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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE7

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168/332

雪に揺らぐ

 容姿については本人が一番承知しているだろうから、今更突っ込むような真似はしない。もしかしたら本人にとっては触れられたくないものかもしれないし。



 話は変わるが、俺の周りの女子はどういう性格か振り返ってみるとしよう。



 水鏡碧花は冷静沈着で、どちらかと言えば口調は男寄りだ。『~わね』みたいな言葉を使う様な奴じゃない。気はかなり強く、彼女と口喧嘩をすると俺は決まって敗北を認める事になる。彼女の泣き顔を見られる日が来たら、その日は世界の終わりだ。


 西辺萌は好奇心旺盛で明るくお転婆な所がある。口調は男も女も無く、色々混じった敬語がデフォルト。女性らしいとは言い辛いが、少女らしくはあると言える存在だ。基本的に子犬みたいな後輩なので、口喧嘩する前に可愛いという感情が優先してしまうのも特徴。表情も豊かで、話していて楽しい。


 御影由利は俺の友人の中では一番女性らしい存在である。喋り慣れていないのか、喋る速度はかなり遅いが、別に気になる程じゃない。最初の頃は棘があったが、それの無くなった彼女は優しい同級生みたいな感じで、かなり好いている。表情は碧花に比べたら豊かな方だ。



 総合すると、『THE女子』みたいな人が居ない。こんな事を言い出すと今時のJKにそもそもそんな奴が居ない(金持ちしか行かない超お嬢様の学校とかなら、もしかしたら居るかもしれないが)という話にも繋がってくるが、それはこの際置いておこう。別に口調一つで可愛さが変わる訳じゃない。碧花は口調の割には女子力ないしは妻力が高い。スタイルも良い。口調は女性の可愛さとは大して関係ないのである。

 目の前の女性は、俺にとって会った事がないタイプだった。スタイルの事じゃない。性格の事を言っている。

 

 一言で言えば、おっとりとしているのだ。


 下着泥棒の件で騒がれてる俺を相手にしても、この態度。返す言葉を考えていると、不意に俺へ向けて微笑みを向けてきた。控えめに言って、美しい。現実味の無い白髪も相まって、まるで夢でも見ている様な気分だ。

「ど、ど、どうして僕の名前を?」

「クオン君から聞いたの。可愛い後輩の名前だもの、ちゃんと覚えないとね」

「く、クオン君? …………あああああああああ!」

 すっかり忘れていた。この女性、オカルト部の数少ない生き残りではないか。かつてのオカルト部は西園寺悠吾を筆頭に、九穏猶斗、有条長船、那峰春佳が居た。有条長船の方が引き籠りとされていたのなら、彼女こそは幽霊部員その二、『病弱』の部員。

 保健室に居るのも納得だ。曰く、『オミカドサマ』を鎮める為に自らを犠牲にしたらしいから。

「という事は、春佳さんは僕の…………」

「そう、先輩よ。あまり学校には顔を出せていなかったんだけど、クオン君から話は聞いてるわ。ねえ、もっとこっちに来てお話ししましょう? 保健室、誰も来なくて退屈なの」

「い、いいですけど。ぼ、僕で良いんですかッ?」

「ええ。いいわよ」

 包容力の塊って、こういう女性の事を指すのだろう。今すぐにでも胸に飛び込みたい気分だったが、それをぐっと抑え、慎重な足取りで接近する。こういう年上の女性との交流方法が分からない。だって俺は後輩として可愛がられる様なタイプじゃないから。

 母親との交流をもとにするのは……多分間違ってる。

「あの、僕の事、クオン部長から何て聞いてますか?」

「ん~? 後輩の女の子の事をとても大切にしてる、良い後輩だって聞いてるわよ。もしかして嘘だった?」

「え、いやあー! そんな訳無いじゃないですか! クオン部長は嘘なんか吐きません、僕は優しい男なのです!」

「自分で言っちゃうんだ…………でも、本当にそうなら素敵よ。これからもそういう男性で居てね?」

「はい!」

 人はこれを『デレデレ』と呼ぶ。碧花にこんな姿を目撃されたら、一体どれだけの罵倒をされるだろうか。彼女は鼻の下を伸ばしている男が嫌いなので、その罵倒は百や千では到底足りるまい。ありとあらゆるワードを使って俺の心にナイフを突き立てに来るだろう。

 それでも俺は、この先輩に『デレデレ』で、がっつり鼻の下を伸ばしていた。俺の態度が気に入ったのか、那峰先輩も上機嫌だった。

「所で、どうしてこんな所に来たの? 良かったら理由を聞かせてくれないかしら」

「はい! …………実は、下着泥棒の疑惑を向けられて、クラス中から犯罪者でも見る様な目で見られて」

「あら、そうなの」

「実際はやってないんですよッ! でも……那峰先輩は知らないかもしれませんけど、僕、『首狩り族』って呼ばれるくらい運に恵まれてなくて。だから、証拠なんか無くても、怪しいって言うか、信頼度が無いと言うか」

「…………辛いのね」

「―――慣れてはいるんですよ。でも、クラス替えがあったとはいえ、仮にも二年間を過ごした同級生なのに、これだけ信頼されてないのかって改めて考えると、自分の生きてきた時間ってのが、無意味に思えてきちゃって」

 俺を信頼してくれるのは碧花だけ。俺に人間として生きている実感を与えてくれるのは彼女だけ。スペック的にも実質的にも、こういう考え方をすると、俺は一生碧花に勝てない。



 何が『男は女を守る者』だ。俺は彼女に守られてばっかりではないか。



 成功体験の少なさ。スペックの低さ。そして何より絶対的不運。およそあらゆる要素が、俺にとんでもない劣等感を抱かせている。時に前向きになろうとも、時に男らしくなれても。根本的に首藤狩也という少年は、ネガティブだ。

 懺悔にも似た吐露に、当然那峰先輩は困った様に顔を顰めた。クオン部長から間接的に聞いていたとはいえ、初対面なのだから仕方ない。道端で出会った赤の他人に身の上話をされても、反応に困るし、そもそも嫌だろう。

 「んー」と言った後、那峰先輩は「顔を上げて?」と言った。

「もっと他に、悩んでる事はあるかしら」

「…………はい?」

 何か励ましの言葉を掛けてくれるのだろうと思っていただけに、その言葉は想定外だった。自虐に浸っていた俺は一転して、素っ頓狂な声を上げた。

「な、悩みですか?」

「ええ。私は貴方じゃないから、その悩みを全部理解して、解決させたり、すっきりさせる事は出来ないわ。でも、吐き出した方が良いって事は分かってる。悩みの解決方法は知らなくても、貴方が悩んでるという事実は知ってるわ。だからね、もっと私を使ってくれていいのよ?」

「先輩を使う……ですか? いやでも、僕達初対面ですし。そんな、親友みたいな……」

「理由が必要なの? だったら用意するけど」



 那峰先輩は顎に手を当てて考え込むと―――何と、そのまま眠り込んでしまった。



 漫画みたいな、本当の話である。俺も呆気に取られて、五分くらい立ち尽くしていた。声を掛けようと思ったのも、ついさっき思い至った考えである。

「―――あの、那峰先輩ッ? 起きてください! 話が終わってないんですけど!」

「……眠ってないわよ…………………すう」

「寝てます! 絶対寝てますって! ねえ! ちょっと、寝たふりって言って下さいよ!」

 『オミカドサマ』を鎮める為に自ら犠牲になったとの事だが、もしかしてこれが犠牲になった弊害なのだろうか。

 居眠り病、というのがこの世界にはある。詳細は俺も良く分からないが、名前の通り、場所を問わず眠気に襲われる病気の事だ。そうだとすれば、突然眠ったのも納得がいく。明らかに眠っちゃいけない時ですら眠るのが病気というものだ。

 違うのなら、或いはクライネ・レヴィン症候群……それなら学校に来る筈がない。次に起きるのがいつになるやら分かったもんじゃ無いからだ。もしかすると狸寝入りをしているのかもしれないと思い、顔を那峰先輩に近づけると―――起きない。マジで寝てる。

「…………寝たふり♪」

「は―――へッ?」

 ぱちりと開いた両目を見て、誰も本当に眠っていたとは思うまい。手の込んだ二段構えに、またも俺は呆気にとられた。碧花もそうだが、どうして皆、俺を弄りたがるのだ。碧花は面白い反応をしてくれるからと言っていたが、そこまで面白い反応をした覚えはない。芸人の方がよっぽど良いリアクションしてくれるだろう。

 こちらの反応を面白がるように、那峰先輩は尋ねてくる。

「心配してくれたの?」

「……いや、心配なんて! 僕は只、話の途中だったから起こそうと思っただけで」

「うふふ。良い反応してくれるじゃない♪ クオン君が君の事ばっかり喋るのも、分かる気がするわ」

「クオン部長が僕の事を?」

「ええ。優しいって事の他にも、面白い後輩って言ってたの。彼がそう言うなんて滅多にないから、どんな子なのかなって思ってたけど、想像の何倍も可愛いわ」

「か、可愛いですか?」

 親を除けば、生まれて初めて言われた褒め言葉である。男として複雑な思いはあるが、単純に褒められた事が嬉しかった。

「ええ。抱きしめたいくらいッ!」

 屈託のない笑顔を見て、俺の胸が高鳴る。小中高、一度も部活に入らなかった弊害が、どうやらここに来て現れ始めた様だ。

 交際経験は無く。十数年を通してまともに交流したのが今を除けば碧花だけ。そして彼女は後輩でも先輩でも無く同輩だ。そんな立ち位置の奴と話していても、他の耐性が付く訳ではない。

 萌の可愛さはクオン部長(の存在)でプラマイゼロなので何ともなかったが、那峰先輩にはそれがなかった。

「那峰先輩」

「何かしら?」

「これからも……その。よろしくお願いします」

「―――ええ。あまり顔は合わせられないかもしれないけど、よろしくね」   

 クオン部長が怪しさに偏り過ぎていた人物ならば、那峰先輩は美しさに偏り過ぎていた人物だった。クオン部長には友達が居ないと思っていたが、こんな人が知り合いに居て、どうして告白しなかったのだろう。俺自身で言う所の、碧花ポジションだろうに。

 まあ失敗を恐れて碧花への告白を恐れている俺が言えた事ではないのだが。



 ついでに濡れ衣の払拭も任せているし。俺は本当に告白をしたいのだろうか。碧花とこのままずっとこの関係で居たいと、思ってはいないだろうか。











 あらゆる意味で楽なこの関係を……続けたいとは思っていないだろうか。クリスマス会までには、答えを出したい所だ。



 


 

 

 一人称が僕に変わってる時点でね。




 碧花様は気付かせたい(狩)


狩「おう碧花。何してんだ?」


碧「ん。おはよう狩也君。実は今度バーベキューをしようと思ってね」


狩「え、お前友達いたの?」


碧「喧嘩売りに来たなら帰ってよ。忙しいんだから」


狩「いや、悪かったって。しかしバーベキューか。面白そうな事するじゃないか。俺んちもやろうかな」


碧「妹と二人で?」


狩「まーそれもいいけどな。流石に寂しすぎるし、菜雲でも呼んでやろうかなと」


碧「…………え? え? ちょ。ちょっと待って。いつからそんなに仲良くなったの?」


狩「いや、別に仲良くなった訳じゃないよ。ただ、お前が何かで忙しくて、勉強の相手してくれなかった事あっただろ? その時に困ってたら、無言でノート置いてってくれてさ。翌日お礼言ったら『クラスの平均が上がれば委員長である私の株も上がる』とか言ってたけど、ああいうのを素直じゃないって言うんだろうな」


碧「……(あの女にそんな良心があるとは思えないけどな)」


狩「で、よく考えてみたら、言葉だけだと何か俺まで薄っぺらく思えて来てさ。ちゃんと感謝してるって伝える為に誘おうかなって思ってんだ。そうしたらほら、アイツも素直にお礼を言ってくれるかもしれないじゃん?」


碧「そう。じゃあそろそろ本音を聞こうか」


狩「アイツ可愛いし仲良くなれたらなんやかんやあって彼女になれそうだなー! ……って何言わせんだよ! 反則だぞ!」


碧「勝手に言ったんじゃないか。しかしふむ……ああ…………」



碧「……(多分、あの女は私から狩也君を取り上げる事で屈辱を味わわせたいのかな。狩也君は鈍いし彼女欲しいから、利害としては一致してる。どうやら学力でも体力でも勝てないから、女性としての幸せという面で勝利しようという魂胆らしい。最初から分かっていた事だけど、腹の底まで腐ってるね)」



碧「ねえ狩也君。そのバーベキュー。もしやるなら私も付いていっていいかな?」


狩「え? いいけど、お前からしたら二回目だろ。良いのか?」


碧「君が居ると居ないとでは大違いだよ。十分価値はある。それに、手慣れた人が居た方が作業は進むしね」


狩「それもそうか。じゃあやるんだったら連絡するわ。あ、そろそろ行かないと天奈に怒られるから、じゃあな!」


碧「じゃあね」






碧「あの女、狩也君に手を出すなんて。男を外見でしか判断できない様な女はさっさと風俗堕ちでもしとけよ」


 

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