プロローグその3 30人目の勇者と呪われた子達
この部分を読みにあたって警告しておきます。この部分はダークとかシリアスとかがあります。
できる限り後味が悪いとかそういう感想をさせない様に書いたつもりですが、それでもちょっと暗い話です。転生後の、前話に繋がる話は次話からで、この部分は設定多めです。
また、あとの話であらすじ的なのを入れながら書きますので飛ばしても構いません。
これは、植物人間状態の主人公が転生するまでのお話
プロローグその3 30人目の勇者と呪われた子達
何も見えない
何も聞こえない
何も感じられない
ここにあるのは闇にあらず、強いて言えば『無』があるのみ。
故に私は絶望した
故に私は狂ってしまった
取り返しがつかない、そういう領域に入ってしまったと自覚できてしまうあたり、もう末期もいいところでしょう
自分には人恋しいなどという感情はない、そう思っていたーー愚かな妄想だった
自分はストレスとかをあまり感じないから大抵の事ならどうにでもなるーー大抵じゃない事が起きた
死は怖くないと思っていたーーああ、そうとも、だが死以上の恐怖を感じてしまった
何も感じられないからか、時間感覚が狂った
頭が怪我をしたせいか、考える事はできるのに想像する事ができないーーゲシュタルト崩壊で知っている文字を何故か認識できないのと同じように、想像する事が何故かできないーーだから妄想で時間を潰すことすらできない
いや、でも今私が考えている事も想像では?わからない、わからない、わからない……
頭がモヤモヤするーー頭など感じられないのに
ああ、これが植物人間の気持ちとは思わなかった。誰か、殺してくれないかな~
…………………
……………
………
そして
どれ位たったのだろう?
突如として私の意識が途切れた
これでやっと……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目が覚めるとそこは混沌な空間だった
声にならない悲鳴を感じるーー産まれることすら許されなかった赤ん坊の悲鳴だと薄ら理解できてしまう。
潰された肉の塊の様なものが見えるーー体内で死に絶えて潰すように引きずり出されてしまった赤ん坊の死体だと何故か知っている
様々な感情が流れ込んでくるーーこれがその子達の感情だと否応なく意識に刻まれる
何故かそこからは嫉妬を感じてしまった、何故かそこにはまるで加害者に対する憎悪があった、そしてーー何故かそこには同じ被害者に対する憐れみが薄っすら見え隠れていた
これは…並の精神を持つものなら狂ってしまうな。
……いや、違うか
周りを漂う肉の様なものからちゃんと人の形をしている者の姿が見える。意識を失っているようだ。
どうやらその並の精神をしている者なら狂う前に自我保護だか本能だかで意識を失うようだ
なら意識を失うどころか狂うことすらしなかった私は一体どんなものだろう?いや、自分でもわかっている
私はもうどうしようもない程壊れきっているーー
ああ、なんてことでしょう!
呪いを受けて私は生きる実感を感じてしまった
悍ましい光景を見て私は見える喜びを感じてしまった
苦しみを感じさせてくれたこの子達に感謝の気持ちを抱いてしまった
以前の私では想像すらつかない自分の変わりきってしまった精神性に我ながら呆れるものだ
だからこそだろうーー私はこう問おった
「貴方達はどうして死んだの」
ピタリと子達は叫び声を、悲鳴を、呪いを、動きを止めた
そして次の瞬間、肉の塊は動き出したーーグニャグニャと、グチャグチャと、うねりながら、もがきながら、一つの塊となっていく
なんて大きさだろう!目の前で出来上がったのは私の百倍の大きさはある巨人だった
こんな大きな巨人を作り出せてしまう死体の数を想像して背筋が凍った気がする
私の周りには意識を失っている人が二十人以上いる
ウネウネと、ポコポコと、巨人はやがて人の(男?女?なんだか紛らわしい)姿をとった。とはいえ、どうやらモデルがモデルなら出来上がった姿も姿で、性別はないようだ
あれは誰だろう?なんだか見覚えがある気がする
『変な人』
無数の人声が重ねられた様な声が頭の中で響く。稚げな声に多数の雑音を混ぜた様な感じ、でもやっぱりなんだか性別が分かり辛いな~それにしてもこの声のベース、やっぱり聞き覚えがあるようなないような~
『自分の顔を忘れるなんて』『バカなのかな~?』『ボケたのでは~?』『それとも~頭が扉にドバンっと挟まれたりした~?』『う~ん~あ!もしかして認知症~?』『なんだかそんな気がしてきた~』
ウッこれは流石に覚えている…思い出したからそれ以上はもういい!
『何を思い出したの~』『教えて~』『教えて~』『教えて~』
これがある日写真に写っている自分の顔をみて友人に「うちのクラスにこんな人っていたっけ?」と聞いてしまった後、頭を心配された後、自分で自虐ネタにした時のセリフだっただろ?
『黒歴史は覚えているのに~』『自分の顔をまた忘れてしまうだなんて』『やっぱり私って認知症か?』
だーかーらーもうやめろ!その悲しい事件のたった3日後、自分一人の時にまた自分の顔を忘れて友人に聞こうとした時にデジャヴって思い出した事をその友人に言った時のセリフだろ?その後本当に病院送りされた事も覚えているからこういうのはもういい!
『プークスクス』『ばーかばーか』『認知症~御老人~』
ううううう~事実の様なものだからこういうのはもういい!それよりも貴方達はどうして私の姿をとったのだろう?
『うわ~』『心を読めなければコイツ逃げやがったなと思われるセリフだ~』『心を読めなければそもそもそのセリフも聞こえないけれどね~』
そ~れ~で~?
『面白そうだから?』
何故に疑問口調?
『嘘だからだよ~』
流石にちょっとイライラしてきたぞ
『まあまあ~餅つけ~』
ムカァアア!
『流石にからかいすぎましたか~それじゃ本題に入ろっか~』
むむむっぷはあ~落ち着いた
『私達って生まれてすらいなかったでしょう?だから人の姿って見たこともないよ~というよりも本当はこんなにはっきり喋ったりなんてできないからね~
変態くんの記憶を覗いたからこそ今私達は自我を得たのよね~』
おい!変態くんってなん、だ、あ?ああああああああ!!ちょっとハードディスクの中身が!中身が!!!!
『そう言うのはどうでもいいから続くよ~
でさ~私達が変態くんの記憶を全部覗けたのって変態くんがちゃんと意識を保っているからだよ~他の勇者達の記憶とかはほんのちょっぴりしかないの~だから私達って変態くんに影響されすぎたせいで変態くんベースの姿しか取れなくなっちゃったのよね~
あ、勿論性格も変態くん寄りだよ~』
私はそんなにうざくないわ!
『寄りであってそっくりじゃないよ~変態くんはバカだな~
私達のベースは呪いだからね~だから変態くんのベースに怠惰とか気まぐれとか嗜虐性とか好奇心とかを付けちゃうのは仕方のない事さ~』
何故に怠惰と嗜虐性!?他にもいろいろあるだろ?嫉妬とかが!
『だって~変態くんってそういう側面が強いでしょう~』
うっ
『それに変態くんはこれに感謝すべきだよ~』
感謝って…まさか!
『さっすが変態くん~もう思いついちゃったか~まあ、私達の思考回路の元だからね~
そう、もしも嫉妬とか怒りとか憎悪とかだったら変態くんはもう汚い花火になっているさ~
それにこういうのって私達とは相性がいいからね~ほら、私達って一応赤ん坊だったでしょう?だからずーっと寝ていたいし~気まぐれだし~好奇心豊かだし~』
ほほう~なるほど~
って騙されるか!嗜虐性は?嗜虐性はどこいった?
『ちぇ~気づかれたのならしょうがないね~
嗜虐性はね~変態くんの隠された嗜好が私達の呪いとかに方向性を与えた結果だよ~』
それってどういうこと?
『私達はね~本来なら死んでも呪いには成らないものよ~自我がないからそういうのはできないの~でも邪法で無理矢理呪いの性質を与えられたの~
純粋の呪いというものね~マイナスであるという空っぽの概念だけだったから方向性を与えられたらその時点でそれに完全に染まってしまうの~』
でもそれだと勇者(?)達にも影響されるのでは?
『それはないよ~私達はこんなにも多いから危ういバランスでも影響を与えるにはかなりの力がいるのよ~ちょっぴりでは足りないよ~』
なるほど~
それで、どうして生まれてすらいない貴方達が邪法だか勇者だかを知っている訳?
『それはね~胎内でもある程度の知識を得られるからだよ~』
どうやって?胎内の子供に外の声を聞き取れる程の聴覚はないはずだが?
『魂だよ~』
魂?
『お母さん達の魂の残り滓で知っているの~でもわかるのは本当に少しだけだよ~それに私達に対して強く思っていることしかわからないから殆ど邪法に関することばっかだしね~』
それで、その邪法っていうのは?
『私達を贄にして変態くん達勇者を呼ぶ儀式だと思うよ~でも断片的の情報しかないから確信できない~』
…一応聞くけれど、貴方達の体積って元のままなの?
『そうよ~だから数も計算できるでしょう?ちなみにまだまだ私達の仲間が数倍あるからね~』
産まれるたばかりの赤ん坊の体重は約3キロ、私の体重は恐らく50キロで密度の差を計算しないと……え?千万級?
『そうだよ~』
……それで呼ばれた勇者って何万人?
『30人ピッタリで変態くんは30人目~ちなみに既に三人死んでるよ~』
え?は?え?え?たった30?死んでる?
『アイツらは産まれて数分後死んだよ~ちなみに死因は呪い、邪法の残りだね~』
もしかして私も?
『いえ~変態くんは平気だよ~でも勇者に産まれたら~暗殺とか~暗殺とか~暗殺とかが~ね~』
……これって暗殺されなくとも兵器扱いでよね?
『正解~ちなみに親からも引き離されちゃうよ~』
どうにかする方法は?
『抵抗して一日延ばしたら認定されないかも?』
……そうする。
それと、私のせいで体の本来の持ち主がその…どうなるのか?
『それは平気~産まれた瞬間魂の元が体に入るの~だから変態くんが入ったらその子の元は後伸ばしされるだけよ~』
魂の元?魂じゃなく?
『そうだよ~焼く前の陶磁器はただの土でしょう?それと同じだよ~』
でもそれだと貴方達はどうやって?
『私達は正しく言うと産まれる途中死んだよ~だからこうなったの~』
……
『あ!29人目がいった~もうすぐお別れだね~』
いつの間にか先程見えていた勇者(?)が皆消えた
貴方達はどうなるの?
『ううん~ゆっくりと力が消えてるから、力が足らなくなったらゆっくり消えるよ~でも自我は多分十年ぐらい無事だよ~』
それってどうにかできない?
『だから~私達を召喚してね~多分それで自我を維持できるから~』
方法は?
『質のいい生贄を捧げて私達の名前を呼んだら多分行ける?あ!名前!変態くん、名前を付けて~』
うん~どうしようかな~ってなんか引っ張られている!
『早く早く~!』
ああ、もう!アウルム!ラテン語で黄金を意味する、真実と輝くものを象徴する名前だ!
『呪われた私達に黄金ね~それじゃあ、またね変態くん…いいえ、ここは名付け返しでレナトスと言う素晴らしい名前を上げようではないか!さっさと私達を読んでね~レナ~』
ざけんな!レナトスは確かに男の名前だがレナとかいう略称は要らんわ!それにこれ絶対私の黒歴史ラテン語から狙って取った名前でしょう?転生ってそのまんまじゃん!
『抵抗しないと戦争兵器になるから頑張ってね~レナちゃん~』
ってそれをもっと早く言え!
ぐにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
私!は!自!由!に!生!き!た!い!の!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どこかへ吸い込まれるように消えていくレナトス、略称レナ、愛称レナちゃん
その空間に残されたのはアウルムだけとなった。
その姿は少しずつ、でも確実変わっていく。黒い髪がゆっくりと金色に変わっていき、琥珀色の瞳が本来よりも明るくなっていく。
『まさか数日も抵抗するなんてレナちゃんも頑張りすぎ~面白そうだから言わなかったけれど、これじゃあ体にもう魂が入っているでしょうね~
レナちゃんならきっと体をその子に譲っちゃうでしょうね~。
でもちゃんと私達を呼ぶように説得してね~可愛い女の子の中に入るレナちゃん~』
七年後、体の持ち主であるルナリーナの覚醒の儀の時、そのレナちゃんがようやく目覚める事になる事になるのは今はまだ誰も知らない、流石のアウルムも想定外の事だ。
お読みくださり、有難うございます。
次話からは転生した後の話。バトルまで残り少し!明日の午後に上げますので、ブックマークして待って下さいね!多分ツイッターでもツイットするので、宜しければページの下から私のツイッターを見てください。