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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE7

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189/332

恋とは悪夢、即ち堕天

 家の中が安全だと、どうして思っていたのだろう。相手は不審者の類ではない。怪異というか、超常現象というか……ええい、もう何でもいい。とにかく常識が通用するような存在ではない。ピッキングとかそういう技術はさておき、不審者であれば鍵を掛ければ、取り敢えず対策した事になる。が、怪異相手の対策って……何だ。塩でも撒いときゃ良かったのか。清めた塩なんて普通の家には無いけどな。

「萌、由利ッ!」

 この家に影響が及んだ以上、外には既に影響が及びきっていると考えるべきだ。夜中に出せば確実に迷惑とされる大声も、この時ばかりは山びこの如く空しく響いた。誰も何も反応しない。いっそ警察に連絡でもしてくれれば、少なくとも街は正常だと言い切れるのに。

「何でまたこうなるんだよおおおおおおおおおお!」

 俺がトイレに行こうとしたからか? …………流石にあり得ない。現実的な路線(この非現実な状態で何を言っているのか分からないが)で考えるなら、蝋燭歩きを探ろうとしたから―――だろうか。


 それは何故?


 蝋燭歩きを探っちゃいけないから……探ると都合の悪い事が起きるから? 確証は無いが、そうなのだとしたら、猶更蝋燭歩きについて調査をしなきゃいけない。あの女の子が何をしようとしているのか分からないが、二人だけは絶対に死なせない。殺したくない。

 数少ない友達を、失いたくなんかない。

 しかし、問題がある。怪異について調査をする場合、その専門家が必要だ。俺の周りで言えば、萌や由利がそれに該当する……もう分かるだろう。専門家二人を連れ去られた今、素人にはどうしようもない。クオン部長さえ居たらと何度思った事か。真実を暴かなきゃ良かったと何度思った事か。

 今程そう思った事は無い。俺にだけ被害があるならまだしも、二人の生死に関わっているのだ……嘘の可能性は、勿論考慮した。だがわざわざ嘘を吐きに来たなら性質が悪すぎるし、あれが嘘だったとしても、二人が消えた事は事実。結局、俺はあの女の子を探すか、蝋燭歩きを探して何らかの手掛かりを拾うしかない。

「誰でもいいから……返事をしてくれよ!」

 警察でも不審者でも酔っ払いでも何でもいい。俺にこの街が正常だという事を教えてくれ。それならやりようがあるんだ。それなら幾らでも見つけ方があるんだ…………!

 勢いに身を任せて外に飛び出し数十分。俺はにわかに足を止め、路上にも拘らず、膝立ちになって倒れ込んだ。

「俺が悪かった! 悪かった……から。好きなだけ遊んでやる………………から。二人を」

 





「二人を返してくれえええええええええええ!」 






 怪異の素人で、人探しのスキルも持たず、幸運もない俺には、もうこうする事しか出来なかった。元々俺がこういう時に行動出来ていたのは、守れる可能性がある奴が居たか、助かる可能性がある奴が居たからである。可能性が一パーセントでもあるなら、俺は諦めない。もう死なれたくないから。

 だが、今の状況にその可能性はあるだろうか。俺が遊びを断ったがばっかりに二人は居なくなり、外までおかしくなってしまった。とすると、二人を助けられる一番可能性のある選択肢は、これしかない。

 前言撤回をして、あの少女に機嫌を直してもらうのだ。

 そうすればきっと、あの少女も二人の事を『イラナイ』とは言わないだろう。謎の金縛りにあったせいで俺も弁明できなかったとはいえ、あの少女は勘違いをしている。萌と由利が居るから、俺が遊んでくれないと思い込んでいる。だから消そうとしている。

 つまり俺が遊ぶと言えば、二人を処分する理由は無くなるという訳だ。

 ただしこの作戦には、一つ欠点があった。



 ………………。



 待てど暮らせど少女は現れない。俺の醜い叫び声だけが虚空に響いて、掻き消されている。そう、この作戦の欠点は只一つ。

 『少女に聞こえなければ何の意味もない』という事だ。

 壁に耳あり障子に目あり。何処で誰が見ているか/聞いているか分かったものじゃないかもしれないが、いつでも誰かが見ている/聞いているとは限らない。俺の全力の懇願も、聞こえなければ、そこで終わりだ。

 お祈りみたいなものだ。ただしあちらは偶像だとしても明確に捧ぐ対象が居るのに対して、こちらは何処に居るともしれない不可思議な少女に向けて。届く届かないで言えば、お祈りの方が明らかに届く可能性の方が高い。

 間違っても神なんていない、とは言っちゃ駄目だ。そうなると俺がついさっき出会った少女も存在していない……幻覚という事になり、いよいよ俺から二人を取り戻す手段は無くなる。精神的な面で言っても、今の俺はどんな非現実的な事も肯定するしかなかった。


 自分の中の常識を殺された方が、二人が死ぬよりずっとマシだ。たとえこの先まともな人生が送れなくなっても、二人だけは助けたい。


 俺は救世主ぶろうなんて思っちゃいない。救世主様ってのはもっとカッコよくて、綺麗な人だ。俺は友人として、飽くまで二人を助けたい。友人だから助けたい。今の俺を厨二病だ何だと罵る奴が居たら、どうぞ罵ってくれて構わない。というか俺の目の前で罵ってくれ。そうすればこの世界が正常だと分かる。俺の声が届かない道理も分かるから、どうか現れてくれ。

 暫く倒れ込んだままの体勢で様子見していたが、少女も、警察も、酔っ払いも、不審者も、使い方が間違ってるにも拘らず馬鹿の一つ覚えの如く俺を罵ろうとしてくる輩も、誰も来ない。クオン部長なんて論外だ。萌や由利が現れたら奇跡だ。

 二人の為に一時間。俺はずっと路上で膝立ちのまま倒れていたが、変化が無さ過ぎた。虚無の時間を過ごした事で大分思考も冷静さを取り戻したので、そろそろ行動に移るとしよう。どうやら受け入れれば良いって訳ではないらしい。


 ―――やってやるよ畜生。


 片膝を立ててから、立ち上がる。

 俺自身はそもそも平和主義だが、今だけは過激派となろう。あの少女を見つけ次第ぶん殴る。絶対ぶん殴る。俺の大切な友達二人を連れ攫ってくれたのだ、どうせ人間じゃないのだから、法律を守るだけこちらが損を被る。今は甘っちょろい事言ってないで、とにかく行動するべきだ。行動無くして変革無し。


 あの少女の発言からして、俺は騒動の中心に居る。


 その中心が動けば、自ずと周りも動く。独楽だ。一連の騒動は独楽と考えれば良い。俺が動けば必ず何かが起きる。二人が本当に消えてしまう前に、助けるんだ。

  



 
















 たった一人で立ち向かわなくてはならない。俺の悲壮な決意に背後から水を差してきたのは、何処かで聞いた事のある、頼もしい声だった。



「やあやあ。久しぶりかどうかは知らないけれど、こんな形でまた会う事になるとは俺も思わなかったよ! ―――首藤狩也君」



 クオン部長でも無ければ萌でも由利でも無い。もう会う事は無いだろうと思っていた人物の一人。

「西園寺部長ッ! どうしてここに……?」

「大禍時に隔離されていたんじゃって? 詳しい事は後で話すよ。それよりも、君の表情を見る限りでは、助けが必要そうだ。俺で良ければ力を貸すけど、どうだろう」

 返事など、果たして必要か。明らかに狙っていたとしか思えないタイミングでの遭遇だし、きっと一部始終を見ていた筈だ。俺の答えなんて、きっとこの人は分かってる。

 それでも敢えて口にしようと思う。藁にも縋る思いだった俺に手を差し伸べてくれたのは、先代オカルト部部長、西園寺悠吾なのだから。






「よろしくお願いします!」


 レベル100NPC。 

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