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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE7

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186/332

 ご利用は計画を立てて

「着てください!」

「嫌」

「お願いします着て下さい!」

「嫌」

「シスター・ユリ!」

「その名前、やめて」

 抱き付かれたのが余程嫌だった様で、あの後直ぐに俺はぶん殴られた。冗談でも何でもなく、グーで殴られた、腹部を。それでも拝み倒しているのは、それだけシスター・ユリが恋しいからだ。あの物腰の柔らかさ、生粋の修道女で無ければ獲得出来ぬ柔らかさだ。コスプレだという事を一瞬忘れるくらい、ハマり役だった。そして多分それは、由利でしか獲得出来ないものであろう。

 考えても見ろ、絶対着てくれないが、もしも碧花が修道服を着たらどうだ。さっき分かったが、この修道服、意外と体のラインが出る。そんな服を彼女が着たら、それは歩く発禁だ。青少年の教育上宜しくない。

 この手の話になる事自体滅多にないが、よくあんなスケベな体で外を歩ける。見られて恥ずかしい身体ではないにせよ…………俺だったらとてもじゃないが外を歩けない。堂々と歩く自信も無いけど。その証拠に、今でもクラスメイトに遭遇しちゃいそうな場所は避けていたりする。

 碧花と変な噂が立ったら、俺は大歓迎だが碧花に迷惑が掛かるし。

「頼む……由利。もう一度なってくれ」

「しつこい」

「うううう…………もう見れないのか。シスター・ユリは」

 結構真面目に悲しんでいる。だってそうだろう。美しいものが見れなくなるなんて、誰でも悲しい。有名画家の描いた傑作が美術館から撤退した時みたいだ。

 美術に興味ないから、実際悲しいかは知らないけど。

「あれ……恥ずかしいし。頼まれたってやりたくない」

「一万円払うから!」

「嫌」

「十万!」

「持ってないでしょ」

「何故分かったッ?」

「家庭環境的に」

 俺の風評を考えればこの身は何処にも属してはいけない。バイトなんてしようものなら、売り上げが落ちかねない。『首狩り族』の真偽はさておき、運が悪い事は事実なのだから。因みに家のお金は全て天奈が管理してくれている。「お兄ちゃんに細かい作業任せたら誤差が出る」と危惧されての事だが、一体彼女は兄貴の事を何だと思っているのだろう。お兄ちゃんだって四則演算くらいは出来るというのに。

「分かった、譲歩する。というか折衷案だ。普段からあんな風にしてくれ」

「嫌」

「何でッ」

「恥ずかしい」

 どうやっても彼女にもう一度変身する気は無い様だ。恥ずかしい事なんて何も無いだろう。あれだけ別人になれるのなら、それはもう化粧と一緒だ。そして化粧は多くの女性が外出の際行うべきものであり、極端かもしれないが、ほぼ義務だ。

 つまり、彼女はシスターになるべきなのである。

「先輩。私が言うのも何ですけど諦めた方が」

「じゃあ分かった! 由利、今はいい。今はいいけど……今度着てくれ。絶対だぞ? 今度っていつか知らないけど、絶対着ろよ?」

「………………そんなに、見たいの」

「見たい!」

 その時の目の輝きたるや、如何なる星をも凌駕した。いやはやまさか、由利にあんな側面があったなんて。形から入ってああも別人になれるのなら、メイド服を着たら俺にご奉仕してくれるのだろうか。

 いやらしい意味ではない。決して。多分、恐らく、きっと。

 どれだけ拒否しても、決して『着なくていい』という方向に曲がろうとしない俺に、根負けする形で、由利が言った。

「…………じゃあ、時々。着る」

「え、ホントッ?」

「―――ただ」

 由利は人差し指を立てながら、俺に顔を近づけた。

「別人、という事にして。同一人物として扱われると、死にたくなってくる」

 まるで多重人格の人間を相手にしているみたいだ、と俺は思った。多重人格者は、見た目こそ一人だが、内部に多数の人格を所有している。だから別人として扱っても、問題は無い。しかし由利のそれは演技だから、同一人物として扱われるも何も、同一人物である。なのに別人として扱って欲しいとは…………どれだけ恥ずかしいのか。

 溜息で一度言葉を切り、諦めた様に俺も頷く。相手が折れてくれたのだから、こちらも歩み寄らなければ。


「分かったよ。シスター・ユリ!」  


 調子に乗る所を間違えた。満面の笑みで返した俺の表情は、忽ち繰り出された拳によって歪み、床にぶっ飛ぶ。女子なら精々ビンタだろうと思っていたのに、普通にグーで殴ってきやがった。ついさっき腹を殴られたのに学習しない俺である。

「もう着ない。絶対着ない」

「済みませんでした俺が悪かったです幾らでも殴ってくれていいからそれだけはやめてくださいお願いします!」

 土下座のしすぎて、そろそろ俺の頭蓋骨か、床が陥没する頃だ。もう俺の土下座に価値はないのかもしれない。何回したかは正直覚えていないくらい、した訳だし。俺にとっては普通に頭を下げるのも、土下座も、個人的に本気度は違えど、躊躇しないと言う意味では同じだった。
















 ドッキリみたいな一悶着も終わり、俺達三人は由利の部屋でまったりとしていた。後は萌との探検か。所で、何か忘れている気がする。何だろう。…………



 まいっか。



 記憶力の良い事に定評のある俺が忘れるくらいなのだから、きっとクソどうでも良い事なのだろう。キャベツの特売日とか、靴が半額セールとか。そのくらい。

「なあ萌」

「何です?」

「何か忘れてないか?」

「忘れてるって?」

「知らん」

 ダメ元で聞いてみたが、萌が知っている筈もない。何か引っかかるが、今は忘れておこう。とても大事な用だった気がするけど……ここまで来て思い出せないなら、本当にどうでも良いに決まっている。

 忘れる事にした。

「蝋燭歩きの探し方じゃないですか?」

「ん…………それかなあ? いやなんか違う気がするんだけど。探し方とかあるのか?」

「この噂、手に入れたの本当に最近なので、流石に私でも知らないですね。目撃された場所を中心に探していくしかないと思いますけど」

 無理を言った。そう言えば新しい噂だったのを忘れていた。全く、クオン部長が居なくなってから部の運営もままならないだろうに、一体全体何処から新しい噂を聞いてきているのだろうか。俺が寡聞にして知らないので、特殊な手段だろうとは思っているのだが。

「二人共……蝋燭歩き探しに行くの」

「御影先輩も一緒に行ってくれるんですかッ?」

「……いや、私は少し用があるから、今日の所は」

 そこまで言った所で萌が露骨に肩を落とした。裏表がないとまでは言い切らないが、それにしても感情が見えやすい後輩である。罪悪感からか、御影はしかめっ面になり、申し訳なさそうに視線を下に向けた。

「……部長に託された事があるから」

「託された事ですか?」

「首藤君には言ったと思うけど、私は全てを引き継ぐ事になった。クオン部長が追っていた全てを。だから……今日の所は、引継ぎを終わらせないと」

 フォローのつもりであった事は分かるが、萌には少し遠回り過ぎた様だ。視線だけで御影にそれを知らせてやると、彼女は慌てて付け加えた。

「あ、でも。明日とか、明後日なら……付き合うから」

「本当ですかッ!」

「う、うん」

 こんなんだから俺に心の中で子犬呼ばわりされるのである。萌はこのご時世、恐らく絶滅危惧種に指定されるレベルでの素直さであり、その上美人だと言うのだから、一番救えない。救えないというのは、呆れたとかそういう意味ではなく、単純に面倒だという意味で言っている。

 俺やクオン部長が普通の人間だから良いものを、彼女を性欲の吐け口としてしか見ない人間だって居るのだ。せめて少しは素直じゃなくなって欲しいものだ。

 エデンの園に居るんじゃないんだから。

「いやっほー! 先輩聞きましたかッ? 御影先輩が参加してくれるんですって!」

「いや、一応由利もオカルト部なんだし、そんな特別嬉しがる様な事は」

「ありますよ! だって先輩と私と御影先輩の三人で怪異探検なんてやった事ないじゃないですか。これが嬉しくない筈がありません!」

 かなり前までは俺も舐め腐っていたが、このオカルト部に限ってはむひょひょな展開なんて期待しちゃいけない。由利/萌が「キャ―怖い!」とか言って、俺に抱き付いてくる事なんてまず無い。大体そんなことしていたら命に関わる。

 割と巻き込まれたり、付き合った方だが、それでもここまで喜べるのは生粋のオカルト部だけであろう。三人居れば文殊の知恵ともいうし、参加してくれるなら嬉しいというのは俺も同じだが、ここまでかと言われると……

 心の中で複雑な気持ちを整理する俺をよそに、萌は勝手に話を進め始めた。

「じゃあじゃあ。えーと……御影先輩、地図貸してください。出かけるまでにどういうルートを通るか計画を立てましょうッ」

「え? オカルト部ってそこまで入念に準備すんの?」

「当たり前です! 未開の地とか、地図が通用しない様な事態になるなら話は別ですけど、無計画に歩くって事はあり得ませんよ!」

「……部長以外ね」

 相槌の様に由利が言うと、二人の間でどっと笑いが起こった。この笑いは所謂身内ネタなので、当然俺には通じない―――のだが。

 あの部長なら余裕で想像出来る。俺もまた、口元を綻ばせるのであった。   

   

 ここからホラーに入ってきますが、日常ラブコメなのでホラーがあるのは当然です。予めご了承ください。



 尚最近更新がまちまちなのは、龍が如くをやっているのと、免許証無くして執筆処じゃ無かったからです。

 まあもう一話やると思いますが、別の作品でも同じ事言って度々破ってるので、四割くらいの期待で待っていて下さい。

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