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8.流星群と聖女様ー前編ー

 神告があった日の夕方、ユミル・べトレイルはアマギ・べトレイルに二人きりで話したいことがあるからと言われ彼の書斎に向かっていた。




 普段は厳しくも優しい父なのだが、ユミルに書斎に来るようにと告げた父の声音はとても重たいものだったためユミルは不思議に思いながら足を進めていた。




 そして書斎の前に着くと、ダークブラウンの扉を二回ノックする。




「ユミルか。入りなさい」




 普段より少し重たい父の言葉を聞いた後、ゆっくりと重い扉を開けた。




「お父さん。一体どうしたの? 急に改まって」




 たくさんの書類や書籍が積まれた部屋の中央にある執務机に座り、少し辛そうな表情をする父を見て、ユミルはより一層困惑する。




 ユミルの問いかけにアマギは眉間に深い皺を寄せたあとゆっくりと深く息を吐き、一拍置いた後、意を決したかのように喉を震わせた。




「単刀直入に言う。ユミル。お前にこの町の領主を継がせることはできない。いやできなくなったと言うべきか」




 その言葉に意味が分からず目をぱちぱちとしばたかせる。そして理由のわからぬ眩暈(めまい)に襲われながらも口を開く。




「どういうことなの? なんで? 私はまだギルちゃんに比べたら頭もよくないし運動も出来ないけどそれでもちゃんとこれからも頑張るよ。それでもまだ努力が足りないっていうなら、寝る時間も削るし、それでもまだ足りないっていうならお家でももっと勉強する。それでもまだ足りないっていうなら……」




 父の言った言葉を理解できず、気持ちと思いだけが溢れて言葉を創る。




 その様子にアマギはより一層深くその顔に皺をつくり、辛そうな表情で声をあげる。




「ユミル!! やめてくれ。私はお前の努力を、この町に対する愛を疑ったことなんかはない。でもユミルも薄々感づいているんだろう。なんで私がこんなことを言っているのか」




 焦りと混乱から捲し立てるように早口で言葉を繋ぐユミルをアマギが沈痛の表情で(いさ)める。




 するとお互いの顔を数秒間見合った後ユミルが口を開く。




「……私の職が聖女だから? お父さん神告の後から様子がおかしかった。でも、でもわからないよ。なんで? 聖女は凄い職だってギルちゃんもみんなも言ってた。聖女が統べる町なんてみんなが住みたくなるって言ってた。なのになんで、なんで、なんで」



「それは聖女が普通の上位職なんかとは比べ物にならないくらい凄い職だからだ。誰がどの職を授かったかは神官を通じて国に報告される。聖女の職を持つものが現れたと知れば国は必ずお前を自分の手中に収めようとする」




 そこでアマギは一つ重い溜息を吐き、言葉を続ける。




「まず間違いなく神級職を授かったユミルは王都にある王族や有力貴族、更にはユミルのように突出した才能を持つ者が通うソロモン王国における最高教育機関であるアレイスター学園への入学を命じられる」



「でも学校なら何年か通えば卒業できるんだよね。だったら学校を卒業した後にこの町に戻ってくればまたみんなと一緒に暮らせるよね」




 ほっとしたように言葉を述べるユミルにアマギは虚しく首を横に振った。




「アレイスターは国の要職を育成することを目的とした最高学府だ。故にアレイスタ―を卒業したものは一部の例外を除き国を支える要職に就くことになる。聖女ともなれば国は絶対にユミルを手放さない。恐らく聖女のユミルは卒業後、有力貴族か王族の嫁として迎えられ、それなりの役職を与えられることになる。つまりこの町に戻ってくることはない」



「そんな!? だったら私はアレイスターになんかいかない!! この町でギルちゃんたちと一緒に過ごして、みんなから尊敬されるお父さんみたいな領主様になる」



「王国からの命令に背くことは法によって罰せられる。ユミルに届くことになるのは入学依頼じゃない。入学命令だ。だから断ることはできない」




「そんな。じゃあ私は誰も知らない王都に一人でいって学校を卒業したらこの町にも戻れず誰かもわからない人と結婚させられるってこと。そんなの絶対に嫌だよ。お父さんなんとかしてよ」




 半分パニックを起こしながら泣きそうな表情で訴えかける娘をみて自らも涙が流れそうになるのを必死に抑え、アマギは枯れる喉から非情ともいえる言葉を吐き出す。




「……すまない。それも無理だ。ただの男爵に過ぎない私がどんなに頑張っても、入学もその先の未来も保証することはできない。それがこの国のルールなんだ」



「なんで!! お父さんのわからずや!! 嫌いだよ。国もお父さんもッ!?」




 感情にまかせて発っした言葉の先に見たのは国のルールに逆らえず悔しさに震える父の表情とその目に滲む涙だった。




 その顔を見て、ユミルは全てを察する。もう自分がいくら喚いても足掻いても未来は変えられない。全てはもう決まっているのだと。




 それが職が未来に直結するこの世界の掟であり真理なのだと。




 それを痛感したとき体中から力が抜けその場に力なく膝をつき、なんとか押しとどめていた感情が涙として溢れだし、声を上げて泣いた。

 



 二人しかいない小さい部屋に泣き声だけが虚しく響いた。


今回は今までと違うちょっと重たいお話しです。正直書いてる側も辛いのですが職はこの作品の一つのテーマなので避けては通れませんでした。


ちなみに明日はいつも通りの雰囲気になる予定です。


この重たいを空気をギルハートがどう解決するのか見届けてあげてください。流星群と聖女様は個人的にはとても幸せなお話しだと思っております。

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