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怖い話をすると怖くなるのか、怖いから怖い話をするのか

次回学怖形式。

 心霊について盛り上がる事と、怪談話が得意な事は全く別の話である。これは他でも同じ事が言えて、テストの点数で盛り上がる学生はそれなりに居るだろうが、その学生達は果たしてテストの点数が高いのだろうか。いいや、これは偏見だが、テストの点数で盛り上がる奴は大抵点数が低い。赤点寸前だったり、或いは赤点で盛り上がっているイメージだ。高得点だと一人で盛り上がっているだけだろう。普通逆だと思うが、赤点を取った事のある自分なら理解出来る。あまりに低いと心の中では本気で凹み、そして友達に話しかけられた際は自虐的になってしまうのだ。これはどういう理屈かというと、何だろう。少しでも心の中の負担を軽減したいと言えばいいのだろうか。例えば彼女に振られたという話を本気で悲しむばかりではいずれ心も壊れてしまうが、これが友人の間で笑い話となると、自分の心の中でも馬鹿馬鹿しくなってくるというか、立ち直る事が出来る。

 こんな例えを出すと、まるで自分に彼女が居た様な気分を味わえるが、年齢=彼女いない歴の俺に彼女が居た事なんて無かった。悲しい現実という奴である。

 そんな話は置いといて、神崎の心霊話はおよそ怖いとは言えない代物だった。というかオチが『黒髪の女が井戸を覗き込んだ』って意味が分からない。しかも二年前。この付近に井戸なんて無いし、仮にあったとしても覗き込める様な井戸という事は、まだ使われているという事だ。井戸魔人が住んでいる訳でもあるまいし、本当にあった話というにはあまりにチープというか、井戸から出てきた女が皿の枚数を数える話の方がまだ怖い。

 ………………

 あれってどういう話だっけ。

「怖かったか?」

「いや、怖いというより…………面白おかしい?」

「は? 何でだよ! だってこれは本当にあった話で……!」

「あのなあ……」

 本当にあったと銘打つのは、自分の身に起こるかもしれないという恐怖を相手に味わわせる事が出来るからで、これを使う場合、心霊という非現実に則しながらも、ある程度は現実にも則さないといけない。そうしないとあまりにも実感が湧かなくて、何も怖くない。怖いのはむしろ頓珍漢な事を言うお前の頭だと言われてしまうだろう。俺も一度だけ即興で碧花に怖い話を聞かせた事があるが、その時の感想は…………

『うん。怖い話をして、私を怖がらせようとしたのは理解出来るけどね、君。こんな真昼でおどろおどろしい雰囲気も作れていない中、怖い話で怖がらせようというのが無理なんだよ。ここが私と君の二人だけだったらまだ話も分かるが、そうじゃない。他に人が居る。怖い話というのは、まずはそういう雰囲気が無いと成立しないものさ。告白する時に二人きりになるのはどうしてだ? つまり、そういう事だよ」

 怖い話をするから怖くなるのか、怖い雰囲気だから怖い話は怖いのか。鶏云々卵が云々ではないが、普通に失敗した。神崎の話を聞いていると、あの時の事が蘇ってきて何だか同情したくなってくる。しかし、この理屈で行くと神崎は俺よりも救いようがない。ここは心霊スポットとして有名な廃墟だ。その中で怪談話をして、まさか一ミリも怖がってもらえないなんて思わなかっただろう。当の本人は手応えを感じていたのもそれに拍車を掛けている。下手か、怖い話下手か。

 まあ『俺今からめっちゃ怖い話をするから、全員よーく聞いてろよ』なんてハードルを上げなかった分まだマシか。自信を持つのは結構だが、それを前提として話してしまうと百人中百人がスベる。まずスベる。スベらない場合があり得るのだとしたら、恐らく万人が最高に面白いと思う作品も存在する。それくらいあり得ない。

「怖い話っつうのはな、ある程度リアリティが必要なんだよ。それをお前は何だ。話の始まりが金星ってどういう事だよ。そもそも金星に人は住めねえし」

「夢があっていいじゃねえか!」

「金星から井戸の話に戻る過程が意味不明だって言ってるんだよ。奇妙ではあったが、怖くはなかったぞ」

 これは勿論俺だけの意見だけではなく、碧花の方へ目配せをすると、彼女も頷いて神崎の肩に手を置いた。

「私も同意見だよ。君はなんというか……絶望的に怖い話をする才能が無いんだね。狩也以下の話を聞いたのは初めてだよ」

「あ、碧花…………」

「まーまーそう落ち込まないでよ! 確かにこれがトリだったら私もおこおこだったけどお、最初だしい? そう気を落とす事は無いってー」

「あ、ああ…………」

 こんな言い方はあれだが、意外と奈々は優しい。取り敢えず、神崎は脈の無い碧花よりも、脈のありそうな彼女を狙うべきではなかろうか。ただし、八方美人という言葉もある通り、奈々が万人に同じ反応を返した場合は脈無しだ。そこで脈があると思った場合はダメ男だが、少なくとも彼女いない歴=年齢でない神崎がそんなミスをするとは思えない。そんな阿呆な事をするのは、恋愛のプロを語るモンスター童貞くらいだ。

 俺ではない。断じて。

「じゃ、じゃあよ。どうやって回るか? 次は……碧花か?」

「それでいいよ。生憎と、トリを飾れる程怖い話をする自信は無くてね。逆回りになっていたらどうしようかと思っていたんだ。私の場合はどうか作り話を前提として聞いて欲しいね。私が今から語る人物も、団体も、場所も、全ては架空という事にしておいて欲しい」

 妙な前置きをしてから、碧花は大きく息を吸った。

「あれは一か月前の事だった―――」









―――ん?


 






 次回は長い。八月二十七日の内に二回します。

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