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愛しています

最終話です。開いてくださってありがとうございます!

「ふー、ごちそうさん! 今日の豚汁は一段と旨かったなあ。お前さん、元から料理上手だったがこのところどんどん腕をあげてるさ!」

「高いお味噌を使いましたから……」


 女鬼は男の好きな料理や味付けをどんどん覚えていっていたのです。それはもう男を太らせるためのものではありませんでした。




 先に寝床に入った男がすやすやとよく眠っているのを確認して女鬼はほっかむりを外しました。

 月に照らされた己の影は紛れもなく鬼の姿でした。

 固く決心したはずなのに、男との別れを思うと悲しくて悲しくて涙が止まりません。



「ふああ……。お前さん、泣いているのかい?」

 涙が涸れるまで泣いてから男を狩ろうとしたのですが、あまりに長いこと泣いていたので男が目を覚ましてしまったようです。

「泣いてなど……」

 涙声でそう言いかけて、女鬼はほっかむりをしていないことに気がつきました。これでは鬼であることが一目瞭然です。

 今から男を狩ろうとしていたことも忘れ慌ててほっかむりを探す女鬼に、男はのんびりと声をかけました。


「おやおや。まあそんな焦りなさんな。オラは逃げも隠れもしないさ。ほら、好きに喰らうといい」


 男はそう告げて布団の上に大の字になりました。


「貴方様……、今何と……?」

「だから、オラのこと、喰うんだろう? お前さんの料理は本当に旨かった。旨いもん食べてたからきっとオラの肉も旨いぞ」


 女鬼はすっかり動揺してしまいました。なぜ男は今から喰われることを知っているのか、なぜそれなのに逃げないのか。

「貴方様、怖くはないのですか……?」

 襲う立場の女鬼の声の方がずっと怯えた音色です。

「お前さんを嫁にした時からこうなるのは分かってたさー。お前さんが鬼なのも最初から知ってたさ」

「そんな……。ではどうして私など娶ったのです!」

 全て分かっていて、男は女鬼を助け、一緒に楽しい時を過ごしてきたというのです。

 にわかには信じられません。


「一目惚れさあ。お前さん、とっても綺麗な目をしてた。オラ、この子のためなら何だって出来るって思ったんだ。そしたら見た目以上にいい子で、オラ本当に幸せだったさ。この世に未練なんてお前さん以外にありゃしねえ。好きにしてくれろ」


 怖がってくれた方がずっとましでした。

 こんなことを言われて男を狩れるほど女鬼は冷酷ではありません。

 男が綺麗だと言ってくれた目から止めどなく涙が溢れます。


「泣かないでおくれ。オラ、お前さんの笑った顔が一番好きだ」

「私も……、貴方様の笑顔を、愛して……おります」


 女鬼がそう言った途端、彼女の身体が淡い光に包まれました。


「どうしただ!?」

 男は飛び起きて女鬼に近づきました。

 女鬼は美しい涙を零しながら心から幸せそうに微笑んでいます。


「お別れでございます。人間を愛した鬼は消える運命なのです」

「そんな……!! 嫌だ、オラはどうなってもいいからお前さんは生きてくれろ!」

 男の叫びにも女鬼は静かに首を横に振るばかりです。

「貴方様と出会えて私は本当に幸せでした。愛しております、いつまでも……」


 男は今にも消えそうな女鬼をきつく抱きしめました。

 男も女鬼も笑いながら泣いています。




 女鬼が消えた後、ほっかむりだけが男の前にぽつりと残されていました。




あっけなさが童話、昔話の大きな魅力の1つだと思っています。

最後まで読んでくださってありがとうございました!!!

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