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居ない居ない 

 主人公が只の思春期にしか見えなくなってきた件について

 七不思議を全て聞いた頃、俺は全身の戦慄きが止まらなくなり、今にも帰りたい衝動に駆られた。しかし、俺が滞在している間に彼女の両親が帰ってくる事も無かったので、一階の方は相変わらず寂しくて薄暗い。お忘れだろうか、俺は学校の帰りに碧花の家に寄っている。つまり外は夕方ないしは夜なのである。

 この時ほど、何故俺は碧花と一緒の家に暮らしていないのかと思った事はない。特に深い意味は無いが、碧花と一緒に住んでいればこんな恐ろしい思いをする事は無かった。正に行きはよいよい帰りは怖い。一歩も動きたくなかった。

「……そんなに怖かったのかい。怖がりなのは知っていたけど、今にも失禁してしまいそうな勢いじゃないか」

「漏らして良いか?」

「漏らすなら私のベッド以外で頼む。出来れば一階のトイレで頼む。掃除をするこっちの身にもなってくれ」

 流石にそれは冗談だが、俺は灯りが付いているこの部屋から動きたくなかった。泊まるという選択肢も無くはない。俺が泊まると、恐らく偶然だが、碧花のテンションがやけに高いのだ。恐怖に精神を支配された今、テンションの高い彼女を見て癒されるという手段はあるのだが、俺が宿泊した場合、天奈はどうなる。只でさえ彼女は一度攫われた事があるのに、また一人っきりにする程俺は薄情じゃない。

 因みに前代未聞のクソゲーことブラック人生ゲームは、二回戦が終了した所だ。一回戦は俺が両足を切り落とされた事で何の出目を出しても動けなくなって詰み、そして二回目は俺が三回目のマスで出会ったキメラが六回目のマスで出会った生き別れの娘と仲良くなった処を三十二回目のマスから出てきた液体状の国語教師が連れ攫い、それを救おうとして死んだ。

 という内容の精神拷問を受けて死んだ。もう意味が分からない。最終所持金はマイナス一かん。最早どれくらいの数字なのかよく分からないが、兆の大分上にある単位らしい。碧花は一回目はゴールしたものの、俺が仕掛けた地雷によって爆殺。二回目は電車に乗っていた所を痴漢と間違われて捕まり、そのまま絞首台へ。エンド。

 総合的に、ゲームバランスが欠如したクソゲーだった。夢も希望も何もないのは事実だが、最早ハッピーエンドなど死刑囚を選んだ時点でないという事か。人生ゲームには珍しくゴールが複数あるのだが、どれを選んでも最終的には死んでいる事が示唆されているのがスッキリしない。友情崩壊というか、精神が弱ければ軽く鬱にもなるゲームだ。

 まあ、碧花が居たので楽しかったが、七不思議が怖くてそれ処じゃ無かった。

「そう言えば君、そろそろ帰った方が良いんじゃないのかい? 妹さんを一人きりにしてていいの?」

「いや、それは分かってるんだけど……」

 碧花は病人なので、連れだせない。俺は軽く扉を開けて、再び外の暗闇を確認する。

「まさか、夜が怖いのかい?」

「ば、ばばばばばかやろう! そんな訳ないだろ、俺の男気舐めんな!」

 碧花に格好良さを見せるなんて随分前から諦めている事だが、この時の俺は俺自身の為にも格好つけないと精神を平常に保てなかった。そんな俺を碧花は軽い声音で小馬鹿にしてきた。

「そこまで露骨に怖がるのはどうかと思うけどね。そんなに恐ろしいのなら、泊ってくれてもいいけど」

「やめろ、俺を誘惑するな! そんな風に優しくされると靡いちゃうだろ!」

「残念だ。でも私は病人だから、ここを出る気は無いよ。帰るなら君一人でね」

「お前が言うなよ!」

 本当に病人なら、最初にガス銃を突きつけるなんて真似はしないのである。俺から言うならともかく、碧花からそれを言うと、最初の彼女は一体何だったのかという新たな問題が浮上してくる。それこそ、新たな七不思議である。

 部屋の扉を隔てて未だに躊躇し続ける俺に、碧花も流石に呆れが生じて来た様だ。肩をすくめて、首を振った。

「そんな怖がりなのに、よく参加したものだね。今からでも遅くない。断ってきたらどうなんだい?」

「そ、それは…………断る! ほ、ほほほら。苦手は……克服するものだしな!」

「それはそうだけどね。だったら早く帰りなよ。時間は待ってくれないよ?」

 俺は扉から片足を出して、更にもう一足。両足が完全に出た所で今度は体を……と思ったが、両足だけを先行させる作戦は無理があった。俺は目の前の廊下で盛大に滑り、後頭部を強く打ち付ける。鍛えている筈もないので、腕力だけで俺の身体全体を支えるのは幾ら何でも無謀だった。俺自身は、俺が持ち上げられないくらいには重い。

「がおおおおおおおおおおお…………!」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫だ……むしろ、痛みで恐怖が紛れたまである…………」

 たんこぶが出来たのではないかと疑うレベルで激痛が直撃個所から迸っていく。お蔭で暗闇に対する恐怖が紛れて、今なら帰れそうだ。俺は鞄を肩に提げて、別れの挨拶も程々に玄関へと向かう。

「じゃあまた明日な!」

「ああ。今日は来てくれて有難う。お蔭で退屈を紛らわせたよ」

「そう思ってくれたら幸いだぜ! じゃあな!」

 空元気と言われればそうかもしれないが、それでも俺だって愉しかった。きっと、彼女も同じ気持ちでいた事を信じたい。







 





 家に帰った俺は、玄関に到着するやその場に崩れ落ちた。

「あ、お兄ちゃん。おかえ―――り? え?」

「おお、妹よ……申し訳ないが、頭を冷やす氷を用意してくれないか。もう無理だ、俺は…………七不思議に殺されたんだ」

「は? 何言ってるのかちょっと分からないけど……分かった! ちょっと待ってて!」

 学校七不思議その八。碧花の部屋の前は滑ると痛い。


 学校関係なかった。


 普段より難聴になってしまった俺の耳に、妹の足音が入り込んできた。

「お兄ちゃん、持って来たけど……たんこぶ出来てるよ。転んだの?」

「ご名答だ…………お兄ちゃんは実は余裕がないんだ。だから膝枕とかしてくれると有難い」

「―――先に食べてるから。じゃあね」

「あーごめんごめん! ごめんって! 取り敢えずそれだけでも置いてってくれ。お兄ちゃんが悪かった!」

 天奈はわざとらしく「どうしよっかなー」と悩んだ後、硬貨を弾く音が聞こえ、次いで肌の叩き付けられる音が聞こえた。

「お前、コイントスしてる?」

 何故か答えてくれない。一体どっちがどっちなのかは判然としないが、俺の頭に冷たいものが乗っかったという事は、取り敢えず勝負には勝ったという認識で宜しいのだろうか。多少なりとも元気を得た俺が妹を見上げると、明かりの影響で若干影があるものの、天奈は露骨に口を尖らせていた。両手を腰に沿えていると、尚の事許される気がせず、思った以上に圧迫感を感じる。

「ねえお兄ちゃん。私、恥ずかしいよ。どうしてこの年にもなって転ぶの? お兄ちゃんって実はおじいさんだったの?」

「随分と兄様を煽るじゃないか妹よ。誰にだって一度や二度転ぶ事はある筈。……それにな、ここ最近の老人は頑強だ。喧嘩を売ってもワンパンで沈められる未来が見える。ジョギング中のご老体には気をつけろよ?」

 特にヤバいのは一見してガリガリのご老体だ。ああいうご老体は見掛けこそ貧弱だが、立ち止まり、歩き出した瞬間。俺はそれに気づいた。

 背筋が曲がっていないのだ!

 どうでもいい事の様に思えるが、背筋が正しく伸びているというのは格闘技の世界においてとても重要な事であり、病気でもない限り多くの格闘家達は姿勢を正してきた。つまりあの時見たご老体は恐らく格闘術の達人であり、俺は殺されなかった事を幸運に思うべきだ。

 超絶的な不運を持つ俺なら、多少の物事の道理は無視されるのだし。

「助走つけて殴ってくる通り魔なんか居る訳ないでしょ? ……全く。お兄ちゃんの事だから、どうせ鼻の下でも伸ばしててうっかりしちゃったんでしょ」

 まだこちらが何を言った訳でもないのに、天奈は軽蔑する様にそう言って、さっさとリビングの方に戻ってしまった。確かに下着が見えないかと思って碧花を寝間着越しにガン見した事はあったが、何か釈然としない。結局下着は見えなかったし。

「おいおい! 何で見ても無いお前がそんな事言えるんだよ! 良いか妹よ。お前に社会の厳しさを教えてやる。世界はな、論より証拠なんだよ分かるか? つまり、お前が俺の事だからと根も葉もない事を言ってきたが、そう思う証拠を提示しなければお前は俺の名誉を傷つける暴言を吐いたという扱いに―――!」

「ベッドの下の本、私が見つけられないとでも思ったの? お兄ちゃんがボンキュッボンの人が好きって事くらい知ってんの、こっちは」

「―――ヒョ?」

「そう言えば、お兄ちゃんに会いに来てくれた人もそうだったよね。これ、証拠になる?」

 何故妹が俺の秘蔵コレクションの事を知っているのかは分からない。恐らく超能力者なのだろう。本来の俺ならば羞恥のあまりこの場で悶絶死する所だが、今の俺には全く以てどうでもいい、些事に過ぎなかった。

 そう、俺の天才的頭脳がまた閃いてしまったのである。

 今の時期は冬や秋ではない。当然、寝間着も風邪とはいえそれなりに薄い筈だ。というか彼女はほぼ健常だったので、わざわざ彼女が病人らしい厚着をしていたとは考えられない。ここからは経験になるが、高校生活においてクールビズ……ネクタイ未着用容認期間は、俺達男子高校生にとっては女子のブラ透けを好きなだけ見れる夢の様な期間だ。その対象には勿論碧花も含まれており…………



 一応謝罪する。大変申し訳ございませんでした。



 俺は碧花が好む下着の色を把握している。しかし今回、寝間着から僅かにでも透けなかったという事はつまり…………







 



 そもそも、着けていなかったのでは?

 その事に気付いてしまった瞬間、俺は宿泊の選択肢を蹴った自分が誇らしく思えた。もしも今、目の前に居るのが天奈ではなく彼女だったなら―――ああ、神よ。自制心の弱い私をどうか許してください。

「……お兄ちゃん?」

「え、何だ? 俺は下着なんて見てないぞ!」

「…………何言ってんの?」

 またも閃いてしまった俺の天才的頭脳が囁く。今、俺は……墓穴を掘ったのだと。

 私の作品主人公には珍しく欲望に素直ですね。


 一人は狩也を超える恋愛ヘタレ

 一人は性欲の存在しない男を疑う何か

 一人はちょっと言い表しづらいけど、素直に見せかけた誰よりもひねくれてる人。

 


 何だこれ。




 三日以内ですが、作者の天才的頭脳によれば、明日投稿されます。多分次の話かその次で裏側の時間に入ると思います。

 所で段々狩也君が変態化してきた気がするんだけどきのせい? なんかもう手遅れじゃない?

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