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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE7

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193/332

ズット、イッショ

 ギリギリか。

 廃旅館にもう一度足を踏み入れる事になると、一体誰が予想しただろうか。俺自身は全く予想していなかった。それも碧花と。ここに他の者が揃えば、前回の再現である。ただし、その再現は絶対に叶わない。

 もう皆、死んでいるから。


 ……嫌な事思い出した。


 忘れていたかったとは言わない。俺は今でも詳細に友人の顔を思い出せる。誰か一人足りない気もするが、今思い出しても仕方ない。どっちみち、ここでの生還者が俺と碧花、そして奈々だけだった時点で、他はどうあれ死んでいるという事なのだから。

「お前はここで何の調査をしていたんだ?」

「ん? 調査?」

「いや、西園寺部長がお前が調査してるって……あれ?」

 微妙に話が食い違って……いや食い違っては無いのか。俺の事情を押し付けても話が拗れるばかりなので、一旦落ち着こう。

「お前は何でここに来たんだ?」

「んーとある人物……いや、どうやら知ってるみたいだからいいか。西園寺先輩に連れられたんだ。話が呑み込めないけど、何やら私も巻き込まれたらしくてね」

「へ? ちょっと待て。お前いつ西園寺部長に出会ったんだ?」

「今さっき。それで、ここからは別行動だって言って、帰っちゃった」

「は?」

 話が繋がらない。西園寺部長が二人いるなんて、そんな馬鹿げてる話あるか。影武者じゃあるまいし、そもそも影武者を用意する程西園寺部長は狙われる立場に居ないだろう。

 だが待って欲しい。今俺達の居る世界は通常の状態ではない。幽霊が他の人に成りすましてるなんて、映画でもよくある話だ。人が想像出来る事は、全て人が実現出来る。

 映画で使われているという事は、実際にもあり得るという事だ。

「…………偽物?」

 それくらいしか考えられない。西園寺部長が同時に二人存在する裏技は、思いつく限りそれくらいしかない。

「偽物?」

「お前の方か、俺の方か知らないけど。多分偽物だな。って事は俺とお前が合流するのも計画の内って事か……?」

「ふむ。何を話してるかよく分からないけど、西園寺部長は信用するべきではないという事かな」

「多分な」

 分からないのは、彼を偽物とした場合に、どうして緋々巡りの事を教えてくれたかだ。俺を掌中に収めたいなら、嘘の情報を教えれば良かったのだ。例えば緋々巡りをすれば由利と萌が帰ってくるとか……嘘を見抜く能力の無い俺に教えれば、俺は喜んでやっただろう。

 碧花が偽物と言う可能性は……無い。西園寺部長はオミカドサマと接点があるから可能性があるが、碧花は今まで普通を望む俺と過ごしてきたのだ。接点など考えられない。単に巻き込まれただけと考えるのが普通だ。

「なあ碧花。お前本物か?」

「偽物だったとして、正直に言う奴が何処に居るのかな。一応本物だって言うけど、どっちにしても信憑性が無いよね」

 怪異の行う変装は変装じゃない。変装のプロが碧花に変装しようとも、彼女の事を二十四時間常に見続けてきた俺は見抜ける自信があるが、怪異は見たままになり替わり、偽物となる。だから偽物だとしてもくびれはあるし、巨乳だし、黒髪だ。

 どこぞの大泥棒みたいに、顔を強く引っ張れば変装が分かるという事もない。信憑性を確保する方法など無かった。

「……まあいいや。お前は多分本物だよな」

「信じてくれるのかい?」

「西園寺部長よりは胡散臭くないしな」

 碧花は露骨に表情を明るくして、俺の腕に組み付いた。豊かに実った谷間が俺の腕を挟み込んで離さない。こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ、俺は興奮してしまった。二人を助けなきゃならないというのに、本能の浅ましさと来たら、全く以て許しがたい。

 或いは無意識の内に、二人が攫われた実感を抱いていないのだろうか。実際、攫われる瞬間というものを俺は目にしていない。マガツクロノじゃないが、もしも俺だけがトイレから由利の部屋までの間に隔離されて居たら、同じ状況になる。二人は要らないというのも、俺だけこの世界に捉えて、現実の方で二人を処分―――って。

 

 それだったら詰みじゃねえか。


 こんな時に次元干渉能力でもあれば真偽がハッキリするのだが、俺は異能力漫画出身者ではない。たまたま都合よく異能力が降ってくれば話は別だが、それは空から女の子が降ってくるのと同じくらい珍しい事だ。

「取り敢えず、どうするかな」

「どうしようね」

 どうしようねって。いつもは何かしら行動を導いてくれるから、中々新鮮な発言である。流石の彼女も、こうも非現実的な状況に置かれたら対処がしづらいという事だろうか。

「お前は何で西園寺部長に付いてきたんだ?」

「たまに出歩く事があるんだけど……訳は無いよ。外の空気が吸いたくなったりしてね。それで外を歩いてたんだけど、誰とも出会わないのがとても不思議でね。交番、公園、隣の家。色々回ったけど誰も出てくる気配が無い。三十分以上探してたら、ようやく一人見つけて。それが西園寺先輩だったんだよ」

「で、事情を聞いたと」

「そういう事。それで、手掛かりはこの廃墟にあるって聞いたから、ここに来た……連れられたんだ」

 話を聞いた限りでは、どちらが本物でどちらが偽物かの判別が付きにくい。やはり俺達二人を引き合わせる事は作戦の内なのだろうか。それだと片方の意図が……本物はどうして引き合わせた? 単に合流の為。

 恐怖を最大まで高める方法の一つとして、一人きりにする、というのがある。

 助けなど無い。

 話し相手は居ない。

 周りには害意を持った存在だけ。

 一人ぼっちでは生きられない、というのは、何も『誰にも助けられなくては生活出来ない』という意味だけではない。孤独こそ、ある種の恐怖の到達点。嫌な人はとことん嫌なものだ。

 もし俺の側の西園寺部長が偽物だったら、あそこで現れる意味が無い。俺の心を折れば、緋々巡りだろうと何だろうと何でもやる。生きる希望、行動する活力が湧いてこない人間は廃人も同然だから、オミカドサマが俺を遊び相手にしたいなら、そうするに決まっている。

 じゃあ碧花の側が偽物かと言われると、それも違う気がする。そもそも相手にする意味が無い。さっきも言った通り、接点が無いから。

 謎は深まるばかりである。

「―――考えても仕方ないな。あんまり歩きたくないけど、また歩くか」

「また?」

「…………嫌な思い出があるんだよ。だから、歩きたくない」

 それに足場も、以前と比べて悪くなっている気がする。光源は碧花の持つランタン一つだけなので、少しは足元にも注意しよう。前方を照らそうとして足元がお留守になったら、また転ぶかもしれない。

「碧花、転ぶなよ」

「君がね」

 旅館の中に足を踏み入れて、取り敢えず座敷へ。俺達が来たばかりの頃と何も変わっていない。壁は残っているし、埃まみれだ。

 そう言えばあの時も、持ってきた光源はランタンだったか。何から何まで以前の事を思い出させる。だからと言って恨みをぶつける相手など居ないのだが、向ける先が無いと、むしろ心を抉られてしまう。

「何か、懐かしいな」

「何が?」

「あの合コン肝試しだよ。お前も参加しただろ?」

 というか碧花を参加させなきゃ俺は参加できなかった。彼女を餌にした事は今でも申し訳なく思っているが、結果のみを語れば、参加しない方が何もかも平和だったと言えるだろう。奈々も蘭子も央乃も、良い人だった。誰も犠牲になんかならなかった。

 

 良く考えなくても、ここには悪い思い出しかない。


 怖い思いをして、友人を失って。何か得るものがあったとすれば、『立ち入り禁止の場所には入らない』とかいう、良識ある者なら既に獲得している教訓だけである。 

「オミカドサマは何がしたいんだろうなあ。俺を遊び相手に選ぶとか、マジであり得ねえと思うんだけど」

「いや、分からなくも無いよ。私が同じ立場だったら、オミカドサマと同じ事をすると思うしね」

「どういう事だよ」

「君は優しい奴だ。外面だけ取り繕っている奴とは全然違う。約束も破らない」

「大分破ってないか?」

「破っちゃならない約束とそうじゃないものがある。前者を一度でも破った事は無いでしょ。特に君はさ」

「…………まあ、約束した時点で、それを守らなきゃならないって思ってるしな。でもそれって人として当然だろ?」

「いいや、当然なモノか。人には優しくしようという教えは、当然かもしれないけど、守っていない人が居る。守っていない人が居るから、犯罪が起きる。違うかい?」

「まあ、そうだよな」

 平和など名ばかりで、結局犯罪は起きている。法律という抑止力が必要となっている。それが現状だ。

「…………なあ」

「何?」
















「お前、何がしたいんだ?」 

 


  

 今日か明日くらいに、久しぶりにSCP系の小説……まあ数十部しか出してないんですが。更新しようと思います。

 後明日はえげつないくらい黒彼更新します。と言っておけば最低二話は投稿するでしょう。

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