表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5 ルイスside

 


「愛しています」


 すがり付き安心したように、ゆっくりと目を閉じた君が呟いた。今にも消えてしまいそうな一言に思わず口付けた。


 サラを抱きしめたまま、まだ乾ききらない涙の跡をそっと拭う。


(何故、泣いていたの?)


 僕の名を切ない声で呼び、泣いていた君は何を思っているんだろう。


 いつもの君から、想像出来ないぐらいに最近の君は変わった。

 僕を見つめる視線に喜びを感じると同時に不安になる。


 君は何を感じ取ってしまったのだろうか。

 瞳の奥に何を隠しているのだろうか。


 君には、汚い世界を知って欲しくない。

 この屋敷から一歩も外には出したくはない。


 やっている事はあの人と同じだけど後悔はしないと感じていたのに。


 サラをゆっくりとベッドに横たわらせ、静かに部屋を出る。


 扉のすぐ側の壁に寄り掛かった、何か言いたげな表情のガイルが居た。


 サラが起きてしまわないように、自分の職務室にガイルを指でくるように呼んだ。

 職務室に入ると同時にガイルが声を出す。


「ルイス、お帰り。王都では大変だったな。国王を狙った犯人を捕まえたんだって」


「あぁ、サラが忠告してくれたからね。サラの一言がなかったら僕は怪我をしていただろう。あの人に恩も売れたし、サラには感謝しかないよ」


 もしサラが、怪我に気を付けてと言わなければ、国王を守る為に肩に傷を負い、もしかしたら犯人も逃していたかもしれない。

 忌々しい犯人は国王へと引き渡したが、あの風貌はディグアラ国の者に間違い無い。


「そうかよ。まったく、お前はいい性格してるな。本当にお前と一緒にいると飽きないよ」


「それ、褒めてるの?褒めても、何もあげられないよ」


「いや、いらないから。お前から物なんて怖くて受け取れないって」


「それは、少し失礼じゃない?僕が得体の知れない物を渡すと思ってるなんて」


「悪かった。そう笑いながら睨むなよ」


 ガイルの言葉に不快感を出さず、笑ってやると顔を歪めてガイルは後退りをする。

 それを見て思わず、声を出して笑ってしまった。

 ガイルは恥ずかしそうに話をずらした。


「で、真っ先にお姫様の所か」


「何の為に、急いで帰ってきたと思ってるの?」


「アースを置き去りにしてか」


「置き去りじゃない。ゆっくり帰って来いって置き手紙をちゃんと置いてきたよ」


「……今頃は、急いで屋敷に向かってるな。全くお前は……。公爵になったんだぞ。お前は守る側から守られる側になったんだよ。仕える者の身にもなってみろ」


「悪かったよ。でも、僕は守られるだけじゃ満足しない。僕は大切にしたい人を手に入れた。彼女は僕が守りたい。サラと静かに平和に暮らしたいんだ。その為ならどんな事だってするよ」


「……過保護過ぎだと思うけど」


(自分だって分かってる)


 ガイルが小さく放った言葉を聞かなかったフリをして話を続ける。


「ここは、変わりはなかった?」


 ガイルは深いため息を吐き、諦めたように話し始めた。


「……お姫様がディグアラ国について興味を持っている」


「……それで」


「クリスがお姫様と一緒にディグアラ国と繋がりのある商会に行った。帰ってきてからクリスの様子が変なので聞き出そうとしたが無理だった」


 ディグアラ国。

 切り離したくても離れてくれない。


(サラが関心を持つだなんて)


 正直、良い気はしない。


「わかった。朝一番にクリスを呼んでくれ」


「了解。程々にな」


「分かってるよ」


「あぁ、あと一つ。お姫様とあの王子は一瞬だけ会ったらしい」


 それを言い残し、欠伸しながら職務室を出て行く。

 ガイルが職務室から出て行くと、一気に静かになった部屋の窓から外を見る。

 外はまだ暗闇のまま。


(サラが足りない)


 サラの側に居たくて、職務室からサラが寝ている寝室に向かった。


 ベッドに座り、ゆっくりと寝息を立ているサラの頭を撫でる。


(僕はサラなしでは生きていけない)


 誰にも取られたくない。






 サラと初めて会ったのは、僕が街で何となく生きていた時だった。きっと、サラは覚えてないと思う。

 両親なんか知らず、幼い頃から生きる為に人に言えない事を何でもした。 

 あの時は、盗みに失敗して容赦なくやられた時だった。倒れている僕に、小さな手でハンカチを差し出したんだ。

 君はそのまま立ち去った。


 去って行く後ろ姿は、街に相応しくない出で立ちだった。それに、君を守るように護衛が気付かれないように後ろをついて歩く。

 だからって、その時はお姫様だなんて思いも寄らなかった。


 ただその時、僕はハンカチを大事に握りしめ小さくなって行く君を、ずっと見ているしかなかった。


 それから、街で何度か君を見かけた。

 元気よく走る姿を見て、自分も元気をもらえたような気がした。

 僕は盗みをせず、小さな仕事を探すようになった。


 君が第三王女のサラだと分かったのは、護衛の話をたまたま聞いたから。

 城の離れにある塔に住んでいると言っていて、1度見に行った事がある。

 サラは、いつものように楽しく過ごしていた。だけど、一瞬哀しそうな瞳をする。そしてまた、楽しそうに笑うんだ。

 幸せそうなのに、どうしてそんな瞳をするのか、僕には分からなかった。


 しばらくして、サラの祖母が亡くなり、立て続けに祖父が亡くなった。

 亡くなった祖父の家の前で静かに涙を流すサラを見た。


 塔にいる人達は君を慰めてくると思う。

 でも今ここで、泣いている君を慰める人は居ない。遠くで顔色も変えずに見守っている人達だけ。


(どうして、誰も抱きしめてあげないんだ)


 もし、僕が君の側にずっと居れるのなら、1人でなんて泣かせない。


 サラがあの時一瞬、哀しそうな瞳をした意味が分かった気がした。


 泣いていた君を笑顔で幸せにしたいと思った。

 抱きしめてあげたいと思った。


 ずっと前から、僕はサラの事を好きになっていたんだろう。


 僕は、たとえどんな事があろうとも、君の隣に立てる人物になりたかった。

 平民の僕がサラの近くに立つにはと考えた結果、護衛をしていた騎士しか思い浮かばなかった。

 だから、騎士団に入団した。


 もしかしたら、城の中でサラを見る事が出来るかもしれないと下心もあった。


 結局は、訓練ばかりでサラの姿を見る事は2、3回しか見る事はできなかったけど。


 運が良かったのか、騎士団長の教え方が良かったのか、僕には剣術の才があったようで、死に物狂いで努力すればするほど強くなれた。


 騎士団に入団してから4年が経つ頃には国王の護衛に抜擢され、三つ巴の戦に行った。

 僕はサラの事を思いながら戦っていた。ここで、名声を挙げればと一心不乱に剣を振り続けていた。

 そして、いつの間にか戦が終わって同盟を結ぶ事になっていた。


 僕は国王から褒美として、時間は掛かったけど公爵の爵位と領土を貰う事になった。

 公爵の地位はサラを手に入れる為で、僕はサラの隣に立てる人になれた。

 そして、国王にサラと結婚したい旨を話した。


 国王は渋々と言った感じで承諾してくれた。


 サラと結婚と同時に爵位と領土を正式に貰った。


 これからは、戦なんて考えずにサラと一緒に過ごしていける。

 サラが側に居てくれれば、もう何もいらない。


(僕が幸せにするんだ)


 結婚して隣で嬉しそうに笑う君を見て、そう心に誓った。






 僕はやっと大切にしたいと思う、愛しい人を手に入れた。

 結婚を申し込みに行った時に感じた、君の横に立てた喜びを今でも思い出せる。

 もう、離したくない。


 でもサラは、僕の事をどう思っているんだろう。

 無理矢理に、結婚して……。


 サラから好きだと言われた事はなかった。

 頬を赤らめたり、恥ずかしそうに笑ったりしていたから、嫌われてはいないと思う。


 サラの言葉を、ずっと聞きたいと思っていた。

 結婚して1年が過ぎてもサラは変わらなかった。

 でも、恥ずかしがって顔を真っ赤にする姿は愛らしい。

 このままでも良いかもしれないと思っていた。


 あの時から君は僕に向かって愛を囁いた。

 つけて欲しかったルビーのイヤリングを付けた。

 王都に行く時、怪我に気を付けてって言った。


 そして今……。


(ディグアラ国に興味を持った?)


 テーブルに見慣れないステンドグラスが綺麗なランプを見つけた。

 ディグアラ国のガラスで出来ているだろう。


(サラ、君は何を考えている?)


 ディグアラ国では王と王子が紛争が起きそうなぐらい緊迫している。でも、この事は内密にされている。


 自分が知ったのも国王が狙われ犯人を捕まえたからだ。あれが無ければ、まだ先の事だと楽観視していた。

 ガイルだってまだ楽観視しているだろう。


 多分その事を、サラとクリスは知ったのかもしれない。


 それに、ディグアラ国のジェイズ王子はサラとの婚姻を望んでいた。

 一瞬会っただけで……、と考えて思わず笑ってしまう。


(僕も人の事言えないか……)


 僕は眠っているサラに口付けを落とす。


(僕から離れて行かないで。……僕の腕の中で守られていて)


 サラの温かい手を握り、少し赤く染まった空を窓から眺めた。

   





読んで頂きありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ