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オミカドサマの言う通り 前編

 最近真夜中の住人と戯れているので更新が深夜帯になるんだ。

 目標を蝋燭歩きからオミカドサマに再び変えたのは好判断だったと俺は自分でそう思った。まだ鍵は使えていないものの、それを使うまでは出ないでやろうという蝋燭歩きのそこはかとない気遣いが見受けられる。その証拠に、あれから一度も姿を見せていない。

 心配なのは、それにも拘らず碧花の体調が変化したままという事くらいだが、少なくとも歩くのもままならないまでは重症化していないので、本人の意向もあって歩みを続けている。気遣いが見受けられるなんて茶化したが、それは運が良いだけに過ぎない。一度歩みを止めて休息を取らんとすれば、再び現れてしまう可能性が十分にある。幾ら本人の意向があると言っても本当にその通りにしているのは、そういう理由があった。

 もう一度出現した場合、自己暗示で症状を完治させた俺でも、再発する恐れがある。碧花に至っては重症化して、まともに動けなくなるかもしれない。それを考慮すれば、今考えるべき事は『どうすれば出会わないか』ではなく、『何処まで行けるか』。極端な話をすれば、出会ったらそこで終わる。

「碧花、こっちで良いんだよな?」

「うん……そっちで合ってる。暗いから正確な距離は言えないけれど、後五〇〇メートルって所かな。横穴があるから、そこに入ってくれ」

「横穴?」

「うん。入ったら奥の方に扉があるから、そこに使うんだ」

「ふーん……何で梵鐘の内側に?」

「……良くある話だろ。通帳は植木鉢の下とか。まさかそこには無いだろうと思わせる場所に隠す。もっとも、植木鉢の下は鉄板過ぎて、最近は真っ先に漁られるらしいけれど」

 因みに俺の家の通帳の場所は天奈しか知らない。一度本気で探した事があるが、結局見つからなかった。天奈曰く、『下手したら二度と取れないかもしれない』との事だが……流石に嘘だよな? 嘘じゃ無かったら困る。

 二度と取れないというのもそうだし。

 なんで家にそんな奈落みたいな場所があるのか。

 嘘だと信じたい。

 茂みの潰れる音が繰り返す。今の所、俺達以外の足音は聞こえない。景色も全く変わらない。ランタンで照らされる視界が小さいせいだろうが、代わり映えしなさ過ぎて、その場で足踏みしていると言われても、信じてしまうかもしれない。

「……あれか」

 側面から見ても、斜面から突き出たそれを見逃す筈が無かった。自然な横穴というより、その入り口は人工的に作られた様だ。大きく盛り上がっているから、幾ら見通しが悪いと言っても分かる。

 回り込んでみると、そこは確かに横穴だった。先の全く見えない暗闇を開けて、来訪者こと俺達を待ち構えている。閉所恐怖症という訳ではないが、入る事には若干の躊躇いが無くもない。 

 ちゃんと地面はあるようだが、まるで身投げする様な錯覚を覚えるのだ。

「良し、行くか……碧花、身体大丈夫か?」

「大丈夫……この程度なら、気合いでねじ伏せる」

「は?」

 そんな力押しな理屈を女子から聞くとは思わなかった。俺はてっきり、脳みそまで筋肉で出来てる奴が言うようなもんだとばかり思っていた。

「女性には……ある程度強かさが必要なものさ。女性同士のコミュニティは、男子の想像してる何倍も薄暗いからね」

「いや、分かるけどお前、何処のコミュニティにも居ないだろ。孤高の王者が何を心配してるんだ」

「いやあ。ボッチは辛いね、狩也君」

「お前の場合、高嶺の花って言うんだぞ」

 これだけ近くにいる俺すら、手の届かない存在。それが水鏡碧花という女性である。しかしそれだけ軽口が叩けるならまだ全然余裕がある証拠だ。碧花の手を引きながら、俺は率先して横穴の中に足を踏み入れた。

 特に何のカラクリも罠も無い一本道が続き、やがて鉄格子が俺達の前に立ち塞がった。

「迷わなくて良かったね」

「一本道だろッ」

「……じゃあ、鍵を開けようか」


 碧花は俺の傍を離れると、持っていた鍵を錠前に差し込み、開錠。彼女が軽く押すと、激しい軋みの音と共にゆっくりと扉が開かれた。


 鉄格子の先にはまた扉があり、恐らくその先に重要な情報とやらが眠っているのだろう。

「お先にどうぞ」

「え、いいのか?」

「いいよ。二人を助けたいのは君だしね。お先にどうぞ、二人に繋がる情報が得られればいいね」

「……あ、そうだ碧花。その事なんだけどさ」

「何?」

「お前、オミカドサマ殺したじゃんか」

「うん」

「あれって、死んだのか?」

 もうオミカドサマは出てこないのか、それとも出てくるのか。それが問題だ。問題と言えば、こんな会話が横行している事も問題だが、相手が怪異だからギリギリ健全な会話として成立している。普通なら犯罪者の会話だ。

「……あれは殺人の手段であって、除霊とは訳が違う。暫くは大人しくしてると思うけど、いつかまた出てくると思うよ」

「―――そっか」

「どうして?」

「もし二人を助ける方法が分かったとしてさ、オミカドサマに対して何かしなきゃいけないとか書かれてたら、ほら。死んでたらどうしようもないだろ」

 偽物を暴いたと思ったら本物が出てきて、開幕で偽物をぶっ殺した。何を言ってるのか分からないが、あれを間近で見た時のインパクトったら他の追随を許さない。お蔭でこれを聞くのに随分遅れてしまった。

「……実は、大方の予想はついているんだけどね」

「え? 二人を助ける方法の事か?」

 教えてくれ、と喉まで出かかったが、ここでそんな事を言ったら馬鹿丸出しだ。何のためにここまで足を運んだと思っている。俺の知りたい情報は全てこの扉の先にあるのだ。百聞は一見に如かずとの言葉通り、見ると聞くとでは訳が違う。一回見るのと百回聞くとでは、多くの人間は前者を選ぶのではないだろうか。百回聞くとか、耳にタコが出来そうだし。

 碧花にとってもそれは独り言だった。俺の疑問には答えようともしない。


 もしかしたらここに来て体調が悪化した可能性も否めないので、彼女の様子に気を配りながら、俺は目の前の扉に手を掛けた。

 

奇を衒って  前編をゼソペソにしようと思ったけど、よく考えなくてもつまらないからやめた。

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