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私が欲しいのは君だけだ

 ワルフラーンの投稿スピード次第でもう一話出します。

 扉越しの会話自体に寂しいものはあったが、それでも碧花とこうして話しているからか、暇はしなかった。ただ、俺が暇をせずとも彼女は暇をするだろうと思い、今はちょいと工夫して、二人でテレビを見ている。

 工夫と言っても大したものじゃない。ベッドの枕なんかを使って携帯の角度を調整し、テレビに向ければ良いのだ。ビデオ通話なので携帯を通して碧花にはテレビの情報が伝わるし、スピーカーにすれば画面を見ずとも会話が可能になる。お互いの顔が見えないのは少し会話として奇妙な気もするが、それでもまるで隣に居る様な気がして、俺は楽しかった。


 八石様との遭遇なんぞなければ、本当に碧花が隣に居ただろうに。


 かなり理想論というか、妄想一歩手前というか、むしろ一歩後というか。テレビを見て下らない事でも駄弁りながら、どんどん距離を縮めて、最終的に……という事もあり得たと俺は可能性の中に感じていた。たとえ可能性が虚数の彼方にあろうとも、よく分からん怪異の介入が無ければそうなっていたかもしれないのだ。それを思うと、残念でならない。

「最近、娯楽番組もつまらなくなってきたね」

「まあ、時代が時代だよな。何処もかしこもクイズ番組だったり、グルメ番組だったりで新鮮味が無いというか」

「せっかくの娯楽らしい娯楽も、コンプライアンスの問題で直ぐに終わるしね。やはりこう娯楽には多少の背徳なり渾沌なりが必要だと個人的には思うよ。何でもかんでも秩序で取り締まればいい訳じゃない」

 同じ意見である。過激な番組というものは、確かに危険かもしれないが、だからと言ってそれを取り締まってばかりでは陳腐で味気ない番組ばかり出来る。何というか、無闇やたらな取り締まりというものはやめるべきだ。テレビ局に『面白い番組』を作りたいと思っている人が全く居ない訳ではあるまいが、しかしそれのせいできっと、挑戦心が奪い去られているだろうから。

「……君はどんな番組が好きなの?」

「俺か? 俺は世界の神秘な場所を巡る奴も好きだし、凄い実績や仕事をしている人を紹介する奴とか、単なるドッキリも好きだぞ」

「ドッキリ……一般にやらせが多いとされる番組だね」

「お前は嫌いなのか?」

 発言の流れから考えると明らかに否定寄りの発言にしか見えなかったが、彼女は「そうだね」と前置きをつけてから言った。

「嫌い…………ではないよ。私としては、やらせだろうがそうでなかろうが、面白ければいいという考えだ。むしろどうしてやらせやらせじゃないで人が騒いでいるのか、理解出来ないね。やらせでも面白ければいいだろうし、やらせじゃなくてもつまらないなら駄目だ。それでいいじゃないか。娯楽番組というのは、そういうものだと思うけど」

 全くその通りであるが、俺は彼女程達観した(これを達観というのもおかしな気はするが)理由ではない。俺は性善説的に番組の事を信じているので、基本的にやらせだとは思っていないのだ。だからやらせだ何だと騒がれるのは嫌だし、そのせいで番組が終わるのはもっと嫌だ。ただし何よりも嫌なのは、本当にやらせだった時だ。裏切られた感じがして、只々不愉快である。

「お前は何の番組が好きなんだ?」

「動物」

「え?」

「動物を取り扱う番組が好きだよ。一口には言えないけどね」

 そう言えば、小学生の頃碧花の家に泊った事があるが、あの時付いていたテレビは子犬の誕生に密着する番組だった気がする。単に見るものがないからだと勝手に納得していたが、そういうものが好きだったとすれば納得である。


 …………意外な一面に、俺はドキドキしていた。


 時々、そのクールな性格から俺は碧花を超常の存在と捉えてしまうが、彼女も一人の女の子だ。可愛いものが好きで何が悪い。そもそも俺の隣には巨大アザラシちゃんなるぬいぐるみだってあるし。特に恥ずかしい事でもないらしいので、碧花は至って淡白に告げたが。

「…………何だか、喉が渇いて来たな。ちょっと、席を外すよ」

「水のポットならあるだろ。ここに」

「―――そうだね。あるね、そこに」

 碧花が呆れ気味に言ってくれたお蔭で、俺は現在の状況を再び把握する事が出来た。あまりにも彼女とテレビを見ていた状況が幸せ過ぎて、すっかり忘れていた。直前で八石様との遭遇について悪態を吐いていたのに、だ。頭がおかしいとしか言いようがない。これこそ正に怪異の仕業なのではなかろうか。

「じゃ、ちょっと通話を切るよ。もう扉を開ける様な事はしないから、次以降、私の声が聞こえてそれが扉の開錠を要求してきたら偽物だからよろしくね」

「おう。その……俺が遭遇したって事だけど、八石様に遭遇しないようにな?」

「それはどうやって対策するんだい? まあ、不審な存在には対応させてもらうよ。じゃあね」

 通話が切れる。俺の携帯は再び暗黒に染まった。

「……はあー」

 一人だとここまで退屈になるのか。人は外に出られないとわかった瞬間、特に用もないのに外へ出たくなるものだ。携帯は取り敢えず充電させてもらうとして、碧花が帰ってくるまでする事もない。何処も開けてはいけないそうなので空気も入れ替えられないのは地獄だ。俺はぼんやりと窓の外を眺めるしかなかった。暮れていた日は落ちて、今は完全なる夜だ。プールには誰も居ないし、奥の景色が見える訳でもない。凄く、暇だった。

 特にどうやって過ごしたかすら覚えていない無の時間が三十分経つと、俺の携帯が激しく振動。碧花にしては馬鹿に早い気もするが、出ない道理はない。俺にとっては唯一とも言っていい外との連絡手段だ。


 

 電話のかけ主は…………天奈だった。 



 俺は光すらも超越した速度で電話を取り、真っ先に叫んだ。

「天奈! 天奈だよなッ?」

「お兄ちゃん…………助けて…………!」

「え?」 

 今度は良く分からないものに邪魔はされない。俺は出来る限り情報を引き出すべく、会話を慎重に試みる。

「助けてって……今何処に居るんだ?」

「ホテル……ホテルに居るの」

「ホテル…………ホテルって、まさかここか!?」

「追い回されてるの……変な人に。今はどうにか隠れられてるけど……いつ見つかるか分からない! お兄ちャん、何処ナの……? 何処ニ居ルの?」

「俺もホテルだ! それでお前、今何処に居るんだ? 場所が分かれば直ぐに助けを―――」




「お兄ちゃん。今、ワたしハどこニいるノ?」




 また、通話が切れる。

「天奈ッ!」

 駄目だ。繋がらない。一応確認するが、どう見たって彼女の携帯から掛けられている。本人ではないという線はあり得ない。やはり彼女なのだ。どういう訳か知らないが、このホテルに居るらしい。直接俺が助けに行きたい所だが、俺もまた彼女と同じ様に怪異に狙われている。携帯を通して影響外の者に助けを求めるべきだ。

 しかし誰に?

 部長は現在調査に当たっている。手が空いているのは萌か碧花かだが、どちらを信頼しているかと言えば、碧花だったので、俺は彼女に電話を掛ける―――


―――が、出ないので。次に俺は萌に電話を掛けた。


「はい。もしもし」

「萌か? 今、時間あるか?」

「あ、はい! 勿論ありますよ。部長も何処かに行っちゃって暇ですから」

「……そうか。だったら一つお願いがあるんだ。俺の妹がホテルに居るらしい。俺の代わりに見つけてくれないか?」

「え…………ッ」

 萌が息を呑んだ。

「何かあったんですか?」

「ああ。詳しい事情とかは後で説明する。とにかくホテルに居るらしいから、探してくれ」

 電話の奥で何かを漁る音がする。暫く待っていると、焦り気味の口調で彼女が言った。

「分かりました! 見つけ次第連絡します!」

 俺は礼を言ってから通話を切り、その場に寝転んだ。暇だ暇だと思っていたが、こんな形での刺激は要らない。願わくは天奈に、救いのある処置を―――! 

   


 主人公だけ完全な隔離状態とは、つまり。言い換えれば………………?

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