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白銀の勇者は魂が2つ?ーー箱庭世界カルデア冒険談  作者: 脇野やく
第一章 ミドルブルー防衛戦 カルデア歴2378年2月
21/29

1-15 ルーペルトと滅炎の魔兎 一刹の斬撃

動物を恐ろしいと思う自分がある。

群れを維持するためだけに自殺する動物がある、群れの為に殿を務める動物がある、それらの多くは人類の美化や勘違いであり、時に文学作品の思想を伝えるための虚構でしょう。

蟻が幼虫に食料を与えるのは成体の蟻の食道が細すぎるせいで固体を消化できず、幼虫に分解させて流体食にしてもらうためだと判明された。更に言えばその幼虫はいざという時保存食として食べられちゃうことすらあると。

同じようにそういった群れのために身を捧げるよう行動が実はそんな事無かったと判明したりするのは結構多かったりする。それでも私は思う、確かに一部は違う、でも全部そうなのでしょうか?私はそうとは思えません。

だからカルデアの魔物は感情を持ち、そして献身的であるように設定しました。ベースとなる動物が草食系だったり数が多かったりすればするほどその特徴が強く、今回のウサギ系もそれに当たります


それでは本編をどうぞ~

ルーペルトがそれを避けきったのは果たして偶然かはたまた必然か、毛が逆立つ殺意を感じて反射的に回避行動を取った事が功を奏してギリギリのところで迫り来る炎の吐息を転びながら避けた彼の体中から汗がドット噴き出す。

避けきった、避けきったはずだ。灰色がかった白い炎とは最低限でも半メートルの距離を保ち続ける事ができていた、そのはずだ。ならばどうして?どうして纏っている皮鎧の表面が乾ききって所々に小さな皺ができた?どうして闘気に守られているはずのそこから焦げている匂いがした?そしてーーどうして彼の皮膚が僅かに、しかし確かに火傷している?

汗が噴き出すなか、横目で恐ろしい熱が通り過ぎた後を見て慄くルーペルト。そこには地獄が広がっているーー

人も魔物も関係なく、平等に与えられるは死のみ。弱点も耐性も意味などなく、炎に弱い者も強いものも皆灰も残らず消え去るのみ。熱によってほぼ真空の状況になった空気に光が曲折され、後の景色が歪められている。地面は赤くトロトロと溶けており、同時に何故か不気味に放電現象と濃い魔力がこびりついている。こうなればガラス化ではなく魔鉱石が出来上がるだろう、そういう意味ではここはやがていい財産になるかもしれない


そんな現実逃避をしたくなる光景を横目にルーペルトは思う、殺さなければ殺されると。


獣というのは追い詰められているほど危険である。それは魔物にも適用される話だ。そして生憎今ルーペルトを殺しかけた魔物、滅炎の魔兎はまさにそうである。遥か格上である自分達の上位種エクセイザーラビットがたった今その命を散らした。それは自分達の後ろ盾が消えただけでなく、自分達を蹂躙できる強者がやって来るであろう未来をも意味する。

逃げる事など不可能、そう本能が告ぐ。勝つなど不可能、それは本能がなくとも簡単に悟ってしまう事。かといってただ死を待つだけというのは高位の魔物として不可能な選択であり、降参してもやはりただ死にゆくだけだろう。

絶体絶命、そう言ってもよいほどの状況だ。しかし魔物にも魔物の特徴がある、それは成長の即時性だ。魔物とは結局の所コアとなる魔石から指向性を持つエーテルーー魔素より構成される生き物である。その特徴としてコアとエーテルの変質がその場で直ぐに肉体に反応されることが挙げられる。つまり魔物が他の生き物を殺せば殺した瞬間それ相応の魂の残り滓ーーいわば経験値ーーを一瞬でもらえ、魔素で構成された肉体がそれらに合わせて直ぐに変化する。いわばレベルアップと言われる現象がその場で発生するのだ。

生きたければ殺すしかない、そして幸いにもすぐ近くには無数の良質の餌ーー人間と魔物(同類)達がわんさかと居る。弱い数よりも極めた個、それがカルデアという世界だ。個として生きるにも、そして群れとして生きるにも魔物達にとっての最適の手段は敵味方問わずーー否、周り全てを敵として見なしてーー殺して殺して殺し尽くす、それしかないのだ。同族を守るのは強者としての余裕がある時の話、しかし今全滅の危機を瀕してそれをやるのは単なる愚行でしかないーー守れずに全滅するだけだ。

生きている限り敵を屠り、されど瀕死になっても『人間に殺されるのを避け、できる限り同族に殺してもらう』、ウサギ系の魔物は群れとしての生存こそが最優先であり、そして群れの危機に置いてそれこそ命をも燃やして必死に戦う。そして人間には人道が、人間性というある意味邪魔な原則があるのに対してウサギの魔物はそれがなく、味方を殺して自分で継ぐという意志すらあるのだ。

しかしだからといって感情がないのかというとそうでもない。人間が犠牲した戦友に対して『立派な最後だった』と評するのと同じように、ウサギ共は自分で殺した同族を背負って生き、怒りを抱きながら本能に従って最優の戦法を取るーー人間の中では最も怖いいわば冷静の復讐者や味方のためにすべてを捧げる献身者が今、五百万以上の軍を成しているのだ


ルーペルトは今、ウサギ系の魔物の怖さを身に染みて感じる。周りのウサギ共は身を捧げるように、それこそが今まで生きてきた理由だとでも言うように彼を囲んでいる。『死が怖くないのではなく、死よりなお怖い事があるとしっている』、それを人間ではなく魔物が、それも一匹二匹ではなく地平線を覆い隠す程の数が悟っているのだ、それの何たる恐ろしい事が。芯の強い奴が強い?信念のある人が強い?死を覚悟している者は手に負えない?乾いた笑いを浮かべそうな彼だった

人と魔物の戦争に正義などというものはない。あるのはただ互いの信念を踏み躙り、血で血を洗う残酷な生存闘争のみ。心の強さなど評価はされても結果を出せなければそれはなんの意味もなく、今まで勝ってきたのが人間であり、その人間を褒め称えるための『精神』に対する評価である。さらに言えばそれすらも様々な縛りつけるための思惑が混じっているのだから手に負えない。精神が強ければ勝てると言うのなら人間は間違いなく負けた、そう確信してしまうような光景がルーペルトの心に突き刺さるーーわけもなく、彼は今そんなことを思える余裕などない。哲学めいたこれを考えているのは観戦者、ルナリーナとレナトス達である


観戦者の反省など知ったことか、ルーペルトと滅炎の魔兎の戦いはルーペルトの攻撃によって幕を開けた。

今ルーペルトが纏っている【武神降臨・技】と名付かれている戦技モドキはルーペルトの2つの切り札のうちの一つ。天龍帝国では一応戦技に数えられるが、北西国家連盟では単純に【覚醒】と呼ばれている物の一種類だったりする。ここではその本質に近い【覚醒】と呼ぼう

それはさて置き、幸いにも戦闘はまだ始まって数十秒、それに対してルーペルトの覚醒は平時なら一時間近く維持できる。激しい戦闘ともなればその時間も縮んてしまうが、それでも今彼は殆ど消耗していない状況だが覚醒による消耗はたとえ動かなくとも続き、それに対して魔物は恐ろしい回復力を持っているため時間経過でさっき放ったブレスの分まで回復してしまう。自分から打って出る、それが最適解と判断したルーペルトは格上な上ほぼ未知である滅炎の魔兎に小手先試しとして遠距離攻撃を仕掛けた。


スキはできる限り少なく、接近は相手をある程度把握するまでなるべく避ける、そのために彼が選んだ攻撃、それは剣と鞘を同時に半周振るって円形の闘気の衝撃波を放つアーツ、【円月・衝】

青の円が広がっていき、自分を囲んでいる雑魚共を蹴散らすなか、彼は油断なく滅炎の魔兎を睨み続ける。相手が自分の攻撃にどう対応するのか、それで相手の硬さを図る為だ。

そして彼が想定する中で一番悪い光景が目の前で広がるーー滅炎の魔兎は動かずに、そして魔力を集中することすらなくルーペルトのアーツを受けた。反応できないのではなく、反応しないのでもなく、する必要すらないのだ。衝撃波は接近に連れて崩され、魔兎に届く時にはほんの僅か、そしてその僅かな力は皮毛に触るや否や文字通り跡を残す事なく消え去った。毛の先っちょは微風でも通った?とでも言うようにほんの少し、それこそ0.1ミリあるかどうかという程度しか揺れなかった。魔力による領域支配の結果、ルーペルトの干渉そのものが拒否されてしまった証拠だ

並の攻撃など効かない、防御すらもいらない。それは確かにルーペルトが知りたい情報だが、しかし同時に知りたくなかったと思わせる情報でもある

それでも殺さなければ殺されるという事実(強迫観念?)を意識してか、ルーペルトは今度、接近を選ぶ

領域によって攻撃の干渉力が減っていく、それは逆に言えば近距離でなら最も大きい効果を出せる事だ。勝利するには接近しかなく、そしてそれは地獄に自ら飛び入る事であってもしなければならないこと


滅炎の魔兎の魔力によって支配されている領域、そこは同じ領域支配を行わなければ直ちに灰も残らず燃え尽きる灼熱の地獄。並の存在は近づくことすら許されず、故にこそルーペルトにとって意外にもそこは領域外よりは気楽の場所だった

弱者が入れない、それは自分を囲んで魔兎を援護しようとする雑魚共も入れないことに他ならない。それに対して至近距離にさえ入らなければ覚醒による領域支配だけで魔兎の熱に十分耐えれる。敵陣深く故に一対一に持ち込めて有利とは行かなくともベターな状況となるなど皮肉なことこの上ないが、ルーペルトにとっては運のいいことだ。これがもし水や土属性だったらもっとやばかっただろうことぐらい簡単に思いつく。

さて、そんな接近してきたルーペルトに対して魔兎が取った行動、それは単純でいて有効の物ーー魔力放出だった。


ゴオォォン

灰色がかった白い魔力が爆発するように放出され、ルーペルトを吹っ飛ばさんと周りの地面を溶かし、蒸発し、原子に、そしてエーテルに分解しながら広がる。世界を構成する法則が歪み、物質の構成が違う法則に対応しきれずに元となる要素に戻るその光景は並の魔法使いが見れば失禁しながら気絶するようなものだ。

それに対してルーペルトは体の表面を闘気で覆い、その表面だけを高速回転させれる。摩擦力と呼べるかどうかという効果によって魔力の壁が引き裂かれて受け流されるのを尻目に接近を続けるルーペルト、一見簡単そうに見えるかもしれない対応だが彼の顔に浮かべる苦痛に満ちた表情を見れば違うと分かる。たとえ一瞬だけだとしても両方の『力』は確かに接触し、侵食しあった。であれば弱者であるルーペルトの方が多大な負担を負ったのは必然である。人間の力の源は魂に在り、闘気は魂と肉体の共鳴より産まれるもの。その闘気に対する圧迫はそれだけで魂と肉体の両方にダメージを与え、受け流した攻撃ではなく、己の制御の未熟さ故にルーペルトがそれなりの内傷を食らってしまった。

であれば尚更速戦即決を決めるしかないと決意を新に怪我を我慢して接近するルーペルトと後ろから来るであろう未知の強者を一刻も早く出し抜きたい魔兎、両者ともに焦って視界が狭くなっている故正面からの攻撃を選ぶのもまた必然と言えるだろう


左手で鞘を、右手で剣を、覚醒状況でほぼノーコストで発動できるアーツに本来の数倍の威力を求め自ら余りあるほどの闘気を込めて、ルーペルトから放たれるは神速の五連撃【流水・刹】

片刃剣と鞘の攻防一体スタイルを開拓した流水の剣聖【ヴィクトル・サーベル】の戦技を真似て作られたこのアーツは剣と鞘の攻撃を交互に行い、打撃と斬撃の両方を行える上先制や怯ませる、防御を崩したあとに追撃すると言った様々なシチュエーションを想定しており、強力でありながら使い勝手も良い技だ

一手目は抜刀斬、水平に振るわれた剣は真っ直ぐ魔兎の首筋を狙う。それに対して魔兎は爪で弾く。爪の勢いは強く、剣を弾いて尚更進み、ルーペルトを押し潰さんとする

二手目は逆手で持った鞘による攻撃、振るう方向は状況に応じて変わり、今回ルーペルトは鞘を下から上へ振るった。なお進む爪を下から打ち上げ、どうにか軌道を反らしたルーペルト

三手目は剣を引き返しながらの斬撃。鞘を弾かれる衝撃に逆らう事なく利用し、胴体を目指して振り下ろされた剣を今度はもう一方の爪で弾く魔兎。しかし今度は勢いを利用された分爪の勢いを殺されており、軌道修正を図るもできずに空を切る

四手目はまた鞘。二手目で弾かれた勢いを三手目で利用したおかげでちゃんとまた上へ振れるようになった鞘を今度は剣が弾かれた勢いを利用しながら又もや振り上げ、完璧に魔兎の顎を打ち上げる

そして最後の一手は反動で下へ動く鞘をそのまま手放し、アーツの補佐で腰の固定具に戻しながらも弾かれた勢いを全身に、右手と空いた左手で一緒に剣を握っての振り降ろし。四手目でスキができた魔兎の顔面目掛けて少しの溜めの後放たれるルーペルトの剣と顎を打ち上げられて脳震盪を引き起こしてしまった魔兎、これで決めれたらどれほど良かったことかーーしかしそうは行かなかった

ルーペルトのアーツは完璧に決めた、それは事実である。魔兎は頭を、首を捻り、どうにか避けようとはしたもののほんの僅かなズレができただけであり、それが奇しくも左目をも切り裂く軌跡となった。しかしそれでもルーペルトは仕留め損なった、仕留め損なってしまったのはひとえに地力の差だった。

(硬えぇ!)

まるで岩を切るような触感だーー無論岩など簡単に切れる程には強いルーペルトだが、それでも初心者の頃岩に剣をぶつけってしまった感覚を覚えているからか彼はこう思った

響く魔兎の悲鳴を聞いてルーペルトは逃げ出したい気分に陥るもすぐに切り替え、噴き出す鮮血を直感的に避けて後ずさった

赤い鮮血は地面に落ちるとすでに溶けてマグマになっていたそこがまるで冗談化のように煙もなく爆発し、無数の小さな穴が出来上がりながらエーテルになって消える。無論、それらの穴はすぐに周りのマグマに埋められて消えた

(マジで逃げてえ)

高い剣が刃毀れしてしまったと捉えていた彼は魔兎の血がもたらした効果を見てすぐに考えを改めた。してしまった?冗談じゃない!刃毀れだけで()()()の間違いだ!

持って後三回、あと三回魔兎の血に入ったらそれでおしまい。それが剣の限界だろうとやはりわかりたくもない最悪の現実を経験から悟り、ルーペルトは遺言を残したい気分になった

「この戦いに勝ったら俺………………

ルナちゃんに求婚するぜ!」

そのルナが観戦しているとはつゆ知らず、ロリコン発言をしてみせた勇者ルーペルトである。無論、間があった事からもわかるように実際は何をやるか思い浮かばなかったからの出まかせだが、彼は知らないーーまさかこれが原因でピエロから一転、ロリコンのルーペルトのあだ名が一生纏い付く事も、それで真の勇者なる勘違いされやすいあだ名がついていろいろと勘違い系ラノベ主人公的な展開に合うのもこの時の彼は知らない


色んな意味でルーペルトの人生を変えるこの戦いはまだまだつづく

ロリコン発言の告白が本人に聞こえた、それってなんて罰ゲー?

ルーペルトよ、勝ったら地獄(社会的)、負けても地獄(物理)、自分をお追い詰めるとはさては君、Mだな!

因みにルナ達が観戦しているというのは実はさらなる功績を立てる為であり、どうして功績が必要かというと前の話でも言ったように中央から守る為です。とはいえ、それは後の話なので今はあまり気にしないでください


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