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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
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死は素晴らしき招待状 後編

 ダークフォビアとどっち出すかで悩んだけど明らかにこっちの方が需要がある。

 その後も俺達は店を回り続けたが、つい先程の店が驚愕のピークとなってしまった。いやまあ、あれが単純にヤバ過ぎただけなので、他の店は別に悪くない。他の店だって面白みがない訳じゃないのだ。例えばあそこの……えー。


 とにかく、俺達は色んな店を回った。


 商店街のほぼ全てを回ったと言うと過言になるが、十店舗以上は確実に回った。それもゆっくり、時間をかけて。俺は特別買い物好きという訳ではないのだが、隣に碧花が居たからだろう。いつもは苦痛に感じる筈なのに、買い物がやけに楽しく感じた。

 かつての俺なら三時間もすれば「そろそろ帰ろう」と言い出していただろうが、三時間なんてあっと言う間だ。好きな人が傍に居るなら、誰だってそうだろう。叶う事なら、俺は一分一秒彼女と離れたくないのだから。

 勿論、そんな事は出来ない。結婚したとしてもプライベートの時間がある様に、一分一秒離れずに過ごすなんて不可能だ。どうしても一緒に居たいとするなら、それは恐らく碧花を殺す事に繋がってくるが、生憎と死体愛好家ではない。俺は生きている彼女の事が好きなのだ。

「旅とはいえ、かなり買ってしまったね。大丈夫かい?」

「いや、結局大体見て回っただけで、買ったの食品かさっきの簪じゃんか。手元にそんな残ってねえよ」

 俺も彼女も、リュックサックの様な物を持っている訳ではない。たくさんモノを買っていたら手が重くなって、終いには旅が続行不可能になってしまう。そもそも俺達はショッピングではなく、旅をしているのだ。当てもなく、気の向くままに動く。買い物を止めたのも、単に買い物が飽いただけの事。ちょっと格好良く言うなら、偶々立ち寄っただけだ。

「しかし……ちょっと時間掛け過ぎたな。もう夕方だぞ」

「そうだね。危うく旅というのを忘れかけてたよ。そろそろ泊まる所探そうか」

「え、まだ良くないか? 夕方かもしれないけど、夕方なんだぞ?」

「言わんとする事は分かるけど、私じゃなきゃ何言ってるか分かんないよ。いいかい? 私達の住む地域にホテルが何か所あるか知ってる?」

「……三十か所くらいか?」

「そんなにないね。あっても精々五か所、少なく見積もって二つと言った所か。前提条件として、この地域は私達の住む場所よりも田舎だ。その度合いはごく僅かかもしれないが、私達の地域よりもホテルが多い道理って無いだろ? まあホテルじゃなくて旅館でも良い訳だけど…………どちらにしても、そんなにポンポンと乱立されている建物じゃない。宵になる頃に探し始めたんじゃ遅いよ」

「野宿は……選択肢にあるとはいえ、嫌だな」

「それならそれで、野宿に適した場所を探さないとね? 警察に見つかるのも面倒だから、もしかすると宿泊場所を探す以上に骨が折れるかも」

 どちらに転んでも待っているのは苦難、か。道を選ぶという事は必ずしも歩きやすい安全な道を選ぶって事ではないと、夢のある狸が言っていたっけか。全くその通りだ。

「……そうだな」

 どっちに転がっても苦労するなら、宿泊場所を探そう。俺の要望は旅館だ。旅館の方が旅してる感じがある。決してやましい事は考えていない。温泉を覗こうとか、混浴だったら嬉しいとか、全く考えていない。

「一応聞いておくけど、宿泊施設に心当たりは―――」

「無いよ。この土地は私も知らないね。調べようと思えば、君の携帯を使えば簡単に調べられる訳だけど」

「―――それは最終手段にしておきたいな」

 もしも萌とか那峰先輩からの不在着信なんてあったら、俺はどうにかなってしまいそうだ。俺は『 』の事を忘れる為に旅していて、『 』の事を思い出させるからあの地域を離れたのであって。


 ―――まだ、傷が癒えた訳じゃない。


 碧花と一緒に居るから元気なだけだ。一度風呂にでも入って感傷的になったが最後、俺はもう一度思い出してしまうだろう。

 兄としての責任を。

 守れなかった無力さを。

 そういう悲しみから全部逃げたくなったから旅をしている、というのは何度も言った通りだ。なので携帯に触るのは最終手段。野宿の場所すら見つからなかった場合の、最終防衛ラインだ。

「……ああ、待って。嘘吐いた。心当たりならあるよ、一つだけ」

「え?」


「ただ…………狩也君。法を犯す勇気はあるかい?」


「え?」

 同じ言葉でも、内包された意味は全く違う。唐突にそんな事を聞かれて即答で答えられる人間が果たしてどれくらい居るだろうか。答えなんて、きっと多くの人がノーと答えるだろうが、それでも即答する事は出来まい。

 まずそんな事聞いてくるとは思わない。日常の中に居るなら、長い生涯の内でもそんな事は尋ねないだろう。俺はかなり面食らったが、よくよく考えなくても答えなんて決まっているので、変に捻らず、頭を振る。

「いや、無理」

「ふむ。立ち入り禁止の場所に入る程度だよ?」

「ああ何だ。確かにその程度なら……って。嫌だよ。怖いじゃん」

「私が守ってあげるから」

 嬉しくない。碧花に守られれば守られる程、まるで自分が男としてはこの上なく頼りない存在みたいで……いや、これは今に始まった話では無いのだが。今に始まった話ではないからこそ、俺は気にする。

「……何か、他に不満でも?」

 碧花は基本的には勘が異常なくらい鋭いのに、どうして俺のプライドに関わる部分は鈍いのだろうか。出来れば察してもらいたく思うが、そう思い続けた年数は碧花と出会ってから今に至るまでとほぼ同数。

 今更察せられたら、逆に何かあったのかと訝ってしまうというものだ。

「不満は無いんだけどさ…………いや、不満はあるのか。一応。うーんいや」

「もしかして、私が頼りないかい……?」

「それは無い! 違うんだよ…………ああえっとなあ」

 どうやって伝えられば幻滅されずに済むだろうか。こういう時の為に国語の勉強はしておくべきだったか。全く失敗してしまった。それに国語を勉強しておけば、必ず成功する告白とか編み出せたかもしれないのに。

「―――そんな危ない場所に行く前に、正規の施設を探そう。幸い、時間はたっぷりある。夜になるまでには見つかるだろう」

「…………まあ、そうだね。妥協というものは最初に最善を尽くしてからするべきもので、間違っても最初から妥協してはいけない。いいよ、探そう」

「因みに俺の二倍ある視力で既に見つけてたりは」

「してないよ…………君と過ごす時間が、あんまり楽しくて見てなかった」

 幾ら視力が良いからってあり得ないか。少しは期待していたのだが、どうやら本当に探す必要がありそうだ。手間が省ければそれに越した事はない。土地勘なんて皆無だし、見つけるとは言ったが―――見つからなかったらという不安が、いつまでも頭の隅にこびりついている。

 そうなれば野宿、いや、碧花が知っているらしい建物に行く事になる。

「……うだうだ考えてても仕方ねえな! 行くぞ、碧花。我、いざ宿泊施設を探さん」

「はいはい。付き合いますとも、臆病な探検家さん?」

 少し残念そうにしながらも、碧花はやれやれと手を広げるのだった。

 


  

 


   

「所でお前、さっき何か言ってた? 時間がどうこうって」

「ん……君の気のせいだよ」













 夕方と呼ばれる時間帯は過ぎ去り、夜の帳が降りてくる頃―――即ち、宵の頃。まさか宿泊施設が見つからないなどという奇跡は起こらず、俺達は無事に宿泊施設を見つける事が出来た。

 同じ事をした人物がもしも見つからなかったとしたら、それは恐らくその人自身の怠惰が原因だ。めげずに探せばあるものはある。それを俺は証明した。

「……ッチ」

「ん?」

 気のせいではない。今、間違いなく舌打ちが聞こえた。

「碧花?」

「何?」

「いや、何じゃなくて。何の舌打ちだよ。見つかって良かっただろ」

「失礼だなあ、舌打ちなんてしてないよ。旅館なんて見つからなきゃいいのにと思っただけだ」

「いや、どっちも似た様なもんだろ。もしかして、そんなにお前の心当たり行きたかったのか?」

「わざわざ言い出したくらいだし、行きたくないと言えば嘘になる。でもま、見つかったならそれでいいよ。何も君の欲求を無視してまで行く事はない」

 俺は時々、少し不安になる。碧花の性格は献身的で、とても他人想いなのだが、あまりにも自分を軽視し過ぎている気がする。今までを振り返ってもそれは強まるばかりだ。彼女は非の打ちどころがない素晴らしい女性かもしれないが、もしかするとそこだけが欠点……いや、短所な気がする。

「混浴だったらどうしようか」

「そ、そりゃお前……別々の時間帯に入れば良いだろ」

「一緒に入りたくは無いのかい?」

「……………………入りたくないって言ったら嘘になる。が」

 入ったら俺は色々抑えきれそうにないので入りたくない。『 』を忘れたくて旅に出た今も、俺の理性はきっちり機能している。これを壊す方法があるとすれば―――言わずとも分かるだろう。もう言っているし。

「ともかく、行くぞ。あー良かった。変な所行かなくて」

「そんな変な所じゃないんだけどな、心当たり」

 さて、無事に宿泊先を確保する事が出来たので、ここからはかなり行動の選択肢が広まる。部屋でゆっくり体の疲れをとるのも良いが……最初に出会ったあの巫女さんの事とか、気にはならないだろうか。



 俺は気になる。

 

 あっちとワルフラーンは深夜頑張ってみますかね。

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