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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE10

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244/332

影と光の交わり

スペシャルエピソード。出だしがようやく決まりました。

「…………君は、約束を破った」

 待て。違う。俺は約束なんか破ってない。

「君達以外を招けと言った覚えはない。招かれざる者が来たなら、それは君達の責任だ」

 やめろ。待って。許してくれ。何もしていない。そっちに行きたくない!

「約束を破っておいて都合の良い事を。己の愚かさを思い知るがいい」

 俺から日常を―――



 奪わないでくれ!












「うわあ!」

 寝覚めは最悪だ。嫌な夢を見た。何があって『まほろばの王』との会話を思い出さなきゃならないのか。碧花と一緒に無かった事にしていた筈なのに……やはり昨日の萌の発言が原因か。どうも心の中では気にしてしまっているらしい。仕方ない事だ。何回も死にかけたし、何回も碧花に迷惑を掛けた。自殺未遂に終わったものが、自殺の記憶を無くす筈が無いのと同じ理屈だ。

 好奇心で知らない場所を歩き回ってはいけないと。小学校低学年が教わりそうな教訓を、俺は身を以て学んだ。全く懲りてはいないが、少なくともあそこには二度と行きたくない。忘れていた罪を、思い出してしまうから。

「……ん?」

 夢の内容が内容だったので仕方ないが、かなり遅れて、俺は片腕が何かに挟まれている事に気が付いた。一度好奇心で万力に腕を入れた事があったが、固定力はそれにも劣らない。見ると、碧花が両腕と胸を使って俺の腕を抱え込んでおり、先ほどから腕を包んでいた妙な柔らかさと温かさは、これが原因だった様だ。

 

「…………え?」


 少し待って欲しい。碧花に近い方の腕は手錠で固定されていた。寝落ち直前も、この手はしっかり彼女の指と絡み合っていた。しかし現在の状況はどうだ。彼女のパジャマの前は完全に開放されていて、俺の腕はそれを下から通り抜ける形で突っ込まれ、抱え込まれている。どう考えても偶発的事故ではない。

 黒色のナイトブラを見ているとまた邪な気持ちが湧いてくるので、俺は瞑想する事で煩悩を断ち切る事にした。が、腕が実際に挟み込まれている状況では断ち切るも糞も無い。名推理の暇も無く犯人は碧花だろうが、だとしても俺に気付かれる事なくナイトブラの下から腕を捻じ込むなんて、どうやったんだ。

 ブラはきちんと碧花の巨乳に合わせられているが、そこには全く余裕がない。本当にサイズが合っているからこそ、そこに俺の腕が入ってきた事で万力みたいな固定力を発揮しているのだろう。

 だから本当にどうやって突っ込んだ。

「碧花さん? あの、出来れば起きてくれると助かるんですけど」

「…………すぅ」

 眠ってる。駄目だこれ。起きそうにない。

 ……仕方ない。あまりやりたくは無かったのだが、手持無沙汰なもう片方の腕を使って、ブラジャーを外すとしよう。

「……んッ。うごきづれえ……」

 俺は着実に身体の隙間をつめて接近していく。途中で彼女が目覚めれば変態扱いは免れないだろうが、事の発端は間違いなく彼女なので、お互い様だ。詰めて、詰めて。やがて碧花と前半身を密着させると、俺はそろそろと背中に手を伸ばした。

「―――あ。やべえ」

 下着をパジャマの上から付ける馬鹿は居ない。一旦パジャマを脱がす必要があるが、片腕で他人様のパジャマを脱がせる程、俺は芸達者ではない。漫画に良く居る筋力自慢のキャラが如くビリビリに引き千切れるならまだしも、俺の握力は五だ。それは流石に嘘だけど、精々四〇くらいだ。

 早々に俺は脱出を諦めたが、意識を素早く切り替えた事で、今度は別の所に目が行く。碧花の寝顔だ。

「…………すぅ。…………すぅ」

 美しい。まるで人形の様だ。パーツの一つ一つが精巧で、とても同じ人間とは思えない。俺はそれなりに二次元の美少女という存在は好きだが、のめり込まないのは、碧花という存在が居るからである。彼女が居なければ俺はずっと前から孤立していたし、きっとのめり込んでいただろう。俗に言う『オタク』になっていた筈だ。

 いつまで見ていても飽きない。美術館に言った所で俺には芸術を理解する事は出来ないが、それでも芸術を好む人の気持ちは何となく分かる。

 良いものは美しいし、美しいものは良い。飽きる事が無いのだ。きっと、その性質を帯びた芸術こそ、名画と言われ、名作と言われ、名刀と言われ、美少女と呼ばれるのだろう。

「…………おはよう。狩也君」

 只、顔を眺めるだけの無為な一時間が経過し、俺自身も二度寝に入りかけた頃。碧花はパチリと目を覚まし、俺の双眸を捉えた。

「うおッ! お、おはよう」

「距離が近いけど……何してるの」

「いやこっちの台詞だよ! 人の腕を勝手に谷間に挟みやがって。いい加減取ってくれないか」

「だったら私の下着を勝手に剥いでくれれば良いのに。どうしてそれをしないんだい?」

「お前初対面か? 俺がどういう人間か知ってるだろ。無理無理無理。絶対無理。俺じゃなくても抵抗あるだろうさ。そういうのに躊躇ない奴って、多分碌でもないぞ」

 俺は素早く目を瞑ると、心の中の雑念を打ち消した。

「早く外してくれ。俺は暫く物になってるから」

「君に見られても気にしないのに」

「俺が気にするんだよ」

 一日泊まって帰るつもりが、こんな所で暴走したら文字通り俺も精魂尽き果てるまで碧花に煩悩をぶちまける事になる。それだけは控えたい。妹が帰りを待っているのだ。

「そう言えば狩也君。朝食食べていくかい?」

「ん。お言葉に甘えさせてもらう。メニューは?」

「シェフの着せ替えサラダと、出任せコース」

「全然分かんねえ! 何だよ出任せコースって。お任せじゃないんかい」

「そっちに文句をつけるって事は、前者をご希望かな」

「やだよ。着せ替えサラダって意味分かんねえし。お任せで」

「裏メニューだね」

「裏メニューなのッ? お任せなのにッ?」

 コントじみたやり取りをしている内に、俺の腕を締めつけていた感触がぐっと揺らいだ。体に引き寄せると、滑らかで柔らかな乳房の感触を経て、俺の腕が帰ってくる。

「はい、お待ちどう。私は先に着替えてるから、君は顔を洗うなり、歯磨きをするなりしてくれば? 君の着替えは後で渡すよ」

「おう。じゃあそうさせてもらう……え? 待って。俺、お前ん家に着替えなんか置いてったっけ」

「…………早く行きなよ」

 肝心な事なのに、だんまりを貫かれた。こうなった碧花は頑固を極めているので、どんな手段を使っても吐きはしないだろう。ベッドの際を手で確認しながら、俺は慎重に碧花の部屋を後にした。















「…………いや、おかしいよな」

 洗顔と歯磨きを終えてすっかり意識も明確になった頃、俺は改めて碧花の準備の良さに戸惑っていた。歯ブラシまで用意されているとはどういう事だ。

「ま、いいか」

 誰かに被害があるのなら止めるべきだが、むしろフォローされている以上、止める理由がない。強いて言えば、碧花と二人きりという状況に浮かれすぎて、宿泊準備を怠った俺が悪いのだ。これで怒ったり問い詰めたりするのは筋が通らない。忘れる事にした。

 因みに今は碧花が洗顔中なので、何となくテレビを見て待っている。

 

 ピロピロピロ。


 そんな時、急にメッセージアプリの通知が入った。誰だろうと思い携帯を開くと……萌だ。無視しようかとも思ったが、通知画面に表示された言葉がどうも只事じゃない。通知の仕様上全文は読めないので、改めてアプリを開くと、






『天奈ちゃんが居なくなったんです! 誰かに攫われたかもしれません!』

 

 

 

  

 登場だけさせて後で使う人が多すぎて、回収に苦労する後半戦であった。

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