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衣装選び  前編

 ストーカーを撒く為とは言え、一応萌にはこれが真の行動である事を証明し続けなければならない。まして勝ってしまったのだ。ここで『あれ嘘だったから無しな』何て言ってしまえば、いよいよ萌が負けたという事実しか残らない。それは幾ら何でも可哀想だ。極端な話になるが、もしも交通事故で人を殺してしまったとして。この際法律は置いといて。

『賠償も謝罪も要らない。責任を取る必要なんて無い』

 と言われるのが一番辛いに違いない。尚、この話は罪の意識を誰に言われずとも感じる事の出来る常識人を前提とする。サイコパスなんぞには到底適用されない。

「どんな服にしますか?」

「因みに手持ちは幾らだ?」

「えーと、クレジットカードで―――」

「嘘つけ持ってねえだろ。現金だ」

「三〇万円です」

「は?」

「三〇万円です」

「え? マジ?」

「あ、三万円でした」

「どう間違えんだよ!」

 一万円札を何かの間違いで十万円札と間違えなきゃあり得ない間違いである。そもそも十万円札とかいう段階は存在しないので、間違えるとしたら一万円玉等の存在がまかり通る漫画の読み過ぎか、漢字が読めないか、あらゆる数字を十倍に変換してしまう病気か。

「ま、まあ三万円もあるなら絶対買えるな。うーむ……」

 種類は色々あるから、選びたい放題と言っても過言ではない。メジャーなのは、メイド服だ。何故なら俺が執事服を着させられたから。意趣返しには十分だろう。ハロウィンは幾ら何でも季節違い。そうなるとクリスマス関連……サンタ?

 いやあしかし、この服屋にあるサンタの奴は、由利に似合うとは言い難い。胸を強調する奴は絶対に似合わないし、可愛い系は、どちらかと言うと萌の方が似合う。由利はどちらかというと大人な感じで、クールビューティーと言えばいいだろうか。大人は大人でも、那峰先輩とは対を為すタイプだ。

 いや、クールビューティーは碧花か。なら由利は……クールエレガント? 何それ。 

「こういうのどうですかッ?」

「却下ッ!」

「えー!」

「当たり前だ! だってそれ…………普通過ぎるもん!」

 萌が出してきたのは、コートみたいな毛皮の服だ。一応茶色だし、季節に合わせたトナカイ柄なのだろうが、だからどうした。これを着た由利とか想像したくない。

 似合う似合わないではなく、面白くない。着れば多分似合うし、黒タイツと合わせた日には俺が鼻血出してぶっ倒れるだろうが、やはり面白くない。

 執事服を着た俺が面白かったのは、俺という人間がおよそ執事という役柄に似つかわしくなかったからだ。意趣返しというなら、由利にも同じ事をしてやりたい。面白くて、それでいてそれなりに似合う奴。

 

 ―――トナカイか。


 クリスマスと言えばサンタのイメージしかないが、トナカイというのも悪くは無い。視野が広がった。そこまで考慮すると、意外に選択肢は多いのかもしれない。

「これとかどうですかッ?」

「馬鹿じゃねえのッ!?」

「人を馬鹿呼ばわりなんて! 先輩がそういう人だとは思いませんでした!」

「いやだってこれ……キャンディケインの縞々だろ! え、何でこれが服として存在してんだよ。何でこれが商業ルートに乗ったんだよ!」

「これの着方はですね……」

「分かってるわ! 体に巻き付けるんだろっ? これ色が杖キャンってだけで、やってる事『プレゼントは私です♡』と変わらねえからな!」

 最早只の布である。襷との違いは締まり具合とどうやって付けるかくらいであり、ぶっちゃけタオルの端をくっつけるだけでも再現可能なクオリティである。これは只のめっちゃ長い布だ。こんなものに一円でも価値が付いている事を末恐ろしく思う。この店が詐欺店とは言わないが、この商品に関してはどんな詐欺師よりも悪質である。

 更に悪質なのは、萌のチョイスである。ここまで酷いと西辺萌つかえないこうはいと言われても仕方がない気がしてきた。

「じゃあこんなの―――」

「はい却下。というかお前もう選ぶな、一回くらい俺に選ばせろ。な? 俺も大概センスは無い方だが、それにしてもお前より悪質なチョイスはしないという自信がある」

 過激な恰好はそもそも着てくれない&幻滅される恐れがあるので、駄目。それに加えて萌の選びそうな地雷は削除。その上面白くて、俺と同じ気分を味わわせられるもの…………






 無い。






 検索で絞り込みを掛け過ぎると何もヒットしないなんて、このネット社会の時代には当たり前の事だ。

 愚か者めが。何をしている。

「…………お?」

 覗き常習犯の如き鋭い目で衣装を見ていると、ある者が目についた。過激すぎず、似合いそうで、面白いかどうかはともかく、俺と同じ気分を味わってくれ……ここで俺は、絞り込みの条件が矛盾している事に気が付いた。

 俺と同じ気分とは、つまり羞恥。羞恥を感じるという事は似合わないと感じる事であり、この条件は『それなりに似合う』という条件と矛盾している。そりゃ、検索結果がヒットする訳無い。



「これとかいいんじゃないか?」



 お手付きにより休みを喰らった萌にも見せてやると、彼女は小さく手を叩いて、感心したように息を漏らした。

「確かにこれなら御影先輩も着てくれそうですねッ」

「だろ? これの代金は…………何で四千円もするんだこれ。まあいいや。こんなもんなんだろ。萌、頼んだぞ」

「あ……やっぱり私が払うんですか?」

「お前、負けたしな。こういう所は先輩も後輩も関係ないだろ。と言う訳でよろしく~。俺は先にお店出てるから」

 大人げないと言われようが、知った事か。勝負は公正でなくてはならない。後輩だから、先輩だからという理由で左右される様な勝負は勝負じゃない。それこそ正に八百長であり―――






 俺は八百長が嫌いなのだ。

 

 

  



  

 ギリギリか。

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