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黒幕系彼女が俺を離してくれない  作者: 氷雨 ユータ
CASE6

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115/332

黒幕の心得

 分け合って八時間も時間を無駄にしました。

 俺達の方もメンバーが揃ったと言う事で、天奈達に混じる形で俺達もパーティーに参加する事になった。正確には混じったというより、同じ部屋を使っている関係で混じらざるを得ないだけなのだが、香撫は大歓迎みたいだったし、問題は多分起きない。那須川君については混じろうが混じるまいが、天奈としか話す気が無いらしいし。

「碧花さん! 合コンに興味はありませんかッ?」

「無いよ」

「友達になってください!」

「断る」

 料理を作り終えた碧花は早速香撫に絡まれてしまい、当分俺達の輪には入れなさそうだった。相変わらずの澄まし顔(いつもと比べると随分表情は柔らかいが)だが、俺の分析によるとかなり鬱陶しそうにしているので、香撫が彼女と友達になれる可能性はほぼ皆無と言っていいだろう。碧花みたいな人間には第一印象で嫌われるとその後も嫌われ続けるので、あの分では普通に無理だ。

 押して駄目なら引いてみろという言葉もあるが、彼女の場合、引けばそのままそれっきりだ。香撫もそれを分かっているから引かないのだろうが、俺の口添えでも無い限りは多分進展しない。そして俺は、碧花との時間を出来れば独り占めしたいので、口添えする事はない。

「萌さんはお兄ちゃんの後輩なんですか?」

「そうですよ。天奈ちゃんは普段の先輩と接していてどうですか? 楽しいですか?」

 俺も先輩、クオン部長も先輩、御影も先輩のせいですっかり後輩根性が染みついてしまった萌は、年下にも拘らず天奈に敬語を用いていたが、しかし年下という事は認識している様で、敬語を用いていながら『ちゃん』付けという奇妙な話し方になっている。天奈は気にしていないが、俺はとても気になった。

「んーどうだろ。楽しいのかな。でもまあ……お兄ちゃんの妹で良かったとは―――思ってるかな?」

 最後に疑問符さえ付かなかったなら完璧だったのだが、まあ俺は完璧な兄貴ではないので、そんな風に語られても仕方ないだろう。完璧な兄貴はそもそも『首狩り族』なんかになっていない。男性的魅力が欠如しているだけでなく、俺は兄貴的魅力も欠如しているのだ。

 アニメキャラにおける『兄貴分』が羨ましい。どうしたらあんな男らしく慣れるのだろうか。今までの人生を振り返ってみるが、俺が男らしい時があったかと言われると―――情けない時しかない。むしろそういう瞬間があったのなら、俺に教えてほしいくらいだ。

「いいですねーお兄さんって。私も先輩みたいなお兄さんが欲しいですよ」

 萌の家庭環境が複雑なのは良く分かっているので、その言葉にどれだけの重みがあるかは計り知れなかった。妹がそれを知る道理はないものの、俺と部長は密かに息を呑んだ。あの家庭環境があって良くこんな性格の子に育ったものだと、不思議に思っている。

 俺は首を傾けて、部長に耳打ちする様に言った。

「そう言えば、萌の親ってどんな人なんですか?」

「…………ここで聞くか?」

「今の所聞いてるのって由利だけですし。聞けるなら聞いておきたいなあって」

「私は、良いんだ」

 そう言いつつも、彼女だって好奇心には勝てない様だ。俺と二人して部長に顔を傾けた所で、彼は観念したように俺達を押し退けた。

「分かった。教えるからやめろそれ。…………しかし、何と言ったモノかな。良くも悪くも俗物というべきか、元ホスト狂いの女だ」

「…………ホスト狂いって何ですか?」

「ホスト狂い。人生計画が全くなく、稼いだお金を全て注ぎ込む人の事」

 人間辞書こと由利の説明を受けて、納得した。つまり中毒者の様なものだと考えればいいのか。残念ながら俺は『言葉通り』と言われたとしても素直に解釈出来ない人間なので、逐一説明してくれないと話に追いつけない。

 話の腰を折られずに済んだ部長が、話を続ける。

「萌はな、今でこそ元気だが、家から電話が掛かってきた瞬間なんか酷いぞ。急に顔が死ぬ。分かってるんだよ掛けてくる相手。アイツの父親だ」

「父親って…………えーと、新しい方の」

「―――非常に情けない話だが、アイツの母に男を見る目は無い。新しいのも古いのも碌でもない奴が殆どだから、どっちでもいいだろう。強いて言えば今が最悪だろうがな」

「……どういう意味なの」

「純然たる事実として、萌は生まれるべき所を間違えた。狩也君なら分かるだろうが、アイツはトランジスタグラマー。君の友人を除けば校内で一番スタイルが良いだろう。御影よりもな」

 最後の一言が余計極まるせいで、部長は光の速度(表現はイメージです)で放たれた拳を打ち込まれ、首があり得ない方向に捩れた。自覚無しに余計な一言を追加する奴は居るが、文脈的に彼が意図的にそれを入れたのは明らかだったので、この仕打ちは仕方がない。俺も御影の味方をするだろう。

 彼がぶん殴られたのは彼女へ向けて遠回しに貧乳呼びしたせいだが、そうは言っても絶壁ではない。胸元まで及んだレースから見える谷間を見る限り、控えめなだけだ。

「アイツのスタイルの良さは流石に君の友人には劣るが、大人の女性顔負けである事に変わりはない。一応付け加えておくと、アイツの母親は五二歳だ。昔がどうだったかは知らないが、スタイルという点で現役JKの萌に勝てる筈がない。アイツの母親はアイツの父親に夢中だが、その父親は萌に夢中と言う訳だ」



「うわあ…………」


 

 こんな事を言うのは萌や部長に申し訳ないかもしれないが、オカルトなんかよりずっと気持ち悪く、恐ろしく、怖い存在ではないか。露骨に俺はドン引きしていたが、それ以上に同性である御影は引いていた。嫌悪感丸出しの顔とは正に彼女の作った表情の事であり、ここに人が居なければ嘔吐だって平気でするだろう。

「萌は正常だが、そのお世話はかなり骨が折れるぞ。高校生である以上、アイツは家に帰さなくちゃならないが、そういう日は父親が居ない日に限られるし、父親が居る日は寝床を世話しないとならない」

「だから部長の家で匿ってると」

「俺の家…………ああ、家か。いや、俺の家は……まあ、そうだな。とにかく面倒だが、父親の居る日に家へ帰してしまえば、襲われかねない。君も思ったかもしれないが、半端な恐怖よりもずっと恐ろしいと思うぞ。父親に、性的な目線で見られると言うのはな」

 そりゃそうだろう。俺にその経験があったら尚恐ろしいが、家族からそういう目で見られるというのは、非常に気持ち悪い事だ。二次元的には違うのかもしれないが、リアルな話では俺の意見に賛同する方も多いのではないだろうか。

 そもそも二次元においてそれが許容されているのは、それが可愛いからだ。リアルの妹なんざ何が可愛い。いや、家族的には可愛いのかもしれないが、恋愛対象的には可愛くないだろう。

「…………一つだけ、言っておく」

「何ですか?」

「卒業してしまえば、俺は萌の事を守ってやれない。狩也君、どうか君が彼女の事を守ってやってくれ。萌はどうやら、お前の事が大好きみたいだからな」

 そう言ってクオン部長が萌を見遣る。天奈と話が弾んでいるらしいが、その話題の殆どは俺に関する事柄であり。どんな話題に転換したとしても、一度は俺の話が出てくる。それだけ『俺』という要素で盛り上がってくれるのだから、幾ら俺でも萌が好意的なのは理解しているつもりだ。時々その好意で動揺してしまうが、それも生活環境に恵まれなかった反動だと解釈すれば、納得がいく。

「はいッ。分かりました」

「よろしく頼む」

 俺の快諾に部長はホッと胸を撫で下ろして、立ち上がった。



「辛気臭い話はこのくらいにして、そろそろ楽しもうじゃないかッ。ほら、二人共立て! いいから立て部長命令だ!」

「もう、立ってる」

「ていうか俺部員じゃねえし!」


 そもそも部長の剛力でひっぱりあげられているので、立ち上がるも糞も、こちらにはその選択すら許されていなかった。


「知った事か、パーティーにおいて全ては無礼講。俺と話してばかりいないで、他の奴と会話してみたらどうだ。妹の友達だからと気にしていては、何時まで経っても陰キャからは抜け出せないぞッ?」

「余計なお世話ですけど…………! 一理ありますね。部長はどうするんですか?」

「俺はトイレに行く。というかさっきから行きたかった」

「おい! 話を切ったのその為かよ!」

 俺の追求には無視を貫いて、部長はそのままトイレに直行してしまった。この光景を見ると、やはり部長も人間なのだなと改めて確信する。時々彼が人間ではない気がしてならないので、こういう光景は俺にとって部長が日常側の人間なのだと教えてくれる良い光景……いや、そんな事は無いか。

「由利」

 恥ずかしながらそんな風に彼女を呼ぶ。この家に来て以降、使っている呼び方だが、何だか急に距離が縮まったみたいでちょっと恥ずかしい。

「……何」

「いや、早速だけどゲームしたいなと思ってさ。俺の部屋に多分明らかにパーティーで使いそうなものがあるから、それ持ってきてくれないか?」

「首藤君は」

「俺は…………な?」

 俺の視線の先には、未だ香撫に絡まれている碧花の姿があった。


 


 そろそろ助けてやらないと、酷というものだろう。 

 ちょっと本気で辛気臭かったので、次回は本気でうぇーいします。

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