49.悪魔は語る。王国の成り立ちを。
「遥か昔、世界は俺たち悪魔が支配していた。悪魔は種族としての力が他のやつらと比べ物にならなかったからな。全ては俺らの思うがまま。
ほかの種族は労働力であり暇つぶしの玩具だ。よく魔法の練習台にしたり、面のいい奴は戯れに犯したりもしたものだ。そして歯向かってくる奴には皆平等に死を与えてやった。ああ、懐かしい。ほんとに良い時代だった」
夜空に浮かぶ三日月を見上げながら恍惚とした表情で語る。そんなシャクスにギルハートは一言眉間にしわを寄せ「クズの極みだな」と言葉を漏らす。
そんなギルハートの言葉を無視して甘い声色で言葉を続ける。
「我らの力は強大だった。しかし一点問題があるとすれば我ら崇高な悪魔は繁殖力が他の種族と比べて非常に弱く、成長が遅いということだった。
当初はソレでも何の問題もなかった。だが、時が流れるにつれて下等で卑猥な貴様らは徐々にその数を増やしていき、さらに時折多少腕の立つ者も現れ始めた。そして力あるものを中心に徒党を組み始めたのだ。
元来悪魔は一個体で十分すぎるほど強者のため他の悪魔と行動を共にすることをあまりしない。そこに奴らは目を付けた。奴らは卑劣にも悪魔一人に対して何十、何百もの大群で取り囲み刃を向けてきたのだ」
「ほう。それはなかなかいい戦法だな。それで? 見下していた連中に首を狩られて世界から悪魔はほとんどいなくなっちまったのか?」
「ふっ、バカを言うな。我らが下等種族如きに根絶やされるものか。だが、確実に我らの同胞の数が減っていったのも事実だ。結果、虫のように無限に増え続ける貴様らと繁殖力に乏しい我々との戦力は拮抗し始めた。
そこで世界開闢以来初めて我々は組織を作った。そしてその組織を束ねたお方こそ最強にして最悪の悪魔、大魔王ソロモン様だ。お前は大きく勘違いしている。このソロモン王国をつくり、導いていたのは貴様ら劣等種ではなく我々悪魔だ!!」
「バカな!? じゃあ過去に俺がいた国は、今のこの国を治めているのは……」
「もちろん悪魔だ。だが今と昔じゃだいぶ様相は違うがな。我らがソロモン様は本来であれば孤高の存在である悪魔をそのカリスマ性と絶対的な力で瞬く間にまとめ上げた。組織化した悪魔に貴様らは成すすべなく敗れていった。
そして再び我らの楽園が作られたのだ。二度と同じような過ちを犯さぬようソロモン様は人間討伐のために作った組織をもとに悪魔たちに役割を与え国を作った。それが貴様がよく知るソロモン王国だ」
「ちょっと待て、じゃあ、今の王族というのは……」
「ソロモン様は偉大な功績を残した者、力ある者には自らの恩名を名乗ることを許された。この俺のようにな。つまり今の王族は全て我々悪魔だ。そう我らはソロモン様の創られた国で再び永久の快楽と欲望を貪る日々を送っていったのだ」
うっとりとした表情で怪しく笑みを浮かべながら唇を舐める。
一方のギルハートは事態を飲み込めず呆然とする。そして頭の中に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「ちょっと待て。どういことだ。俺が300年前に生きていた時代も今も悪魔の面影はまるでない。それどころか仮に王族が悪魔だとしても今の世界の主体は俺達側だ。それだけ栄華を極めたお前らは一体どこにいっちまったんだ」
その言葉にシャクスの顔が突如として怒りに染まった。そしてわなわなと両手を震えさせ、その眼を血走らせた。
「そうだ。我々は未来永劫繁栄し続けるはずだったのだ。それをあの女、あの女さえいなければ」
「あの女?」
「そうだあの女『大聖女』初代アイビス・べトレイル。奴さえ、奴さえ現れなければ我々は今もまだ栄華を極めていたのだ」
「アイビス・べトレイル……だと」
憎々しげに悪魔が語る名に前世で最も親しかった少女の名と今世で最も親しい少女の性が重なり、脳の奥底を揺らされるような感覚に思わず立ち眩んだ。
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