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「行ってらっしゃいませ」


 侍女やマーラに見送られ、私は馬車に乗り護衛をつけ街へと向かう。


 街に行こうと思い立ってから、随分時間が経ってしまった。


 ルイス様へのプレゼントを買う事を口実に、ディグアラ国と繋がりがある商会に行く事になった。 


 しかし、店の者から話を聞き出すには、出来るだけ人を連れて行きたくない。


 自分でゆっくり選びたいと伝えると、1人の護衛を付ける事とルイス様が帰ってくる前日という事が、条件で行ける事になった。


 その為に、ルイス様が帰ってくる予定の前日になってしまった。早くディグアラ国の情報が欲しかったが仕方ない。


 馬車の中で、暗い茶色の髪と青い瞳の少女と間違えそうな容姿を持つ護衛を見る。

 護衛をしてくれるのは、ルイス様の護衛隊長アースの息子のクリス。前に街に行った時も護衛を任されていた。


 細い体からは想像も出来ないほど力強い剣捌きで、クリスはルイス様からも一目置かれていてた。

 誰からも力を認められていてる。向上心を持っていて、いつも努力も惜しまない精神の持ち主。


 ルイス様の薦めで半年後に国王に仕える事になる。それから、クリスは国王に認められ一流の騎士になる凄い人だ。


 クリスはチラチラと私の顔を見ている。

 もしかしたら、何か感づいたのかもしれない。

 心を落ち着かせて声をかける。


「どうかしましたか」


「自分の質問で、気分を害したら申し訳ありません。……何かあったのですか?サラ様がご自分から行動されるのは初めての事ですよね」


「不思議ですか?……私も不思議なんです。少し勇気を出そうと思いまして」


 クリスは、怒られるじゃないかと表情を強張らせていて、私はにっこりと笑って見せる。

 ホッとしたようにクリスも笑っている。


「ルイス様もお喜びになりますね」


 納得したのか、クリスはそれ以上話しかけては来なかった。


 馬車が止まると、周りの店よりも一際大きな店に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ」


 すぐさま、店員が声を掛けて来た。

 私の顔を見ると、私が公爵夫人だとわかったようで驚いた様子で奥の部屋に行ってしまった。


 クリスは近くにある物を手に取って見ていた。

 私も触ろうとすると、奥から支配人のような男性が出て来て私に頭を下げる。


「いらっしゃいませ。……これはこれは公爵夫人。お越しいただき誠にありがとうございます」


「ここには珍しい物があると聞いたので。どんな物があるのですか?」


「珍しい物ですか?そうですね。これはいかがでしょう。ディグアラ国の特産品を仕入れております」


 クリスが触っていた物が置いてある台にあったガラス細工を私の手に乗せる。


「とても可愛い」


 ガラス細工は花の形をしていて、ほのかに付いた黄色が綺麗に見える。


「その他にもございます。こちらにどうぞ」


 私は支配人に案内され進む。後ろから、クリスも付いて来る。


(クリスに疑問を持たれずに、ディグアラ国の事を話しやすくなった)


 支配人に少し感謝しながら、店の奥に行く。


 奥には、長いテーブルにガラス細工が並べられている。


 ディグアラ国は4分の1砂漠地帯で、きめ細やかなガラス細工が人気の特産品だ。


 天井には色とりどりのステンドグラスで、所々に宝石をちりばめられた、綺麗で大きなランプが温かな光を放っている。


 テーブルには動物の形の置物や入れ物。

 その他にグラスと小さなランプ、ネックレスやブローチなど様々なガラス細工が置いてある。


 天井のランプで、ガラス細工がキラキラと輝いている。


 この空間だけ違う場所にいる感覚になる。


「どうですか?綺麗でしょう」


 私はグラスを手に取り眺める。


「素晴らしい物ばかりですね。こんなに繊細な物どのように仕入れているのですか」


 支配人は笑いながら得意げに話し出した。


「ディグアラ国の公爵家の方がよくしていただいていて。この前も仕入れの時にディグアラ国に行ったんです。素晴らしい技術者が揃っていました。ここにあるのは一級品の品ばかりですよ」


「そうなのですか。こんな魅力的な物を作れるなんて。私も一度行ってみたいです。もし良かったらどこから仕入れているのか教えていただきませんか?」


 支配人の顔が少し険しくなり、やはりディグアラ国に何か起こっているのかもしれない。

 私は悲しそうな顔で支配人を見る。

 観念したかのように支配人は口を開いた。


「……もしかしたら、ディグアラ国に行くのは少し後の方がいいですね」


「何故ですか? ただ、製造している過程を見てみたいのです。どうやって作れるのか興味が出てしまって」


「ですが……」


 気まずそうな表情な支配人は言葉を濁している。


「あぁ、もしかして商売の事を心配して? 大丈夫です。商売の邪魔なんてしません。素晴らしい物があればこちらで買わせていただきます」


「あの。違いまして。……ディグアラ国が治安が少し悪くなっているみたいで、仕入れもしばらく出来ない状態なんです」


「そうだったのですか。何があったかご存知なのですか」


「……いや……」


 支配人の反応から、もう一押しだと感じで残念そうに言葉を続けていく。


「私は心配なのです。こんな素晴らしい物を作る国がどうなっているのか。……教えて頂けだら、この素晴らしいお店を贔屓にしたいと思っているのに。残念ですね」


 贔屓という言葉に、今まで下がっていた目線が私に合わせられる。


「ご贔屓にして頂ける。……ここだけの話ですよ。私も詳しくは知らないのですが。ディグアラ国の公爵家の方が言うには、ジェイズ王子が王座を狙っているとか。少しずつ兵を募っているっていう噂もあったりします」


「まぁ、どうしてそんな事に?」


「申し訳ありません。そこまでは。ただ、リィーモント国の国境近くの街でジェイズ王子を見たという話もあります。元々、同盟には反対のお方でしたし。私としては、このまま仕入れて商売が出来るのが願いですね」


 聞き出せるのはここまでかもしれない。


「私もこの平和が続けばいいと思っています。……戦は悲しい感情しか残しませんから」


 ふとルイス様の顔が浮かび、目の前にある青く光っているグラスを見た。


「こちらはペアのグラスになっていていまして……」


 私は、グラスの説明をしている支配人の声が、全然耳に入ってこなかった。

 ただ頭の中で、ルイスの笑顔が私に笑いかける映像が何度も繰り返された。


 その後、私はペアのグラスとステンドグラスの小さなランプを買い、馬車へと戻った。


 クリスは支配人と話している間、何も言葉を発しなかった。

 馬車が走るなり、クリスは声を出す。


「……サラ様はディグアラ国に興味がおありなのですか?」


 あれだけディグアラ国の事を聞いていればそうなるだろう。

 クリスは責任感が強い。ここで不審な事になれば私はどう思われるだろうか。


「えぇ。とても素晴らしいガラス細工でした。綺麗で心が洗われるようで……」


 当たり障りない事を言おうとして、クリスの言葉に遮られる。


「今日の事はルイス様に伝えるのですか」


「……そうですね。確かな事はわかりませんから、もう少し様子を見ましょうか。クリスも聞いた事は他言無用でお願いしますね」


「……わかりました」


 クリスは納得いかないと表情をしている。クリスの立場だと、ルイス様に言わなければならないのは分かる。

 しかし、もう少し確証が欲しい。

 慎重に事を運ばなければ最悪の事態になりかねない。クリスには悪いけど、これだけは譲れない。


 まだ、ルイス様が帰ってくるまで時間がある。

 明日、帰れないと速達が届くはず。


(だからもう少し)


 クリスの何か言いたげな視線を気付かないように、屋敷に戻った。


 夜になり寝付けなくて少しソワソワしてしまう。


(ルイス様が怪我をしていなければいい)


 もしかしたら、私がルイス様に余計な話しをしたせいで悪い方向に行ったらどうしようとか、悪い事を想像してしまう。


 買ったランプをテーブルの上に置き、温かな光を瞼が重くなるまで見ていた。






 優しい声が聞こえる。


『大丈夫だから泣かないで』


 微笑んでいるのに、泣いてるルイス様の姿が目の前に映る。

 そっと手を握られて、その手をルイス様の額に持っていかれる。


『大丈夫だよ』


 ルイス様は、なんで泣いているの?

 私も意味もわからず、泣きじゃくっている。


『サラ、大丈夫だよ』


 ルイス様はずっと大丈夫と繰り返す。

 しかし、ルイス様の優しい声がどんどん遠くなっていく。離れたくなくて、手を伸ばす。


「……ルイス様」


「サラ」


 何故か、身体中が温かくて抱きしめられている感覚になる。

 耳元で優しい声が囁く。


「大丈夫だよ」


 さっきまで見ていた夢の続きなのか、それとも現実なのか。分からず、目の前のグリーンの瞳を見てしまう。

 指が私の目尻に溜まっていた涙をそっと掬う。


「ルイス様、どうして」


 ここにルイス様がいるのだと理解する。

 ルイス様はまだ帰って来るには早すぎる。

 私は思わずルイス様の肩を見る。


(怪我をしていない)


「サラの顔が見たくて急いで帰って来たんだ」


「お怪我は?」


「してない。サラのおかげ」


 外はまだ薄暗く、まだ朝日は昇ってはいなかった。ルイス様が休みを取らず帰ってきたのが分かる。 


「お帰りなさい」


「ただいま」


 また、抱きしめられてルイス様を感じる。


「まだ起きるには早い。もう少し眠っていて。僕は隣にいるから」


 聞きたいことが、まだまだあるのに1度安心した身体は言う事を聞かない。

 子供のようにルイス様の胸にすがり付く形で瞼が閉じていく。


 ルイス様の笑い声と心臓の音が心地よかった。


「サラ、愛してるよ」


 私も『愛しています』と言いたかったのに、言葉はルイス様に届いてはいないだろう。


 唇に暖かさを感じ意識を手放した。







読んで頂きありがとうございました!

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