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エピローグ

……結論からいうと、通用したよ。びっくりだよ!



「銅二十一小隊の諸君、よくやってくれた」



 案の定呼び出されたんだけど、団長の最初のセリフは、お叱りじゃなくてお褒めの言葉でしたよ。

 大昔のことわざにある通り、『勝てば官軍』とはよく言ったもんだ……ところで『官軍』ってなに? 古代語の一種?

 まぁ、それはさておき――。

 私が寝てる間におおよその戦後処理は終わっていた。サーフェスさんの説明にはなかったんだけど、その間に隊長たちにも聞き取りが行われてたんだって。体は動かせなくても、質問に答えることはできるからね。

 ちなみに、主に答えていたのはパランさんだったそうだ。

 うん、いつもの調子で持論を展開して、相手を煙に巻く様子が目に浮かびます。尤も、完全にごまかせたとは思えないけど、どうやら私たちは『ドラゴンに致命傷を与えた英雄』扱いになってるみたいだから、お目こぼしに預かれたんだろうね。

 ああ、女将さんの事はちゃんと伏せてたみたいだよ。別に犯罪者とかじゃないんだけど(だよね?)、あえて有名な冒険者だったことを伏せて居酒屋の女将をやってる人だ。今更騒がれるのは本意じゃなかろう。ああ見えて、ちゃんと空気が読めるパランさんはそこらを考慮してくれたらしい。


 

「諸君らの活躍により、我が国はドラゴン来襲という未曽有の危機を乗り越えることができた。そのことにあらためて感謝する」

「……お言葉を返すようで失礼します、団長。ドラゴンにとどめを刺したのは、金三小隊だと聞いておりますが?」


 ん? 金三ってなんか聞き覚えがある……ああ、私が泥かぶりに来る原因になったあの時の小隊か。たしかあそこの隊長はレオナルドさんとか言ったな。もしかして、あの人がやったのかな?


「もちろん、あちらの小隊からも聞き取りは済ませている。隊長のレオナルドが言うには『確かに、自分は身動きの取れなくなったドラゴンの喉を切り裂きはしたが、それは銅二十一小隊がドラゴンに多大なるダメージを与えてくれていたおかげであり、第一の戦功は銅二十一小隊にある』だそうだ」


 ああ、あの隊長さんならいいそうだ。いい意味で『貴族らしい』人だったから、手柄を盗むような真似はしたくなかったんだろう。


「ドラゴンの死体を調査していた魔導士部隊からも、報告が上がってきている。諸君ら――アドム隊長が攻撃した部分には、ドラゴンの魔力の制御中枢があったらしい。そこを破壊されたことにより、ドラゴンは自身の魔力を制御することができなくなり、結果、暴走した魔力によって自滅したということのようだ」


 ああ、ドラゴンの弱点、ってのはそういうことか。

 魔物と呼ばれるものは多かれ少なかれ、自分の持つ魔力によって生かされてる部分がある。そして、ドラゴンってのは魔物の中の魔物、魔物の王様って言われてるくらいだから、その魔力量も膨大であり――それが暴走したおかげで肉体の方が耐えきれなくなった、って感じかな。

 このあたり、サーフェスさんの説明と共通する部分がある。この報告が来る前にそこに考えが及んでたサーフェスさん、すごいな。ただの効率厨じゃなかったんですね。


「そのことからしても、第一の功績が諸君らの隊にあることは明白だ。ただ、どうやってそのことを知ったか、についてはまだ疑問も残るが……居酒屋でたまたま隣り合った、東の冒険者からの情報だったか? どこの誰かもわからない相手からの、不確定な情報により動いたのは本来なら叱責ものではあるが……」


 そこつついても誰も得しないんだから、目をつぶるってことですね。

 ほんと、勝つって素晴らしい!


「ところで、話が多少前後するが……シエル、だったか? もう体は大丈夫か?」

「は、はいっ!?」


 いきなり私に話を振られてびっくりする。


「ほぼ全魔力を使ってドラゴンの防御を下げたと聞いているが……」

「は、はいっ! お気遣いありがとうございます。ゆっくりと休ませていただいたおかげで、もう体調は元に戻っております」

「そうか――アドム隊長らの治癒も済んでいるようだな」


 あら。隊長とパランさんが『治癒は私に』って言い張ってたの、団長まで届いてたんですね。

 なんか面はゆいな……(赤面)。


「ならば、諸君らの功績に報いるために、明日にでも陛下よりお呼び出しがあるだろう。その折に各人の希望を一つずつ叶える、とのお言葉もいただいている。何がいいか、今のうちに考えておくことだ」


 ……はい? 陛下?

 陛下って、もしかして国王陛下?

 ええ?

 ええええええええっ!?



……むっちゃ疲れました。

 神経削られました。

 しがない平民の鍛冶屋の娘にとって、とーっても光栄なことではありますが、一回で十分です。

 大体、こういう場合のマナーも礼儀も、なんも知らんのですよ? 一応、拝謁前に簡単なレクチャーはあったけど、あの程度で足りるわけないでしょうがっ!

 ご褒美もらうために来たんだから、多少変なことしてもお手打ちとかはないだろうけど、もうひたすら頭を下げて、周りの人の動きに合わせるだけで精一杯でしたよ。 


「……しかし、まぁ……全員、ものの見事に陛下の意表を突いたもんだな」

「あはははー」


 隊長の言葉に笑ってごまかします。

 でも、私も驚きましたよ。みんなの希望、ってやつにね。



 まずは、隊長の希望から――隊長が願ったのは『花街の子供らに読み書きや、技術を教える施設を造ってほしい』だった。隊長のお母さんはそこそこ稼ぐ妓女だったので、その子供の隊長もそれほどひどい境遇ではなかった。けど、もっと稼ぎの悪い人の場合だと、ほんとにちっちゃいころからあれこれと仕事を言いつけられ、かなり悲惨な子供時代を過ごすことになるらしい。そういう子が少しでも減ること、そして遊郭以外のところでも生きていくことができる力を身に着けることができるように、ってね。


 次にパランさん。

 パランさんの願いは、王家の所蔵する書籍の閲覧許可。これはある程度の身分があれば読むことはできるんだけど、当然ながらそこには規制がかかる。なので、禁書や国や王家にかかわる極秘文書以外のものを自由に読むことができる権利を願ったんだ。

 ちな、これはサーフェスさんも同じだったりする。まぁ、パランさんのお目当ては古今東西の戦略に関するもので、サーフェスさんの場合は魔術に関する資料だったりするんだけどね。


 で、メレンさんはといえば『自分の実家のある地域の道路の整備』。

 なんかね、お商売に使ってる道が結構あちこち老朽化したり、がけ崩れや落盤とかで危ない箇所があるんだそうだ。実際、何回か事故も起きてるようだし、そこを何とかしてくれ、と。


 そしてザハブさんだけど――『特に何も……できれば、リューディア姫を近寄らせないようにしてほしい』って。

 ちょ! それ、姫様の父親である陛下に言う??

 あまりの空気の読めなさに、隊長以下、全員蒼白ですよ。珍しくパランさんもあわててたよ。

 けど――。


「……それに関しては安心せよ。あれは……もう、外に出ることは叶うまい……」


 溜息ととともに、陛下はそんなことを言い、ザハブさんをとがめることはなかった。

 後でこっそり聞いた話だが――ソースは、女将さんのお店で出会った妙な……じゃなくて、ちょっと不思議な内勤騎士団の団長だったりする――治癒過多症になってしまったリューディア姫は、ちょうど顔面が爆ぜたところで自身の魔力が尽きたらしい。そのおかげで左半分の顔が見るも無残な様子になっており、しかし治癒術が原因でそうなったために治癒術を使わず、本人にも魔力を封じる腕輪を装着させ、自然に治るのを待つことになった。今も痛みにうめいているらしい。

 なお、治癒術を使用せずに自然回復に任せた場合、当然ながら傷が残る。

 そして、もし姫様の過多症が収まり、自分で治癒できるようになったとしても、時間がたちすぎた傷は、たとえエクストラヒールを使っても元通りにはならないだろうと言われているんだそうだ。

 取柄だった美貌も、卓越した治癒術もなくした姫様の、将来は明るいとは言えないだろう。

 同じ女性として、そして同じ治癒師として。そんな状態になっていることに同情してしまう。

 態度は確かに悪かったけど、王族の姫に生まれながら、あれだけの治癒術を身につけるにはそれ相応の努力が必要だったに違いない。それがすべて無に帰してしまったわけだし……それにね。治癒術は確かに得難いものだけど、使い方によってはこんなに恐ろしい結末が待っているって、改めて肝に銘じることにもなった。

 その感謝も含めて、姫様のこの先に少しでも希望の光がともることを切に願わざるを得ない。


 そして私の希望なんだけど。

 もちろん、というか、当然というか。願ったのは『辺境の村々の医療の充実』だった。

 私が年季が明けて自分の村に戻ったとしても、そこで救われるのはうちの村とその周辺だけだ。けど、治癒師がいないことで命を落とす人は国中にいっぱいいる。

 たとえ王様の命令があっても、全部が全部救えるとは思わないけど、今よりも少しでも悲しい思いをする人が減るなら、それはとっても大事なことだと思うんだよね。



「……陛下にしてみれば、貴族にしてほしいとか、でかい家が欲しいとか、そういった願いを想定してらしたんだろうが……」


 そんなことを願ったのは一人もいなかったんで、さぞや拍子抜けされたことだろう。

 っていうか、私たちの願いって、そんなことよりもずっとお金がかかることが大半だから、そっちの面でも頭を抱えてらっしゃるかも。まぁ、だからと言って『願いをなんでも一つだけ叶える』と言っちゃった手前、反故にもできないだろうし……なんか、すみません。

 それと、私たちの願いがあんまりにもアレすぎたんで、そっちとは別に各人に報奨金が与えられた。私の場合、その額がなんと年俸の十倍ですよ。王家、気前がいいな。

 んで、さらに……。


「……しかし、泥かぶりといわれた俺たちが、今度は特別機動部隊になるとな」


 姫様以下の全員が再起不能になった白金は、当然ながら解散になった。

 そして、その代わりに今まで白金の方々が占めていた役目を、今度は私たちがやることになったってことです。名前も『銅二十一小隊』から『竜燐りゅうりん特別小隊』って変わりました。

 その話を聞きつけて、デルタさんもわざわざお祝いを言いに来てくれたんだよね。

 今更だけど、信じてたけど、無事でよかったよ……。


 ドラゴンが出現したことは、無事に討伐ができたため、国民にも広く周知されたんだけど、その話の中で、私たちはドラゴン討伐の立役者、みたいな扱いになってるらしい。

 名前が変わったのと同時に新しく配給された装備は、前のものよりも性能が格段に上で、しかも全員の胸のところには、ドラゴンからはぎ取ったという鱗が燦然と輝いてた。

 ただ、私には姫様みたいなとんでもない治癒はできないし、ほかのみんなも立派な鎧を差し引いてもキラッキラしい貴族的な外見とは無縁だから、広告塔になるのは無理。

 なので、本当の意味での『切り札』って感じかな? ……ん? あれ? それって、なんか今までと変わって無くない?


「さすがに今迄みたいに、あまりもの任務はないっしょ」


 メレンさんのお言葉ですが、ほんとにそうであることを祈ります。


「ところでさ。シエル?」

「はい?」

「やっぱ、年季が明けたら村に帰るの?」

「あー……」


 そこなんですよね。私のお願いだからか、いの一番に、うちの村に治癒師が派遣されるらしいのよね。だから、私が急いで戻る必要もなくなってるんだよね。

 それに、何より――。


「もうちょっとの間は、このままでいいかなー、なんて思ってます」


 なんていうのかな……ここ(泥かぶり)を去りがたい思いが生まれてきちゃってる。最初のころは、ひたすら一日でも早く年季が明けるのをまってたのに、不思議なもんです。

 まぁ、その分、さらにまた婚期が遅れる可能性大なんだが、べつに結婚願望が強いわけでもないしね。


「そっかー」


 私の答えに、メレンさんが嬉しそうな顔をする。それはほかの人たちも同じで、パランさんもなんだかちょっとだけまとう雰囲気がいつもより柔らかかったりして。


「そういうわけで、これからもよろしくお願いします」


 この決断は間違いじゃない――そう感じながら、ぺこりと頭を下げた。

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