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ガタ
積み重ねてきたモノ故に心も体もガタが回っている。
本来の俺なら体のガタは何とでもなる。
だが、俺は、自分が認識している以上にガタが出てきてしまっている。
きっと、アイツは事を誘導しているのだろう。
恐らく、至るべき結末に辿り着き何かしらの方法でやり直しを選んだ。
本来ならここまでガタが出るはずも今の事態にもならなかった筈だ。
事は、確実に変わってきている。故に同じになり同調することも無い、のだろうな。
そんな事よりも現状の問題は仮初の肉体とはいえ
状態に対してのリカバリに時間がかかり過ぎる。
主より別けられし身と言うだけでもチカラに制限がかかるというのに
その主もボロボロなのだ。
縛りを無視してもどうにもならない。
だが、それでも備えなければならない。
二度目にて気付き、そして核心に至った。
修正する力が確実に加えられているのだ。
流れ変われど必ず来る。定められし審判の日は・・・
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「いかんせんどうした物か。」
「何思い詰めてんですかね?」
モルは少しずつだけどきちんと体調は戻ってきているように見える。
俺自身もモルとのリンクに少しずつではあるけど慣れてきているし
因子を持つ存在の狩りも問題なく行えてる。
その数の増減も目立った物は無いようにも思う。
なのにモルは時々悩みこんでいるわけだ。
「仕方がない。治りが遅くなるが分体を造るとするか。」
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「なんぞこれ?」
俺の目の前に地面から人がニョキニョキと生えてきた。
銀髪黒目の青年。モルと同じくらいの背丈だ。
そしてビックリ、生えたてのコレがしゃべった。
「錬体生成術 傀儡人形だ。自分の体の再生を特殊術式で完全自動化して
しばらくはこのコピーでハルについて行こうかと思ってな。」
聞いてみればかなり便利な体だ。
魔法とモルのスキルの掛け合わせで肉体を造って
しかもエネルギーの摂取なんかを空間魔法の応用で本体とこの分身をつなげてしまってるそうだ。
本体を放置してても飢え死にしないスグレモノだってさ。意味が分かんないぞこれ。
しかも見た目もなかなか。すごいなこれ、きちんと人っぽいぞ
あれ? でもそれって・・・
「僕、要らなくない?」
「・・・」
「・・・。 そんなことは無いぞ。これで体の治りも遅くなるし更に戦闘力が落ちるからな。」
おい、今の間は何だ。
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「それでハルさん、その方は?」
メアニさん、怖いです。
顔はニコッとしてますが目が笑ってません。
まあここまでの流れとして・・・
俺はまずモルさんと町の外へ人に見られないように抜け出し
俺だけ町の中に戻る→正規に門を通って(衛兵に見られながら)外に出る→モルと合流→行き倒れに見せかけて街に連れ込む→二日待ってギルドに行き冒険者登録をする
うん、他街から来た浮浪者って感じで完璧だね。すごいあたまいいよおれ。さいこうだよてんさいだ。
「だからこないだ助けた人ですよ。吟遊詩人にあこがれて旅をしていたらしいんですけど
一文無しになっちゃったそうですんでね。」
ストーリーとしてはこうだ。
もともと別の街でうまいこと稼いでお金を貯めて旅をしていたが
ある街で雇った冒険者を騙るゴロツキに持ち物すべて巻き上げられて無一文。
更にそこから魔物に襲われてフラフラになりながら逃げていたところを
俺が助けましたって話にしてある。
いい話でしょ?完璧でしょ?メアニさんお願い笑顔で僕を睨まないで。
「すいませんねぇ。何分冒険者の様なものは俺には向かないとは思ったのですがね。
荒事は苦手ですし。でも稼がなきゃ旅を続けられなくなってしまったんで
背に腹は代えられんって所なんですわぁ。
まあ僕が人を見る目が無いくせに旅費をケチってしまったのが悪いんですけどねえ。」
「・・・はぁ。 正直、しょーーじき、物凄く気乗りしませんが
規則的に問題ないんで登録してあげます。ホンッッットに気乗りしませんが。」
俺の作戦勝ちだ~いっ。これでモル君も立派な冒険者だね。
メアニさんは一通り冒険者についての説明をモルにしてくれた。
俺はその様子を後ろから眺めていた。
「おおよそはこういう事になります。
あとは・・・戦闘試験を受けてもらってからの話になりますが
合格基準に達することが出来れば晴れて冒険者、Fランクでのスタートとなります。
もし試験に落ちることになれば戦闘についての講習を受けて再試験してもらうか
冒険者になるのを諦めてもらうことになります。
最後に、依頼内容によってはハルテオさんのアシストも受けれますが
ランクが離れすぎているので問題となることもありますのでご注意願いますね。」
ある程度のランク・・・まあすなわちはCランクの俺が
FやEランクの依頼を受けるのはあまり宜しくないって話だ。
ルーキーランクの仕事を奪うことになりかねないからな。
さて、残す不安事はあと一つだ。
「それではモルさん、演習場にお願いします。」
戦闘試験だ。
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モルは強い。それは聞くまでも無いことだ。
ただ俺たちが作った嘘八百を考えると
うまく弱者を演じなければならない。試験に受かる程度に・・・。
だけどまあ、ツイてないよなあ。
「それではお願いしますね、マスター。」
よりによって試験官を務めるのがギルドマスターなんて・・・。
なんかタイミング悪く試験官として雇える方が1人もいなかったんだとよ。
ちなみにギルドの試験を務めれるのはおおよそが
対象冒険者(もしくは希望者)が受ける昇格試験における昇格予定ランク以上の冒険者、
もしくは同等能力とギルドに認められた人間が行うことになっている。
F、EランクはDランク以上、DランクはCランク以上、
C~Aランクは同等ランク以上の冒険者の中から適任者をギルドが斡旋し
依頼をする格好になっている。
ちなみにここのギルドマスターは
「ギルドマスターをやらさせてもらってるシンバだ。一応元Aランク冒険者だ。」
結構な実力者なので誤魔化しが効くかどうかビミョーだなあ。
ちなみにメアニさんの兄だったりする。
「ところでお前さんは武器は何を使う?」
「一応剣を少々は・・・。」
「ならそこの模擬戦用の武器から丁度いいものをとってくれ。
あえてザッパに作らせてるから重さもバラつきがある。
もし剣以外に使えそうなものがあればそっちに変えてもらっても構わんぞ。」
モルは適当に模擬戦用の木剣を一本持ってきた。
ちょいと素人風味な両手構えをしながらシンバさんと向かい合った。
「これでいかせてもらいます。」
うん、素人感ある緊張って感じだな。
王都なんかにあるらしい演劇小屋って所で雇ってもらえるんじゃない?
「・・・。これは君の実力を図るための模擬戦だ。使えるなら魔法を使ってもらっても構わん。
ただし、あんまり派手なのはしてくれるなよ。後始末が大変だからな。」
そう言うとシンバさんは何もない空間から木剣を取り出した。
やっぱりカッコいいよなコレ、空間魔法使って出してるよ。
・・・ん? ちょいと怪しくね?
俺のCランク昇格試験の時もシンバさんだったけど
その時は殺す気でかかって来いって言われた筈なんだが・・・。
「わかりました。精一杯頑張ります。」
多分モルも気付いてるだろうけど顔色一つ変えなかったな。ヨシヨシ。
「それでは初めッ!」
シンバさんが叫んだ。モルは剣を前に構えたまま動かない。
「来ないなら行かせてもらうぞッ!」
シンバさんがモルに向かって行き縦に一閃。
モルはかなり大振りでそれをかわした。だが、
「続けて行くぞッ!」
シンバさんはそう言うと縦振りを終えきる前に横斜めに斬り上げる。
「うおッといぃ!」
木剣がモルの頭の上をかすめた。何とかギリギリでかわしている。
「怖いよぉ~これぇ~。」
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それなりに時間がたった。たってしまった。
モルはシンバさんの剣を基本大振りにて避け時々来るフェイントを
体をかすめさせながら逃げ回っていた。
でもこれじゃあ試験で合格はもらえんよなあ。
シンバさんは息一つ変えていない状態だけどモルは全力疾走後の息切れ状態。肩で息をしてる。
「くっそぅ~。どうするんだよこれぇ~。」
泣き言言ったってどうしようもないよ、モル君や。
「ほら、何とか頑張って俺に攻撃を当ててみな。」
シンバさんの攻撃が再開された。さて、モルはどうするかな?
「いつまでも逃げ続けてもどうにもならないぞ。」
そう言われながらもシンバさんの剣戟から逃げ続けるモル。
次は一気に後ろに引いた。
「冒険者になるのはあきらめるんだな。」
そう言って横薙ぎの一閃を加えようと手を引きモルに一気に近づいた。だが・・・
「着火。」
「ッッ!!!!!」
生活魔法。それらは魔法に疎い者でも簡単な訓練にて使えるようになる魔法だ。
基本威力不足なため戦闘には適さないが日々の生活の中で役に立つものだ。
火おこしするのもラクチンだ。
生活魔法は戦闘においては役に立たない。
火おこし水洗い程度は何でもござれ。でも威力は無い物。
だが、戦闘中に相手が油断したタイミングでいきなり顔の目前にて火が起こったら?
そして一瞬の事だった。
モルの一撃がシンバさんの剣を捉えた。
「やっぱりダメかぁ~。」
モルの一閃はシンバさんの剣を捉えはしたが軽く弾くだけで終わってしまった。
根本的に威力が足りないのだ。
「だがなかなかやるな。威力不足。剣戟も素人の物だが
自らの発想にて相手に隙を作り一撃を加える。
それなりに経験を積んだだけではここまでのことは出来んさ。
いいだろう、合格だ。ところで・・・」
そう口にするとシンバさんは俺の方を見て
「ハルはしばらく彼の面倒を見るのか?」
と、聞いてきた。変に嘘をつくこともなかろう。
「一応そのつもりですよ。」
「なら・・・そうだな。モルは基本ハルと共に依頼を受ける事。
その場合に限り暫定的にEランク冒険者として扱う。
その方が彼の為にもいいだろうな。この処置はギルドが彼が自力で
Eランク判定試験をクリアするかDランクに上がるまで行うこととする。
まあ飛び級制度の応用版だな。」
下クラスの冒険者はギルドから認定を受けた者は
途中飛ばしでランクを上げることができる・・・らしい。
まあ俺は見た事無いからな、そんなの。
下クラスだと結構融通効くんだろうな、ギルマス権限で。
「はぁ~。何とか試験に合格できたよお~。」
息を荒くしながらモルはヘナヘナとへたり込んだ。
「さて、それじゃああとは登録の方を済ませよう。メアニ、後は頼んだぞ。」
まっ、なんとかなったかなー。