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第42話 心理

 悠馬の願い虚しく力也とみどりの戦いは拮抗模様を呈していた。


「ちょいと防御思考すぎんねぇ」


 力也としては短期決戦、なんなら初撃で終わらせるつもりだったのだが、残念なことに全力防御の構えを見せられてしまい至らなかった。

 攻撃が読まれたという感じでは無く、燈のチームに入った以上、すぐに落とされ迷惑をかけるわけにはいかないというみどりの臆病さが防御の構えを強固にさせていた。


「あーあ、読み違えちまった」


 力也は作戦を立案する際に相手の思考を取り入れる。故に、ハマれば強いが外した時に大コケする。本来ならば作戦というのはリスクがなるべく少ないものを採用するべきなのだが、力也の場合は違った。

 大抵当たるということと、臨機応変に対応する自信があるからだ。


「どうした鈴木、守ってばっかりか?」


 力也は防御一辺倒のみどりを煽る。力也の実力では、まったく反撃の手が出せないほどの物量と火力の波状攻撃なんて芸当は出来ない。少なくとも差し込めるくらいの間隔はあるのだ。

 だが、安全思考のみどりはそこに無理して差し込まない。力也にとってはそれが厄介であった。


「あんたごちゃごちゃと気持ち悪いのよ」


「俺は心配してんだぜ?そんなんで会長のチームメンバーとして通用すんのか?」


 みどりが燈のチームに参加するに至った経緯を知っている。さらにいうとその意気込みまでだ。みどりが下級生の教室まで乗り込んでいったことも学内では有名であった。


 言われて嫌なところをチクチクと攻める。

 中でも、活躍しなくていいのか?という煽りは痛烈だった。

 みどりは燈に迷惑はかけられないということで誤魔化しているが、結果を残したいという気持ちは隠せない。結果を出せば燈に褒められる、そんな妄想をしているんだろうなと力也は邪推していた。


「うっさいわね!」


 反撃の魔法がようやく飛んでくる。まるで重たい扉が開いたかのような、開くまでは重たいが、一度動いたらグググと開くそんな感覚。


「はっ!当たるかよっ!」


「このっ!」


 不安定な足場をぴょんと飛んで横にかわす。さらに追撃をかわす。しかし、かわした先の足場が不安定でグラッと揺れた。


「なにっ!?」


 踏み外したのは力也にとっても想定外だった。勢いのまま前に倒れて手をつく。しかし、それでも勢いは止まらずそのまま足が離れてしまう。


「無様ね!貰ったわ!」


 みどりはそのチャンスを逃さない。みどりの魔法は勢いのまま前宙しそうな力也を捉えていた。はい勝った、ざまぁみろ、そう思った瞬間からみどりは立ち止まっていた。


「そういうところが甘いんだよ」


 力也は勢いのままグルッと回るかと思いきや逆立ちの状態で静止する。いわゆるブレイクダンスのフリーズの一種のジョーダンと呼ばれるような体勢だ。そのまま反撃の魔法を放つとみどりはいともたやすく被弾する。完璧なまでのノックアウトを見せた。


「餌を撒けば釣られると思ったぜ。功を焦ったな」


 これが1試合目でなければ話は別だっただろう。何かを為したいという気持ちが前に出過ぎたのだ。燈のチームに入ったことで注目されているのもそうだが、燈のおこぼれに預かろうとしているなど陰口を叩いてきたやつを見返したいという思惑があった。

 その焦りを力也は利用した。決定的なチャンスには必ず踏み込んでくると()()していた。


「2分以上経っちまったな。さて、悠馬の手伝いに行きますかね」


 しかし力也が援軍として参じた時、悠馬はすでに燈との勝負に敗北していたのであった。その後、力也と善治は会長と書記の生徒会ペアに流れるようにやられるのであった。



 悠馬が龍平達のいる観客席へと戻ってくる。まず悠馬を出迎えたのはお疲れ様という労いの言葉だった。


「くじ運が無かったですね」

「会長相手は仕方ないんじゃない?」


 燈が相手だったから何も出来なくても気にすることないでしょうという思ったよりも優しい意見。悠馬としてはもっと冷やかされると思っていただけに拍子抜けであった。


「悠馬の相手が会長だったのはそういう作戦か?」


「あぁ、あれね。酷いよね。先輩達が他の人を倒して加勢に来るまで耐えるって作戦」


 作戦内容を聞いて龍平はなるほどと納得する。下級生を囮に使うなんて今頃は非難轟々だろうと知らない先輩に合掌した。

 龍平としては現実主義である策だと評価していたのだがいかんせん舞台が悪すぎる。少なくとも先輩後輩という枠組みの上下関係のあるチームでやれば叩かれて当然だった。


「ということは加勢が来るまで悠馬が耐えきれなかったわけか」


「あーそれ言っちゃうんだ。龍平君はえげつないねー」


「いやいやいやいや、だって相手はあの会長だよ!?無理無理無理無理!!」


 つまり悠馬に作戦失敗の責任があるわけなのだが、悠馬はそれを認めなかった。もっとも、雀やエリナは龍平の言わんとしていることを理解していた。

 これが実戦ならば相手が誰だろうが関係ないのだ。相手が格上だから仕方がなかったんですという言い訳は通用しない。

 とはいえ、言ってしまえば学生のお遊びにそこまでの意識を求めるというのも酷な話だ。雀はそれをえげつないと表現した。


「ほんと龍平は参加してないからそんなことが言えるんだよ。これでもかってぐらい即死要素が多すぎる。気分はスペランカー、段差で死ぬ。これ冗談抜きで」


 実戦では一挙手一投足に気を使わなければならない。それこそ、些細な段差一つでも飛び越えるか、右足から入るか、はたまた左足から入るか、選択肢が分かれるわけだ。

 もちろんこれらの行動は基本的に無意識下で制御されている。癖と言ってもいいだろう。

 だが、時には意識をしないと思わぬところで落とし穴にはまるのだ。例えば癖を見抜かれた時、それは地獄への片道切符に早変わりだ。正味な話、そんなことを気にしながら闘うなんて芸当は不可能に近いのだが、人と人との闘いである以上は心理という要素がどうしても絡んでくる。そして、魔導士の中にはそのテクニックを駆使して優位に立とうとする者も一定数いる。

 広義狭義という定義はないが、力也もその1人と言えるだろう。

 少し話は逸れたが、無理やりまとめると実戦では何があるか分からないという話だ。悠馬はキツかった、洗礼を受けたなどとネガティブに語る。


「うぅぅ……怖くなってきました……」


 結衣は、学生の部でこれなら一般の部はどうなってしまうんだと不安や緊張で名状し難い表情になっていた。

 しかし、それは無知によって引き起こされる偽りの恐怖というものだ。結衣は実力だけならすでに一般的な魔導士レベルに達している。現に、以前埠頭ではじめての任務を経験した際には現役で活動している魔導士を唸らせる(ドン引きさせるともいう)くらいの実力を見せつけた。足りないものがあるとするならば、知識と経験、そして何より自信。身の程知らずは良くないが、自己を過小評価するのも駄目なのだ。


「ほんとうにごめんなさい……私が一般の部に応募したばっかりに……」


「何を言ってますの?さっきそれで良いって結論になりましたわよ。それに、こんな貴重な経験が出来るのに学生相手じゃつまらないですわ」


 一方で自信だけはあるエリナ。足して2で割るくらいがちょうど良い塩梅になるだろう。そして、魔法力では2人に劣るが実戦経験に富んだ雀がいる。龍平は、トップチームと当たらなければ手も足も出ずに完封ということにはならないと踏んでいた。

 結衣とエリナの魔法技能は学生のレベルを軽く超越している。そこに更に理不尽なまでの魔法力が加わるのだ。鬼に金棒とはまさにこのことを指すのだろう。

 しかし、結衣は相変わらず自己評価が低く、自分にそこまでの実力があるということを理解していない。


「結衣はもっと自信持ちなよー。A級魔導士でも一部の人しか習得していない精霊召喚を使えるってだけでも希少なんだから」


 結衣とエリナという何年に一度の逸材と呼ばれるような2人が同じ年に同じ学校にいるというのが小さい奇跡なのだ。今年の学生はどこか違うと思わせるに十分だろう。


「でも、雀さんみたいに精霊召喚が無くても強い人だっているじゃないですか」


「まぁね〜。でも私より強い学生なんて世界で数えても数人程度だと思うよ?」


 雀は大胆不敵なことを言うが、それは紛れもない事実だ。担任であり現役A級魔導士である麻耶からも、既にC級魔導士程度はあるとその実力を評価されている。学園を卒業した新社会人、あるいは魔法大学や防衛大といった魔導士のエリート街道を進み卒業した魔導士でも初陣は使い物にならないなんて良くある話だ。そんな人達が数年という実戦経験を経てようやく挑戦するのがC級魔導士ライセンス。はっきり言って学生レベルの大会に出ていい実力ではない。

 仮に、結衣たち3人が学生の部で参加していたならば十中八九優勝していただろう。燈のチームが正規のメンバーならばまだ分からなかったが、その穴を埋めただけのみどりではどうしても実力不足だ。

 個の力はもちろんそうだが、チーム全体の総合力も下がってしまう。これは、抜けたメンバーよりも強い人が代わりに入ってきても同じだ。メンバー間の仲の良さや絆の力というのもバカには出来ないのだ。


 その点において結衣達は秀でている。ひと昔前に流行った「ゎたしたちズッ友だょ……!」や「B(ベスト)F(フレンド)F(フォーエバー)」などという薄っぺらい関係で無いからだ。友達としての期間の長さは短いが、何より大切なのは関わりの深さだ。つまり、お互いのために命を張れるか、最終的にはこれに尽きる。

 ただの学生が言う親友程度ではそこの次元まで至れない。同じ釜の飯を食うではないが、苦節困難を共に経験することが重要であり、ただ学校で授業を受けて放課後に買い物に行ったり遊んだりと、このルーティンでは真の結束は生まれないというわけだ。


「ま、つまり私がいて結衣とエリナちんもいるんだから、一般参加の部でもどうとでもなるってことよ。さて、それが分かったところでそろぼち行きますか」


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