第10話 直感
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しばらくして風呂から出た龍平は雀の言ったように最初に案内された部屋で雀が戻ってくるのを待つ。 その龍平だが、風呂から出る前に烏から一つ忠告を受けていた。
「雀は勘が働くから、もし君が本当の力を隠すつもりなら気をつけた方がいい……か」
龍平はその言葉の意味を深く吟味する。というのも、勘というのはそもそも当ても根拠のないものなのだ。そんな根拠の無いものがそうそう当たるわけがない。だが、それを烏はまるで当てになるもののように言っているのだ。そして、それは昼間に活動していた時もそうであった。雀の思いつきの行動に、牙狼や安綱が雀の勘がよく当たるということでそれを一つの選択肢としていたことを龍平は当然覚えている。
「勘が当てにされるって相当だな……本人に自覚がないだけで無意識でそういうのを感じ取ってるとかそんなところか」
何にせよ、遊びではなく仕事の場ですらその能力が信頼されているという時点で雀の勘を侮ることは出来ない。龍平は忠告をしてくれた以上は簡単にバレるわけにはいかないと改めて気を引き締めることにした。
龍平が一人そんなことを考えていると、しばらくもしないうちに風呂から上がってきた雀が部屋に帰ってきた。
「待たせてごめんね〜」
「いや、そんなに待ってない………ぞ……?」
龍平は雀の姿を見て分かりやすく動揺する。というのも、その原因は雀の格好にあった。一方、雀はというと龍平の反応を見て満足いかないのか少し不満そうな表情を浮かべた。
「なんか思ってたのと違うな〜。私としてはもっと驚くとかして欲しかったんだけど……」
「いや、十分驚いてるよ。どうして浴衣なんだ?」
部屋に入ってきた雀の格好は温泉旅館の部屋着の浴衣そのもの。そして正確に変わったのはその格好だけではない。普段は下ろしている髪を頭の上で束ねてポニーテールにしている。服装もそうだが、髪をあげたために露出したうなじがどこか艶かしさを感じさせる。
「慣れると楽なんだよね〜」
「出来ればもっと普通の格好をしてくれ。目のやり場に困る」
「それならもうちょっと困った素振りを見せて欲しいんだけど……。よし分かった、もう意地でも着替えないから」
雀の言うように、龍平はというと別段と照れた様子もなく、目も泳いだりせずにしっかりと雀を見据えていた。ちなみにそれが出来たのは、龍平が少しばかり女性というものに慣れていたからだ。
(まぁ智香さんもニーナさんも家の中ではこんな感じだからなぁ)
その経験から学んだことは、こういう時は照れたら負けだということだ。平常心を保っていれば変にからかわれるということもない。
「そういえば、普段の髪型と違うんだな」
「うぇ!? どうしたの急に!?」
目のやり場に困ると言った割には龍平は雀をまじまじと見つめているので何故か逆に雀の方が困惑してしまう。一方、龍平はというと顎に手を当てながら首を左右に動かして「ふむ……」と何かに納得する。
「いや、別に。ただ似合っていると思ってな。なるほど……こっちの方が健康的というか活発な印象が強く感じられるな」
「ちょっ…! 冷静に分析しないでよ何か恥ずかしいから! 」
「あぁ、すまん」
雀は胸元を隠すように腕を胸の前で交差させながらペタりと座り込む。特に龍平がいやらしい目で見たというわけではないのだが、それよりも冷静に観察されたということがむしろ雀の羞恥心を煽ることとなった。
「ま、まったく……デリカシーがないんだから。私だからまだいいけど、他の女の子にそんな全身を舐め回すような視線を向けちゃダメだよ〜?」
「舐め回すって、そこまではしてないだろ……」
「残念だけどこういうのはやられた側に決定権があるんだよね〜」
龍平が強く言い返さないことをいい事に雀はいつもの調子を取り戻していく。結局雀が恥じらったのはほんの一瞬の時間だけであった。そのあと少しの間龍平が雀に言いようにからかわれていると、それを助けるかのように机の上で携帯がぶるると震えた。「ん?」とその発信者の名前を見たその瞬間、龍平はそれを隠すようにサッと素早く携帯を取って立ち上がった。
「おっと電話だ。悪い、ちょっと出てくるわ」
「はーい。鹿島君、命拾いしたね〜」
龍平は部屋を出て危なかったと一つ溜息をつく。隠すように持っていた携帯、その画面にはNBMTのリーダーであるアレクの名がご丁寧に書かれていた。
(見られてないよな……?)
龍平は今度から名前は変えておこうと思いつつそのまま電話に出る。
「お疲れ様です」
「おう龍平、ご苦労だったな。今は帰ってる最中か?」
「いえ、それが……」
龍平は今自分が置かれている状況を大雑把に説明する。すると、電話ごしにアレクの呆れた笑い声が聞こえてきた。
「なんだもうバレそうなのか? まぁ烏んとこなら同業者みたいなもんだし、教えてもいいくらいの気持ちでいいんじゃないか?」
「随分と気楽にいってくれますね。一応俺ってNBMTの機密事項ってことになってるんですよね?」
「リーダーの俺が許可してるんだ。まぁでも、あんまり広められても困るからな。その手の奴らに嗅ぎつけられると厄介だ」
「面倒事は俺も勘弁ですからね。細心の注意を払いますよ」
とりあえずアレクからあまり気負う必要はないというアドバイスを受け、龍平は電話を切るとすぐに元の部屋へと戻る。
「すまん待たせたな……って何やってるんだ?」
そこには何かを必死になってノートに書き写す雀の姿があった。よくよく見てみると、それは先ほど結衣に送った数学の問題の答えであった。
「いやぁ私も勉強しなきゃヤバいと思ってね〜。ちょうどいいから答えだけ貰っておこっかなぁと……」
「まぁいいけど。その解説でちゃんと分かるか?」
龍平としては答えを写されるということはどうでもいい。ただ、自作した解説がきちんと機能しているのかが重要であった。むしろ雀はそれの確認用の被験体である。
「それはもうばっちり。数学が苦手な私でも分かりやすいよー」
「そうか。なら良かった」
龍平も自分なりに懇切丁寧に書いたつもりであったためにそれが空回りしていなくて良かったと安堵する。正直これで訳がわからないと言われたら少なくとも凹む自信があった。そんな中、その爆弾は唐突に投下された。
「そういえば鹿島君ってさ、結衣のこと好きなの?」
「は? どうしたんだいきなり?」
「いや、なんとなく献身的だなぁと思って」
龍平はそんなこと考えたことも無かったと目を丸くする。龍平はただ引き受けた以上はしっかりやろうとそう思っていただけで、なので仮に雀から勉強を教えて欲しいと頼まれたとしても今と同じようにすると断言出来た。
「献身的かどうかは分からないが、頼られて引き受けた以上はちゃんとやるだろ?」
「いやでもほんと真面目だよね。今日も休日なのに社会経験しようって自発的に行動してるし」
「たまたまだ。それに、それを言うなら伊賀さんは実戦もこなしてるじゃないか」
「私の場合は家の都合もあるし、それに私には結衣みたいな才能は無いからさ。その才能を補うには早くから実戦経験を積まないと。まぁそれでも卒業したらすぐに追いつかれるんだろうけどね〜」
魔法の才能は努力ではどうすることも出来ないと雀は言う。そして悲しいかな、それは紛れも無い事実であった。
「けど、それで才能がある奴を恨むっていうのは筋違いだろ? それを分かった上で魔導士の世界に足を踏み入れてるんだから」
「ふ〜ん。随分と達観してるんだね。もっと自分に期待してもいいと思うんだけど」
龍平の言っていることは理としては正しい、が人の感情というのはそう単純では無い。学校に通う学生達が、もしかしたら何かの才能に目覚めるかもと期待を抱くのは当然と言えば当然だろう。それは現役で活躍する龍平にとっては無縁な感情だ、故にその気持ちが理解できなかった。
「いや〜私には鹿島君みたいな大人の考え方は出来ないかな〜」
雀はおもむろに立ち上がって龍平の正面に立つ、いつもと同じ声音、いつもと同じ様子。だが、その表情の裏に隠れた獰猛な笑みを龍平は見逃していなかった。
(殺気っ…………暗器か!)
雀は浴衣の懐から流れるようにナイフを取り出すと、その切っ先を龍平の首筋を目掛けて突き刺すように振るう。刃渡り5cm程度の小さな物ではあるが、その一閃は恐ろしいまでに鋭く、振るうその動作に少しの躊躇もない。
「チッ……!」
そんな不意をついた攻撃に龍平は対応してみせた。龍平はナイフを持った雀の手首を掴むと、そのまま引っ張って勢いづいたところに足をかけ、体勢を崩した瞬間に思いっきり押し倒すと、上からマウントを取って自由に身動きを取れないよう封じ込める。
「痛ッ……!」
「どういうつもりだ? 今の攻撃は洒落にならんぞ」
雀の狙った場所は人間の身体で最も重要な血管の一つ、総頸動脈。胸鎖乳突筋などの筋層に覆われてはいるが、脳や心臓などと違って頭蓋骨や肋骨といった硬い骨もなく、刃部が5cmもあれば悠々と到達する急所だ。龍平は怒気を強め、掴んでいる手首を更に力をいれて握る。
「っ……やっぱり普通の学生じゃなかったんだね」
雀は痛みに一瞬表情を歪ませるも、それを堪えて気丈に振る舞う。だが、数秒もしないうちに痛みに耐えきれなくなりその手に握られていたままだったナイフが零れ落ちた。
「俺を試したのか? けどお前止めるつもり無かっただろ。下手すりゃ俺は今頃死んで……」
その零れ落ちたナイフを見て龍平は言葉を失った。脅威と思われたその刃部が、まるで亀が頭を甲羅の中に引っ込めるようにスポッと柄の部分に隠れていったのである。
「なんだこれ……」
「えっと、ジョークナイフでした〜………なんて」
雀は呆然とする龍平に対して申し訳無さそうな種明かしをする。つまり、先程までのは迫真の演技であり本気で危害を加えるつもりはなかったということだ。
「騙したな?」
「あはは……ごめんね〜。けど本気ならあんな分かりやすい殺気なんて出さないよ」
雀に言われて龍平は確かにそうだと今更になって気がつく。もし少し考える時間があればその違和感に気づいて雀が探りを入れているということまで見抜けていたかもしれない。だが、焦った龍平は並の魔導士では出来ないような対応をすることになってしまった。
「それよりさ、そろそろどいてくれないかな? 流石に私でもこのかっこはちょっと恥ずかしいんだけど………でも何かお詫びを寄越せって言うなら……」
雀に言われて龍平は自分が今雀の上に馬乗りになっているということを思い出す。そしてその雀はというと龍平に押し倒された時に浴衣が肩まではだけてしまいもはや半分脱衣していると言っても語弊の無い状態になっていた。
「わ、悪い……すぐに」
そう言って龍平が雀の上から動こうとした瞬間、不意に部屋の襖が開く。ヤバい、と思ったところでそれはもう手遅れであった。
「失礼します。夕食の用意が出来……ましたけど……」
夕食が出来たということで小鳩が2人を呼びにきたのだ。
龍平が雀の上に覆いかぶさっているというまさかの状況を見て小鳩は硬直する。そして、状況を理解すると、その顔がまるで茹でたタコのように真っ赤に染まっていった。
「お、おおお邪魔しましたー!!!」
「こばと、待って誤解だから! ちょっ、待って! 頼むからみんなには言わないで!」
小鳩は雀の静止の声を完全に無視して全力ダッシュで部屋から逃げるように去っていく。一方、雀はというと諦めが良いのかまぁいいかと先程までの慌てようが嘘のように急に冷静になる。
「まぁ誤解は後で解けばいっか」
雀は既に力の抜けた龍平の腕をよいしょとどかして起き上がる。その雀の腕にはくっきりと龍平の手の跡がついていた。
「すまん、痛かっただろ?」
「いいよ、完全に私の自業自得だし。けどそっか、心配してくれるんだ……ってそれより早くご飯にしましょ?」
雀は自分が恥ずかしいことを言っている気がして焦って急に誤魔化したが、実はそれは早とちりでその肝心な部分は小さな声だったためはっきりと龍平にまでは届いていなかった。
「ん? 何か言ったのか?」
「何でも無いから! 早く行きましょ!」
夕食をご相伴に預かるという事で龍平達が居間に行くと、既にそこには雀の妹である小鳩と雀の父親である烏の姿があった。小鳩はというと、龍平達の姿を見るや否やその顔を真っ赤にしてその目を背けてしまう。
「すみません、ご夕飯まで頂くことになってしまって」
「いやいや、そんな気にしないでいいよ。ほら、座って座って」
「あ、ありがとうございます」
烏に手招きされ龍平が烏の正面に座ると、雀もその隣に腰を下ろす。雀の視線は正面で顔を背けている小鳩に向いている。
「こばと、何か変なこと言ってないでしょうね?」
「べ、別に言ってないですよ……?」
「ほんと〜? ならいいけど」
小鳩の顔は相変わらず真っ赤のままで、龍平だけでなく雀とも目を合わせようとしない。それほどまでに先ほどの光景が刺激的だったのだろう。あまり追求するとボロがでそうだということで雀もしつこく小鳩に迫ることはしない。そうして静かになった居間に雀の物ではない陽気な声が響いた。
「あら! あらあらあら本当に雀が家に彼氏を連れて来てるなんて! どうも、雀の母の千鶴です」
そうして雀の母を名乗る女性は嬉々とした表情で龍平に向かって頭を下げる。すると、小鳩の件もあって敏感になっめいるのか雀は彼氏というワードに早速噛み付いていく。
「ちょっとお母さん! 龍平君はただのクラスメイトでそんなんじゃ………って、あれ? 今本当にって言った?」
多少感情的になっていた雀だが、千鶴の言葉に違和感を覚えると訝しげな表情で小鳩を見る。この、本当にという単語は誰かから事前に聞いていない限り出てくるはずがないからだ。当然、その報告をするのは小鳩以外にあり得ない。
「あらそうなの〜? せっかく雀ちゃんにも春が来たと思ったのに〜」
「も〜、そういうのいいから。あ、そうだお父さん。実は龍平君もプロとして活動してる魔導士なんだよ」
雀に言われて烏は龍平と顔を見合わせる。その時の烏は目を見開いて驚いていた。その表情を見て龍平には烏の言いたいことが良く分かった。
「なんだ、もうバレたのかい?」
「ええ、お恥ずかしながら」
「まぁ雀は鋭いからね」
事前に忠告を受けていたということもあったので龍平としては少し申し訳ない気持ちもあった。たが、烏が龍平に対してせっかく忠告してやったのに何をやっているんだという非難をすることは無かった。
「え? お父さん龍平君のこと知ってたの?」
「彼のところのリーダーがちょっとした知り合いでね。雷帝アレキサンダーって名前聞いたことくらいはあるだろう?」
アレキサンダーというのは龍平達がアレクと呼ぶリーダーの本名で、雷帝というのは雷属性を得意とする彼の通り名だ。通り名というのはトップクラスの魔導士にとっては名刺のようなもの、それを言うだけでどこの誰だかが伝わるというのはそれだけその名前や実力が世界に知れ渡っているということでもある。
「雷帝!? NBMTじゃん!?」
そんな著名な実力者の名前が烏の口からいきなり出てきたことで雀は思わず驚嘆の声をあげる。もっとも、烏の言葉の通りなら龍平がNBMTという世界トップクラスの魔導士チームに所属しているということになるのだから信じられないと思ってしまうのも無理はない。
「公式では日本人メンバーは1人ということになっているからほとんどの人が知らない情報だよ。ね、龍平君」
「そうですね。まぁ一応機密事項なんであんまり言いふらされても困るんですけど……」
「おっとこれは失礼。ところで、雀にもバレてしまったことだし、さっきの件は考え直してくれないかい?」
烏は機密事項をバラしたことにあまり悪びれた様子も見せず、マイペースに自分の用件を述べる。さっきの件、というのはお風呂場で話した雀を懐刀として使って欲しいという話だろう。
龍平はその要求について考えつつも、雀のマイペースなところは親譲りだなとどうでもいいことを考えていた。
「まあ機会があればですかね。雀さんが優秀だということは身をもって分かりましたから」
「え、私の話? ちょっと2人で何の話してたの?」
雀は自分が話題にされているのに完全に置いてけぼりにされていたために無理やり話に首を突っ込む。それに対して烏は悪い話じゃないよと前置きをした上で説明を始めた。
「いやなに、龍平君に今日みたいな仕事が入ったらお前を適度にこき使ってくれと頼んだだけだ。いい経験になるだろうからね」
「ちょっとお父さんそんなこと頼んでたの!? 龍平君もそんな無理して承諾しなくていいから、私なんかが付きまとったら迷惑でしょ?」
雀自身龍平の仕事に興味がないというわけではない、だが龍平の仕事ということはつまりNBMTの仕事ということだ。彼女も多少は自分の腕に自信があったが、流石に世界トップクラスの魔導士の仕事となると自信を持つことはできなかった。
だが、龍平は雀が自分で思っている以上に雀のことを評価していた。
「別にそんなことはないぞ? 協力者がいれば作戦の幅が広がるからな。その協力者が優秀なら尚更な」
「え〜、私そんな優秀じゃないよ〜? ま、まぁ他の生徒よりかは出来る自信はあるけど〜」
龍平の褒め殺しのような言葉を雀は嬉しそうに顔をにやけさせながら否定する。表情だけでなく、若干声音も高くなっているため全然隠しきれていない。なので親である烏がそれだけで雀のことを理解出来るというのは当然といえば当然であった。
「はは、どうやら雀も満更でもないみたいだね。龍平君、雀をよろしく頼むよ」
「俺に手綱が握っていられるかは疑問が残るところですが……。まぁ出来る限りのことはやらせて貰いますよ」
「む〜、私そんな猪突猛進じゃないよ」
龍平が雀のことをまるで暴れ馬のように例えると、烏はそれに納得するように愉快そうに笑うのであった。
夕食が終わり、適度に時間が経ったところで龍平は東京に戻ることにした。帰り支度も済ませて玄関で雀の見送りを受ける。
「伊賀さんはこれから作戦会議だっけ?」
「そだよ〜。まぁ龍平君のせいでやる意味が無くなっちゃったけどね。ていうか、そろそろ伊賀さんじゃなくて雀って呼んでほしいんだけど」
「あぁ、だから呼び方が変わってたのか」
龍平は雀から呼ばれる時の人称が鹿島君から龍平君に変わっていることは最初から気づいていた。だが、まさかそれが自分を下の名前で呼べというサインだとは分かるはずもなくそのままスルーしていたのだ。
「気づいてたんならそのへんのところ汲み取って欲しかったよ」
「無茶言うなよまったく。じゃあ雀、これでいいか?」
「え〜、何そのおざなりな感じ。まぁいいんだけどさ。それより龍平君、時間大丈夫? ここから駅まで意外と時間かかるよ?」
雀はさらっと電車に間に合わないかもよ?と軽く指摘するが、東京に戻るとなるとその電車が終電なので龍平にとっては割と重要なことだったりする。
「そういうことはもっと早く教えてくれよ……。それじゃ雀、また学校でな」
「………え? あ、うん! またね!」
「???」
龍平には一瞬雀の様子がおかしかったように見えたが、今は猶予が無かったためにそれを追求することなくその場を去る。一方雀はというと龍平の姿が見えなくなったことを確認すると壁に寄りかかって深く深呼吸をし始める。
「名前で呼ばれるの早く慣れないとな〜……」
その後も雀は少し深呼吸を続け、落ち着くのを待ってようやく家の中へと戻っていくのであった。




