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四月馬鹿達とは俺達の事よ

「くそ……アイツ、何処に居るんだ?」

 結局、遊ぶと言っても思いつかなかったので、俺達は真面目に隠れ鬼をする事にした…………うん。ちょっと理解が出来ないのは分かるから、まあ聞いて欲しい。

 どれだけ経っても人形が現れない事に、俺は別の恐怖を抱いていた。ひょっとするとこの人形、頭が良すぎるのではないかと思っていたのだ。

 

 一人かくれんぼは人形が無ければ出来ない。


 それは文字通りの意味で。始まらせる事も出来なければ終わらせる事も出来ない。何より気になるのは時間制限だ。二時間以内に終わらせなければ霊は帰ってくれないらしい。これに関してはとっくの昔に過ぎているので、開き直る的な意味で理由の一つであるのだが……まあそれはいい。

 要は、俺の生み出した人形は、俺達から隠れてガン逃げをかます事で、何とか生き残ろうとしているのではないかと考えたのだ。二時間以内に終わらせないと帰ってくれないとさっきは言ったが、碧花曰く、強制的に帰す方法があるらしい。ただ、それをすると俺の呼び出した奴は帰っても、他の奴が来る可能性が生まれるとか生まれないとか。そうなれば面倒だが、何にしても後ばかり気にしていては動けるものも動けない。

 だから俺達は遊ぶ傍らで、人形を探す事にしたのだ。鬼はあちらの筈なのに逃げる側が探すとはこれ如何に。『鬼さんこちら、手の鳴る方へ』という煽り文句は有名だが、あれは実は『鬼さんどちら』なのかもしれない。

「幾ら見つからないとは言ったって、よく隠れられるよな…………」

 これまでに教室を数十個程探したが、彼女の影はまるで見えなかった。俺は捜索のプロなどではないが、ここまで探して見つからないという事は、ひょっとするとかなり狭い場所に隠れているのかもしれない。それは結構だが、もしも俺よりも先にぬいぐるみに見つけられたらどうするつもりなのだろう。そんな場所に隠れているとしたらまず襲撃が躱せず死ぬのではないだろうか。下手すると、これはかくれんぼなどではなく―――



 気づいてしまった。



 これは俺が碧花を見つける遊びではない。人形に碧花が発見される前に、俺が見つけて助け出す遊びなのだ。勝とうが負けようが俺に害はないが、問題は碧花だ。この遊びの性質上、彼女に勝利というものは存在しない。塩水を含んでもいないのに見つかっていない今の状況が奇跡なのであって、ネットによるとあれが無ければ簡単に見つけられてしまうそうだ。そんな状況でありながら、負ければ人形に殺されて死亡する。よく考えてみなくても、俺が早いとこ見つけてこの遊びに引導を渡さないと、彼女は人形によって引導を渡されてしまう。

 それに思い立った瞬間、俺はこの遊びを提案したのが彼女だという事を思い出した。あの時、碧花はやたら楽しそうだったが、もしもあの時、彼女が自分の置かれる状況を理解していたのだとしたら……

 いやいや。あり得ない。死ぬかもしれない状況に自ら置かれる事を愉しむなんてどんな頭のおかしい存在だ。彼女にそんな気があったとは思わないし、思いたくない。俺の足は自然と早まった。一人かくれんぼという遊びに巻き込んだのは俺なのに、彼女が死ぬなどという未来を作ってはならない。

 そんなふざけた未来は、あらゆる手を使ってでも消し去らなければならない。

「うおおおおおおおおおおあああああ!」

 叫んだのは、俺が発狂した訳ではない。大声を出して目立つ事で、少しでも人形の注目を俺に引き付けたかったのだ。傍から見れば完全に頭のおかしい人物だが、そう思ってくれても結構だ。碧花が死んだら、俺は心を壊したっていい。

 彼女だけが、唯一俺を信じてくれるのだ。誰かの意見にも左右されず、偏見も持たない孤高の存在の水鏡碧花だけが、俺と普通に接してくれる。初恋とは言わずとも、俺の心は確実に碧花の事を好きになっていた。元々憧れでしかなかった感情が、自然とそうなっていったのだ。

 これがかの有名な吊り橋効果という奴だろうか…………いや、違うか。今は二人きりだからそう思えているだけだ。いつもの学校生活が帰ってくれば、彼女はいつも通り高嶺の花に、俺はいつも通りにボッチに。

 そうと分かっていても、やはり俺は未来よりも今を見たい。今、彼女の事が好きなのならば、全力を賭してでもこの遊びに勝たなければならない。

 かつて俺の父親は言っていた。 


『狩也。いいか? 俺はママの事が好きだから、どんな危険があってもママだけは守ろうと思ってる。勿論お前達も大事だけどな? ……そういう事じゃない。いいか? 俺は地上最強を目指せとは言わん。只、好きな女の子を一人守れるようにはなっておけ。それが男としての最低限の務めだ』


 俺の父親はいつも母にデレデレで、だらしなくて、人として尊敬はとても出来なそうな人間だが、その言葉だけは今も覚えている。そして心に刻んでいる。好きな女性一人くらい、守らなければならないと。

「碧花ッ。碧花あああああああ!」

 人形は頭が良いのか聴覚が無いのか、一向に姿を現さない。俺の血を使ったのだから俺を優先的に探してもらいたいのに、どうして出てこないのだろう。というか先程から微妙に思っている事だが、今回の一人かくれんぼ、何かがおかしい。ネットに書いてある状況と全然違うし、そもそも人形は居なくなったが、一度も俺達の前に姿を現さない。もう帰ろうが帰るまいがどうでもいいから、せめて現れて欲しいものだ。何の道理があって人形はガン逃げをかましているのか。

 所で気になったのだが、ガン逃げの語源って何だろうか。クラスでやたら使われるから(多分ゲームの話をしているのだろうが)自分も覚えたての言葉を連呼する小学生の如くやっているのだが、いまいち意味が分からない。逃げるでは駄目なのだろうか。

 そんな事を考えながら調理室に入ると、次の瞬間俺の視界に鋼色の物体が飛び込んできた。

「ぬおッ!」

 反射的に膝から崩れて回避したが、視界から消え去った瞬間に、その物体を把握。包丁だ。調理実習などで使われる至って普通の万能包丁。何故かそれが、俺の顔に飛び込んできた。すぐ後ろで金属音がする。背後を見ると、きっちり刃が壁に接触したらしく、命中したと思わしき個所には傷がついていた。

 実際の投擲というものはアニメなどの一直線ではなく、円を描いて飛ぶのだが、それにも拘らずきちんと刃を当てたというのか。俺の後ろがもしも人体だったら、恐らく刺さっていたのではないだろうか。



「何だ、君か」



 無駄に慣れた投擲を行った人物は碧花だった。人形じゃなくて良かったと言いたい所だが、全く安心出来ない。碧花にしても、俺は危うく殺される所だったのだから。倒れ込んだ俺に彼女は手を貸してくれたが、あまりに怖すぎて一瞬手を取る事すら躊躇ったのは内緒である。

「み、みいつけた…………」

 当然だが、彼女は全く悔しそうではなかった。負けたら死んでいたと考えると、死なないだけ俺に負けるのは安いとでも言いたいのか。

「ふむ。この作戦に自信はあったんだけどね。君相手に失敗したって事は、完璧じゃ無かったって事か」

「ど、どんな作戦なんだ?」

「殺られる前に殺る」

「は?」

「いや、だから。仮に見つかっても、殺したら目撃者はゼロだ。だからそれで勝とうとしたんだけど、素人である君に避けられる様じゃ、私もまだまだだ。やめておくよ。今回は君の勝ちだ」

「と、特殊部隊の方ですか?」

「君は私を小学生以外の何だと勘違いしてるのかな?」

「い、いやだってさ……」

 前言撤回。多分彼女は自分の敗北した未来に死がある事を理解していた。その上で楽しんでいたのだ。俺を躊躇なく殺そうとした(人形が来ると思っていたのだろうが)事と、今の発言で確信した。殺られる前に殺るとは戦争経験者の発言でないか。彼女がどこぞの少年兵でもなければ、俺は納得出来そうもない。少なくとも一般人が発想していい発想ではない。合理的だし、確かにそれくらいの発想が出来なければ人形に成す術もなく殺されてしまうのだろうが、それにしても、だ。

「それで、見つかったの? ぬいぐるみは」

「え……あ、ああ。いや、全然」

 自信なく言ったのは、俺が途中から碧花の捜索に専念してしまった事を思い出したからだ。あれでは見落としていても不思議はない。碧花は溜息を吐いて、つまらなそうに包丁を取りに行った。

「何やらおかしな遊びだね。君は本当に一人かくれんぼをしたの?」

「どういう意味だよ?」

「それにしてはって事だよ。さっき、私の名前を叫びながら走り回ってただろう? あれだけやったら誰だって君の所に向かう筈だ。でも―――」

「居なかった」

「って事は、そもそも一人かくれんぼは成功していないんじゃないのかい? 勝手に成功したと思っているだけで、実は何も―――」

 包丁を取った碧花がこちらを振り返ろうとして……廊下で、止まる。「碧花」と呼んでみても、その反応は無かった。何かおかしいと思い、俺も彼女の後を追って廊下を見遣ると―――


 



「ミイ、ツケタ」





 そこには、『何か』が立っていた。断言してもいい。俺はあんな気持ち悪いぬいぐるみを持って来た覚えはない。腕、足、胴体、顔。それら全てが本来あるべき個所ではなく、全く無秩序に生えている怪物など。知らない。

―――ああ。これはもう幽霊ではない。俺の身体が発している危険信号は、精神的恐怖や視覚的恐怖ではない。



 殺されるかもしれないという、物理的恐怖だった。

 因みに投擲用ナイフってなんか刺さりやすいように柔らかく作ってあるそうなんで、多分刺さらないんじゃないですかね。知らないですけど。



 所でさらっと殺されかけてますが、まあうっかりなので気にしないでください、

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