21.浮気の真相1
先月――。
騎士学校、寮部屋――。
「え、ライアンもう新しい彼女出来たのかよ!」
部屋は机が4つと2段ベッドが2つある4人部屋で、石作りの壁と床で出来ていた。そこでライアンの友人3人が、椅子に座って話している。
「出来てるよ、何カ月か前に」
「そうだったの!?」
「家柄良し、顔良し、剣の大会だって何回か優勝してる。そりゃ女が自然と寄ってくるさ。それにあいつ自身、来る者拒まず去るもの追わず、だからな」
「いやいや、お前ら知らないな。今回はライアンから告ってる」
「「――え!?」」
「嘘だろ?」
「いや、ほんと」
「マジで?」
「本人から聞いてるんだ」
2人は驚きの表情で1人の友人を見た。
「そんなの初めてなんじゃね?」
「初めてだと思う。都立学校から自分から告白してるの見た事ないし、聞いた事もない」
「えぇ、マジか。どうすっかな……」
1人が腕を組んで悩むように俯いた。
「そういや何で、ライアンに彼女がいるかどうか知りたかったんだ」
「いやぁ実は俺の彼女の友達がさ、ライアンの元カノなんだけど、よりを戻したいらしくて何とかしてくれないかって、彼女から頼まれてな。そんで『任せとけ!!』なんて言っちゃって……」
「あーあ、断っとけよ。そんな面倒臭い事」
「いやだって付き合ってまだ1カ月だし、いい所見せたいじゃん」
「今までの彼女だったらすぐ別れたかもしんないけど、今回本気っぽいし無理だぞ。ずっと片思いしてたみたいだしな」
「片思い!? ライアンが!?」
「そう。何でかは知らないけど、諦めてたみたいだ。それで他の女と付き合ってたらしい。でもこの度、念願叶って今の彼女と付き合ってる」
「えー!! どうすっかなマジで。いやでも彼女に言っちゃったしな……あ、ライアン」
1人の友人がそう言うと、1冊の本を持ったライアンが部屋へと入ってきた。
「ライアン! ちょっと頼みがあんだけど!!」
ライアンは本を仕舞い、友人の方を見た。
「何?」
「あのさ、元カノのアリスちゃんって子覚えてる?」
「アリス? ……あ、うん、覚えてるけど、何?」
一瞬忘れかけていた元カノだが思い出した。身体的に特徴がある子だったが、正直その印象しかない。
「ちょっとさ、来週末空いてない? 俺の彼女の友達がそのアリスちゃんなんだけど、ライアンとよりを――」
「無理」
「え、ちょっと話だけ聞いてって!」
ライアンは椅子に座って話を聞く。
「彼女にいい所見せたいのは分かるけど無理だ」
誰だっていい所は見せたい。ライアンもリヴィにいい所を見せたいとは思う。なので、気持ちは分からなくも無かった。
「少し話すだけでいい! それで『よりは戻せない』って言ってくれれば!」
「嫌だよ。意味が分からない。それに、来週末は王都に行く」
「なんで?」
「彼女と会う」
「わざわざ王都で? 王都の子なのか?」
「そうじゃない……けどもうすぐ彼女、学校卒業するからお祝いに何か買ってあげたい。品揃えは王都のがいいだろ」
ヴェストリ地方の平民ならまだしも、貴族やその関係者の誰かに2人で遊んでいる所を見られたら、確実にレオナールへと話が行くだろう。なので遊ぶ時は王都と決まっていた。
それに加え王都は品揃えが豊富だった。東西南北、それぞれの地方の物が集まるからだ。贈り物を選ぶには最適である。
「歳下だったのか今回の彼女」
「ジェレミーには言ってたろ」
「そうだっけ?」
「根掘り葉掘り聞いてきたくせに」
ライアンは呆れた顔で友人の1人、ジェレミーを見た。ジェレミーはニヤッと笑っている。
「酔ってるライアンはいつも以上に喋ってくれるから面白いんだよね。でもレディLの正体だけは絶対教えてくれなかった」
「レディL?」
「手紙の差出人の所には【L】としか書かれてない。だからレディLって俺は呼んでる」
「なんだそれ? 名前を隠すような有名人なのか?」
「いや、別に」
「じゃあ平民なのか? 諦めてたのは平民だから?」
「……別にいいだろって。とにかくアリスとは会わない」
「なぁ、なんで本命のレディLがいるのに付き合った?」
「いや、まぁそれは……」
口篭るライアンを見て、ジェレミーは意地悪気に答えた。
「レディLを忘れたかったのと、胸がデカかったからだよな」
「――うるさいぞ、そんなのは関係ない!」
「今更何だよ巨乳好きが。アリスって歴代で1番胸でかかった子だろ? 俺でも覚えてるぞ。どうせレディLも大きいんだろ」
「……え、いや、大きいけど、凄く大きいとかじゃなくてちょうどいいというか、そもそも好きになった時から大きかったわけじゃ――」
ライアンはハッとし、周りを見ると友人達は「ふぅん」といいながらニヤリと笑っていた。
「と、とにかく、アリスとは会わない!!」
「でもなぁ、ライアン。アリスちゃん、都立の子だったから遊ぶ時は王都でも遊ぶんだ。彼女と遊ぶ次いででいいからさ」
「嫌だって。次いでに会う意味も分からない。会う時間があるなら彼女と会う」
「そんな事言わないでくれって、1刻、いや、半刻でもいい!」
「無理」
「ひと言だけでもいいから!!」
「嫌だ!」
「頼むよ!」
「しつこいぞ、ディディエ!」
ライアンは立ち上がり「シャワー浴びてくる!」と言って部屋を出ていった。その後を「俺もー」とジェレミーがついて行き出ていった。
残された友人2人のうちの1人、ディディエは肩を落とし部屋中に響く溜息を吐いた。
「ディディエ……あれはいくらなんでも無い」
「黙っててくれ……お前らみたいにポンポン女が出来るヤツらには、俺の気持ちは分からないのさ」
「なぁ、ライアンいるー?」
寝巻きを着た学生が入ってきた。右手には手紙をもっている。
「いや、さっき出ていった。シャワー室だ」
「うあ、マジか」
そう言って持っていた手紙を見ていた。
「どうした?」
「いや、俺宛の手紙の中にライアン宛が混じってて、最初気付かなくて開けちゃってさ。しゃーないな、ちょっと紙とペン貸して」
そう言ってディディエの机にあった紙と羽根ペンを手に取り、何かを書いた。
「これで良し。じゃあ部屋戻るわ」
その学生は自身で書いたメモと手紙をライアンの机の上に置いた。
ディディエはメモを見た。
【手紙、俺の所に混ざってた。間違って開けちゃってごめん。でも中身は見てないから安心しろ。ライアスより】
次に手紙の差出人が書かれた部分を見た。
差出人は【L】とだけ書かれ、割れた封蝋は紋章ではなくオリーブの葉が刻まれた印璽がしてあった。
「噂の彼女からじゃないか?」
ディディエは何かを考えるように、その手紙をじっと見ていた。
「じゃあ俺もシャワー浴びてくるよ。ディディエは?」
「え、ああ、うん。俺はちょっと用事を思い出した」
「用事? こんな時間に?」
「まあ、ちょっとした事だからすぐ終わる」
「そっか。じゃあ先に」
ディディエは友人が居なくなると、手紙を開けて読んだ。
手紙には来週末の待ち合わせ場所と集合時間について書いてあり、ライアンの意見を聞いている内容だった。それらを読み、待ち合わせ場所についてメモを取った。
そして羽根ペンを取り出し、集合時間について【セルパンの上刻半】と書いてある所の【半】の部分を上から二重線を引いた。
ライアンがこの手紙を見て、すんなり了承すれば上手くいく――賭けだった。
「悪いな、ライアン」
小さく呟き手紙を封筒へと戻すと、ディディエもシャワー室へと向かったのだ。




