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楽しんで頂けると嬉しいです。








 



 貴方が側にいる時の夢を見た。


 皆は貴方と楽しそうに話して、幸せそうな笑顔をしていた。

 本当に幸せだった。貴方が笑えばみんな優しい気持ちになる。

 私も貴方の笑顔が大好きだった。幸せだった。


 私はハッと気づく。


 貴方の居ない世界を私は知っている。

 だから、私は隣で笑っている貴方の姿を見て泣いていた。

 苦しくて貴方の顔を見れなかった。

 耐えられず、下を向きながら貴方の声を聞き泣いた。

 でも、貴方の笑顔を見たくて泣きながら貴方の顔を見る。


 何度も何度も……。


 目が覚めると、私はそのまま声を出し泣いていた。そして、貴方がいない現実にまた泣く。


 寂しくて寂しくて涙は止まらなくて、いくら泣いても貴方が居ないこの世界は決して変わらない。


(もっと顔を見ておけば良かった)


 久しぶりに見た貴方の夢だったのに。


 しばらく見なかった貴方の夢。

 自分では、もう大丈夫だと思っていた。

 死を受け入れたと思っていた。


 夢で貴方を見れば全て崩れ去った。

 私の心は、なんて脆い物なのか。

 胸が痛くて苦しい。


(逢いたい)


 私は目を閉じる。もう一度貴方の夢を見たくて。


 幸せに笑う貴方の夢の続きから見たくて、涙で濡れた枕を抱きしめた。


 最後に見た貴方の姿は、困った様に笑い私の頭を撫でて馬に乗る後ろ姿。


 素直に私の気持ちを伝えていたら、夢のような笑顔をしてくれたのかもしれない。


 ――貴方が愛しい。


 そう一言、伝えたかった。





 窓からの眩しい光に、朝だと感じて身をよじる。


「おはよう」


 優しい声と一緒に、額に柔らかな口付けが落とされる。


(懐かしい)


 毎朝、貴方はそうして私を起こしてくれた。

 恥ずかしくていつも枕に顔を埋め、貴方が部屋を出ていくのを待っていた。


 そう、いつもなら……。


 これは夢なのだろう。

 だったら私は貴方の笑顔が見たい。


 私は離れる貴方の服を掴む。

 振り向く貴方と目があった。


「サラ?」


「好きです。愛してます」


 私はそう貴方に伝え、とびっきりの笑顔を見せる。


 びっくりして固まってる貴方が目の前にいる。


「サラから、その言葉を初めて聞いた」


 ギュと抱きしめられる感触が妙に現実的で、涙が出そうになる。


(やっぱりあの時、貴方に伝えておけば良かった)


 夢の貴方は私の願望かもしれないけど、きっと貴方は夢の様に笑ってくれただろう。


「凄く嬉しいよ」


 温かくてずっとこのまま貴方に抱きしめていて欲しい。

 夢が覚めるまでずっと……。


 いつまで経っても、温もりがなくなる事はなかった。そっと、貴方の顔を見る。


 愛おしそうに目を細め私を見ている。


 目線がぶつかり、恥ずかしくて思わず下を向いてしまう。


 鼓動が大きく鳴り、貴方にまで聞こえそうになり余計に恥ずかしくなる。


 いつもなら、恥ずかしくて離れるけどこの温もりを離したくなくて、私から抱き付く。

 恥ずかしくて離したくなってしまうけど、まだ貴方を感じていたい。


「……サラ、今日はどうしたの? 僕は嬉しいんだけど、少し心配だな」


 貴方は心配そうに、私の顔を覗き込む。

 私は困らせたいわけじゃ無い。


(いつか、覚めてしまう夢ならばもう少し……)


「もう少し、このままで居させて下さい」


 貴方は頷き、優しく頭を撫でてくれる。


 目が覚めても忘れてしまわない様に、私は貴方に包まれる感触を心に刻む。


 しばらくして、扉の叩く音が聞こえ侍女の声が聞こえる。


「旦那様、そろそろお仕度なさいませんと」


「わかった。サラ、少し待ってくれないか? すぐ戻る」


 私に笑いかけ、慌てて貴方は部屋を出て行く。

 最後に見た後ろ姿と重なり、出て行く貴方に伸ばした手を止めた。


 困った顔を見たく無かったから。

 もうそろそろ、夢から覚めてもいい。

 たくさん貴方を感じたから、これ以上夢の中に居ると現実が辛い。


 しかし、いくら経っても目が覚める感覚は無い。


(このまま夢の中で、貴方の笑顔を見て過ごすのもいいかもしれない。起きても、貴方は隣に居ないのだから)


 それならば、覚めるまで私は貴方の隣に居よう。







 私は、第三王女として生を受けた。

 母譲りのブルーとブラウンの混ざった瞳に、国王譲りのアッシュブロンドの髪色で生まれた。


 しかし、母が私を産んですぐ亡くなってしまた。すると、すぐ次の妃が国王に嫁ぎ、私は城から離れた塔で乳母と数人の侍女と暮らす事になったらしい。


 私にとって、そこでの生活は楽しかった。

 侍女と城下町に行って遊んだり、料理を作って乳母に食べてもらったり、森に探検に行ったりした。

 元家庭教師だった乳母からはいろんな教養を学んだ。


 乳母は生まれてすぐ子供を亡くし、私を本当の子供の様に育ててくれた。王女だからと言って、悪い事をしても怒らない事はなく、ちゃんとした常識を教えてくれた。


 私は16歳になった。

 本当なら16歳になると社交界に参加するのだけど私はしなかった。しなかったではなく、そんな話が無かったといった方がいいかもしれない。


 忘れさられていた。国王にとって私はいらない子。

 その時に、感じた失望感さえも多分私には必要なかった。

 ただ、それだけの事だと思う。


 私が貴方に逢ったのは、その頃だった。

 突然に貴方は私の住んでいる塔に来て私の前で跪いた。

 まるで、絵本の中の王子様みたいで目を離せなかった。


「僕と結婚してくれませんか?」


 漆黒の黒髪にエメラルドの様な綺麗なグリーンの瞳。

 綺麗な顔立ちで近寄り難かったが、話すと印象は違い温かな人だと分かる。

 笑うと冷淡な表情が崩れ一気に幼く見えた。


 私の胸は高まり、名も知らない貴方に一目で心を奪われたのだ。


 後から、乳母に貴方の事を聞いた。

 私の5歳年上で、国王の片腕とされ剣の名手として有名だった。

 身分が平民だった為に私と結婚をして、公爵の爵位を国王に貰うのではないか、と言っていた。


 理由はどうあれ、貴方の側に居れる事が嬉しかった。


 こんなに素敵な人なのに、なぜ私と結婚するのか。

 私と結婚して後悔してないのか。


 疑問だらけだったが、私は貴方と結婚する事になった。


 結婚前に、何度も会い誠実な人だと感じた。

 とても優しい人で素敵な人で、私を大切にしてくれる。乳母も貴方なら私を任せられると言っていた。


 貴方の為になるならば、私は利用されたって構わない。


 もし仮に、嘘だとしても結婚式で言われた一言が私は嬉しかった。


「サラ、愛しているよ」


 その一言が、私の生きている意味になったと思う。


 それから、貴方は国王から公爵の爵位を貰い、大きな領土と屋敷も貰った。

 貴方が嬉しそうに笑う姿を見て私は嬉しかった。


 私はいつまで経っても、恥ずかしくて素直になれなかった。


 だから、この夢では私の気持ちを恥ずかしがらず思うまま伝えよう。






 この夢は、結婚してどれぐらいなのだろう。


 私は着替え、宝石箱を開ける。

 結婚記念日には綺麗な宝石を贈ってくれた。


 中には、様々な宝石がある。殆どが、母の残してくれたものだ。

 その中に一段と輝いている宝石を見つける。

 ダイヤモンドのネックレスは結婚した時に、ルビーのイヤリングは結婚1年目に貰ったものだ。


 2年目に貰ったアメジストのブローチは見当たらなかった。


 この夢は貴方と過ごして1年が経っている。


(まだ、一緒に居られる)


 ルビーのイヤリングを手に取り、窓から入ってくる太陽の光に当てる。


 もったいなくて数回しかつけた事がなかった。

 貴方はいつもつけていて欲しいと何度も私に言っていたのに。

 私には勿体無くて、貴方が私のために選んだと思うと大切すぎて、大事な時しかつけれなかった。


 私は鏡の前に立ち、ルビーのイヤリングを付ける。少し顔を動かし、イヤリングを揺らしてみる。


(もっといろんな時につけてあげれば良かった)


 ルビーのイヤリングがキラキラと光り、宝石箱に入っている時よりも輝いて見える。


「サラ、遅くなったね。午前中は休みをもらえたよ。だから……」


 不意に後ろから貴方の声が聞こえた。


 扉の開ける音にも気づかなかった。

 どれだけ耳で揺れる事を楽しんでいたんだろう。


 恥ずかしがりながら振り向くと、一瞬時が止まった様に貴方は動かなかった。


「……本当に今日のサラはどうしたの? これ以上、僕を喜ばせてどうする気なの?」


 私に近づき、ルビーのイヤリングに触れる。


「サラ、僕の名前を呼んで」


「……ルイス様」


「サラ、愛してるよ」


 そっと口付けられる。


(ルイス様)


 これが、夢ではなく現実ならどれだけ幸せなんだろうか。











読んで頂きありがとうございます!

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