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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE1[i]

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不生誅殺

 明らかな他人が二人交わったら、今まで通りの旅は出来ないと……少なくとも俺はそう思った。二人とも喋らなくてはいけないし、碧花だけを眺めていたら、確実にスケベ認定される。連載途中で作風が変わった漫画を見るが如く、俺の楽しい時間は終わってしまったのだと、心の中で溜息を吐いていたが……

「いやあ空気が美味しいな。都会に住む者としちゃ、全く別の世界に来た気分だよ」

「私達の地域がガッチガチの都会かと言われると、違うと思うんだけど」

 これが意外と、続けられる。

 というのも、神乃と美原は基本的にお互いとしか会話をしないので、無視を決め込んだ所で空気が悪くなる事がないのである。それでも同行する以上交わさなきゃいけない会話はあるが、この状態を提案したのは他でもない碧花なので、そういう会話は全て彼女が済ませる。よって、俺の関わる余地はなく、今まで通りの旅が続いているという訳だ。

 現在、俺達が足を踏み入れているのは邂逅の森と呼ばれているらしい森。何でも死者や二度と会えなくなってしまった人などに、一度だけ会えると言われている森であり、この付近の人々は度々訪れている様だ。因みに近くの神社の神主さんの情報なので、真偽は定かではない。

 だからと言って俺達にそういう人が居るかと言われると居ないのだが。旅のルールに沿った結果、足を踏み入れる事になった。こういう場所に入ると、大体よく分からない何かに襲われるのがいつもの俺だが、真昼間に幽霊に襲われた事は無いし、そもそもその手の存在は夜に現れるのがセオリー。

 こんな事を言うと如何にもフィクションっぽくなるが、そういうケースが多々あるのは事実だから仕方ない。

「でもなんか空気が違う感じしないか? こう息を吸うと……心が洗われるみたいでさ」

「遠出をして舞い上がってるだけだよ。遠足みたいなものだ。大体、森なんてうちの地域にもあるじゃないか。そんなに森が好きなら毎日深呼吸しに行けばいい」

「ひでえな! ……ってか何か、お前怒ってないか? 発言が凄い刺々しい気が」

「気のせいだよ。ただねえ……森はあまり好きじゃないんだ」

「え?」

 意外だった。俺と一緒に何度も足を踏み入れているのに、そんな話は寡聞にして聞いた事がない。もしその話が本当だとすると、森が嫌いな彼女に、俺は何度も付き合わせていた事になる。

「もしかして虫とか……嫌なのか?」

「そう言う事じゃないんだけど。森に来ると、何故だか視線を感じる気がしてね。落ち着かないからあまり好きじゃないだけだよ」

「……怖い事言うなよな」

「ふふ、ごめん。驚かすつもりは全く無いんだ。ただ視線を感じるのは本当なんだ。何処の森でも変わらないんだよ。こればかりはね」

「怖いのか?」

「いいや。不愉快なだけだ。それに、こんな事を言うのはなんだけど、君の周りに居たら……虫なんて怖くなくなるよ。嫌でもね」

 苦笑混じりにそう言われて、俺も渋い笑みを浮かべた。そりゃそうだ。俺の周りに居たら虫よりも遥かに恐ろしい存在に襲撃される。しかも虫よりも遥かに危険で、よっぽど命を奪ってきそうな奴等ばかりだ。

 これも『旅』で忘れたい記憶の一つではあるが、碧花がジョーク的に使って来てくれたお蔭で、俺への精神的負担は少ない。それにこれらの体験は俺と碧花の絆を深める事に繋がっているので、多分忘れようと思っても忘れられない。忘れてはいけない記憶だ。『 』とは違う。


 森に入って一時間が経過した。


 整備されているとはいえ未だに出口の見えない道を相手に、俺の不安は次第に積もっていく。

「な、なあこれ……出口あるのか?」

「無かったら獣道になっているとは思わないかい? 道が整備されているという事は、入り口と出口がちゃんとあるって事だ。お化け屋敷じゃないんだから、怖がらなくてもいいのに」

 昼間に幽霊は居ないと俺は言ったが、木々の背が高いばかりに日差しを遮り、微妙に薄暗いので、ひょっとすると出るかもしれない。出ないという思い込みは、俺にとってはお化けを否定し続ける歌と同じくらいの一時凌ぎだ。

「……なんか、奥の方に行けば行く程暗くなってないか?」

「気のせいだよ。後ろの二人にも聞いてみれば良い」



「気のせいだろ」

「……き、気のせいだと思います」



「まだ聞いてないだろ!」

 クソ。怖がってるまともなのは俺だけか。神乃や碧花は怖がりそうもないのは見た目で分かるとして、どうして美原までも大して怖がっていないのだ。これじゃいつにも増して俺が情けなく見えるじゃないか。

「ほら、出口が見えてきたよ。良かったね、無限通路じゃなくて」

「え、マジで…………あ、マジだ!」

 奥の豆粒みたいな光。俺の二倍の視力を持つ彼女が出口と言ったのだから、間違いあるまい。目を凝らしてようやく出口を認識するや否や、俺は碧花の制止を差し置いて駆け出した。

「あ、ちょっと狩也君……ッ!」

「出口だあああああああああ!」

 自己暗示もいい加減限界だった。お化けなんて出ないと否定すればする程、反動で肯定し、それを信じ込んでしまう。自己暗示とは言うなれば自信であり、元々自信を持つ事が苦手な俺がそれを得意とする道理は無かった。だから普通に出口が見えた時、俺の心は本当に救われた。

 邂逅の森に入ろうと言い出したのは俺だが、今となっては死者よりも出口に会いたかった。その夢が叶った瞬間が、今である。

 ちゃんと距離も縮まっているし、本当に普通の出口だ。何だかまた走っている気がするが、旅館から神社への距離と比べればこんな距離は大した事がない。


 邂逅の森を抜けた瞬間、目の前に広がる光景に、俺の足は止まった。


「―――うお」

「急に走り出さないでよ。ビックリしたじゃないか」

「い……いやいや。碧花。それよりもこの景色―――!」

「景色…………ああ、これはこれは」

 日差しを遮っていた木々が全て消え、上空には真っ青な空が何処までも広がっている。上空から見れば森にぽっかりと穴が開いている感じだろう。その地上面は、見渡す限り花畑が広がっている。邂逅の森の奥に、まさかこんな綺麗な場所があったなんて。

 俺達はそんな花畑を、崖(横の方に折り返し気味に道が通じていてそこから下りられるので、崖と言うには微妙だが)から見下ろしていた。

「こりゃあ……大したもんだな」

「す、凄い……!」

 遅れて二人もやってくる。碧花とは違って息が乱れているが、そんな二人もこの景色の綺麗さに心を奪われ、暫時は呼吸も、疲労すらも忘れて、見惚れていた。

「……こういう花畑ってネットでしか見た事無かったけど。目の前にすると、何か凄い……感動するな」

「どうしても会いたい人が居る人間がここに来る……なんて言われていたけど、案外、真実なんてこんなものなのかもしれないね」

「ん。どういう事だ?」

「基本的に人間は、美しいモノに心を癒される傾向にある。死者に会うなんてのは口実で、案外これを見に来て、心の傷を癒してるだけなのかもしれないねって事」

「ああ……」

 今まで非現実的な怪異に襲われている俺が言っても『それこそ非現実的だ』と言われかねないが、死者に簡単に会えたら苦労はしない。死者とは会えないから悲しくなるのであり、心残りが一生残ったままになるから辛いのだ。

 簡単に会えるのなら、俺だって会いたい人間が居る。



 

 …………『妹』、とか。




「…………うッ!」

 俺はその場に膝を突いて、その場に蹲った。

「……狩也君ッ?」

 『妹』、『妹』ってなんだ? 

 違う『妹』はつまり俺の『妹』で、『妹』の夢はもう皆ます、で死を声から『妹』が送でく『妹』の身失せる前の『妹』は俺の家に来て? 暗闇の中にし、去り沈んで、妹久しく喜びでたが、『妹』は死ウ? 目の前ので二人死に天奈すまな。


「『狩也』君!」


 突然、頭痛が消えた。膝を突く程の痛み処か、むしろ今まで以上に冴えている気がする。何事も無かった様に立ち上がって振り返ると、同行者の二人も不安を顔に浮かべ、俺に何と言葉を掛けてよいやら迷っていた。

 碧花は、俺の肩をぎゅっと掴んで、素人目に健康状態を観察していた。

「……何だ?」

「何だ……じゃないよ。急にどうしたの?」

「俺も良く分からん」

「へ?」

 碧花が首を傾げる。合わせて俺も傾げた。

「だから俺も良く分からないんだって」

 しかも不思議な事に、苦しんでいた記憶はあるが、何で苦しんでいたのかが全く分からない。いや、『 』の事で苦しんでいたのは分かるが、それでどうして苦しむ事になる。

 俺が苦しむ要素なんて、一つも無い筈だ。そうだろう?

「……結局何だったんですか?」

「いや、だから俺も分からないんだって。今の……何だったんだろうな。アハハ」

 美原に冗談っぽく笑みを向けてから、現状一番俺を気にかけている碧花に対し肩をすくめる。頑張って笑ったつもりだったが、碧花は全く笑わない。


      


 

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