちを落ち着けるため、黙っていた。


「ねぇ、ライアン」


 聞き慣れない声で呼びかけられ顔を上げる。やはり声は慣れない。合ってはいるが、可愛い訳ではない。

 顔はフェイスベールで半分隠れており、表情はよく分からなかったが、リヴィが笑っていない事だけは確かだった。


「何?」

「さっきも言ったけど、助けてくれてありがとう。でももう大丈夫だから戻っていいよ。掃除するし」


 素っ気なくリヴィがそう言うと、ライアンの顔が曇った。


「……リヴィは、あまり俺と居たくないの?」

「正直、今はそんなに。まだ怒ってるよ。騎士のこと」


(それもそうか……)

 

 あれだけ拒否されていたのだから仕方がない。


「騎士は要らない。普通に恋人でいて欲しい」


 何度も言われたが承服出来ない。


「でもそれじゃあいつか誰かが騎士になるだろ? そんなの俺は耐えられない。レオナール様は絶対リヴィに騎士を付けるよ。リヴィが拒否しても」

「じゃあ『騎士にする』ってなった後、別れちゃったらどうするの。ライアンは傍で私が誰かと結婚するの見るんだよ。それでもいいの?」

「何言ってるの !? 別れないよ!!」


 別れるつもりなど毛頭なかった。今回関係が修復出来なかったらどうするか、という事も考えていなかった。出来ると信じていたからだ。

 思えばかなりの賭けで、父親とレオナールに相談している。


「じゃあ別れないで結婚して離婚しちゃったら? 気まずいでしょ」

「もっと何言ってるの!? 離婚なんてしないって!!」

「分かんないよ。永遠の愛を誓いあっても、離婚する時はするんだよ」

「そんなの俺らはしない! 絶対!!」


 そんな理由で騎士を「要らない」などと言っているのだろうか。別れるという事を考えているのが、とても悲しかった。心臓を冷水で冷やされたような気分だった。


「でも要らない。自分の身は自分で守る」


 リヴィはライアンに背を向けて掃除をし始めた。もうこの話は終わりだと態度で示され、腹が立った。


「……よく言うよ」


 そう吐き捨てるように言うと、リヴィは動きを止めた。


「剣はリヴィ強いよ。レオナール様に教わっただけあって。でも力じゃ勝てないだろ。父さんの部屋にいた時も、俺には勝てなかった。さっきだってセルジュさんの力には勝てなかっただろ。リヴィは護身術使えるけど、セルジュさん強いよ。リヴィは勝てない」


 凄く嫌な事を言ってしまった。何度も「ライアンの力の強さが羨ましい」と言われていた。それは、彼女が気にしていた事だったからだ。


「本当に何かあったら魔法使う」

「さっきみたいに手を抑えられてたら? 風の剣(シルフィード)を持っていなかったら?」


 そう言ったがリヴィは黙って再び掃除を続けた。


「リヴィ!」


 黙っているのは図星だったからだ。きっとリヴィは怒っている。だがそれでもまだ話がしたかった。少し大声をあげたことで、リヴィはこちらを向いた。


(え……?)


 怒りで睨んでくるかと思いきや、リヴィの目はとても悲しそうな表情をしていた。


「どうしたら、諦める?」


 ベールをしていても分かる。苦しい表情をしている。そんな表情をさせてしまったことが胸が痛い。


「――リヴィ、ちゃんと掃除しろって言ったろ。サボんな、友達来たからって」


 セルジュが帰ってきた。この時ばかりは彼に感謝した。

 

「……すみません。ちょっと昔の話で盛り上がってしまい。副船長はなんて言ってたんですか」


 セルジュはリヴィの近くまで寄ると、じっとリヴィを見つめた。


「え……何ですか?」

「お前のせーで怒られた」


 そう言うと、いきなりリヴィの髪の毛をわしゃわしゃと掻き乱した。リヴィは驚きセルジュの腕を掴んだ。


「やめてください!」

「八つ当たりー」


 ニヤッと笑うセルジュに、ライアンは再び怒りが込み上がる。セルジュの事は嫌いじゃない。むしろ好きだ。船に乗ればよく話しかけてくれた。

 話も面白く、むしろセルジュがいないか探して話しかけていた。

 リヴィが女だと知らないとはいえ、やはり腹立たしい。何よりレオナールの姪ということを知っていれば、そんな事は絶対にしない。


(バラしたい……)

 

 最低な感情が押し寄せるが、そんな事をしてしまったらそれこそ修復不可能だ。奥歯を噛み締め、我慢した。


「さて、おふざけはこのくらいにして、ライアン。お前も掃除だ」

「「え?」」


 リヴィとライアンは声を出した。


「さっきな、副船長と話した時に言われたんだ。基本船長の仕事手伝ってるんだろ? それ以外の時は面倒見ろってさ。弟第2号だな、ライアンは」

「弟? 2号?」

「1号はリヴィだ。残念だったな1号になれなくて。ほら、デッキブラシの位置ライアンは知ってるだろ。さっさと持ってこい」


 ライアンはデッキブラシを取りに行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ