死神様と鬼退治
町一番の高い建造部から空を見上げると、あたり一面に輝いている星が今すぐにでも手に届きそうなほど星空が近くに感じることができた。
眼下では街のあかりがまだ輝いていて週末の賑わいを感じることができた。
そんな高いところにいるにもかかわらず不思議と怖さはなかった。
それは一緒に隣に座っている女性のおかげだと思う。
二人とも話すこともなく、でも不思議と心地よく空と街の明かりを眺めていた。
その沈黙を破ったのは眼下にある一番明かりが強い駅前の時計塔による十二時を知らせる鐘の音であった。
鐘の音が鳴りやんだ後、女性は静かに話し始めた。
「あなたは、二日後に死ぬことになります」
話はこの二時間前になる。
十二月九日 二十二時。
最近、改装工事が終わった駅前のアーケード通りは十二月独特のイリュミネーションで華やいでいた。
大袋をかかえている中年のおじさんや、まだまだ遊び足りない若者達、お酒がはいって機嫌よく大声で話しているサラリーマンなどたくさんの人たちとすれ違った。
その中を抜けて俺はコンビニで買った晩御飯を持って家路を急いでいた。
十二月にはいって秋から冬への急な気温の変化はまだ自分の体には慣れていなく、コンビニで温めた体をすぐに冷やし始めた。
駅から二十分という距離は歩きだと結構長く感じるものである
手元にあるコンビニの袋からはさっき買ったばかりである弁当からおいしそうな匂いがしていた。
でも家に帰ったらもう一回暖めなおさないといけないかな、とちょっと苦笑いしながらアーケード抜けて住宅街の長い坂道を登り始めていた。
程なくして目的地である自分の家であるマンションの前につき、そのまま入り口を通り抜けエレベーターの前で上のボタンを押す。
到着する間に草薙と書いてある表札の郵便受けの中身をチェックし、何も入ってないのを確認して扉が開くのを待った。
エレベーターに入り部屋のある四階のボタンをおしてエレベーターは動き出した。
四階に到着するまでの待ち時間に大きく深呼吸してコンビニからの一気に歩いてきた体を休ませた。
四階に到着してポケットから部屋の鍵を取り出し四〇三号室のドアに差し込んだ。
「ガチャリ」という音で鍵が開いたドアを開けて玄関にはいり「ただいまー」と毎日の習慣で「草薙和弥」はもう誰もいない部屋に声をかけた。
玄関で靴を脱ぎ真っ暗な廊下をとおりリビングの部屋に入るとそこはテレビとコタツテーブルとソファーだけというシンプルな部屋であった。
和弥は買ってきたコンビニの袋と鍵をテーブルに置き、カーテンを開けた。
目の前には今上ってきた駅前の賑やかな明かりが見えた。
駅から高台にあるこのマンションの四階からの眺めはとてもきれいであった。
和弥はそのままベランダのガラス戸を開けた。
外から一二月の冷たい風が今まで閉めきっていた部屋の中に入ってきた。
それを感じながら和弥はベランダに出て手すりにひじをかけて目の前に広がる街をみていた。
どれくらい時が過ぎたのかわからなくなったころ和弥の頭上から声をかけられた。
「こんばんは、きれいな眺めですよね」
と、それは女性の心地よい響きであった。
しかし和弥は突然声をかけられたことと自分がいま最上階の四階のベランダにいるのにその上から声が聞こえたことに驚き、すぐに声がしたほうを向いた。
そこには月の光によって銀色に輝いている髪が印象的で手すりもない屋根に、しかし風に流れる髪を手で押さえながら和弥のほうを微笑みながら立っている女性がいた。
和弥は驚き声が出せないでいたが、それは声をかけられたことに対してではなく、そこに立っている女性がとても神秘的できれいであったからである。
「隣、いってもいいですか?」
と女性は風に流れるようにいってきた。
一方和弥は一瞬意味がわからなく
「うっ・・・え?」
と変な受けこたえしかできないでいた。
しかしその女性はそんな和弥の受け答えを気にしないで一歩前に歩き出した。
「わっ!」
と和弥は驚くがその女性はどういうわけかそのまま地面のない空を歩きそして音もなく和弥の隣に降りてきた。
「こんばんは」
と女性はまたにっこりと和弥に微笑んでいた。
和弥は口を半開きにして声に出せない驚きをしていた。
「あ・・・あ・・」
とやっと声を出すことを思い出したかのように和弥は微笑んでいる女性に
「あなたはいったいなにものなんだ」
と口にすることができた
女性は和弥を見ながら、
「私は人間ではありません」
と女性は一呼吸おいて、突然一枚の名刺をだした。
和弥は女性から渡された名刺をみた。
そこには「死人案内人 神楽 命」と書かれていた。
和弥は名刺を確認したあと女性を見た。
「だって私、死神ですから」
和弥は一瞬聞きなれない言葉を聴いて
「・・・それは笑うところか?」
いま和弥とミコトは和弥の部屋のこたつに足をいれ、向かい合って座っている。
ベランダでのミコトの自己紹介のあと、和弥が何か言おうと口を開きかけた瞬間、ミコトが和弥の部屋にあるこたつを見つけた。
「あ、これって、こたつですよね。私初めて見ました。」
ミコトはさっきとは打って変わって無邪気に話しだした。
それに和弥は頷くことしかできなかった。
「いいですね~、・・・。あの足入れてみてもいいですか?」
和弥はもう苦笑いをすることしかできなかった。
このままでは話しが続かないのでとりあえず二人でコタツに入ることにした。
初めてのこたつに足を入れたのが嬉しいのかミコトはそわそわしている。そんな尊に和弥はやっと声をかけることができた。
「で、ミコトは死神なんだな」
「はい」
即答で返ってきた。
「死神ねー、しかしいきなり人の部屋に上がりこみいきなり「私、死神です」と言われてもなー」
和弥はぶつぶつと納得がいかずぶつぶつとつぶやいた。
「あの・・・失礼ですがそんなに人のことを死神、死神と連呼しないでくれますか。なんか殺伐としているのであまり好きではないんですよー」
ミコトが怒った顔して講義しだした。
「だから名詞にも「死人案内人」とつけているんですからー」
・・・なんだかなー
「でもよ、だから『はい。そうですか』とはいかないでしょ。なにか証拠を見せてよ」
するとミコトは少し考えておもむろに自分の背丈くらいの鎌をかまえて、
「じゃー、死んで見ます」
と言ってきた。
・・・ヲイ、洒落になっていないぞ。しかもどこから出した。
「うーん、しかしそれじゃ規則に反するし・・・」
なんか今ので十分なような気がする。
「じゃーあ、『お空』飛んで見ましょうか」
と言ってミコト立ち上がり、窓に近づき勢いよく窓を開けた。
外の空気は十分に冷たく、部屋の温度は一気に下がった。
ミコトは俺の手を握って、
「さあ、早く行きましょう」
と言ってきた。
そしてその背中には白くて大きな羽があった。
俺は今空を飛んでいる。正確には空を飛んでいるミコトの手を握っている。
不思議に恐怖感は無かった。
空にいるのに重力感がないからかもしれない。
彼女の手を握っているからかもしれない。
ミコトが楽しそうに飛んでいるからかもしれない。
そして俺たちは街一番の高い建物に座っていた。
「どう?楽しかったでしょ。これで信じてくれた」
ミコトは笑顔で言ってきた。
俺もなんとなく照れくさかったので遠くをみながら「ああっ」とだけ答えた。
町一番の高い建造部から空を見上げると、あたり一面に輝いている星が今すぐにでも手に届きそうなほど星空が近くに感じることができた。
眼下では街のあかりがまだ輝いていて週末の賑わいを感じることができた。
そんな高いところにいるにもかかわらず不思議と怖さはなかった。
それは一緒に隣に座っている女性のおかげだと思う。
二人とも話すこともなく、でも不思議と心地よく空と街の明かりを眺めていた。
その沈黙を破ったのは眼下にある一番明かりが強い駅前の時計塔による十二時を知らせる鐘の音であった。
鐘の音が鳴りやんだ後、女性は静かに話し始めた。
「あなたは、二日後に死ぬことになります」
俺はやっぱりなという確信なのかあきらめなのかわからない感情があった。
ミコトは俺のほうを向いていた。
「どうして俺の部屋にいたの。」
俺はミコトの方に顔を向け、
「やっぱり・・・『死神』だから・・・」
「・・・うん」
ミコトは少し間を置いてうなずいた。
「何でか、理由教えてくれるよね」
ミコトは再び遠くを見つめた。そしてゆっくりと話し始めた。
「人間はね、ある程度生まれたときから決まっているの、その人の『死ぬ時』というのが。でもそれは『絶対』というわけではないの。その人の努力や運などで左右されることはあるの。でも中には死ぬ時に死ねなくて不幸になる人もいるの。そんな人の為に私たちは絶対的な『死』を与えるために、その人を向かいに行くの」
ミコトは軽く深呼吸をした。そして俺のほうを向き、
「あなた、草薙和弥は半年前の飛行機事故で死ぬはずだった。でもあなたは運良く今も生きている。でもあなたの心はひどく疲れていて、今にも心が死にそうになっている」
・・・当たっている。俺はあの事故からいきる気力を失っていた。
両親が死んだことによる孤独感、遺産相続による親戚の人たちの嫌な目。
そして飛行機事故と言うネタでの報道の人たちのしつこい質問攻め。
俺はそれらのすべてから逃げるように今を暮らしてきた。
そしてただなんとなく今を生きてきた・・・。
「もし、和弥がこのまま生きたいと思うなら。私との記憶を消して今までどおりの生活を送ることができる。でも・・・」
ミコトは一回深呼吸をし、俺の目を見た。
「でも、この世界に・・・もう疲れたのなら・・・私が連れていってあげる。疲れも、悲しみもない世界に・・・」
そして俺は、・・・この世界を別れる事にした。
そして俺たちは部屋に戻ってきた。
「あっちの世界に行く前にやることがあるの。この世界には沢山の幽霊がいるの。その多くの人はこの世界になにかしらの未練があるからなの。そお言う人たちは私たちの力ではどおすることもできないの。だから少しでもそお言う人たちが出ないように最後に好い思い出を作ってあげるの。だから和弥はなにがしたい」
ミコトはコタツに入りながら聞いてきた。
「あっ、参考までに、お金持ちになりたいとか、世界の支配者になりたいとかは辞めておいたほうがいいですよ。願いはかないますけど、すぐ亡くなりますから。後、願い事の数を増やしたいとか、世の中平和に、と言う願いはだめですよ」
「わっ、解った。しかし時間がかかるから、ゆっくりしていってくれ」
そお言うとミコトは『わかりました』といって近くにあった雑誌を読み出した。
いきなり『願い事は』と言われてもなー、これと言って何も無いんだよなー。
あーでもない、こーでもないと考えているとミコトが話しかけてきた。
「ねぇ、最後にお別れを言いたい人とかいないの。友達とか、彼女とか」
「残念なことに俺にはそんなに親しい友達もいないし、彼女もいない」
「ふーん」
「すまんが、もうちょっと待ってくれ」
『うん、解った』と言ってミコトは雑誌を読み出した。
・・・・どうしよう・・・・
いろいろ考えているうちに、ふとミコトを見てみる。
楽しそうに雑誌を読んでいる。
でもどこから見ても普通の人間だよなー。
でも・・・死神なんだよなー。
さっきも大きな鎌を持っていたしなー。
そう言えば、羽、綺麗だったなー。
「どうしたの?ずーとこっちを見て」
「うん、あ、あー」
どうやらずーと見ていたらしい。
「いや、ミコトが普通の人間と変わらないなー、と思って」
「まだ、信じられない」
「そお言うわけじゃないよ。ミコトが死神であることは信じるよ。さっきの羽も綺麗だったし」
しかしミコトは黙って下を向いてしまった。
「どうしたの?」
ミコトは少し困ったような笑顔で
「私の羽、綺麗といってくれるのは嬉しいんだけど・・・」
そおいってミコトはもう一度自分の羽根を出した。
やっぱり、汚れの無い、綺麗な白い羽だ。
俺は、少し見とれていた。
「でもね・・・」
静かにミコトが話し始めた。
「私の一族は、天使と悪魔の中間に位置するの。でもどっちかと言うと悪魔よりなの。あらゆる生物の生死に関わり、闇夜に生きるから。だから本来私たちの羽は白じゃなく黒なの。
私以外の一族は全員黒い羽なの」
・・・なんて言えば・・・
・・・言葉が出ない。
そうこうしているうちにまたミコトが話し始めまた。
「でも・・・嬉しいな。私の羽、綺麗と言ってくれて」
『決めた』
俺は今まで静かだった部屋で大きな声を出した。
それに反応してミコトが俺を見た。
「『決めた』・・・て、願い?」
「そう」
ミコトはコタツから出て俺の前に立った。
「一つだけ。本当にその願いでいい。後悔しない」
俺もコタツから出て、ミコトの前に立った。
「ああ、大丈夫。後悔はしない」
「では・・・」
ミコトは俺の手を取った。
「どうぞ」
俺はミコトの目を見た。
「ミコトと一緒にデートがしたい」
ピピピッ・・・ピピピッ・・・ピピピッ・・・
・・・カチッ・・・
俺の手がかってに目覚ましを止めた。
最近目覚ましが鳴ると自然に手が動く。
時計を見ると『AM8:00』。
俺はそのまま寝ながら天井を見た。
昨日のことが嘘のような朝だ。
でも・・・嘘じゃない。
俺は右手を布団から出した。
右手の小指には銀色の指輪があった。
「約束だな」
俺は布団から出て出かける準備をした。
『・・・解りました。では和弥さん右手を出してください』
俺は言われるがまま右手をミコトの前に出した。
ミコトは俺の右手を両手に包み、自分の小指と俺の小指を結んだ。
ちょうど指きりの形になった。
「いったいなにを」
「今から誓いを立てます。少々待ってください」
それからミコトは小さく何かをつぶやき出した。
すると二人の周りが輝きだした。
そして光が集まり俺とミコトを繋いでいる小指を包んだ。
・・・光が収まりまたいつものへやに戻った。
視力が戻り自分の小指を見てみると、みたことがない指輪がしてあった。
「これは・・・」
「それは、誓いの指輪。私たちとの絆です」
「絆?」
「そうです。それはあなたが望んだことが継続するためのものです。したがって、その指輪は自分から取れることはありません。あなたがなくなる時間は変えることはできないので、その時まで願いは継続されます」
「・・・でも・・・もし自分から終わりを向いたいなら自分から指輪をはずすこともできます」
「和弥さんの願いは・・・あの・・・その・・・」
「どうしたの?」
「い、いえ。私・・との・・その・・デート・・ですよね」
「うん、そうだけど」
「それではその願いは時間いっぱい継続されます。でも和弥さんが私とのデートをやめたいのなら自分から指輪をはずしてください」
「・・・解った。でもはずすことはないよ」
俺は自分の小指にある指輪を見た。
銀色のなにも模様のない綺麗な指輪だ。
「あの・・和弥さん」
「どうしたの。改まって」
「あの・・和弥さん、私・・実はデートしたことがないから・・・その・・・どうしたらいいのか・・・」
「そ、それなら。明日の10時に駅で待ち合わせでいい」
「駅と言ううと、すぐそこの建物ですよね。はい、解りました」
そしてミコトは窓の外に出て
「それでは明日の10時に」
と言って空に消えていった。
「よし、時間通り」
俺は駅にある時計を見た。
時刻はちょうど10時のベルを鳴らしていた。
俺はあたりを見まわしミコトがいないか探した。
「和弥さん」
不意に後ろから呼ばれ、見てみるとそこにはミコトがいた。
「早かったんだな。俺も、もうちょっと早くくればよかったな」
「そんなことないですよ。私も今来ましたから」
ミコトは深呼吸をしてから辺りを見ている。
「どうしたの?」
「な、なんか周りの人達が私をみているような・・・」
・・・確かに皆見ている。
「あ、あの私の服装変ですか?あまり人間の世界に下りることないから・・・」
とミコトは自分の服装を気にしている。
「違うよ、ミコト。皆ミコトが綺麗だから見ているんだよ」
「そ、そんなことないですよ。もう、からかわないでください」
と言うもののミコトは下にうつむいてしまった。
俺はそれがおかしくなって少し笑ってしまった。
「さあ、ミコト、行こう」
俺はミコトの手をつかみ駅の中に入った。
「わっ、ちょっと待ってください」
ミコトは躓きそうになりながら後をついてきた。
「所で今日はどこにつれていってくださるのですか?」
ミコトは目を輝かせながら聞いてきた。
「そーだな・・・」
別に考えてきていないわけではないが、公期待されっるとちょっと恥ずかしい。
「あれ、なんかはどうかな」
といって俺は柱に張ってあるポスターを指差した。
そこには『テーマパーク ヴィントランド』と書かれていた。隣り街にできた新しい遊園地だ。
これはつい最近にオープンされたにも関わらず大人から子供まで大人気の場所だ。
ただこの近くに大きな遊園地がない、というのもプラス要素になっているが結構な人気だ。
同じバイトの人たちも皆面白いと感想を言っていたくらいだ。
「・・・遊園地・・・ですか」
「そ、ミコトは遊園地行った事ある?」
「いえ、ありません。上の世界から何度か見たことはありますが・・・行ったことはないです」
「それなら調度よかった。結構評判いい所だから楽しめると思うよ」
そういいながら俺は隣り町の切符を二枚買った。
「あ、そう言えば私、お金持っていません・・・」
「いいよ。今日は俺が全部出すから」
「でも、それでは悪いです。ちょっと戻ってきますので待っててください」
戻る、てどこに?
「いいから、デートのときは男性が女性の分も出すのが礼儀だから」
「で、でも・・・悪いですし・・・」
「いいの、俺とミコトの初デート。俺の言う通りにするの」
それでもミコトはもじもじと考えていた。
「さ、行くよ」
俺はミコトの手を握って電車に乗り込んだ。
電車は俺達がちょうど乗り込むと出発した。
なかは予想どうりの人ごみだった。たぶん皆俺達と同じ目的地なのだろう。
「あ、あの和弥さん」
「ん」
目の前にいたミコトが小声で言ってきた。
「あの・・、痛いです」
そういって繋いである手を出してきた。
おー確かに手を握ったままだった。
「悪い悪い。でもこの人ごみだから降りるまで握っていてもいい」
ミコトは顔を真っ赤にしながらうつむき、小さく頷いた。
う~ん本当にかわいい。
電車が駅に着き、人ごみに押されるように俺達も歩き出した。
途中何人かは違うほうへ歩いていったが、ほとんどの人達が遊園地に歩いていって。
「すごいですね~。ここの人達全員が私達と同じところに行くんですね~」
とミコトは驚いていた。
その間俺達はずーと手を握っていた。
「さて、何に乗りましょうか?」
「え、えーと・・・では・・・あれなんか・・・どうでしょう」
と指が指されたものは大きな山のようなジェットコースターだった。
「・・・まじ?」
「な、なんでですか?突然言われたので一番目立つ乗り物を選びましたけで・・・だめですか?」
「だめ・・・ではないけど・・・ねー」
「?」
「さ、さーいこうか。あははは」
「?」
ミコトは解らないようだ。
「楽しみですねー、わくわくいしますねー」
ミコトは楽しそうだ。それに比べて俺は・・・
「はー。なんでよりによって一番前に・・・」
「あら、景色がよく見えるではないですかー」
ほら、と前を見てみると確かにいい景色だ。
しかしその景色もすぐに白い線路に変わった。
「う、う」
「あははははー」
「うわわわーーー」
地獄だった。なぜあんなにスピードがでるかなー。どうして天地逆になりながら曲がるかなー。どうして・・・
「だ、大丈夫でしたか?和弥さん」
「う、うん。まーなんとか。楽しかった?ミコト」
「えー、とっても。和弥さん、もう一回乗りません?」
「イヤ。絶対にイヤ」
「うー、楽しかったのに・・・」
「イヤだ。さ、次にいくよ」
「わ、待ってください」
それからも二人で沢山の乗り物に乗った。
少したちお腹の音と共に正午になった。
それは3種類目のジェットコースターに乗った後に起こった。
「あー、面白かった。ねっ・・・和弥さん?」
俺は後ろでげっそりしていた。
「なんでそんなに元気なんだよ・・・」
「あ、あの・・・ほら私って空飛べるじゃないですか・・・だからなんだかそら飛んでいるように思えて・・・そ、空飛ぶのは結構疲れるんですよ~」
「と言って本当はただ楽しンでいるだけだろ」
「・・・・・・・・」
「・・・今の間は」
「そ、そんなことはないですよ」
「・・・遅い」
「そ、それより次は・・・」
「待て、それよりお腹減った。なにか食べよう」
周りを見てもみんなお昼の為に売店に並んでいる。
「ちょっと出遅れたな。少し待ってから食べよう。ミコトはなにがいい?」
「あ、あのー私・・・」
「?」
「じ、実はお弁当・・・持ってきました」
「本当に」
「はい。・・・あ、あの・・・勉強してデートの時は女性がお弁当を作ると・・・」
いったいなにをみて勉強したんだ・・・
「でも、ミコトは全然荷物を持っていないよ」
そう。俺もそうだけど、ミコトは弁当どころかバックさえ持っていなかった。
「あっ、お弁当ならここに」
といってまたミコトは突然物を出した。
「・・・・・前々から聞きたかったんだが・・・」
「・・・はい?」
「それ・・・どこから出した」
「え・・あっあの・・・その・・・ひ、秘密です」
「いや、気になるって」
「だから・・・その・・・」
ミコトは困っているようだ。
「ねえ、教えてよ」
俺が詰め寄るとミコトは人差し指を口の前に持ってきて
「やっぱり秘密です」
と悪戯っぽく言った。
「さあ、早く食べましょう。和弥さん」
そお言ってミコトは歩き出した。
うまい具合に席が空いていたので先にミコトを座らせ、俺は飲み物を買った来た。
はい、とミコトに飲み物を渡しおれも席についた。
「あ・・あの、お口に合うかどうか・・・」
といってミコトのお弁当には沢山のサンドウィッチが入っていた。
「へー、おいしそうだね。これ、全部ミコトが作ったの?」
と聞きながら早速一つ拝借。
「はい・・・一応。これなら簡単ですから」
「ふーん・・・美味しいよ。これ」
「本当ですか・・・よかったー」
本当に美味しかった。早速2個目を拝借。
ミコトも安心したのか一個目をようやく食べ始める。
「でもびっくりしたよ、ミコトたちも俺達と同じものを食べているとは」
「あっ、ひど~い。和弥さんは私達をなんだと思っていたんですか」
「悪い。でも同じもの食べていると思うとミコトが死神とは思えなくて」
「私達の生活は皆さんとほとんど変わりませんよ。食べ物も一緒のものを食べていますよ」
「ふーん、そうなんだ。なんかイメージがわかないんだけど」
「もー、それはただの偏見です」
ミコトと笑いながら昼食を食べる。思えば久しぶりに笑いながらご飯を食べたように思う。
サンドウィッチも全部食べ終わり、ミコトは片付けをしている。
そしてふいに弁当箱をを消した。
ミコトは当たり前のようにしているが回りの人が不思議そうに見ている。
・・・やばい。
「さ、さあミコトいこうか」
とミコトの手を握り急いでその場を後にした。
「どうしたんですか、和弥さん」
おまえのせいじゃ。と心中で叫んだ。後ろではちょっとした騒ぎになっている
・・・・・・疲れた。
・・・お腹が痛い。急に走ったからだな。
後ろではミコトも息を荒くしている。
「いったい・・・どうしたんですか・・・急に・・・走り出して」
「ミコトが・・・悪いんだよ」
「えっ」
「あのねミコト、人前で物を出したり消したりしたらおかしいよ。俺達はそんなことできないんだから」
「あっ・・・すみません。そう・・・ですよね。なれてしまうとつい」
ミコトは反省しているようだ。
「ま、いいよ。今度から気おつけてね」
「はい」
「さて、これからどうしましょう。食べたばかりだからあまり刺激が強いの・・・」
「では、あれなんかどうでしょう」
と指差しているのは観覧車だった。
早速、列に並び観覧車に乗る。
「わあ、結構上に上がるんですね」
「ああ、・・・そうだね」
「・・・・どうしたんですか?」
「うん・・・あ、ああ・・・」
「?」
「なあ、俺今日死ぬんだよな」
「・・・はい。そうです」
「ご免。ちょっと気になって・・・」
「死ぬの、嫌になりました」
「そうじゃないけど・・・なあ、俺いつ死ぬんだ」
「すみません。それは教えることはできません・・・・ごめんなさい」
「悪かった。そんなこと聞いたらこれから楽しめないよな」
「はい。そうですよ」
「・・・詳しいことは言えませんが、まだまだ時間はあります。私もまだ沢山和弥さんと遊びたいです」
「そうだね。じゃ次はなにに乗ろうか」
「そうですね・・・」
すると突然観覧車の動きが止まった。
「どう・・・したんですかね・・・」
「風が強いから止まったのかな」
「早く動くといいですね」
俺達が乗っているゴンドラはギシギシと揺れている。
「ちょっと・・・怖いですね」
「ああ、確かにちょっとただ事じゃないな」
と話していると観覧車は動き出した。
「動き出したな」
「そうですね・・・良かった」
なんやかんやで無事に到着。
と俺達が降りたとたん今まで乗っていたゴンドラが落ちた。
「おいおい冗談だろ・・・」
「ま、まさか・・・」
「とりあえず、逃げるぞ」
「はいっ」
後ろのほうでは多いな騒ぎになっている。
俺達はとにかく走り、人がいない高台にでた。
「いったいどうしたんだ。なにがなんだか・・・もう」
「もしかしたら・・・今のが向えなのかな」
「でも、なにも起きなかったぞ。しかもミコトも一緒に乗っていたし」
「そうですよね・・・ではただの事故?」
「かな・・・でもなんか不に落ちないな」
「う~ん」
「まっ、悩んでいてもしょうがないね。じゃ戻ろうか」
「でも今戻るのは・・・」
「そうだね。じゃ少しここで休もうか」
そうして二人で芝生の上に座る。
昼も少しすぎ、暖かい日差しが気持ちいい。
「なんだか眠くなってきたな」
「では、少しお休みになられたら。私このままいますから」
「じゃ、お願いする。30分くらいしたら起こして」
「はい、おやすみなさい」
・・・・・・・・・暗い・・・・・・
・・・・・・・・どこだ・・・・・・・ここは・・・・・・・
・・・・・・・・夢・・・・・・なのか・・・・・・
「・・・・・・・もう少しだ・・・・・・・もう少しでここから・・・・・・」
「!」
・・・・・・誰かいるのか・・・・・・・
「・・・・・後・・・・もう少しだ・・・・・」
・・・・・誰だ、そこにいるのは誰だ・・・・・・・
「・・・・俺は、お前だ・・・・・」
・・・・・なにを言っている・・・・・・・・・
「・・・・・まあいい・・・・まだ生かしといてやる・・・・・・」
・・・・・・・・生かす・・・・・どう言うことだ・・・
「・・・・今に解る・・・・我が主よ」
「うわっ・・・なんだ・・・・夢か・・・」
起きてみると全身汗だくになっていた。
「しかし変な夢だったな・・・・・ミコトは」
周りにはミコトの姿はなかった。
時計を見てみるとほんの10分くらいしかたっていなかった。
「でも変な夢だったな・・・・なんか疲れたし」
そうすると後ろのほうでミコトの声が聞こえた。
近寄ってみるとミコトは誰かと話しているようだ。
「・・・・では・・・・和弥さんは・・・・
「そうだ、とんでもない奴だった。このままほっとくと危ない」
「じゃ、どうするんですか」
「少し早いが、死んでもらうしかない」
「・・・・・はい。解りました」
「まかせた」
そこで話しは終わった。
俺は出ることはできず、木の後ろに立っていた。
結局、話し相手は解らなかった。
「和弥さん」
戻ろうとしたミコトの前に俺は出た。
「ご免。話し聞いた」
「そう・・・・ですか」
「教えてくれる・・・よね」
「・・・・はい」
「さっき、観覧車が止まりましたよね」
「・・・うん」
「そして私達が降りたと同時にゴンドラが落ちましたよね」
「・・・・・」
「本当はその時死ぬはずでした・・・・」
「でも、その時はミコトも一緒に・・・・・」
「私は!・・・・私はすぐに逃げれます。そしてそこで終わりのはずでした・・・」
「・・・・・・」
「いつ死ぬかは私にはわかりません。なるべく自然にいなくなるようにするんです・・・・それが規則ですから」
ミコトはまっすぐ俺の目を見ている。
「さっき刹那からの話しでは・・・・刹那とは私の上司で父親ですけど、話しでは実はあなたはもっと前から死ぬ運命でした」
「もっと・・・前に・・・?」
「・・・はい。でもいくつもの偶然が重なりあなたは死ぬことはありませんでした。そして一番大きな事故はあの飛行機事故でした」
「あの事故は沢山の人が亡くなったし・・・それのに俺の両親も乗っていたんだ」
「前にお伝えしたけど・・・人にはそれぞれ運命が・・・死ぬ時が決まっていると・・・」
「そして・・・俺は・・飛行機には乗らなかった」
「刹那の話しでは、あなたは絶対に死なない幸運を持っているそうです」
「・・・・どう言うこと?」
「運命ではあなたは早く死なせようとしています。でも和弥さんの中では死なせないようにしています。それにより和弥さんは今まで死ぬことはなかったのです」
「・・・なんで・・・俺はそんなに早く死ぬことになっているんだ」
「それは・・・和弥さんの中にいる『鬼』のせいです」
「おに!?」
俺は一瞬聞き間違いかと思った。
でもミコトは真剣な顔で見つめている。
「・・・その昔・・・この地には『鬼』が住んでいました。と言ってもその者は人間でした」
「人間?」
「はい、人間でした。ただ普通の人よりも体格も大きく、力も強かったのです。今ではなぜ生まれたかも解りませんがその人は人間でした。ある事件が起きるまでは」
「その人は生まれた時から人里離れた山奥に住んでいました。家族は父親だけでした。それでも彼は幸せに暮らしていました。しかし父親が死に一人でいることが寂しくなった彼は、約束を破り人里に降りたのです」
「それは父親との約束。父親は彼に『決して人里に降りるな。そして人に姿を見せるな』と言う約束をして死んでいったのです」
「しかし彼は我慢できずに人里に降りました。人里に降り彼を見た村人はびっくりして彼のことを怪物と叫びました」
「それは仕方のなかったことです。彼の体格は大きく村人達とは明らかに違っていました。なんとか話しをしようと近寄っても村人は怖がり叫びつづけました。そして多くの村人が来て彼に『怪物』と叫びながら石を投たのです。それを払おうと手を振ったところ偶々運が悪く子供に当たってしまったのです。彼の力は強く子供は勢い良く壁に当たり死んでしまいました」
「そこから逃げるように彼は森に帰っていきました。しかし村人達は自分達の住んでいる近くに怪物がいると解り怪物を退治することにしました。しかし怪物の力を目のあたりにした村人達はまともに遣り合っても退治できないので彼がいる山を焼くことにしました」
「早速隣りの村にも伝え山には火がつけられました。彼は自分の家で泣いていました。どうして自分が村人達から嫌われていたのか、そしてこの手で子供を殺したことに泣いていました」
「火は瞬く間に山全体に広がり彼が気づいた時にはもう手遅れでした。彼は恨みました。自分のことを怪物と言った村人達を、そして自分ことを殺そうとした村人を、そして自分を育てた父親を恨みながら死んでいきました」
「火の手は三日間燃えつづけ、村人達はこれで終わったと安心しました」
「しかし彼は生きていたのです。そして自分を殺そうとした人間を恨み、自分を殺そうとした人間に復習するために人里に降りたのです」
「その日の夜、彼が降りた村には生きている人はいなくなった」
「そして次々と村を襲い、いつからか『鬼』と呼ばれるようになった」
「山を降りてから五つ目の村を襲ったとき、彼の前に一人の男が現れた」
「それから彼と男の戦いが始まった。不思議なことに男は刀一本で対等に戦っていたのだ。二日目に右腕を切り落とされ、三日目には片目をやられた。そして四日目とうとう心臓に刀が刺さった。しかし彼の心の中では人間に対しての恨みはたまり、それは例え体が無くなっても残り続けた。そこで男はそこに大きな岩をおき封印した」
「それが封印された岩は鬼の形に彫られそこには鬼を祭る神社が立てられました」
「その神社って・・・」
「そうです。和弥さんのお母さんの実家にある『神岸神社の御神体』のことです。和弥さんも何回かはご覧になられたと思います」
「ああ、確かに。良く遊びに言ったものだ。あまりにも良くできているからはじめは怖かったよ。それに良く昔話として話しをしてくれたよ」
「そこに祭られているのが昔本当に鬼と呼ばれたものなのです」
太陽は少しづつ沈み、辺りは夕日の赤がまぶしくなってきた。
「さっきの話しには続きがあります。彼は肉体が滅んでも自分の中に呪いのような恨みは消えることは無く、男が彼の心臓を刺したとき彼の呪いは男の中に移ったのです。何時の日か人間を滅ぼすために」
「そして彼は自分を倒した男の中で生き続けていたのです。例え男が死んでもその子供に移り待ったのです、復活する日を」
「・・・・・・・・・」
「和弥さん、さっき私が刹那に合っていたのはあることを調べてもらっていたのです」
「・・・・調べる?何を」
「・・・・和弥さんが本当に死ぬ時です」
「俺が死ぬ時?」
「そうです。驚くことに和弥さんは1歳のときに死ぬ運命でした」
「そんな昔に」
「はい、1歳のとき始めて神岸神社にお参りに行った時に誤って池に落ちて死ぬはずでした。でもその時にあなたの中で眠っていた『鬼』が起きたのです」
「ちょっと待って、なんで俺の中に『鬼』いるんだよ。確か鬼は・・・・・ちょっと待って、まさか」
「そうです。あなたの先祖は以前『鬼』と呼ばれた彼を倒した男なのです。そして和弥さんの中にはその男にとり付いた本当の『鬼』が宿っているのです・・・・」
「だから俺は早く死ぬ運命だったんだ・・・・」
「そうです。その他に大小いろいろとありましたけどどれもすべて未遂に終わっています」
夕日も沈み辺りは赤から黒に変わり始めていた。
そして俺達の間には11月の冷たい風が吹いていた。
「一つ・・・・教えてくれ。俺の中にいる鬼は何時起きるんだ・・・・」
「まだ正確には解りません。ただ彼は待っています、あなたの心が無くなることを。和弥さんの心はすでに疲れています。何時彼が起きてもおかしくありません。だからそうなる前に・・私は」
「・・・解ったよ。俺はミコトと会ってから死ぬことを決めた。そして死ぬ前に楽しい思いでもできた。・・・・ありがとう、ミコト」
ミコトの目からは涙が流れていた。
「だからさ、最後はミコトが連れて行ってよ。俺、後悔しないから」
「はい。解りました」
と言ってミコトは背丈くらいある鎌をだした。
「では・・・・いきます、和弥さん」
ミコトは大きく釜を振り上げた。
俺は目を瞑った。俺の目からも知らないうちに涙が出ていたようだ。
目の前で風を切る音が聞こえた。
しかしその瞬間あの夢の声が聞こえた。
「・・・・まだ死なせん・・・・」
そう聞こえると俺の体はかってに動きだした。
ミコトが振り下ろした鎌は確実に和弥の心臓を捕らえていた。
しかし、鎌は和弥の心臓を刺さずその手前で止まった。
なんとミコトの鎌を和弥素手で止めていた。
「和弥さん・・・・どうしたのですか・・・」
ミコトは和弥が鎌を止めたこと、そして和弥が素手で鎌を止めたことに驚いた。
「・・・・まだ・・・・殺すわけにいかない・・・・」
そこでミコトは気づいた。声は和弥でも気配が違うことに。
「そうですか・・・・間に合いませんでしたか・・」
「せっかく見つけた男だ・・・・そう簡単に殺すわけにはいかない」
和弥の中にいた鬼は久しぶりに感じる空気を楽しんでいる。
「外の空気を感じるのは久しぶりだ・・・・ちょっと早かったが、まあいい。時期になれるだろう」
「残念ですが、そう言うわけにはいきません。今まではあなたは人の中に潜んでいたので私達も何もできませんでした。でも今は外に出ています。今ならあなたを殺すことはできます」
鬼は少し笑った。
「ほー。お前にそれができるのか・・・・。この男を殺せるのか」
しかしミコトも少し笑いながら
「殺せますよ・・・だって私「死神」ですから。人くらい簡単に殺せますよ」
そしてミコトは背中に白く美しい羽を広げ少し空に飛んだ。
「それでは・・・・あなたを、殺します・・・・」
ミコトは空を飛んだまま鬼との距離を縮めた。
「・・・・小娘が」
しかし鬼は動じることも無く姿勢を低くした。
ミコトが鬼の目の前に近づいた瞬間、鎌を振り下ろした。
しかし今まで居た所に鬼はおらず、鎌は空を切った。
するとさっきまでは感じなかった殺気を上から感じた。
鬼はミコトの頭上にジャンプしていた。そしてそのままミコトの頭めがけて殴りかかった。
間一髪ミコトはそれをよけた。しかし体制を崩したところに着地と同時に鬼の蹴りがミコトに当たった。
ミコトは一瞬呼吸が止まり、そのまま倒れた。
「さすがだ・・・この男はあの侍の生まれ変わりだ。今までの奴らとは比較にならんほど使いやすい。これで俺は自由だ。今こそあの恨みを晴らしてくれる」
鬼はミコトには目もくれず歓喜していた。
鬼の力は強かった。
決してミコトは弱くは無かった。しかし鬼の力はそれを春かに凌駕していた。
なんとか呼吸ももとに戻り立ち上がる粉とができた。
「待ちなさい。あなたをこのままにしておくわけにはいきません」
鬼はゆっくりとミコトの方を振り向いた。
「まだ生きていたか・・・ジャマになるだけだ。ここで殺しておくか」
そう言って鬼はミコトに近づいた。
・・・・・・・・暗い・・・・・・
・・・・・・・・ここは・・・どこだ・・・・・
「きゃああああああああ」
遠くで悲鳴が聞こえた。
その声を聞いたことがある。
「ミコト!」
目の前に映像が浮かびそこにはぼろぼろになったミコトの姿があった。
「ミコトー」
動こうとすると自分が鎖に拘束されていることに気づいた。
鎖は両手両足だけではなく、体全体に巻き付いていた。
なんとか解こうと体を動かしてみるがとれる気配はない。
「きゃあああああああ」
またミコトの悲鳴が聞こえた。
「やめろーーーーーー」
力の限り叫ぶと別の声が聞こえた。
「おとなしくしていろ・・・・どうせ出ることはもうない」
「なんだと・・」
「本当はもっと後に入れ替わる予定だった。お前の心が死んでからな。しかしお前の体を無くすわけにはいかない。だから少し早く出てきた。お前自身死ぬ覚悟をしていたからそうやってお前の心が消えるのを待っていろ」
「どうして俺の体を選んだ」
「お前の体はあの侍の体と同じだから。俺の力を十分に引き出せるのはこの体しかない。だから選んだ」
「お前はいったい何をしようとしている」
「知れた事よ。自由がほしい。生まれたからずっと森から出ることはなく、村に出ても人間に追い出され挙句の果てには山まで焼かれた」
「・・・・・・・・」
「いったい俺が何をした。俺はただ山を降り普通に暮らしたかっただけだ。それを人間は俺を見るなり化け物と追い出したのだ」
「だから俺は自由を手に入れるためにそれを邪魔するものをすべて殺してきた」
「・・・・・・・」
「それをあの侍は邪魔してきた。力では俺のほうが強かった。しかし侍は戦いに長けていた。そのため俺は奴に殺された。しかし最後に俺は奴の中に入ることができた。それからこいつの体をとる事にした。この男の戦いと俺の力が合わせれば俺の邪魔をするものはいない」
「お前の言っていることは解る。でもお前は間違っている」
「お前に何がわかる。同じ人間に化け物と呼ばれ、山も焼かれたのだぞ」
「だからと言って同じことを繰り返していたらお前も同じじゃないか。確かに悪かったよ。俺なんかが誤ってすむ問題じゃないけど、やめろよこんなこと」
「こんなことだと。お前は知っているか人に嫌われ、拒絶され、奪われることがどんなにつらいか。家族と平和に暮らしてきたお前に何が解る」
「だから奪うのか。それはただイジメられた奴が逆にイジメ返しているだけだろ」
すると俺を縛っていた鎖が徐々に緩み始めた。
ミコトは体じゅう痣ができ、いたるところから血も出ていた。
鬼がとどめを刺そうと腕を振り上げたとき急に鬼は苦しみ出した
ミコトは何が起きたのか解らなかった。
「・・・・ミ・・・コト・・・」
「和弥さん?・・・・・和弥さんですか」
「うおおおおおおおおお」
和弥に体は今二つの心が取り合いをしていた」
「邪魔をするな。お前には関係ない」
「もうこれ以上はやめろ」
「五月蝿い。・・・・今からお前の心を消してくれる」
「どうするつもりだ。お前は直接俺に攻撃できないはずだ」
「今この場で女を殺したらどうする」
「やめろ!」
「目の前でこの女が死んだらお前はどうなる」
「やめろ」
「お前の心は完全に無くなる」
「やめろーーーーー」
「しばらく黙っていろ・・・」
「・・・・和弥・・・さん」
「残念だが・・・あいつは俺の中だ。あいつを消す為にお前を殺す」
「・・・和弥さんを・・・・返して・・・」
「・・・・死ね」
「やめろーーーーーーーーー」
鬼の手がミコトに届く直前、和弥が表にでた。
「もう・・・やめろ・・・俺が背負うから・・・お前の苦しみ背負うから・・・・・もう、やめろよ」
「和弥・・・さん・・」
「ご免ねミコト。せっかく綺麗なのに体中傷だらけになって」
「・・・・いいですよ・・・これくらい」
ミコトは涙を流しながら和弥に抱きついた。
「俺がお前の苦しみを背負うから」
和弥の中にいた鬼は和弥の中で生きていた。
「こうなってしまっては俺にどうすることはできない・・・・今はお前の言葉、信じてやる」
「ああ、サンキュ」
「でも、今度心が死んだら俺は外に出るからな」
「大丈夫だ。そんなことはもうない」
「ふっ、失望させるなよ・・・我が主よ」
「和弥さん・・・和弥さんですよね」
「ああ、なんとか・・・勝つことができたよ」
「じゃ・・・鬼は今?」
「俺の中にいるよ。次に心が死んだら暴れてやるそうだ」
「そうですか・・・」
ミコトは和弥から離れた。
「・・・どうしたの、ミコト?」
ミコトは俯きながら話した。
「私は・・・和弥さんを殺さなければいけません」
ミコトは両手に鎌を構え、後ろに羽が広げている。
「ごめんなさい・・・和弥さん」
「どうしてだミコト。俺の中の鬼は暴れることはもうない。やめるんだ」
「駄目です。鬼はまだ和弥さんの中にいます・・・それを見逃すわけにはいきません」
「そんなことって・・・俺は約束したんだ。お前の分も生きると」
「・・・ごめんな・・・さい・・・」
そしてミコトは鎌を振り下ろした。
「・・・・・・!」
しかしミコトは和弥を殺すことはできなかった。
「・・・ミコト・・」
「・・・できません・・私にはできません。和弥さんを殺すことはできません」
「それでいいんだよミコト」
和弥は泣いているミコトを抱きしめた。
辺りは完全に闇へと変わっていた。
二人はその場に座り、沢山の星を見ていた。
「・・・和弥さん」
しばらく黙っていたら、ミコトが話し始めた。
「うん。」
「和弥さん、私一回戻ります」
「大丈夫。戻っても」
「・・・はい、大丈夫ですよ。だから和弥さんも今日は帰ったくれますか?」
「・・・解ったよ。でもまた合えるよね・・・・」
「・・・はい。約束します。必ず合いに行きます・・・」
「・・・約束、だよ」
「約束します・・・ですから新しい誓いをしましょう」
「そうだね・・・新しい絆だね」
そういって俺は小指にある指輪をはずそうとした。
「待ってください、それは外さないでください」
「どうして・・」
「あ、あの・・・私はまた和弥さんと・・デートがしたいです」
「うん、解った。俺もまたミコトとデートがしたい」
「では今度は薬指にしますね」
と言ってミコトは右手を出した。
「ああ、頼むよ」
俺も右手を出した。
そしてミコトは俺の手を取り、辺りには光り輝きだした。
あれから二週間。ミコトからは何も連絡はない。
俺も何事も無く今までどうり普通の暮らしをしている。
俺の中の鬼はあれから目覚めることは無く、俺の呼びかけにも答えない。
そして今年も終わろうとする一週間前、俺はいつも通りにバイトを終え部屋に帰っている。
外は雪も降り始め、恋人達にとってはホワイトクリスマスだ。
俺はポケットから右手を出し小指と薬指を見た。
「俺の天使は、いったいどうしたことやら」
小指には銀色、薬指には金色の指輪がしてある。
俺はまたポケットに手を入れ歩き出した。
部屋に付き、鍵を開け中に入る。
「ただいまー」
また誰もいない部屋に話す。この癖は治らないらしい。
「お帰りなさい」
しかし返事は帰ってきた。俺は声のほうを見てみるとそこにはコタツに入ったミコトがいた。
「・・・ミコト・・」
「おかえりなさい・・・和弥さん」
俺は靴を乱暴に脱ぎミコトに駆け寄った。
「ミコト・・・待ったよ。長かったよ」
「ごめんなさい。・・・ちょっと手間取ってしまいまして・・・」
ミコトはふかぶかと頭を下げた。
「手間取った、と言うと・・・俺のこと」
「はい・・・・そうです。そのことで和弥さんにお伝えしなければ行けません」
ミコトの顔つきが真剣になっていた。
「和弥さんの中にいる鬼は一度覚醒して表に出て来ました。でも和弥さん自身で鬼を封じこめ再び、和弥さんの中に戻りました」
「・・・・・」
俺は黙って頷いた。
「しかし、また何時か出てくるとは限りません。そして今度は封じることができないかもしれません。そこで私達は和弥さんを監視することにしました」
「監視・・・ですか」
「そうです。これから24時間和弥さんは監視されます」
「24時間!。ずーっと」
「はい。でもみんなが見ているわけではありません。監視官一人です。それにずーっとと言うわけではないですよ」
はあー、と俺がため息をついているとミコトは話し始めた。
「後もう一つ。その監視官ですが・・・・その・・・私です」
「へっ・・・ミコト」
俺はおもいっきり大きな声で叫んだ。
「はい、私です。これは決まったことなので拒否することはできませんから」
俺は澪とが話している途中でミコトに抱きついた。
「もし嫌だ・・・・と言っても私は出て行きませんから。どこまでも付いていきますから」
「大丈夫・・・そんなことは絶対に言わないから」
俺はさらに強くミコトを抱きしめた。
「和弥さん・・・苦しいです。でも・・・嬉しいです」
俺達はいつまでも抱きしめていた。
外はさっきから降っている雪が積もり始め、街全体が白く覆われていった。
まるで・・・ミコトの羽のように白い雪が街を包んでいた・・・・
終わりです。
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