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第26話 1on1 雀vs悠馬

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翌週。あんなことがあったばかりだというのに学校は通常通りに始業することとなった。というのも、先週の時点で相手の計画を破綻させ、下手に身動きを取れない状態にできているという根拠があってのものだった。同時に、いつも通りを演出することで生徒の不安を徐々に解消していくという狙いもあった。


「ほんとびっくりしたよ。まさか人質になるとは思わなかった」


「まぁなんというか。災難だったな」


サッカー部の朝練でグラウンドにいた悠馬は運悪く昨日の騒動に巻き込まれた1人だ。なのにこうして普段通りでいれるあたりなかなかメンタルが強い。


「でも、学長の魔法が見れたのは僥倖だったかな。最初はヤバイかなって思ってたけど、学長の魔法で火炎瓶に火がつかなくなって焦ってる人達を見てたら冷静になれたね」


「その光景はちょっと面白そうだな」


正門には50人という大部隊が迫っていた。つまり智香はそれだけの範囲に干渉していたということになる。それは、火属性に滅法強い智香だからこそなしえた技とも言えた。


「くっ……私も人質になっていれば……」


エリナは近くでその技を見られなかったことを歯噛みする。若干不謹慎ではあるが、そう言えるくらいには被害が出なかったとも言える。しかし、それはあくまで今回はという枕詞がついてくる。この規模のデモで負傷者がいなかったのは運が良かったの一言に尽きるだろう。


「でも、次があるかもしれないと考えると怖いですよね」


「常に警戒する常在戦場の心意気は悪くないとは思うが、しばらくは何もない日々が続くと思うぞ」


もちろん結衣の不安はもっともだ。無血勝利という結果だけを見て喜んだり、ましてや相手をなめているようでは話にならない。現に、クラスの中では大したことなかったと認識している者も多数見られた。これは学校が通常運行なことも一因なようで、学校が通常ならつまり大したことなかったんだなという風な自己解釈がこのバイアスを招いていた。


「日本の魔導士は優秀だ。当然今は次が来ることを想定して厳重に警戒している。それを相手も分かっているから今は行動を移さないんじゃなくて移せないんだよ」


「確かにただ傍観してるわけないですよね」


「なんなら通信会社まで調査してるはずだからねー。通話記録やメール、SNSのアカウントまで」


連絡媒体は紙かデータか、いずれにせよトカゲの尻尾切りで終わらせないよう今もその大本を捜査しているところだろう。尻尾を切って安心しているかもしれないが、トカゲの尻尾にだって遺伝子(じょうほう)はある。

実際のところ、疑わしいと思われる団体を智香は既に候補に上げていたそうだ。中国から支援金という名の賄賂を受け取っているという疑惑があった団体だ。巧妙に隠されてはいたが、もともと張っていたということもあって証拠が揃ってきているという。


クラーケン等の神話病(ミソフォビア)に関する研究。


中国のS級魔導士、劉磊からのタレコミが無ければ絶対に発覚しなかった情報があったからこそ智香は今回の騒動が日本の意識を国内に向けさせるために仕組んだ中国の策略だと推測できたのが大きかった。


とはいえ、これを知っているのはNBMTのメンバーくらいなもので結衣やエリナ達には知りようがない話だ。この情報を知らなければ事態が収束に向かっているともわからないわけで、彼女らが見えない敵に不安感を抱いてしまうのは当然といえば当然だった。


「ゴールデンウィークの箱根温泉旅行は大丈夫でしょうか……」


「心配するところはそこですの?」


エリナは結衣に呆れたとツッコミを入れるが、これまでお一人様街道を歩いてきた結衣にとっては友達との旅行も重要事項なのだ。


「だって……エリナさんや雀さんとの旅行楽しみですし……」

「うぐっ……」


今言うべきことかというのは承知の上での発言だったのだろう。結衣がもじもじと恥ずかしそう上目遣いでエリナを見つめる。あざといが、これが狙ってやっていない本心からきた言葉だと分かるが故につっこんだことに罪悪感を感じ言いよどむ。


「わ、私も楽しみにしてますわよ……」

「ほんとですか!?」


立場が逆転し恥ずかしそうにするエリナと、ぱぁっと明るくなる結衣。一方、それを見てた雀は……


「尊すぎる」


ここにキマシタワーを建てようと意味のわからないことを呟いていた。



「はーい、みんな席について」


担任の麻耶がやってきたことで生徒たちの雑談が止まる。全員の着席が確認されたところで今日の予定の変更を告げられた。


「欠席者は〜……うん、いないね。じゃあ、今日は急遽予定を変更して1on1をやりたいと思います。というわけでみなさん競技場に移動でーす」


変更の内容は一般教養の授業が魔法訓練に変更されるというものだった。勉強が苦手な生徒は歓喜の声をあげてその変更を受け入れていた。龍平は前の席で結衣が小さく両手でガッツポーズをしていたのを見逃さなかった。


(一応俺と同じ血が流れてるはずなのにな、なんでこんな勉強嫌いになったんだ……)


この姿だけを見ると名門『風間』の一族に名を連ねているとは到底思えない。風間は何事においても優秀な者を好む。しかし、結衣の人柄を知れば知るほど結衣が風間の色に染まっていないことが分かる。龍平はそれを好ましく思い、出来ればそのままでいてくれよと結衣の健やかな成長を望むのであった。


競技場に移動してまず行われたのは急遽予定を変更してまで1on1をすることになった経緯の説明だ。


「えー、ほんとなら実戦形式の対人戦闘は後期になってからなんだけど……この間のようなこともあるから一応シンプルな1on1をやった方がいいと先生は思いました。じゃあ適当に相手を見繕ってください」


実戦の現場で1on1というのは1番シンプルで分かりやすい。無力化する、足止めする、逃げるなど、何にしろ相手1人に対して自分の目的を遂行すれば良いというのが基本となる。

これが2on2、3on3となってくると戦略の幅はもちろんだが、相手との位置関係というのが重要となってくるため非常に難しい。

とはいえ、大人数が絡む戦闘でも1on1の強さは重要だ。敵味方が同じ人数の場合は1人が1人を討ち取るだけで優勢に傾くため、その戦術が取れるか取れないかでは動きやすさが桁違いだ。踏まえて言うと、相手から見て穴になると言うのも良くない。自分が相手を盤石にするために起点になるからだ。

なので、1on1は基本でありながら多人数戦闘における戦術の幅を広げるためにも必要な技術なのだ。


(特に近接戦では純粋な魔法力よりも発生の速度や小手先の技術が重要なんだが……先生はあえて教えないみたいだな)


1on1における基本、魔力対効果。ただ闇雲に魔法を使うのではなく効率良く、それも効果のある魔法を使う必要がある。状況によっては連戦になる可能性もあるため、対人戦闘ではスタミナ管理も一種のテクニックになる。


「学園祭の対抗戦の練習にもってこいだね」


悠馬は部活の先輩とチームを組んで3on3部門に参加する予定があるため少しでも練習になるならと気合い充分だ。


「私たちも3on3で参加するから、当たっても容赦しないよ」


雀は結衣とエリナを誘って3on3のチームを組んだという。ここになぜ龍平が入っていないかというとそんなハーレム野郎になって目立ちたくないと丁重にお断りしていた。


「僕には先輩がついてるから、いくら風間さん達がいると言っても厳しいんじゃないかなー」


「見事に虎の威を借りてますわね」

「言ってて悲しくないんでしょうか?」

「うーわ、だっさ」

「ぐう畜生だな」


「え、みんな毒舌すぎない!?」


そうして、ならまずは実力を見せろと雀と悠馬が1on1をすることになった。


「さて、お手並み拝見だな」


龍平は雀の実力はすでに知っているが、悠馬の平地でのスタイルは未だに見たことが無かった。悠馬の運動神経が果たして雀に通用するか、そういう目線で2人を見る。


「はじめ!」


開始の合図、しかしどちらも動かない。試合は少しの膠着から始まった。しかし膠着といっても何もしないというわけではない。攻撃をしないで相手に対して仕掛けているのだ。


「龍平、わたくしには雀さんに隙があるように見えるのですが……?」


「誘ってるな。攻め崩せる自信があるならあえて突っ込んで先手を取るのもいいが……悠馬は後手を選択したいらしい」


後手は一方的に攻められるというリスクはあるが、上手く受ければ相手に致命的な隙を誘うことも出来る。後の先を取るという言葉がまさにそれだ。もっとも、悠馬もこのまま睨み合いをするつもりはない。自分と相手がどちらも受けを選ぶというのならば、その分溜めて広範囲の魔法を使えばいい。


悠馬がそう動こうとした瞬間、雀が動いた。


「雀はこの辺りの読みが上手いな」

「え?」


悠馬が魔法を溜めようとしたところに雀は急接近する。悠馬は攻撃魔法を警戒し咄嗟に障壁に割いている魔力を増やす。


「『障壁強化』!」


「なら、『フラッシュ』」


「うわっ!」


しかし雀の選択は魔力消費量の少ない低級の雷属性魔法。それでも目眩しには充分の光量をもっている。障壁見てからフラッシュ余裕でしたと言わんばかりの練度である。


当然、視力を失われるため何が来てもいいようにと悠馬は障壁に更に全力を注ぐ。


「ほい、『トーチカ』」

「ちょー!」


雀はさらに簡易的な土魔法を用いて悠馬の立っている地面だけを盛る。視界を失われた状態で急に地面が動いたらバランスを崩すのは自明だ。さらにこれなら障壁を介さないというのが大きい。


「おぉー!」

「う、上手いですわね……」


結局、動いてからは一瞬で勝負が決まってしまった。その手際の良さに結衣とエリナからは感嘆の声があがる。


「な、何もできないで終わってしまった……先輩たちとタイプが違い過ぎる……!」


そして悠馬はガチ凹みである。改善点が一連を振り返っても見つからなかったことにさらにショックを受けていた。それは、観戦していた2人も同じで今の立ち合いにミスはなかったように見えたようだ。


「雀さんの判断が早過ぎですわ」


「ですね。まるで相手の対応を完璧に予測してるみたいですし、魔法の使い方もスマートです」


結衣は土魔法の判断が秀逸だったとその流れを高く評価した。あの時点では攻撃魔法を使っても優勢は取れるだろうが、おそらく速度的に魔法を溜められないことと、悠馬の障壁に阻まれここでは勝負はまだまだ決まらないと思ったという。


「雀は悠馬が後手に回ろうとしたことから障壁の防御力に自信があると踏んだわけだな。だから最後も悠馬は障壁に頼ると判断して土魔法をあの形で使ったんだろう」


実は、咄嗟の防御が障壁強化だったというのも判断の一つだった。障壁に全力を注げばそうそうダメージは通らないという障壁への過信が、逆に悠馬の動きを制限したというわけだ。


「正解はどうすれば良かったんでしょうか?」


「後手番に回りたいにしても、完全に受けにいこうとしたのが反省点だな。はじめに膠着からじゃなくて牽制で入って反撃を誘発したところを受けるくらいで良かった気がするな。3:7か少なくとも2:8くらいで動けるようにした方がいい」


完全に後手番に回るというのは自分は受けることに自信がありますよ、という宣言になりかねない。切り札を隠すという意味でも安易に受けようとするべきでは無かったというわけだ。


「もちろん、自分の目的が足止めや時間稼ぎなら完全に受けの態勢を取っても相手は攻めるしかないからそれでいいんだがな。実戦は状況次第だからなんとも言えん」


じゃあ逆に攻撃が得意なフリをしてもいいじゃんという話もあるわけで……1on1はシンプルといいつつも、自分と相手の思考を介している時点で複雑なのだ。


「雀さんや龍平を見てると自信が無くなりますわね……」


「ですね……。こうきたらこう、みたいな対応が全然思いつかないです」


これはそう一朝一夕で習得出来る技術でもない。流れるような動きというのは自分なりのテンプレのようなものであり、そこはどうしても慣れという部分が出てくる。


「ま、慣れたら自然と出来る様になるよ。あんまりテンプレに頼り過ぎても読まれやすくなるからダメなんだけどねー。それより、どうやら対抗戦で赤萩君は穴みたいだね」


「くそー……なんでこんな強いんだ……」


本番も攻めてやるぜーとけらけら笑う雀。自信を喪失した悠馬は雀に言い返すことは出来なかった。



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