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第29話 反省会

短めです

 放課後。結衣、エリナ、雀の3人は学生寮の一室、要するにエリナの部屋に集まって女子会をしていた。女子会といっても、スイーツやケーキと言った煌びやかさや華々しさなんてものはなく、ただの反省会のようなものだった。


「鷹野先生があんなに強いとは思わなかったです……」


 今日の議題は担任である麻耶のこと。近接戦が苦手だという本人の弁を鵜呑みにしてしまったという失敗を結衣は悔やんでいた。


「そういえば宿泊研修の時にさ、私と麻耶ちゃんで遭難した結衣を助けに行ったじゃん? その時も麻耶ちゃんヤバかったんだよね」


「??? 一体何がヤバかったんですの?」


「私が息を切らして全力疾走で追いかけてるのに全然追いつけなかった。それどころか、涼しい顔して走ってんの」


 雀の告白は結衣とエリナを驚かせるには十分すぎるものであった。麻耶がいくらA級魔導士だからと言っても、あくまで後方支援の専門家だ。身体能力はあまり求められない分野とも言える。

 そんな相手に雀が得意分野で遅れを取った。信じたくない話だ。


「化け物ですわね……」


「魔法発生速度、魔法変換効率、テクニック、スタミナ、身体能力……その他もろもろ。後方支援だけじゃなくてあらゆる分野に精通してるよあれ」


「そうだったんですね……」


 どこを見ても一流と言えるレベルのステータス。厳しい現実を突きつけられ最初から勝ち目なんて無かったんだと項垂れる。その様子を見て雀は不敵な笑みを浮かべていた。


「そんな麻耶ちゃんでも結衣との魔法の撃ち合いからは逃げた。龍平君もアドバイスしてたでしょ?結衣たちには()()()がある」


 魔法力は魔法の火力、あるいはそれを継続する能力だ。結衣やエリナでもこれだけは麻耶に負けていなかった。


「勝機は魔法力ですか……」


「そ、あとは魔法の発生速度を上げることだね。これは0.1秒速くなるだけで倍強くなれるよ」


「倍って……そんなにですの?」


 いくらなんでもそれはないだろうとエリナは突っ込む。ところが雀は至って大真面目であった。


「なんで?そのたった0.1秒で先手に変わるかもしれないんだよ?相手の攻撃に割り込めるかもしれないんだよ?この0.1秒は手数がちょっと増える程度じゃ済まされないよ」


「『クイックショット』……ですね」


「……ッ!? そうでしたわね……」


 実際に0.1秒に泣かされたのを思い出しエリナは歯噛みする。あるいは自分の魔法があと0.1秒速かったらまた結果は違ったかもしれない。


「あ、そうだ結衣。今度やるときは龍平君で試してみたら?」


「それがいいですわ!龍平に強くなった結衣さんを見せてあげなさいな」


 2人がどこか気を遣ったように結衣に龍平のことをアピールする。すると、結衣の目にじんわりと涙が浮かんできた。


「龍平君……龍平君……うぇぇぇぇん、どうせ私は龍平君に見捨てられちゃうんです……」


 結衣は麻耶に挑んで叩きのめされたことよりも、アドバイスを貰ったのに上手く活かせなかったことの方がよっぽどショックだったようで、実は授業が終わった後は龍平から逃げるようにエリナの部屋の前に避難していたのだ。


「だ、大丈夫ですわよ。一回や二回の失敗くらいで見限られたりしませんわ!」


「ぐすん……でも私、才能無い奴って、教える価値無いって思われて……」


 ついに結衣の目からぽろぽろと涙が溢れ出る。よほど(こた)えたのか、捨てられる捨てられると連呼していた。この空気のせいもあってか、それはなんか違うというツッコミは無い。


「ま、まるで恋する乙女ですわね」


「あながち間違いじゃないんじゃない?じゃなかったらここまで取り乱さないと思うよ」


 このあと、2人で必死に結衣を宥めるのであった。




「で、俺は何で呼ばれたんだ?」


 2人は必死に宥めていたのだが、どうやら龍平が来た方が早いという結論になったようだ。結衣も龍平に涙は見せまいと既に泣き止んでいるのだが、やはりどこか不安そうな表情であった。


「結衣さんが鷹野先生に負けて落ち込んでいるんですわ。慰めてあげてくださいな」


「ちょっ!」


 エリナの直球な物言いに結衣がストップをかけようとするが間に合わない。恨めしそうな目で訴える結衣にエリナは何か間違ってまして?とジト目で対応する。


「まぁ俺は負けるのを分かってて止めなかったんだけどな」


「「へ?」」


 これはまさかの発言だったのか、結衣だけではなくエリナと雀もぽかんとしている。


「鷹野先生が接近戦もいけるってことは知ってたよ。後方支援専門だから接近戦は苦手だ、みたいな固定観念に縛られてるといけないと思ってあえて戦わせたんだ」


「なぁる。通りで龍平君は平然としてたわけだ」


 叩きのめされるのを分かってて送り出すのは性格が悪いと言われても仕方がないと龍平は罵倒されるのを覚悟していたが、3人とも納得しているようで安心する。


「それで、結衣とエリナは何か掴めたか?」


「とりあえず、魔法の発生速度が鍵だと思ってますわ」


 先程雀が教えてくれたことをそのままエリナが自信満々で答える。どうでしょう、とドヤ顔をしているが龍平にはお見通しであった。


「できれば自分でその答えにたどり着いて欲しかったんだが、まぁいいだろう。その通り、いくら魔法力が膨大な魔導士でも肝心な魔法が行使出来なければ全く意味をなさない。魔法力と双璧を為す重要な要素が魔法発生速度だ」


「うぅ……それは痛いほど身に染みました……」


 反撃しようにも、弾幕のように飛んでくる魔法の対処に精一杯で一向に攻めに転じられない。もし、魔法発生速度が少しでも速かったのなら反撃の糸口になったかもしれない。


「2人とも鷹野先生よりも魔法力はあるんだ。魔法の撃ち合いに持っていければ充分可能性はある」


 もちろん、麻耶のような実力者はそれでも上手く対応してくるだろう。だが、今より善戦できるということは明らかだった。


「ところで、魔法の発生速度は分かりましたけどそれはどうやって練習するんですの?」


「そうだな……まずは雀の『クイックショット』を練習してみるといい」


 魔法に属性を付与しない『クイックショット』は無の状態から魔力を形成して発動するという魔法の発生までのプロセスを容易に練習することが出来る。

 一般的に属性魔法はこのプロセスに属性を合わせればいいだけなので、『クイックショット』の熟練度が上がれば必然的に魔法の発生が速くなるというわけだ。


「あーあ、2人はこうやって私は超えていくんだね。もう私もお役御免かなぁ」


 結衣とエリナの接近戦が強くなるのはもはや時間の問題だ。雀は冗談めかして言ってはいるが、本心では必要とされなくなるのではと恐れている。競い合っていた人や目標としていた人を抜いてしまった時に切り捨てる、あるいは抜かされた側が自ら去っていくなんてよくある話なのだ。

 とはいえ、そんなことは2人に限っては無いのかもしれない。


「少なくとも、わたくしはお役目ではなくお友達として一緒にいてほしいですわ。だからもうそんな悲しいことは言わないでくださる?」

「そうですよ。雀さんは大切なお友達です。どこにもいってほしくないです」


 2人はそう言うと結衣は左、エリナは右から雀を抱きしめる。


「結衣、エリナちん……」


 ここで終わればいい話だった。のちに龍平はそう語る。悲劇はこの後の雀の一言から始まった。


「ノーブラエリナちんの豊満なおっぱいが堪能できて幸せだにゃー。結衣は……」

「それならその大好きなおっぱいで窒息させてあげますわ!!!」

「お手伝いします」


 綺麗にヘッドロックが極まると、追い討ちで結衣が密着度をあげる。その様子を見て龍平はここにいたら危険だと野性の勘のようなものが働いた。


「やんっ! 雀さんどこ触ってますの……!」


「んんんんんんんんんん!!!!」


「こーら、息がくすぐったいですわ……ってあら、雀さん? 雀、さん……? 雀さーーーーーん!!!」


「あわわわわ……本当におっぱいで窒息させるなんて……」


 3人がこんなやり取りを繰り広げている中、龍平はノーブラなのかと思いながらそそくさとその場から退散するのであった。

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