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第34話 才能の暴力

 龍平達がDチームの援軍として駆けつけると、そこには今回の依頼で集められたメンバーが勢揃いしていた。特にそこで戦闘が行われた形跡などは無く、全員がシャッターの閉じた倉庫の前に突っ立っているような状態だった。


「俺たちが遭遇したのは3人。俺たちの姿を確認するとそいつらは逃げるようにしてこの倉庫の中へと入っていったんだ」


 男の発言によって不審な人物というのが複数人いるということが分かった。最低でも3人、いや倉庫に逃げ込んだことを考えると中に仲間が待ち構えている可能性はかなり高いだろう。男はそれ故に深追いはしなかったと言及する。


「賢明な判断だ。しかし、中の様子が分からないのは厄介だな……」


 どうしたものかと大人達が首を捻る。突入は最後の手段にしたいというのは共通認識だろう。ならば相手方には出てきて貰う必要があるわけだが……。


「呼びかけにも応じませんねー」


 どこか間延びしたような声の女が状況を報告する。とはいえ、警告を始めてまだ数分程度なので根気強く続ける必要があるだろう。

 その間に次の作戦を決めておかなければならない。


「倉庫を冷凍庫にしてしまえば堪らず出てくるのではなくて?」


 大人達に物怖じせずにエリナが発言する。魔法で倉庫内の温度を下げてしまえば寒さに耐えられなくなって出てくるというのがエリナの策だった。まさかのところからの発言に難色を示される。


「こんな大きな倉庫をかい?全員でやれば出来ないことはないかもしれないけど」


「人が耐えきれなくなるくらいって考えるとガッツリ下げないといけないからな……部屋が冷える前に全員スタミナが切れちまうよ」


 話をしてもエリナの案は現実的ではないと言われてしまう。おそらくこれが黒田の意見だったならばここまで消極的ではなかったはずだ。エリナはなるほど自分は()められているんだなと感じた。故に、鼻を明かしてやりたい気分になった。


「少し試してみますわね」


 嘗められたままではいられない。自尊心、プライド、矜恃、言い方は様々だがそれらが彼女の高貴さの根幹であり、自身を気高いと自信を持って宣言できるからこそ彼女の心にはノブレス・オブリージュの精神が宿っている。


 静止の声には耳を貸さない。文句があるなら見てから言えと、そう言わんばかりにエリナは閉鎖されたシャッターに手をついた。


「来なさい。『フラウ』」


 氷属性はエリナの最も得意とする属性だ。とてつもなく膨大な魔力の凝縮に周囲の空気が変わる。


「精霊召喚だとっ!?」


 優秀な魔導士の証とも言える精霊召喚にざわめきが起こる。見返してやるのが目的ならこれだけでも十分だろう。だが、エリナは満足しない。魔導士は結果を出して初めて評価されるべきだからだと知っているからだ。


「なんて干渉力だ……!」


 気づけば、シャッター全体に霜が降りはじめていた。ほんの一瞬にして雪国模様に変わったことに全員が息を飲む。


「見て!地面が!」


 数瞬後には手を触れていないはずの地面が凍りはじめる。そしてエリナが調子づいて魔法の威力を増したところで予想だにしなかったことが起こった。シャッターが魔法による急激な冷却に耐えきれずヒビが入ったのである。


「壊れちゃいましたわ……」


 成果を残せなかったとエリナは顔を顰める。ヒビ割れた時の大きな亀裂音はおそらく中にいた人にも聞こえていただろう。本来ならば叱責されてもおかしくないようなミスだが、誰もエリナに対して非難の声をあげることが出来なかった。リーダーの黒田も呆然と立ち尽くしてフリーズしている。


「あの、シャッターは破壊した方がいいですか?」


 そんな中、結衣が未だ硬直している黒田に話しかける。こうなってしまったからにはもう小細工はなしで中に突入すればいいのではないかと提案する。


「あ、あぁ……」


 まだエリナの魔法が頭に残っているのか、心ここにあらずの返事が返ってくる。結衣は若干悪いなと思いつつも、ライバルのエリナに負けるわけにはいかないと魔法を行使した。


「来て、『八咫烏(ヤタガラス)


 結衣もエリナと同じく精霊召喚で魔力を一気に増幅させる。抑えきれずに溢れ出た魔力が風となって吹き荒れる。


「なん……だと……?」


「この子たち、やばすぎるよー……」


 そんな外野の声なんて結衣の耳には入ってこない。結衣の頭の中にあるのは、エリナに負けていられないという対抗心。精霊召喚を見せたのもそれが理由だった。でなければこんな半壊している鉄の塊を吹き飛ばすのにこんな大技は必要はない。

 後であの子(エリナ)の方が凄かったな、となるのが嫌なだけだ。


「『風刃・エアロブラスト』」


 故に結衣は全力を出す。その一撃は鉄のシャッターをまるで紙切れを散らすようにこともなげに吹き飛ばす。半壊してなくても同じ結果だっただろうことは容易に想像できる。中にはその威力に腰を抜かした者まで現れた。


「うっわ、中の人死んでないよね?」


「はっ!?」


 雀が物騒なことを言うが、これが冗談だと言えないくらいにはショッキングな光景だった。ちなみにそうなっていたとしても数回に渡って警告をしているので罪には問われない。


「と、突入するぞ……」


 だがそれでも緊張は走る。いくら何年も魔導士生活をしているからと言って、人の死に慣れている者はそうそういない。一同はおっかなびっくりと倉庫へと入っていく。


「これは……!」


 違和感に気づいた者から驚きの声があがる。何かがあったというわけでは無い。倉庫の中には何も無かったのだ。つまり、大きなコンテナや段ボールといった荷を詰めそうなものが1つも無かったというわけだ。

 変わりに、そこら中に意識を失って倒れている人、人、人。

 物が何も無かったせいで結衣の魔法に全員が巻き込まれた形になった。


「うん、息はしてるね」


 雀はそのうちの1人に寄っていくと素早くトリアージをする。脈と呼吸の確認程度なので20秒もすれば1人見ることが可能だ。ちなみに、龍平を除いた雀以外の人は動けなかった。周りに落ちていた物に注意がいったからだ。


「リボルバー……」


 そこには回転式拳銃が落ちていたのだ。これはヤバい連中が出てきたもんだと警戒が一層強くなる。だが、そんな連中も全員気絶している。結果的には、結衣の魔法ぶっぱが功を奏した形になった。


「とりあえず警察を呼んで連行してもらうか。犯罪シンジケートが絡んでるなら積極的に絡まない方がいい」


「いえ、身元が分かるものを持っていないかだけは確認しましょう。それと、密入国者の可能性を考えて連絡は県警ではなく警察庁に」


 銃器の類を密輸出来る組織が裏に隠れていることを考えると、これはもう即席で集められた魔導士が扱っていい事案の範疇を超えている。警察かその以上の国家権力にそれ相応の対応をしてもらう必要がある。龍平の提案に黒田がなるほどと納得する。他の面々からも特に異論は出なかった。


「公安か。昨今の不正入国の背後にはテロ組織が隠れてるってか?確かに現状それを妄想と切り捨てられないくらいアジア圏の密航者が見つかってるからな」


「今回も例に漏れずって感じですよねー。ぱっと見た感じだと中国系の人が多そうですしー」


 もちろん世界に対する中国人の人口や地理的な関係を加味すれば他国と比べて多くなるのは当然だ。ただ、今回のこれをただの密航者と言って良いのか。というのも密航者の多くは何らかの要因で祖国と決別し、決死の思いで新天地を目指す、つまり亡命を望む者がほとんどだ。そういう人達は当然、銃器なんて物はもっていない。この状況には陰謀論が嫌いな人でも何らかの陰謀を感じずにはいられないだろう。


 特に、龍平は中国という言葉に引っ掛かりを覚えないわけがない。


(中国か……智香さんは大丈夫だろうか)


 龍平は、先日その話題の中国へと飛び立った智香のことを思わずにはいられなかった。



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