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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE7

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191/332

 首狩り遡行

 本来は投稿期日を優先するのですが、今回は内容を優先した故、致し方なし。

「碧花ちゃんってどういう事ですか!? 西園寺部長、何でアイツの事知ってんですか!」

「いや、別に知ってても良いでしょ。 君も随分大袈裟な反応をするね」

 大袈裟なんかじゃない。碧花に俺以外の男友達が居るなんて知らなかった。勘違いしないで欲しいが、彼女を独占したい訳じゃない。いや、独占したくない訳でもないのだが、俺如きが束縛できる女性でない事は付き合いの長い俺が一番よく分かっている。

 ついでに言うなら、怒ってもいないのだが……西園寺部長に碧花を取られてしまわないか、不安なのである。

 俺と比べたら、西園寺部長はずっとカッコイイ。クソイケメンだ。まだ学校に居たら嫉妬の視線を向けるくらいの。女性に限った話ではないが、見た目が綺麗な方が印象は良い。これは清潔という意味も含まれているが……西園寺部長が変人だからって、それと不潔はイコールではない。

「ああ、もしかして君、碧花ちゃんの事が好きなの?」

 僅か二言目で真相を看破してきた部長が恐ろしい。幾ら俺でも一言目の発言くらい覚えている。ボロなんて出ていない。強がりで『違う』とも、正直に『そう』とも言えず、猛烈に言葉に詰まった。

 それが何よりの答えと受け取った西園寺部長は、こちらを揶揄う様に微笑んだ。

「分かりやすい男だねえ、君も。まあそういう所が魅力的なんだと思うよ」

「部長に褒められたって嬉しくないですよ」

「俺も君を褒めたつもりは無いんだけどな。おっと、これ以上言うと怒られてしまいそうだから口を塞いでおくか」

 情報を与えたいのか与えたくないのか分からない部長の発言に眉を顰めつつ、やはり俺は部長の発言を追及する。オミカドサマなんてどうでもいい。消えた二人の事は流石にどうでもいいとは言わないが、碧花がこの件に絡んでるなら、彼女の事も気にしなければ。

 俺の『心当たり』にも、絡んでいる訳だし。



「……一応聞いてみていいですか? 碧花とは、その……どのくらいまで進んでるんですか?」

 


「どのくらいって、君も知りたがるねえ。安心してくれて良いよ。俺にも彼女にもそんな気は無いし、大体碧花ちゃんには好きな人が居るから―――」

「誰ですかッ!?」

 言い終わる前だったのだろうが、最後まで聞いていられない。碧花に好きな人が居たなんて初耳だ。彼女と最も付き合いの長い俺が知らないのに、西園寺部長が知ってるというのは道理が通じない。どうして俺には言ってくれないのだ。

 先導してくれている部長の前を遮って、胸倉を掴む。俺らしからぬ乱暴な行動にも、西園寺部長は一切動じない。

「ああ、知らないんだ」

「知りませんよ! ええ知りませんとも、知らないから聞いているんです! 誰ですか、さあ誰ですか。お答えください西園寺悠吾部長!」

 傍から見ればカツアゲされている高校生と言った所か。抵抗らしき抵抗と言えば、胸倉を掴む俺の手首を軽く握っているくらいである。

「ははは。降参降参。お願いだから胸倉を掴むのはやめてくれ。それに何をしたって俺は教えられない」

「教えてください! お願いします!」 

「無理無理。これでも口は固いんだよ。というか口が固くなきゃオカルト部なんかやってられないし。ただ、どうしても彼女の好きな人を知りたいなら、良い方法があるよ。教えても良いけど、これじゃ歩けない。悪いけど手を離してくれないかな」

「あ…………済みませ―――」

 俺の意思が手を離すよりも先に、俺の手は『自主的に』彼の胸倉から手を離した。加えておくが、俺の意思とは無関係に離したのである。刹那の内に、俺の全身が戦慄いた。

 

 不可視の力が働いた訳じゃない。飽くまで自主的……俺の意思とは確実に無関係だが、紛れもなく『俺』が動かしたのである……という事実が、どうしても認められない。   

 

 襟を直しつつ、西園寺部長は引き続き先導してくれた。

「ありがとう。約束通り方法を教えよう。難しい事は言わないよ、本人に聞けばいいんだ」

「部長、それが出来るなら俺はアンタに聞いてないんですよ。碧花本人に聞かずに、アイツの好きな人を知りたいんですよ」

「君の方が付き合いが長いんだから知ってるでしょ」

「それが、知らないんですよ。アイツ人を寄せ付けない雰囲気があるせいで、友達が俺くらいしか居ないって……思ってたんですけどね」

「じゃあそれが答えだよ」

 あっさりとネタバラシをしたつもりなのだろうが、俺には何が何やらさっぱり分からなかった。友達が俺くらいしか居ないのが答えって……どういう事だろう。

 恋愛が発生する形は、何も友達からではない。一目惚れという場合もあるし、何処かで意外な一面を見たというのもある。友達という過程を経て恋人になるのが絶対の掟なら言いたい事は分かるのだが―――いや、それも無いか。

 この理屈で行くと、碧花は俺の事を好きという事になる。好意的なのは知ってるが、そんなのあり得るだろうか。

「済みません。俺察し悪いんで。どういう事か解説を入れてもらっても」

「分かった、分かった。じゃあ今度出会った時にオミカドサマに聞いてみなよ。快く教えてくれると思うよ」

「オミカドサマが? どうして」

 それ以上は答えようとはしなかった。会話が途切れた事もあって俺も前を向くと―――





 かつて俺が足を運び、多くの友人を失った山が、そこに聳え立っていた。





 目的地はあの山の上だが、実質的な到着である。因みに元々半分立ち入り禁止だったが、俺が事件を起こしたせいで猶更の事立ち入り禁止となっており、今となっては誰一人として足を踏み入れない。踏み入れていない。

「着いたね」

「ええ。着きましたね」

 嫌な思い出しかないから、もう二度と足を運ぶ事は無いと思っていたのだが。何故もう一度足を運ぶ事になったか、この数奇な因縁に俺は首を傾げてしまう。何でもないと思っていた合コンが『首狩り族』によって台無しになった。それ自体は俺にとって日常だから(認めたくないが)ともかく、その日常がまさか、こんな異常事態に絡んでくるなんて。

―――俺は、信じるからな。

 思えば、最初に疑うべきだったのかもしれない。どんな不運が起きても、一人だけ全くの無傷を誇る彼女の事を。勿論、疑いたくなんかない。けどこの山を見つけたのは彼女だし、俺の中で引っかかっている事柄は、彼女も関わっている。

 意を決して、俺が山の中へ足を踏み入れようとしたその時、西園寺部長が俺の手を引いて、足を止めさせた。

「な……何ですか?」

 せっかく覚悟が出来たのに、こういう半端な所で引き留められると、また覚悟が無くなる。告白しようと決めた瞬間に、丁度友人から電話が来た時みたいなものだ。俺はこれを覚悟の初期化と呼んでいる。

「いや、話すタイミングが無かったから、ここで言おうかなと思って」

「―――何を」

「ここに来るまで誰とも出会わなかったなんてあり得ない。ここがもう君の良く知る現実じゃないのは分かるね?」

「はあ」

「この山も例外じゃない。少なくともここは、もう只の心霊スポットでも何でもない。強いて言えばここは悪霊スポット。何事もなく出られるなんて思わない方が良い。それと―――」

 心霊スポットは飽くまで幽霊が出るだけで、それが決して悪霊とは限らないので、その違いの事を言っているのだろう。それは確かに前もって言ってくれないと困るが、俺の心の中には妙な安心感があった。

 その正体とは、他でもない西園寺部長である。

 彼が居てくれたお蔭で、俺は九穏副部長から逃げ切る事が出来た。というか彼が電話を掛けてくれなかったら、今頃撲殺されていた。

 たとえどんな悪霊が居ても、彼が居る限り、俺には正常な判断を下せるくらいの余裕がある。

「ここで俺とはお別れだ。君が一人で入ってくれ」

「………………済みません、もう一回言ってください」



「ここで俺とはお別れだ。君が一人で入ってくれ」



「へ?」

 前言撤回。俺にそんな余裕はない。正常な判断を下すなんてとてもとても出来たもんじゃない。

「ちょっと待ってください!」

「いや、だから引き留めたじゃないか」

「その待ってじゃないですッ! さっき力を貸してくれるって言ったじゃないですかッ! あれは嘘だったんですかッ?」

「力は貸すよ。でも君には助けなきゃならない人が居る。知り合いなんだろ? オミカドサマは基本的に一人っきりの時しか現れない。俺の隣に居たら、何時まで経っても現れなくて、手掛かりが得られなくて終いには手遅れになってしまうよ」

「そう、なんですか」

 理解した様な事は言いつつも、西園寺部長の発言は矛盾していた。

「あれ、じゃあ何で碧花と合流するなんて……一人じゃないと、現れないんですよね?」

「碧花ちゃんは今まで一人だっただろう? 手掛かりの一つや二つくらい持ってる筈だ。だから一旦合流して情報を共有して、その後別行動なりすればいい」

「でも、その間に手遅れになったりしたら!」

「碧花ちゃんの所に行くまでの間で手遅れになる様だったら、最初から何をしたって無駄だよ。大丈夫、まだ手遅れじゃない」

「人二人の命が懸かってるんですよ? 確証はあるんですか!」

「俺が何年オミカドサマと付き合ってきたと思っているんだい。オカルト部の名誉にかけて保障しよう。まだ間に合う。絶対」

「……言いましたね?」

「言いました。少しくらい信用して欲しいな。ほら、早く行ってよ。こんな所で俺と口論してたら、それこそ手遅れになる」

 俺の相手をするのが面倒くさくなったから、煙に巻いている様にしか聞こえない。だとしても西園寺部長の言う通り、行くしかない。悪霊の対策なんてこれっぽっちも知らないが。

 覚悟が決まるよりも早く、西園寺部長は「悪かったね」と言って、手を離した。初期化を喰らった俺の足は止まったままだが、直に決まって、再び山の中へ向けて歩き出す。

「幸運を祈るよ、狩也君」

 部長の後押しを受けながら、俺は再び山に足を踏み入れる事になった。 









   



 碧花様は気付かせたいを書く程余裕がなかったり無かったりする。

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