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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
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探偵 首藤狩也の受難

 中盤下った所。

「……っと。こんなものか」

 多分、綺麗になった。無くなったものは何一つとして無かったので、恐らく犯人は望みのものを得られなかったのではないだろうか。残念ながら、と言うべきか、俺は価値のあるものをそう持ち合わせていない。通帳とかは俺の部屋には無いし、お宝があるとしたら精々万年筆くらいだが、しかし持ち去られていた訳ではない。

 俺の懐にあるものは、どれも平凡極まるものばかりだ。つまり俺の家に侵入してきた目的は、最初から俺の家には無かった、そして今、俺が所有しているものに違いない。この不可思議な状況で正体不明の侵入者が欲しがりそうなもの…………あまりにも突拍子のない発想だが、もしや侵入者の求めたものとは、これではないか?


 俺は懐から手記を取り出して、広げてみた。そう言えばこの手記、気になる事がある。


『一人かくれんぼは二時間以内に終わらせないと霊が帰ってくれないと一般には言われているが、私は一人かくれんぼの起源を追っている内にある事に気付いた。正確に言うと、一人かくれんぼは霊が帰らなくなるのではない。いや、確かに霊は帰らなくなるが、その後だ。その霊はある種の霊道となり、他の霊まで繫ぎ止めてしまう。あの世とこの世が曖昧になるのだ。

 私はこの目でそれを実際に見た。そしてこの情報を伝えるべく、これを書き残した。もしこのメモが私の元を離れているのなら、きっと私は生きていないのだろう。気が付けば部員も私を抜かせば副部長一人だけになってしまった。彼だけは何としても生かさなくては。彼まで死んでしまえば、オカルト部はお終いだ―――』


 副部長一人……そして苗字が同じクオン。もう一度西園寺に会えれば事は全てはっきりするだろう。だが彼は、まるで霞の様に消えてしまった。それこそ、死人みたいに。何の音もなく退散するなんて、そうとしか考えられない。

 何せあのタイミングは萌と合流できる瞬間だったのだ。「二人で居た方が安全だろう」と抜かす彼が、合流を拒絶する事なんてあり得ない。


―――そもそも、何で俺と出会ったのだろうか。


 ここまで疑う事自体、物事の純然たる道理にケチをつけるに等しい行為だ。俺と彼が出会った経緯は、突如として襲撃してきたマガツクロノに対応する為、俺が騒音をまき散らしたからである。うるさかったからそっちに来た。この道理にケチをつけるなど、最早心得違いにも等しい推理である。

 しかし、彼が今まで町中を歩いてきたというのなら、萌や由利、クオン部長に会うなど造作も無かった筈だ。それが丁度、俺が騒音を鳴らした事で……出会えた。偶然と片づけられればそれまでだが、俺はどうしてもこの疑念を拭いきれなかった。

 その時、俺の携帯が鳴り響く。相手は―――クオン部長!?

「もしもし!」

「もしもし。やけに勢い強いな。何かあったか?」

「んな事言ってる場合じゃないですよ! 何処に居るんですか!」

「ふむ。何処に居ると問われても、君はこの街の地理に詳しい訳じゃない。果たして俺の居場所を教えた所で、君が分かるのかどうか―――」




「萌が襲われたんですよ! マガツクロノに!」




 いつまで経っても楽観的な姿勢を崩さない部長に、終いには切れてしまった。もう少し俺の腕力が強ければ、携帯を握り潰していた勢いである。

「……部長として、アンタは部員の安全を確認するべきなんじゃないのか?」

 クオン部長が電話の奥で狼狽する音が聞こえた。

「―――これはしたり。渦中に居たと思いきや、蚊帳の外だった訳か。本当に申し訳ない。こんな風になるとは予想だにしなかった」

「…………あ、そうだ。クオン部長。途中で西園寺悠吾って人に会ったんで」








「何だと!」








 取り乱す部長など、らしくもない。俺にとっては推理の正否を見分ける重要な材料だった。今の反応で、西園寺悠吾とクオン部長が関わっている事は明らかだ。電話を切られて誤魔化されるのは嫌なので、俺は捲し立てる様に尋ねた。

「誰なんですかッ? あの人」

「………………西園寺悠吾は、俺がまだ一年生の頃、部長をやっていた人だ。俺は副部長として……彼のサポートしていた」

 …………俺はホッとした。狼狽の割には、全然大した事ない情報だった。部活としてではなく真性からオカルトが好きなのなら、たとえ卒業してもオカルトの事は変わらず好きである筈だから、でくわすのも当然というもの。

 肩の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。実は彼こそが『マガツクロノ』なのではないかと(俺が首狩り族なら、不運というか、その元凶を呼び寄せるのも不思議ではない)、そう思っていたから。

「……なーんだ。じゃあ只の卒業生じゃないですか。クオン部長、何を動揺してるんですか? ひょっとして部長、苦手意識でも?」

 おどけた口調で雰囲気を和らげようとしてみるが、クオン部長が完全に沈黙してしまったので、俺の試みは徒労に終わった。全くびっくりさせてくれる。マジで何事かと思ったじゃないか。

 それは本当に長い沈黙だった。電話が繋がっているかすらも不安になって、一度確認したくらいだ。

「………………………………そうだな。君だけには教えておこう。くれぐれも、萌には教えないでくれよ」

「何か不都合でも」

「然り。不都合が無ければこんな前置きはしない……そうだな。少しかつてのオカルト部について話そうか」

 最初から最後まで、部長の口調は慎重極まった。やがて紡がれた言葉は、ある意味で……俺を更なる混沌へと叩き落とした。










「君や萌が入学する前、事件が一つあった。事故として片づけられているから、君達が知らなくても無理はないだろう。当時、俺達はこの街最古の都市伝説、オミカドサマを調査していた。その過程で…………部長は死んだ」




 一度大きな溜めを作ってから、クオン部長が言い直す。




「いや。死んだというのは正確ではないな。部長は殺したんだよ――――――俺が」




















「この街、とある瞬間から奇妙不可解な事件が定期的に起きてるのは知っているか? 君が関わっている事件も、勿論含めて。殆どの被害者が死んでいたり、精神が崩壊していたり。まともな状態じゃない。西園寺部長は、そこにとある都市伝説が関わっているのではないかと考察した。それこそがオミカドサマ…………厳密に言うと、これは一人かくれんぼだった」

「どういう……事ですか?」

「元々一人かくれんぼは、遊びじゃない。自分自身を呪う呪術には違いないが、元々はオミカドサマを鎮める為の儀式だった。それがいつしか低俗な呪術として広まり、今現在親しまれているという訳だ」

「…………」

「君に手記を渡したのは、もしも俺が殺された時に奪われないようにするためだ。それは真実へ到達する手掛かり。君にとっては残酷な真実にもなりかねないが……俺なりの、誠意みたいなものだと思ってくれ」

「誠意って……いやいや。あんな肝心の所が破れてるページが誠意ですか?」

「その破れてるページを持ってるのが、他でもない西園寺部長なんだよ。俺もそこについては分からない。だから驚いたんだ。死んだはずの部長が居るなんて……ああ、そう言えば俺が殺した理由を明らかにしてなかったな。西園寺部長はこの街に根付く怪異に近づき過ぎた。俺が殺さなければ、正体不明の怪異として街を危機に晒す事になっていた。だから―――殺した」

「―――自首は、しないんですか?」

「……する訳ないだろう。俺もまた、真相を究明しないといけない。自首するとすれば、その後だ」

 信じられなかった。いや、怪異云々ではなく、部長の精神性が。どんな怪異よりも、今のクオン部長は俺にとって恐怖の対象だった。

「…………だが、実は。大体の推測は付いているんだ」

「え?」

「西園寺部長の手記。破れている処は、従来の手順を踏めなかった場合の終了方法。だよな?」

「はい」

「この街の奇妙な事件の幾らかは、明らかに怪異が関わっている。通常の出現頻度じゃない。異常だ。勘違いしないでもらいたいのは、人が死ぬという事は、それだけ邪悪な怪異が繫ぎ止められてしまったという事。この土地が明らかに呪われてでもいない限り、人が死ぬくらいの被害が出るならばそうとしか考えられない。さて、ここで振り返っておこうか。一人かくれんぼは二時間以内に終わらせないとどうなる?」

「えー……霊は帰らなくなる上に、その霊はある種の霊道となり、他の霊まで繫ぎ止めてしまう。あの世とこの世が曖昧になる、でしたっけ」

「正解だ。つまり今までの奇妙な事件は、一人かくれんぼが終わっていないから、起きているという事になる。勿論人為的なものだってある。でも少なからず、怪異も関わっている―――」









「一人かくれんぼは、今この瞬間も続いている」











 マダアソビタリナイノ?

 御影から聞いたその言葉が、頭の中でいつまでも響いていた。あの時は訳の分からぬ言葉であったが、部長の発言を全て信じると、合点がいく。問題は、第零階に居た女の子がどうしてそれを言ったかだが…………今は、どうにかしようにも、動きようがない。

「仮に、それが本当だったとして…………どうするんですか?」

「うむ。それだがな。君さえ協力してくれるなら直ぐに終わらせる事が出来る、と考えている。ただ、凄く危険な方法だ。萌や由利、はたまた君の友人や妹が居るのなら、別れの言葉を言っておいた方がいいだろう」

「な、何だか大袈裟ですね…………」

「君の家から遥か北方に森がある筈だ。その入り口で待っているから、早く来てくれ」

「わ、分かりましたッ」

 部長の語調が一度も変わる事は無かった。通話をやめた俺は、別れを言うべき人を頭に思い浮かべた。

 水鏡碧花。

 彼女には世話になったし、出来ればこれからも一緒に居たいが、危険だとするなら、それも無理かもしれない。電話するか迷った挙句に……やめた。

 彼女にそんな事を言えば、きっとどんな手段を使ってでも止めに来る。クオン部長は一言もそんな事は言っていなかったが、一人かくれんぼが終われば、俺の超絶的不運だって、もしかしたらなくなるかもしれない。本当に只の運なら仕方ない。けれど可能性があるならやるべきだ。彼女には申し訳ないが、黙って行かせてもらおう。

 西辺萌。

 怪我をしている彼女にそんな事を伝えれば、無茶をするに決まっている。やめておこう。

 御影由利。

 萌を見守るという役目が彼女にはある。余計な心配を入れるのは、良くない。


 最後に、天奈。


 ……………………ごめん。お兄ちゃんは…………ごめん。


 二階から移動すると、リビングの方ではテレビの音が聞こえる。疲れて眠ってしまったのだろうか。テレビの音以外は何も聞こえない。

 不思議に思って扉を開けると―――









 二人が、消えていた。



 

 今日は番外編思いつかないのでお休み。

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