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19.進路の話

 船長室――。



「成績急落は進路に悩みすぎて? そんな理由で?」


 レオナールは目の前に座る2人を前に、腕を組んで呆れたように話しかけた。

 ライアンは視線を落としていた。因みにもう既に「身長伸びたな」のやり取りは終わっている。


「そう言うなよ。俺の息子はレオと違って繊細なの」

「悩む理由がわからん。だいたい、俺に相談って何をするんだ?」


 ルネがいなくなり、休憩していた所に2人は来ている。数少ない自分の休憩を邪魔してまでする話なのだろうかと、訝しげに2人を見た。


「成績良いんだろ? だったら海騎士になればいい。希望は海科で出したんじゃないのか?」

「そうなんですけど……」


「じゃあそのまま行けばいい。俺に相談するまでもない。海騎士軍に入って少し下積みをすれば、家柄上すぐ幹部になれる。新人虐めにあうこともない」

「そ、そうなんですけど……」


「有事の際危険なのが嫌なのか? だったら安心しろ。俺が言う前にカルム卿が危険な所には配属させないようにするだろう。ミストラル卿だってそうする」

「あ、いや、そうではなく……」


「レオ。ライアンはもう1つの職業で悩んでる」

「もう1つ? ……やっぱり陸にすれば良かったって思っているのか? ヴェストリで陸騎士は女にモテないぞ。やめておけ」

「いや、そうじゃねぇって。偉大な父の背中を見て、なりてぇと思った職業があんだよ」


 ヴァルは腕を組み、得意気にレオナールを見る。レオナールは首を傾げヴァルを見た。


白百合(リスブロン)号の副船長?」

「違う!!」 


 ヴァルはそう言いながら自分の左手側に置いた、黒い鞘に納められた(サーベル)を掴んだ。


「俺の! 本来の! 仕事の! 方!!」


 そう言いながら護拳(ナックルガード)に刻まれた、ラファル家の紋章を指す。


「専属騎士?」

「そう!!」


 国の為に軍事的役割を果たす騎士軍とは違い、専属騎士は1人の主君と契約しその人物の護衛をする。ヴァルはレオナールの専属騎士であり、レオナールの護衛が本来の仕事であった。

 レオナールは一息吐いてライアンを見た。


「専属は軍に比べたら面倒な規律もないから楽に見えるかもしれんが、雇い主によっては全然違う。ヴァルが自由で待遇がいいのは雇っているのが俺だからだ。そもそもライアンは将来カルムの当主だろう。俺が口利きしても、そんな人物に護衛をしてもらおうなんて思う所はないぞ」


「それはもう言ったよ」

「なら海騎士一択だろう」

「第1希望が通らなかったらな」


「……意味がわからん。はっきり言え。俺に何を相談したい?」


 ヴァルはライアンをみて、話しかける。


「俺が言おうか?」

「いえ、自分で言います」


 ライアンは俯き加減だった視線を上げ、背筋を伸ばし、意を決したようにレオナールを見据えた。


「リヴィの専属騎士になりたいと思っています」


 レオナールは5秒程ライアンを見た後、悩むような唸り声を出しながら俯いた。


「……そうか……そういう事か。あのな、ライアン。なるべくお前のやりたい事は応援してやりたい。――だがな、リヴィは専属を要らないと前に言っていた。それにいくら俺でも、将来のカルム伯爵に護衛をさせようとは思わない。カルム卿も次期当主のサロメも反対するぞ」


「あの、その事なんですけど……」


 ライアンは胸ポケットから一通の手紙を出してレオナールへ差し出した。

 

「母からレオナール様にと」

「サロメから!?」


 驚きの声を上げて目を見開いた。封蝋で閉じている手紙を受け取り、怪しむような目でその手紙を見つめた。


「開けねぇの?」

「毒が入っているかもしれん」

「人の奥さんなんだと思ってんの」

「俺を死ぬ程嫌っている人物の1人だろう」


「……それは間違ってねぇけど……開けろって」


 そう言われ封筒を開け、入っていた手紙を取り出し読み始めた。だが読むなんて大層なものではなかった。

 


【ライアンを専属騎士にしても構いません。跡取りの件はこちらで考えます。レオナール様の考える事ではありません】



 書いてあるのはたったこれだけだった。

 レオナールは最後の一文に苛っとし、手紙を破り捨てたかったがライアンがいる手前それはやめた。そして意味を考えた。


「ヴァルは知っているのか? 内容を」

「ライアンから聞いてる」

「ならサロメがやろうとしている事、わかるよな」

「まあ、わかるよ」


 レオナールはヴァルをじっと見据えた後、ライアンに視線を移した。


「いいか、サロメはお前が専属になるのなら、弟のどちらかに跡継ぎを変更するつもりだぞ」

「わかってます」

「もう1度よく考え直せ。跡取りを放棄してまで、専属騎士になりたいのかをな」

「気持ちは変わりません」


 ライアンは真っ直ぐな表情でレオナールを見た。レオナールはどうしたものかと悩むような表情をし、腕を組んで俯いた。


「ライアン、席を外せ。ヴァルと2人で話す」


 ライアンはどうしようかとヴァルを見る。


「ルネに会いにいけ。久しぶりに話してこい」


 ヴァルにそう言われ、ライアンは立ち上がると船長室から出ていった。そしてルネと共に医務室へと向かったのだ。

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