7.無能職の町娘になる!?-後編ー
「それではユミル・べトレイル、ギルハート・フォルネウスよ。其方の魂の輪廻に従い眠りし力を呼び覚ます。決して神に抗うことなく手に入れし力を世界のために使うと誓うか?」
「はい。誓います」
「ああ、誓うぜ」
「よろしい。ではここに誓約はなった。ではゆくぞ【儀式―神告―】」
神父がそう唱えると俺達の足元にライトブルーの光の粒が駆け抜けた。
「すごい、力が体の内側から溢れてくる」
ユミルが感嘆の声を漏らす。俺は二度目の神告だがこの感覚は何度味わっても悪くない。
俺とユミルの周りで蒼の煌きが連鎖し、俺達を中心に光輝く魔法陣を瞬く間に形成する。
そして光は俺達を包み込み鮮烈な輝きを見せ弾け飛んだ。
「ふむ。これは両者共にかなり珍しい職に目覚めたな。特にユミル・べトレイル。お主の才能は王国の宝となるものだろう」
「え? 私は何か上級職に選ばれたんですか? さっきから体の中から魔力が溢れてる感じはするのですが」
「ユミル・べトレイルよ。お主が授かったのは上級職なんてものじゃない神級職の一つ『聖女』だ。その力は成長次第で神に届きうる」
その言葉に会場が一瞬の静寂に包まれた。徐々に静寂がざわめきに変わり、やがてそれは教会を包み込む歓声に変わった。
「うぉぉぉおおおお聖女様!? ユミル様が聖女様になったのか。聖女様って言ったら王都にもいない伝説の職じゃないか」
「聖女様の祈りは全ての邪を払い、民を守るという。その本気の魔法は黄金の輝きを放つとまで言われている。まさかこの目で聖女様にあえるとはありがたや。ありがたや」
「ね、ねぇギルちゃん。なんかみんなの盛り上がりが凄いんだけど聖女ってそんなに凄い職なのかな」
周りに圧倒されて蒼色の目をクルクルと回しながら俺の袖をつかんでくる。
聖女か。前の時代にも一人だけいたな。
あの女は間違いなく俺が出会ってきたヤツのなかでも色んな意味で最強と呼べる人間だった。
「ああ、間違いなく聖女はとんでもないくらい凄い職だ」
「それじゃ私はちゃんとこの町の領主さんになれるかな」
「聖女が統べる町に住みたくないやつなんていないぜ」
「~~~ッ!!やったー!!」
その場で感極まったように小さくガッツポーズをするユミル。
その姿を見て観客たちも拍手で祝福する。ただなぜかユミルの親だけはとても複雑そうな表情をしていた。
一体何かあったのだろうか。
あの表情からはとてもじゃないが喜んでるようには見えない。
とても気になる。しかし俺も今はユミルのことばかりを気に掛けることができる状態ではない。
先程から身体に流れるこの魔力はあまりも、あまりにも馴染み深すぎる。
ふと手元に魔力を集中させると俺を苦しめ、俺を助け、俺を最強へと導いた魔法がその片鱗を見せ、すぐにでもこの魔法が行使できることを証明する。
まさか、俺はこの時代でもこの命でも盗賊になったのか。
いや、間違いない。この感覚を俺が忘れるはずがない。
俺は間違いなく今世でも外道職である盗賊として生きていかねばならないのだ。
―――まるでそれが俺の天命だとでもいうかのように。
また俺はあの苦痛と迫害の日々を送らなければならないのか。
苦労して転生しても俺は平穏な生活を送ることは許されないのか。
「うむ。薄々感づいておるようじゃな。非常に言いにくいがギルハート・フォルネウス、君の職は……」
俺の顔色に気付いたのか、神官が言いづらそうに、気遣うように優しい声音で語り掛ける。
前世の神官は俺が外道職とわかるや否や絶叫し、手に持っていた聖書を投げつけてきた。
本来ならば神に仇名す者とまで言われる外道職である俺を気遣ってくれるだけでこの神官の徳の高さがよくわかる。
だが、この神官こそ気遣ってくれているが他の者は違うだろう。
外道職とわかるや否や俺に牙を向けてくる者も大勢いることは間違いない。
その時は前世の時と同様に返り討ちにするだけだが、出来ることならそんなことはせずに平穏な人生を送りたかった。
―――あの戦いの日々にはもう戻りたくない。
思わず拳を固く握る。そしてその手が俺の意思とは関係なく震える。
そんな俺を見て神官が沈痛の面持ちで、また俺を戦いの日々へと誘う言葉を紡ぎだす。
「君の職は町娘だ」
言われずともわかっている。俺の職は町娘だ。そう無能職のまちむ、ん?
「まち、娘? 俺の職が町娘?」
ユミルの時と同様に観客たちは俺の職業が神官の口から告げられると音を無くし、徐々にざわつき始めた。
ただ先ほどと違うのは静寂が長かったことと決して歓声は起きなかったことだ。
そう町娘は無能職と呼ばれる職の一つで特別な魔法も覚えなければ身体能力に何らかの補正がかかったりすることもない。
戦闘を行うことなんてもってのほかだ。さらに技能職のような手先の器用さもない。いわば特別なことを何も出来ない底辺職。
本当に稀に存在する神の寵愛を受けることが出来なかったものが与えられる職、それが無能職だ。
「もう一度聞くが本当に俺の職は町娘なのか?」
「ああ、心苦しいが間違いなく君の職は町娘だ」
その言葉聞いて俺は膝から崩れ落ちた。
その姿を見て、観客たちが親たちが重たい空気の中、口を開く。
「アレク。私は例えどんな職でも罪を犯してなければ決して迫害することはない。そのことは胸に止めてくれ。だから君も気落ちはするな」
「お心遣いありがとうございます。でも大丈夫です。何を落胆する必要があるのでしょう。今日は愛娘の晴れ舞台です。どんな職でも親の私は喜ばしいかぎりです。マリアもそうだろ?」
「ええ、私はギルハートちゃんがいてくれるだけで幸せですもの。でもあんな風に膝をついてるギルハートちゃんよりも笑顔のギルハートちゃんが好きだから今日は腕によりをかけたお料理を作ることにします」
遠くで声が聞える。俺を憐れむ声、心配する声、未来を悲観する声、励ましてくれる声。いろんな感情が教会に渦巻く。
「ギルちゃん……」
俺の隣に立つユミルが俺の肩にそっと手を触れる。そしてようやく俺は徐々に身体に力が入り始める。
そしてこの現実を受け止め、喉を震わせる。
「い、よっしゃぁあああああ!!! 無能職だ!! ようやく、ようやく俺の夢がかなったぞ!!」
「え!? ギルちゃん!?!?」
突如立ち上がりガッツポーズをして雄叫びを上げる俺を見てユミルが目を白黒させる。
観覧者たちは口々に
「ギルハートちゃんが現実を受け入れられなくておかしくなっちまった!?」「こんな時こそのファンクラブだ! みんなで壊れたギルハート様を支えるんだ」「そうだ。例え無能職でもいくらでも生活のしようがあることを俺達が教えてあげるんだ」
だなどと俺を心配するようなことを言っているが、俺は少しも落胆などしていない。
100%盗賊職だと思った。
なぜなら確実にこの身体に流れる魔力と使えるであろう魔法は前世のものだ。誰だって前世の職を引き継いだと思うだろう。
どうやらあの王家の秘宝たる聖炎の瞳は前世の力をそのまま持って転生を可能にする効果を持っていたようだ。
まさか知識と自我だけでなく、前世の魔法と能力まで引き継げるとは流石は王家最大の秘宝と呼ばれるだけはある。
俺が感動に震えていると、ユミルがオロオロした様子で尋ねてくる。
「ギルちゃん。その、傷ついてたんじゃないの?」
「傷つく? 冗談だろ。むしろ逆だ。あまりの喜びに足に力が入らなくなるなんて初めてだ」
「そ、そうなの。でもギルちゃんがそんなに感情むき出しにするなんて本当に喜んでいるんだよね」
「当たり前だろ! はは、ハハハハ。こんなに嬉しいのは生まれて初めてだ。思わず笑いが零れちまうぜ」
大声で笑う俺をみて二階の観客席からも声が零れる。
「その、なんだアレクよ。流石ギルハート君だな。大人びた子だとは思っていたが、どうやら悲観することなくちゃんと、現実を受け入れて、受けているのだろうかアレは!?」
「ど、どうなのでしょうか。正直親の私でも判断つかない。な、なぁマリア。ギルハートは喜んでるのかなアレ? ショック過ぎておかしくなったわけじゃないよね!?」
「あらあら何言ってるんですかアナタ。あんなに嬉しそうなギルハートちゃんは私も見たことないです。アレは本当に心の底から喜んでいますよ。ギルハートちゃんが嬉しそうでよかった♪」
ふふふ、最大の難関はクリアだ。待っていろ新世界! 俺は町娘としてこの命を思う存分謳歌してやるぜ。
その後うれしさのあまり数十分間笑い続けた結果、俺は神官から「沈静化」の魔法を掛けられることとなった。
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