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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE7

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迷える子羊に断罪を

「先輩、どうかしたんですか?」

「ああ……いや、何でも無いんだよ」

「何でもないなら、そんな顔しない」

 ネガティブ思考と言えど、ネガティブになるというのは、何かしらあってからである。最初からネガティブというのは、実は居ない。経験にしろ夢にしろ、ネガティブ思考というものには何かしら理由があるのだ。何せこの世は因果の紡ぐ現実世界。原因無くして結果は無い。ネガティブもポジティブも、何もなければナチュラルだ。

 つまりはそういう事を言いたいのだろうが、だからって「はいそうですか」とウキウキ出来る程、俺は前向きじゃないし、物分かりも良くない。変わらぬ様子の俺を見て、萌は困った表情を浮かべた。

「……先輩! 元気出してくださいって! ほら、御影先輩が修道服着てくれるそうですから」

「……そんな事言ったかな」

「言いました! ほら早く着てください。先輩の為にもッ」

 二人からすれば俺が落ち込んでいる理由は分からないし、実を言えば俺も分からない。これはネガティブ思考が悪循環した末に生まれた消沈だ。原因があるとすれば俺の思考にある。これをどうにかする為には、いっその事記憶喪失でもしてくれなければどうにもならない。つまりどうしようもない。

「……首藤君の為って、よく分からないけど」

「これ先輩が買ったんですよッ? つまり先輩は、それだけこの服を着て欲しいって事なんです! だから御影先輩がそれを着て、先輩を赦してあげれば、世界はきっと平和になりますッ」

 俺は世界だった…………?

 萌の発言は大袈裟極まるが、彼女の熱意に圧されたか、かなりぎこちなく由利は着用を承諾してくれた。 それしか解決方法が無いとでも思ったのだろうか。残念ながら、俺も馬鹿じゃない。幾ら女に飢えていると言ったって、コスプレした瞬間今までの考えが吹っ飛ぶなんてあり得る訳ないだろう。元々萌を騙す為のドッキリだが、結果的に成功したのは意外だった。

「じゃあ、着てくるけど……覗いたら、殴るから」

「覗きません! ね、先輩ッ」

「俺に振るな」

 男を舐めないでもらいたい。ああ全く、由利の修道服なんて誰が得するのだ。期待なんてしていないに決まってるだろう。彼女が修道女になるなんて、気にならない………………



 事も無い。



 が、考えが吹っ飛ぶ程じゃない。考えても見ろ、あの由利だ。あの寡黙で、ミステリアスな雰囲気漂う彼女が咎人を赦し、癒す修道女。合わな過ぎる。修道女と言うのは、もっとこう包容力があって、おっとりとした女性がするべきものであって……実際に外国とかに居る奴がどうなのかは知らないが、イメージの話だ……由利の様な物静かで冷静な女性が、あんな服を着て似合う筈が。



「お待たせしました」



 着替えは想像以上に早かった。この手の女性の行動は甚だしく長いと思っていたので、心の準備が全く出来ていない。振り返るべきではないのだろうが、言葉を掛けられたら振り向く様に教育されている俺は、普通に振り返ってしまった。

「…………え、え。御影先輩ですか?」

「そうですよ。あまりこういう服は着た事が無いのですけれど、たまにはいいのかもしれませんね」

「く、口調変わってませんか?」

「こういう事を言ってしまうのは恥ずかしいのですけれど、私、形から入らないと恥ずかしくなってしまうタイプでして。性格が変わっている訳ではありませんよ? 只、一度この服に袖を通したなら、今までの喋り方では違和感を覚えさせてしまうかなと思って」

「いや、絶対性格変わってますって! 先輩もそう思いますよねッ?」

 

 ………………。


「先輩?」

 俺が思考を再開したのは、萌に声を掛けられてから十分後の事だった。




 可愛いすぎるううううううううううううううううううううううううう!

  



 性格が変わってないとか大嘘だ。普段の由利より何倍もお淑やかに、そして表情が明るくなっている。俺に向けてここまで眩しい笑顔を向けてくる様な奴は由利じゃない。これは由利の皮を被った何かだ。形から入っているのではなく、魂から入っていると言った方が正しいのではないだろうか。マジで誰だ、目の前の女性は。

 ネガティブの悪循環? 知った事か!

 目の前の由利らしき女性が可愛すぎて死んでしまいそうなのが現状で、それを認識していれば十分だ。確かに購入した修道服は、流石にまんまという訳ではなく、若干ファッション的になっている部分は否めない。それを差し引いても、似合い過ぎている。

 ゆったりした袖のくるぶし丈の上衣は、物腰柔らかで今となっては立派な淑女と言っても過言ではない由利にはぴったりだ。過度な露出は、それはそれでエロいものの、奥ゆかしいエロスとでも言えば、分かるだろうか。

 ……取り敢えず落ち着け。まず大前提として、ボディタイツはエロい。だが何かが見えている訳ではないし、この場合エロスを感じる理由は、『見えていない』からだ。

 奥ゆかしいエロスとは、即ち見せないエロス。

 今の彼女にはそれがあった。口調も変わったせいで、猶更生まれている。『黙っていれば可愛い』が、黙っていなくても可愛いになってしまった。何が一番恐ろしいって、修道服はこれで終わりではないという事。俺が説明したのは、まだ上衣である。

 次は、裾の大きな頭巾―――ウィンプルについて語ろうか。

 これもまた、見せないエロスを助けている。具体的にどうエロを助けているのかは説明出来ないが、あれは魔女におけるとんがり帽子や、ナースにおけるナース帽と同じだ。あれがあって、初めて修道女は修道女たり得る。

「み、御影さんッ!」

「……はい。何でしょうか?」

 やはり別人だ。間違いない。普段の由利なら「……何で呼び方変えたの」と聞く所を、敢えて尋ねずに答えてくれる。性格が変わっていないなんて大嘘も大嘘。これは由利じゃない。これはミカゲだ。

「わ、私悩んでる事があるんですけど! 聞いていただいて宜しいでしょうか!」

「ええ、私にその問題が解決出来るかどうかは分かりませんが、貴方の悩みが軽くなるのなら、お話ししてください。それだけでもきっと、幾らか軽くなると思いますよ?」

 ミカゲは聖母の様な笑顔を傾げて、俺に手を差し伸べた。ネガティブなんて生まれつきの性格だからどうしようもないと思っていたが…………



 この御方に話せば、解決されるかもしれない。

 

 

  

 そもそもシスター服選んだの狩也君ですからね。思考がバグってます。


 連続投稿ですが、流石に深夜ですね。

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