死は素晴らしき招待状 前編
前編だからと言って二話投稿はしないのであ~る。
「ど、どうして……ここに」
「いや、気が付いたら萌が居なくなっててな。心当たりがお前の家くらいしか無かったもんで、ほら。クオン部長の家とか知らねえしな」
「あ、ああ……そういう事」
首藤君にしては無礼というか、非常識だと思ったけど、見た所怪我も無いみたいで、取り敢えず安心した。萌は彼に撫でられているからだと思うけど、布団に包まってはいるが、落ち着いているみたい。
「萌。ココア淹れてきたから。いい加減起きて」
「まあまあ落ち着けよ。ココアはその辺に置いてさ、お前も何があったか知りたいだろ?」
「……随分、首藤君にしては落ち着いてるね。いつもなら、取り乱していそうなものだけど」
「流石に、何度も何度も変な目に遭えば落ち着くって」
「―――そう。それで、一体何があったの」
錯乱している萌とは違い、首藤君は至って正気……むしろ普段以上に正気みたいだから、正確な説明が出来る筈。私はそう期待して、彼に何が起きたかの説明を求めると、快く応じてくれた。
「ああ。いいぞ。しかし、何だ。オレが当事者だから、自分で語る事になるのはちょっと……気が引けるというか、まあ語るんだが。―――まずは話の腰を折らずに聞いてくれ。その後に好きなだけ詰ってくれていいからさ」
首藤君はそう前置きしてから、クリスマス会後の出来事を語りだした。私もココアを机に置いて、話を聞いた。
彼が話してくれた内容は萌が話してくれたものと殆ど一致していた。首藤君にしては凄く不自然だとも思ったけど、やはり当事者……本物の首藤君だった。彼が指切吞目について知っていたのは驚いたけれど、それもどうやら、別の詳しい人が関わってるみたいで、彼本人の知識では無かった。
「―――まあそんな所だ。オレは結局何にも出来なかった。妹は死んで、萌はこんな風になっちまって……クオン部長が居たら、ぶん殴られるくらいの失態を犯した」
「―――そう」
しかしながら、巻き込まれた人から事件を聞くのと、当事者……それも彼曰く『元凶』から話を聞くのでは気持ちの面で見方が変わってくる。言葉一つとっても彼は今回の行動全てを悔いている節が見られ、話し終わった今でさえそれは変わらない。よく泣いていない、と思う。私だったら泣いているに違いないと思えた。自分の身が危なくなった時でさえ泣いてしまうのに、家族を自分のせいで亡くすなんて事になったら―――いつぞやの時みたいに、正気じゃいられなくなる。
何と返したら彼の傷を癒せるのかが分からない。私はクオン部長みたいに頼れる人じゃないから、『もう安心しろ』なんて口が裂けても言えない。
「その……首藤君」
「何だ?」
「何をどう言ったらいいか分からないけど……その。辛かった、ね」
「―――怒らないのか?」
「怒れない……だって、一番大変な目にあったのは他でもない―――」
「天奈だよ。オレは『首狩り族』だから良い。どんな理不尽な目に遭わされても、それだけで説明がつく。だけどアイツは違う。普通の女の子だった。普通の世界で、普通の幸せを手に入れる権利があった。死ぬにしたって、普通に死ぬべきだった。老衰……それならオレも、許せた」
ココアはすっかり冷めてしまったが、それと同じくらい彼の言葉は冷めていた。双眸に差し込んでいた光は瞳の奥に生じた深淵に呑み込まれ、まるで人形の目みたいに生気がない。私が彼に感じた不自然さは、恐らくここから生じたものでは無いだろうか。
「―――死んだ人がどう思ってたかは分からない。首藤君は、自分を度外視しすぎ」
「由利。お前に何が分かる。妹はオレに巻き込まれたんだぞ」
「分からないけど。それでも貴方が辛いのは分かる。だって首藤君、声が震えてるもの」
かつてクオン部長が言ってくれた言葉を思い出す。
『目の前で誰かが死んだからって、それを自分のせいにするつもりなんか無いんだぞ? せい、というのはそれが原因である事を示す言葉だ。つまりそいつが死んだのは誰のせいかと言われると、そんなの殺した奴のせいに決まってる。いいか? 相手が辛かったとか苦しかったとか余計な事は考えるな。まあ死に責任を持ちたいっていう思想を掲げてるなら勝手にしろ……と言いたい所だが、そんなの考えて勝手に苦しむ方が無責任ってもんだ』
続く言葉を私の舌に乗せて。今度は私から首藤君に語り掛ける。
「―――死人に口なし。死人は喋らないし、考えないし、苦しまない。死は救済って考えはそういう所から来ている。死ぬ直前どんな酷い目に遭っても、死ねばそこで苦しみは終わる。だから死者の負の感情を気にする必要は何処にもない。一番気にするべきなのは生者の感情―――生き残った人の気持ち」
「…………オレか」
「そう。貴方の妹がどんなに酷い目に遭ったかは聞いたし、想像するだけでも恐ろしい事は分かってる。でも、その妹が死んだ今、一番辛いのは紛れもなく貴方。だから―――」
言葉に詰まる。一番辛いのは彼だから、何だ? 彼の気持ちを少しでも和らげようと部長の言葉を引用したのが不味かったかもしれない。所詮それは借り物。本当に大事な部分は自分の口で語らなければならない。
「―――ココアでも飲んで、ゆっくりして」
実時間一分。
体感時間十分。
導き出した答えは、あまりにも馬鹿げていた。
「…………ん。ん?」
何処のどいつが慰める為に『ココアでも飲め』と言うのか。確かに温かい飲み物を飲ませると気分は落ち着くかもしれないが、それが果たして慰めるという行為に相当するのだろうか。慰められていた本人も私の頓珍漢な発言に首を傾げていた。
急いで撤回すれば間に合ったかもしれないが、その発言があまりにも恥ずかしくなってしまった私は、何とかして取り繕おうとしてしまった。
そしてどんどん、取り返しがつかなくなった。
「い、いやほら。私が萌にココアを持ってきたのは……落ち着かせる為だし。せっかく来たんだから……ね?」
「お、おう……ううん? あ、ああ。でもそれ、もう冷めてるだろ」
「これは私が飲むから……今、新しく二人分作ってくるね」
何処か張り詰めた空気だったのに、いつの間にかそんな空気は消え去って、気づけばいつもの穏やかな雰囲気が戻りつつあった。萌の方を見ると、この雰囲気のお陰でココアを飲まずとも気分が落ち着いたか、布団からぴょこんと顔を出していた。萌自体は身体が小さく顔も可愛らしいので、今だけはまるで小動物みたいな愛くるしさがある。
「萌。もう大丈夫なの?」
「……! 一応、大丈夫ですッ」
若干大丈夫では無さそうなので、やはりココアを持ってくるしかない。頓珍漢な発言を撤回しなかったせいで、二人には私がやたらとココアを推してくる人間に見えるだろう。でも仕方ない。あの発言を撤回せずに取り繕おうとすると、どうしても己を犠牲にしなければいけなくなる。
顔から火が出そうな程恥ずかしかったが、結果的には二人の気を和らげる事に成功した。このまま滞在していても弄られるだけなので、名目上は新たにココアを淹れるという事で、私は席を外した。
もう、本当に恥ずかしい!
「あ、由利」
「な、何ッ?」
「…………少し話がある。碧花の事でな」
首藤君はナイフを逆手に持ちながら、鋭い声でそう言った。
碧花のイラストを描いてみたら(U^ω^)わんわんお! になったので出すのやめます。
ドラえも~ん! 昼寝している間に画力上がり機出して~!
あるかそんなもん。




