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第39話

 学園祭の前夜、龍平が家で寛いでいると一本の電話がかかってきた。その相手はNBMT大将のアレクであった。


「アレクさんから直接の電話か……一波乱ありそうだな」


 そう思っても出ないわけにはいかない。龍平はモニターを起動して受話すると、画面にはアレクの顔が映し出された。


「龍平です。何かありましたか?」


「おいおい、何か無かったら連絡しちゃダメなのか?」


 龍平が単刀直入に斬り込んだものだからアレクは少しくらい世間話をさせてくれと苦笑いを浮かべる。モニターに映し出されたアレクの表情から見てそこまで重大なイベントはないと判断できた。


「失礼しました。智香さんがまだ帰国していないのでそれ関連かと早とちりしました」 


「俺よりも智香と連絡取ってるなら智香が無事だって知ってるだろ……今回は智香の件とは無関係……とはいかないがほぼ無関係な話だ」


 アレクがそう言って一枚の画像を提示するとその内容がモニターに映し出される。そこにはNBMT日本支部設立に向けてと書かれていた。


「タイトルを見て分かる通り、この度NBMT日本支部が設立されることになった。本当に日本政府はようやく重い腰をあげてくれたというか首を縦に振ってくれたというか……」


「それは快挙ですね。お疲れ様です」


 これまでアレクは何度も日本政府と交渉をしていたのだが、反魔導士団体の動きを懸念した政府からは快い返事が貰えていなかったのだ。それを知ってる龍平は素直にアレクを称賛した。


「まぁ支部といってもあくまで下部組織だけどな。当面、本部からメンバーを送るのは控えて欲しいとのことだ。こちらも反魔導士団体をいたずらに刺激するつもりはない」


「しかし、よく交渉が成立しましたね」


「学校を襲撃してくれたのがある種の追い風になったな。政府もテロ行為を助長する勢力が国内に蔓延しているのを見過ごすつもりはないようだ。とはいえ、反魔導士団体の鎮圧に日本魔導士協会が出張ってくると国内の軋轢が大きくなる。そこで、国際的な評価を受けているNBMTをワンクッション挟むことで不和を起こしにくくするというのが狙いだろう」


「なるほど、打算的ですね」


 龍平はNBMTの名を利用されていることが遺憾だったが、一方アレクは打算が無ければ承諾しなかっただろうな、とそのことについては問題視していなかった。

 なのでリーダーがそのスタンスならばと龍平もそれに従った。


「それでだ。日本支部についてはとりあえず龍平にある程度を任せるつもりだ」


「智香さんではなく俺ですか」


 これは龍平にとって寝耳に水な話であった。そこに水瀬智香の名前が無いことに違和感を覚える者も現れるだろう。


「あぁ、あいつも忙しいからな。流石に体面上表向きのトップは智香ってことにしておくが、運営や隊員の選考については龍平が指揮を取って構わん」


「なるほど。そういうことでしたら構いません」


 智香の名前だけを借りるという形になるということで合点がいった。龍平としてもこれ以上智香の仕事を増やすというのは反対だったため事実上の支部長の背任に同意した。


「とりあえずメンバーは50人を目処に考えている。まぁ、まだ事務所も建ってないからメンバーの募集は気が早い話だったな」


「そうですね。声をかけるくらいはいいですか?」


「一任するって言っただろ?じゃ、そういうことだからあとはよろしく」


 それだけ話をしたところでアレクからの通信は途絶える。龍平はこれは責任重大だと気を引き締めるのであった。



 学園祭の当日。学長である智香は思ったほど調査が芳しくないのか、まだ中国から帰還していなかった。故に、学園祭は学長不在という異例の開催になった。開会式が開かれている運動場だが、是非とも智香と顔合わせをしたいと考えていたお偉いさんが肩透かしを食らっている姿にはなんとも言えない哀愁があった。


「この日のために早いうちにスケジュールを開けてる人もいるから中止や延期って簡単に出来ないみたいだね」


 魔法学園はあくまで教育機関である前に国家機関だ。そして、この学園祭には国防軍や警察庁魔導課といった国家組織が対抗戦を目的に来賓する。有望な人材に目星をつける、あるいは直接将来の進路にと推薦するためだ。


「申し込みしてきましたよー!」


 龍平と悠馬が話をしていると結衣が嬉しそうに対抗戦に参戦したむねを報告する。だが、そこに雀とエリナの姿は無かった。


「2人は一緒じゃないんだな」


「はい、先に席を取っておくって言ってました!」


「なるほど。なら俺たちも行こうか」


 龍平たちは3人で座席に向かう。その途中、出店でポップコーンやジュースを購入し観戦の準備はばっちりであった。


「お待たせしましたー」


「おー、ありがとう結衣。気が利くねー」


「購入したのは龍平君です。そしてお代を受け取ってくれません」


 友人間でも金銭的なやり取りはダメです!と結衣がむくれている。ちなみに龍平はどうせまた後で何か買うんだからその時でいいだろうと結衣に説明している。


「真面目だね〜。他の機会で返せば良いじゃん」


 雀は龍平の意というよりもこれは自論のようだ。これだけ一緒にいるのだからその機会はすぐ来るという話らしい。


「む〜」


「ま、結衣さんがそう真面目で信頼出来るからこそこういうこともできるってことですわよ。それより、エントリーは上手く出来たんですの?」


 一方、2人とは別にエリナはすでに対抗戦に意識がいっているようであった。とはいえ、ここ数週間を対抗戦のためだけに過ごしてきたと言っても過言ではないためそれも仕方がない。


「はい!ばっちりです!」


 結衣はそう言うと()で6と数字が書かれた紙を出す。チーム登録が出来ているという証拠であった。


「悠馬のところは先輩がエントリーしたんだっけか?」


「そうだよ。こっちも受付番号の画像が送られてきたけど……あれ?なんか風間さんのと色が違うな……」


 そう言われて悠馬の画像を確認すると、()で16と書かれていた。


「結衣……もしかして」


「もしかしなくてもですわよね……あなたこれ一般の部に申請してますわよ」


「うぇぇぇぇ!!!???」


 対抗戦は学生の部と一般の部に分かれている。学生の部は参加資格が18歳までと決められているのに対して、一般の部は年齢制限が設けられていない。故に、エントリーをしたこと自体に問題はないのだが、そこには有名チームや名をあげたい猛者が参加している。無論そんなところに学生が参加するのは極めて稀であり、それも1年生でというのは過去に前例が無かった。


「やってしまったね」


 猛獣の檻に自ら飛び入った3人を見て悠馬はご愁傷様と手を合わせるのであった。



 30分後、フィールドでは学生の部が既に始まっていて、悠馬も出番があるからと待機室に移動していったのだが、結衣たち3人は試合には目もくれず作戦会議をしていた。


「ま、出しちゃったもんは仕方ないしねー」


「ですわね。それに、いずれは世界を相手にするんですもの、その予行演習みたいなものですわ」


 2人は結衣のしたことを責めなかった。むしろ気を遣われるという状況に結衣は自分が情けなくなってしまった。


「うぅ……こんな私なんかに優しくしないでください……」


「あーもう良いって言ってるでしょうに。どうせやることは変わんないんだから。私は遊撃兼ステージによっては索敵、結衣が索敵と防御メイン、エリナちんは砲台役。エリナちんが警戒されたら結衣が不意打ちで火力出してもおっけーって感じで」


 雀は落ち込む結衣を無視してとりあえずの基本方針を決定する。基本の役割だけ分担をしてあとはステージ次第という感じだそうだ。


「ステージ運が良いといいですけど……」


 逆に言うと、ランダムで決定されるからこそ不安要素とも言えた。対抗戦では体育館にも用いられている魔法によってフィールドの地形が毎回変わってくる。

 選ばれるステージは平地、川辺、岩場、森、住宅街の5つ。平地ステージはその名の通り何もギミックのないフィールドをそのまま活用した真っ新な状態だ。

 川辺は平地ステージの真ん中を30メートル幅の川が流れて東西に分離しているステージで、魔法戦が期待出来る。

 岩場、森ステージはフィールド全体がそのギミックで満たされる。森ステージに至っては全体の見通しも悪いため高い索敵能力や隠密能力が要求される。

 そして、住宅街では建物を模したギミックが多数出現する。当然、建物という扱いなので中に逃げ込むことも可能だ。


「狙い目は川辺かな。結衣とエリナちんの2人が火力役に回れるのはでかい。まぁその代わり私が腐るけどそれを有り余るアドバンテージがあると思う。逆に平地と岩場は総合力が試されるから厳しい戦いになりそうだね」


 川辺のステージに関しては魔法力の暴力に任せるだけでも大分戦えると雀は評した。2人に関しては既に第一線で戦える火力がある。逆に、それ以外の経験値が圧倒的に少ない。平地や岩場といったシンプルなステージが来ると厳しいというのは意見が一致した。


「森ステージと住宅街ステージはどうですか?森ステージはともかく住宅街ステージは検討もつかないですけど……」


「ですわね。わたくしも不本意ですが川辺ステージ以外は厳しい気がしますわ」


 戦いのビジョンが見えないと苦手意識や相手が有利という感覚に陥る。2人は経験したことのない住宅街という戦場を強く警戒していた。


「いや、そこに関してはある意味フェアだよ。他のステージはともかく、住宅街でドンパチやった経験があるチームはそうそうないはず。私は意外とここが穴場だと思ってる」


「ドンパチって……」


 表現として最適かどうかは置いて、経験値がフェアであるというのは2人にとって盲点であった。住宅街や市街地戦は魔導課、つまり警察という公営組織の領分だ。私人にその領域での活動の機会というのは滅多に訪れない。


「それでも5分の2……まぁ5分の1よりはマシですわね。それで、作戦はあるんですの?」


「住宅街ステージには一つ大きな建物が確定で出現するから、初動でそこに向かう」


「モールですか……」


 雀のいう大きな建物というのはショッピングモールを模した物で、参加者はそれを通称してモールと呼んでいる。


「そ、あそこなら建物内にいても包囲されることはないし勝つためには中に入るしかない。待ち受ける側が有利に立ち回れるってわけ」


「なるほど……相手がそれを分かって動かなかった場合はどうしますか?」


 不利になると分かっているのなら無理に攻める必要はない。相手にそこを突かれてしまったらもうこの作戦そのものが意味を為さなくなってしまう。そのことを結衣は心配していたのだがどうにも雀には余裕があった。


「んー?待ちでいいよ。そんなことにはならないと思うけどね〜」


「「???」」


 雀が何を根拠にそう言っているのか、純粋な2人にはその理由が全く検討もつかなかった。


「あ、その理由はちゃんと自分で考えてね。今日の宿題だから」


 雀からの抜き打ちの宿題に結衣とエリナは頭を悩ませる。この宿題の本質は自分達が学生という立場を用いて相手の心理を読むというところにあるのだが、流石にそこまでの絡め手は結衣とエリナの二人には早すぎたようだった。

面倒で無ければ評価をお願いします。

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