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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE10

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248/332

狐の遺言

24時から~30までの間にスペシャルエピソードその1が氷雨ユータの避難所にて投稿されます。文章構成は全く同じにしてありますが、状況が同じでもIFなので台詞や狩也君の押し具合などがちがいます。

「ああ…………うぅ………ふう!」

 こんな事になると分かっていたら俺は迷わず陸上部への入部を決断していた。体力不足も甚だしい。最低限体型を維持する筋トレ(と言ってよいかはともかく)はしているが、本当にそれだけだ。次からはきちんと体力も増える筋トレをしよう。きっと無駄な事ではないから。

「な、那峰………せんぱあい!」

 二時間後と言いつつも、那峰先輩も少し早く来ていた。見つけた時とは様子が違い、先輩はフードを被っている。俺のか細い呼び声はどうやら届いた様で、こちらへ向き直るや、フードを取って俺を抱き留めた。

「お疲れみたいね、首藤君」

「はいい……僕、つかれ……ふう」

 勘違いする輩は居ないと思うが、俺は決していかがわしい感情を持って先輩の胸に顔を埋めている訳ではない。これは疲れているから壁として寄りかかっているだけだ。もっと言うと、包容力のある先輩がずっと欲しかったから、甘えたいだけだ。

「…………はあ。有難うございます。呼吸が整いました」

「これくらいでお礼を言わなくてもいいわよ。どう? 妹さんは見つかった?」

「見つかってません……那峰先輩の方は?」

「勿論情報を手に入れて来たわ」

「流石! それで、一体どんな?」

「んーと。これ」


 懐から那峰先輩が取り出したのは、見覚えしかない狐面だった。


「これは……クオン部長の?」

「クオン君の?」

 …………いや。

 これは萌のだ。どういう経緯で彼女の手に渡ったかはさておき、道端に仮面を落とす様な人物と言えば萌しか居ない。クオン部長はそこまで迂闊じゃない。

「これ、何処で拾いましたか?」

「公園よ。その裏側、見てみて」

「裏側ですか?」

 怪訝そうにしつつ仮面を裏返すと、そこにはボールペンで小さな文字が描き込まれていた。


 『ハラキリダンチ・中二ノ』


 何故カタカナ。そして何故裏側に書き込んだ。筆跡鑑定は得意じゃないが、萌の字は中々癖があるから良く分かる。間違いなく彼女の字だ。

「那峰先輩。ここに書いてあるハラキリダンチって……オカルトスポットかなんかですか?」

「あら、良く知ってるわね! やっぱりそういう話が大好きだったりするのかしら」

 手を合わせて嬉しそうに笑顔を浮かべる先輩には悪かったが、俺は勢いそのままに突っ込んだ。

「見りゃ分かるでしょッ? 漢字も大体想像つくし! ……どういう場所なんですか?」

「知らない方が良いと思うけどな~首藤君がどうしても知りたいって言うなら教えてもいいけれど。ムラサキカガミみたいなものだから、知るだけ損よ?」

 それは流石に知っている。ムラサキカガミとは二十歳まで覚えていると不幸になると言われている単語だ。対処法は色々あるが、その手の話には『そもそも知らなければいい』という根本的な対処法がある。知らなければ、影響が及ぶ事も無いのだ。

「じゃあいいです。また変な目に遭いたくないんで。それで、これが一体どんな情報なんですか?」

「この文章、読んでみて?」

「え?」

「いいから読んでみて?」

 読めと言われても、黙読と音読で何が違うというのか。一文字だけ漢字なのは不思議だが、それだけだ。

「ハラキリダンチ、中にの……ですよね」

「え?」

「はい?」

「―――首藤君。もしかして『ニ』と『二』の違いが分からないの?」

 そう言われて、改めて文字を注視する。非常に分かり辛いが、中の次の文字はカタカナの『ニ』ではなく漢数字の『二』。次の『ノ』はカタカナの『ノ』ではなく―――何だ? 確かにカタカナの『ノ』ではない様だが、これが何かと言われると良く分からない。

 総じて、良く見ず、文字の読みを決めつけて読んでいたら気付けない微妙さではある。

「ノって何ですか?」

「多分だけれど、『ハラキリダンチ、中に二人』って書きたかったんじゃないのかしら。『ノ』が人の半分って根拠は無いけれど、固有名詞が出たんだし、ハラキリダンチには行ってみるべきじゃない?」

「…………そうですね」

 証拠に一々信憑性を求めていたらいつまで経っても天奈には辿り着けない。嘘でも出鱈目でも俺には行く以外の選択肢は無いのだ。それにこの仮面の持ち主が俺の想像通りなら、合流も出来る。

「那峰先輩、有難うございました! 僕、行ってみたいと思います!」

「そう。でも大丈夫? ハラキリダンチの場所は知ってるの?」

「…………」






「案内お願いします」





  









 ハラキリダンチなんて物騒な名前を持つ団地には、もう十年も人が住んでいないのだと言う。表向きは解体費用の問題で放置という事になっているが、那峰先輩曰く、現実的には、らしい。

「首藤君。突然だけれど希死念慮って知ってるかしら」

「きしねんりょ……ですか?」

「簡単に言えば死にたいって願う事。厳密には区別出来るけど、自殺願望みたいなものだと思ってくれて構わないわ。希死念慮は国民の八割九割が一度は考えた事もあるってくらい、案外身近な物なんだけど、この団地に足を踏み入れるとね、皆、突然自殺を実行してしまうの。勿論この団地じゃないわよ。自宅とか、電車とか。何でもない所で、躊躇なく死のうとするの……って。教えちゃったわね」

「…………あッ!」

 ついつい話の流れでハラキリダンチの内容を聞いてしまった。ムラサキカガミみたいな物という事は、既に俺も影響下にあるのか。

「ごめんなさい。私も流れで話しちゃった。今更遅いけどこのダンチね、話を知らない人には何の効果も及ばさないって言われてるから……全部忘れてくれる?」

「いや無理でしょ。そんな簡単に忘れてたまりますかい」

「―――ふふふッ。でも安心して? 突然自殺しようとしても、私が貴方を止めるから」

「それは是非もないお願いなんですけど、対処法は無いんですか? そもそも知ろうとしないは除外で」

「この手の話にありがちな解決策は無いわね。でも、そもそもこのお話が嘘っぱちだったらどうって事無いし。気にする必要は無いんじゃないかしら」

 実際に嘘っぱちだった事が数える程も無いからこうして俺は警戒している。件の団地を目の前に俺の足は激しく竦んだが、もしもここに天奈が居るなら……やはり、命など惜しくはない。

「有難うございました。それじゃあ俺はこれで―――」

「何言ってるの? 私も付いていくわよ?」

「はい?」

 踵を捻って身を翻す。那峰先輩にとって俺の反応は解せないらしかった。

「どうしてそんなに驚いているの?」

「いや、驚くでしょ。だって一緒に来るなんて」

「あら。でも私が傍に居ないと、いざと言う時に止められないわよ?」

 …………そう言えば、そんな話をしていた。

 内容をぶっちゃけられた事に動揺していて、前後の話をすっかり脳内から抜かしていた。そうだそうだ。もしも本当にそんな力があるなら、先輩に協力してもらわないと生き残れない。

「……じゃあ、お願いします」

「任せて! 可愛い後輩の為に頑張っちゃうから!」

 しかしこうやって話していると、流石は黄金期のオカルト部部員。肝の据わり方が尋常ではない。人の生き死にを身近で感じておきながら笑顔が出るなんて。那峰先輩を比較的まともな人だと思っていた俺が馬鹿だったかもしれない。彼女はクオン部長や西園寺部長と同じ、頭のおかしい人間の部類だ。

 でも ̷エ̷ロ̷い̷可愛いから許す。

 新しいスタイルに挑戦していく男。

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