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2.新世界でー前編ー

 ん? なんだこれは? 身体が動かない。意識ははっきりしているが記憶が混濁している。




 少し頭の中を整理する必要があるな。




 俺の名はギルハート。ギルハート・G・ギルガメッシュ。本来ならば選ばれた王家の者しか至ることの出来ないと言われた極致『職の限界を超えた者(ブレイカー)』に到達した大盗賊だ。




 そして神から外道職と呼ばれる職を授けられ、力を手に入れたが故にその力を恐れた王族たちにありとあらゆる罪を着せられ、国を追われ、命を狙われ続けた者だ。



 

 そもそも俺はめんどくさいことがきらいだ。戦いなんてその際たるものだ。それなのに前世ではいわれのない罪で毎日のように命を狙われ続ける日々を送らされた。




 そんな張り詰めた空気の中で日々生きるのが辛くなって使用者を次なる命に転生させるといわれる王家最大の秘宝『聖炎の瞳』を盗み出したんだ。




 ただそれだってこの終わりの見えない戦いの日々に終止符を打って適当に楽な生活を送るために秘宝が必用だっただけの話しだ。




 そうだ思いだしたぞ! 俺は秘宝を手に入れるために王国最強と呼ばれる神聖騎士団と対峙していた。そこで『聖炎の瞳』を使用したんだ。




 待てよ。ということは俺は転生したのか? ではなぜ身体が動かない。まさか失敗したのか!? 王家の真言が間違えていたのか!? そんなはずはない! そんなはずはない、はずだ……




 その時だった。




「わぁ、かわいい。これが私たちの赤ちゃん……」




「ああ、そうだ。マリアよく頑張ってくれたな。ありがとう。ありがとう」




「ふふ、あなたがわたしの手を握っていてくれたおかげよ。私こそありがとね」




 俺の耳に優しい声が響いた。




 そして理解した。そうか俺はたった今生れたのか。だから先ほどまで身体が動かなかったんだな。




「あっ、見てアナタ。赤ちゃんが目を開けるわよ」




 ゆっくりと瞼を持ちあげると、眩い光が視界を支配した。




 そんな中、二つの瞳が初めに映し出したのは銀色の髪を結った優しい表情でこちらを見つめる女だった。




 そしてその隣には、栗色の毛をした壮年の男が心配そうにこちらを覗き込んでいた。




 ああ、これが俺の両親か。本能的に理解した。




「ねぇ、あなた。この子なんて名前にしましょうか?」




「そうだな。うちの性がフォルネウスだからフリルとかキャンディとかどうだ? フリル・フォルネウスにキャンディ・フォルネウスなかなかいい名前だと思うんだけど」




 俺が感慨に浸っていると聞き捨てならない言葉が耳についた。




ちょっと待て! 今俺の名前を『フリル』か『キャンディ』にすると言ったのか!?




 ふざけるなよ。絶対にそんなブリブリな名前は拒否だ! 前世で世界最強と呼ばれた俺が背負うに全くもって相応しくない!




「あら、かわいい名前ね。あ、でもこの子あまり気にいってなさそうよ。急に顔をしかめだしちゃったわ」




「そうか? いいと思うんだけどな。フリルもキャンディも。でもほんとだな。何故かフリル、キャンディって呼ぶと異様なほどに顔をしかめるな。でも、だとしたら一体どんな名前が良いんだ」




 当たり前だ。全くもってセンスの欠片も感じられん。喋れないのがもどかしい。




いいか俺の名前はギルハートだ! ギルハート! ギルハート!!!




「ギル、ハート?」




「どうしたマリア。急に変なこと呟いて」




「いえ、なんか急に頭の中に浮かんだのよ。ギルハートって言葉が。ねえ見てあなた! 赤ちゃんが笑ってる。ギルハートって名前が気に入ったの?」




 なんだ? 何かしらの魔法が働いたのか? わからんがこれはミラクルだ。とにかくここで俺に出来る最善を尽くすんだ。ここで頑張らなかったらまた女の子女の子した名前を付けられかねん!




 前世最強の一角に数えられた男がキャンディの名を背負うのは無理がある。




「確かに笑ってるな。でも、ギルハートってやっぱりキャンディの方がいいんじゃないか? って凄いしかめっ面された!?」




「ふふ、きっとこの子はギルハートって名前が気にいったのよ。ほらまた笑ったわ」




「でもギルハートは男の子の名前だろ。この子は……、まあでもこの子の人生だ。お前が気にいったならその名前が一番なのかもなギルハート」




 そう言って男は俺を抱き上げた。そうだ俺の名前はギルハート以外にあり得ない!




 たださっき何を言いかけたんだ? ギルハートは男の名前? なに当たり前のことを言ってんだこの親父。




 俺の頭に疑問が浮かんだが、優しく抱き上げた父の笑顔とこちらを見て優しく微笑む母を見ていると前世では決して得ることが出来なかった親の愛を感じ、頭の中はまっさらになった。





――――そして14年の時が経過した。


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