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七不思議との対峙   1

 調査パートに移行します。

 結局俺は部長がくれた紙の意味も分からないまま放課後。七時になる前に俺は家を出て時間を調整。夜の校舎に侵入する事自体は初めての事ではないので、ちゃんと準備は出来ている。懐中電灯と新聞紙、それと水筒。これさえあればもしもの事があってもばっちりだ。水筒は塩水にしようかとも悩んだが、ああいうお清めはちゃんとした神聖な塩でないと意味がないので、大人しく水にしてある。

 俺が校舎前に辿り着いたのは七時三分の事だった。たかが三分、されど三分。来ていても一人か二人くらいだと思っていたのだが、流石はオカルト部。気合いの入れ方が違う。俺以外は、既に到着していた。

「先輩、遅いですよ」

「悪い。思った以上に夜がこ……暗くてな。道に迷いかけた」

「何ですか? その一度も夜を見た事がない人みたいな発言は」

 流石に苦しい言い訳だった。萌の後ろには、相変わらず俺に敵意剥き出しの藤浪と、その目立つ銀髪から察するに、今日の昼休み中に来れなかった我妻。それと見知らぬ男女が一人ずつ。顔は結局最後まで見えなかったが、恐らくこの中に部長の姿はない。

「クオンさんは?」

「それが、居ないんですよ。私達全員に『俺はもう着いてる。早く来い』って急かしてきたのに。でも入り口は開いてるみたいだから、先に入っちゃったのかもしれませんね」

「先に入った? 何で?」

「私に聞かれても……でも、部長って一人で調査するって言ってましたし。私達に何か言われるのが嫌だったんじゃないですかね」

 少し分かる気がする。あの時集まらなかった部員にあの事を話しても恐らく反発されるだろうし、一人で行きたいのなら先に行って勝手に孤立しておくという判断はそう悪いモノじゃない。ならばこちらは結束を強めるべきだろうと、俺は我妻も含めて面識のない部員たちに軽く挨拶をした。

「『首狩り族』の首藤狩也だ。今回は七不思議の調査に協力させてもらう。宜しく」

「おう、『首狩り族』か。俺は我妻宗伯アガツマムネノリだ! お前の噂は常々聞いている。だが、俺の首は取れないだろうな!」

 オカルト部に所属している割には随分と明るい雰囲気を持つ我妻は、どうしてオカルト部に所属しているのか分からない位に明るい。というか暑苦しい。クオン部長に脅されたのではないかと思ってしまうくらい、あまりにも陰鬱な部活には似合わなかった。いや、これは流石に偏見だ。萌だってオカルト部よか写真部に居る方が自然である。似合う似合わないは、この際どうでもいい。

御影由利ミカゲユリ。貴方が首狩り族……なの」

「ああ。もしかして…………誰か巻き込んじゃったりしたのか? だったら謝るしかないんだが」

「ううん。でも貴方は……興味深い。どうして殺人犯として捕まらないのか」

「え?」

 声音の落ち着きぶりに反して、その言葉は荊の様に刺々しい。あまりにも辛辣と言うか、容赦の無い物言いに俺が言葉を返しかねていると、御影は勝手に言葉を続ける。

「もしも貴方が本当に『首狩り族』なら、とっくの昔に独房に居る筈。なのに居ないって事は、貴方は『首狩り族』でも何でもないって事」

「………………意味が分からん。何が言いたいんだ?」

「―――分からなくていい。私は分かってる」

 俺自身が陰陽の中間に居る様な性質である事も関係しているが、基本的によっぽど突き抜けていない限りは、俺もノリを合わせる事が出来る。七不思議を調査するまでの間柄とはいえ仲良くしておきたいのだが、その勝手な言葉締めを聞いた瞬間、俺は御影の性質を何となく理解した。これはあれだ。語彙力の低下に伴い、俺も雑な言葉で表すが、ボッチ系の女子だ。体育祭とかで、混じれる輪も分からずにその周りでポツンと孤立している、本人が紛れているつもりでも見る人が見れば一発で分かる様な孤立の仕方をしているタイプの女子だ。

 会話とは他人とのキャッチボールであり、それが上手く出来ない人を話下手、出来る人を話し上手という。が、彼女の場合は上手下手以前に、自分が上手いと思えばその時点でキャッチボールを終わらせてしまう人間だ……

 俺の喩えが下手くそ過ぎたので直球で言わせてもらうと、話を勝手に自己完結させてしまう思い込みの激しいタイプだ。この手の人間は人の言い分など全く聞き入れず、自分の見たもの、考えた事しか信じようとしない。俺が一番合わせづらいタイプである。

「貴方が噂の『首狩り族』ですか! 初めまして、俺の名前は内裏陽太ウチウラヨウタです! クラスの皆からは『お内裏様』って呼ばれてます!」

 お内裏…………! 

 というのは、ひな祭りにおける男雛の事である。本来は女雛と合わせてそう呼ぶが、これは愛称なので細かい事についてはどうでもいいだろう。俺の『首狩り族』と似たような経緯で付けられていそうだが、そこに違いがあるとすれば俺は不吉さから、そしてこの後輩は、恐らく単なる愛称。一瞬でも同士として仲良くなれそうだと思った俺が馬鹿だった。

 碧花と過ごしていて退屈という事は無いが、別の友達とも話してみたい。のだが、上手い事は行かない様だ。

「所で狩也先輩。クオン部長の顔ってご存知ですか?」

「部長の顔…………いや」

 そもそもあの時は完全に締め切られた部室の中。それも光は角度が悪かったので見えていない。あんな目の前に居たというのに、不思議な事もあるものだ。

「どうしてそんな事を聞くんだ?」

「いえ、俺も見た事が無いので」

「は?」

「クオン部長って、いっつも顔が見えないんですよ。部室に居る時はいつも狐のお面被ってるし。被ってないかと思いきや光の反射とかで見えなかったり、後ろを向いてたり。だから教えてもらおうかなって思ったんですけど……」

 そう言うのは俺ではなく萌や藤浪に聞いた方が良いのではないだろうか。俺が視線だけで二人の方に目配せすると、陽太が「駄目です」と言った。

「二人も知らないって言うんですよ」

「は? じゃあ御影は?」

「知らないらしいんです。だから俺、部室以外で部長に用があっても、誰に声を掛けて良いか分からないんですよ……もし七不思議の途中、部長の顔を見る事があったら教えてください。いいですか?」

「ま、まあそれくらいならいいけどな」

 俺は一つ考えた。危険な七不思議について調査するよりも、クオン部長の顔について調査をした方が色々と平和なのではないだろうかと。というか、何より驚いたのは萌や藤浪すら部長の顔を知らないという点だ。意味が分からない。一般常識的に考えてそんな事が可能なのだろうか。そもそも……それに何の意味があるのだろうか。

 挨拶も程々に、そろそろ外で待つのも疲れたので、俺は入り口と称される場所まで近づいた。一階の女子トイレだった。足元にある窓の鍵が開いており、俺くらいの体格ならギリギリ一人通れるだろう。

「…………あれ? これ犯罪じゃね?」

 不法侵入の事ではない。こういう準備を全て部長が行ったというのならば、男子が女子トイレに入ったという事になる。それはもう……色々と問題ありだ。

「あ、先輩。もしかしてそろそろ行きたいですか?」

「いや、行きたいっていうか……行くしかないんだろ。俺とお前はとっくにペアだし、組み合わせ云々で揉める事も無い。文句も無いしな」

 露骨な舌打ちが聞こえた。流石に聞き逃せない。藤浪と呼ばれる少年は、どうやら俺が何をしても気に障る様だ。一体俺が何をしたのかは分からない。聞いても多分教えてくれない。それくらいの陰湿な気配を彼から感じる。

「それもそうですね。じゃあ私達は先に行きましょうか」

「……いいのか、それで」

「私達が居なくなったら残り四人ですから、決まらないなんて無いと思いますし。それじゃあ先輩、先に入って下さい」

 俺がスカートの中を見るとでも思っているのだろうか。そう考えているのならばとても残念だ。彼女の用心深さ、いや警戒心の強さには感服せざるを得ない。がっつり見るつもりだったのに、暗に釘を刺された感じがして、とてもじゃないが俺にはそれを敢行できる勇気は無かった。

 萌に背中を押されて、俺は校舎の中に足を踏み入れる。夜の校舎に入るのはこれで二度目だが、不思議と懐かしさも感じなければ心も踊らない。あるのはただ、校舎を包む静寂と共にある無限の恐怖だけだった。

 






 

 クオン部長の謎は深まるばかりである。

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