第四話ー「現実はそこにちゃんとあった。」ー
こんばんは。こんにちは。梅木仁です。
とある方からの感想で、「うめきじゃないの?」と言われましたが、読みはバイキンマンでお願いします。名前の由来は話せば長くなるのですが。
今話では、ついに女の子が!って前話でも出てきていましたね笑
絵もない作品ですので想像も大変だと思いますが、
女の子や逸太たちをできるだけ表現できるように苦手な人物描写も頑張ります!
両隣の席が女子。
思春期男子ならば少し心が浮つくだろう。
小生だけではない。多くの入学生、いや、この際、春になって新しい環境を迎えた多くの新人という範疇でくくった方がいいかもしれない。そこに入る人々はきっと今から始まる物語に胸を躍らせるのではないだろうか。出会い、刺激、緊張、初々しさ、などあらゆる言葉で表現できる未知が、そこには待っている。とりわけ、思春期の高校生はきっとその感受性ゆえに、いろいろな想像を働かせることだろう。いや、待て。よく考えてみれば、新人を迎える側、宝南高校在校生もきっと同じ気持ちであるはずだ。そうだ、春は誰にとっても、胸を躍らせる季節なのだ。
そして、『ありもしない』高校生活のリア充を想像して、喜んでいる小生がここにいる。そんな想像をする自分は深層心理にいる。表面は、隣のクラスにいる俊と同じだろう。そんな風に脳内で考えながら。まだまだ甘えだなとか心の中でつぶやいてみたり、未練という言葉を思い浮かべてみたりする。
小生がそんなたわいもないことを考えている間も、左の読書少女は食い入るようで周りを寄せ付けず、一方で笑顔で話す片方の女子の口は止まらない。聞き手はと言うと、相づちを打つ程度に楽しそうに笑顔で受け答えをしている。
そして、時刻は八時三十分。校内放送が流れる。
「新入生、在校生は体育館に集合して下さい。」
その放送が終わってまもなく、小生の机に俊がやってくる。
「コバ~、行くぞ~」
「ああ、行こうか。クラスの雰囲気はどうよ?」
「ん、まあ、大丈夫だ」
「なんかあった?あ、もしや、隣の席が残念とか?」
「いいや、そういうわけじゃない。コバと同じで両隣が女子だよ。」
「へぇ~ならよかったじゃん。って見てたのかよ!!とはいえ、リア充確定ガチャじゃん。」
「俺の前でわざわざそういうこと言わなくていいよ、コバ。」
「そうだな、ごめんごめん。少しいじわるした。」
「いいってことよ。それよりもだ。うちのクラス、すでに担任らしき教師がいた。」
「え、俊、どういうことだよ。俺のところはいなかったぞ。それに発表はまだだぞ?おかしいだろ。」
「俺もおかしいと思う。スーツ着てたから間違いない。そのせいで、クラスは静か。」
気づけば、もう体育館も前まで来ていた。校内見学を済ませているとはいえ、校内の仕組みを完全に理解しているわけでもないが、大衆の流れに棹させば、順路なんてものは基本なんとかなる。
「あれ、太森くん!ずいぶん前に教室をでたと思ったんだけど。」
後ろから軽やかな声と足取りで、俊に声をかける女子がいる。
「お、隣の席の九条さん!あ、紹介するよ、こっちは同中の小畠逸太。隣のクラス」
「初めまして!どうぞよろしく!」
「九条凛です!よろしくね!太森くん、先に行ってるね~お二人ともごゆっくり~!」
明るい彼女の口調に、こちらも心なしか明るくなった気がする。
そして、彼女は人混みの間をすっと行ってしまった。小生の耳にはまだ彼女の声のエコーが鳴り響いている。
「あの子、よさげな子だろ?廊下で彼女から声をかけてきたんだ。」
「え、そうなのか。あの性格からして確かになぁ~」
「彼女なら多分いろいろと支えてくれると思う。」
「そうだな。まあ、まだわからんけども。」
体育館の中に入ると、すでに在校生多くは整列を終え、入学生を待つ状態だった。
小生は俊と別れてそれぞれのクラスの中に混じっていく。
整列を終えて、小生のクラスは全員がその場に腰をかけた。
入学式というのに、体育館の床に座らされている。
「あれ、さっき、みっちゃんの隣に座ってたよね~?」
小生の耳はその声を聞いて、だいたいの見当を付ける。
この明るくはきはきとした声。そう、あのとき後ろで歩いていたあの子だ。
いつかは自分から声をかけようとは思っていたけれど、彼女から声をかけられるとは、思っていなかった。とても嬉しいという言葉より、今にも舞い上がってしまいそうだ。
「ああ!確かに隣の席で話していたね!」
小生も自分ができる限界の明るい声で彼女に返事をする。
「そうそう!覚えててくれたんだ!」
「そりゃあ、明るくて良い声だったし」
「声?ああ、そうなんや!声がいいとか初めて言われた!」
そういう返答をする彼女の声ももちろん美味い(おいしい)。
「自己紹介してもいいかな、俺、いや、小生は、小畠逸太。」
「しょ、小生?え、よくおじいちゃんが使うやつじゃん。」
「そ、そうそう!おじいちゃんとかがね~」
「ふ~ん、私はちがうけど、古典とか好きなの?」
「いや、そうでもない」
「な~んだ。おかしいの。」
そういって、笑い始める彼女の顔はどこか本心で笑っていない。愛想笑いである。
「で、そっちは?」
「そうだね~、一応言っておこうかな。」
「一応ってどういうこっちゃ・・・」
「藤原希海。呼び名はなんでもいいよ~」
ぎこちない彼女の反応に少し戸惑いながらも、なんとかお互いの自己紹介を終える。
その直後に、式が始まってしまったので、これ以上の会話はできなかった。
それでも彼女と会話できたことに小生は手応えを感じていた。
式が始まった。
さっきまでの幸福かつ充実した時間は一瞬にして、灰色の現実によって変えられた。
小生はじっと耐えながら、式の終わりを待っている。
式が始まって、小生は違和感しかなかった。
校長の式辞は、要約すれば
おまえたちは生まれてきたことが悪だ、
もしも改心するなら活かしてやる、
さもなくば死あるのみだ、みたいなものだった。
新入生の言葉は、どうか命あれ、国家に命を捧げます、みたいな言葉だった。
生徒会長の祝辞は、壇上で校長から原稿が手渡される。内容も新入生のものとほとんど変わらない。
そして、なによりも壇上の背景に、日本の国旗はない。なにも飾られていない。
中学上がりのあどけない入学生に、はっきりと現実を突きつけた形だ。
その現実に刃向かう者はいない。その現実に目を向ける者もいない。
ただただ黙るだけ。
小生は思うことがある。
黙っていることは、時に正解でないときがある。
黙秘権という言葉が、かつての日本の刑事訴訟法にはあったらしい。被告人が刑事裁判において、自分に不都合な質問に対しては、黙っていることを認め、それによって被告人が不利に扱われることがないようにするものだ。しかし、この言葉は刑事では通用することであっても、世の中では通用しないと考えるべきだ。ここにいる生徒の、黙って下を見ている行為は、黙認なのだ。つまり、今ある現実を暗にであっても認めているのである。確かに、反抗できる力も、それに一矢報いる力も生徒にはない。
だからこそ、小生は誰もが下を向いている中で、前を見続けた。
それは今ある現実をしっかりと目に焼き付けるためだ。
自国のアイデンティティがちゃんとここにあることを、諦めないためだ。
小生たちは属国の民ではなく、自治州の民である。
歴史は繰り返す。よく人は簡単にこのことを口にする。
そして、繰り返された歴史の中に、独立国家の日本はないのである。
最後までお読みいただきありがとうございました。
投稿が遅れまして、申し訳ありませんでした。理由を端的に申し上げますと、小生の失態です。
今話では、女の子が登場しました。筆者は男性ですのでなかなか執筆に苦労しました。
よくTwitterなどで回っているように、男性と女性では物事へのアプローチが異なることが多いように思います。男性脳、女性脳なんていう言葉もあるくらいで、遺伝子レベルで研究されていることです。
ぶっちゃけた話、恋愛も含めて、接し方もよくわかりません。書いていても、生きていても、わからない。わからないから、怖くて前に進めない。前に進んだら進んだで、女性を傷つけてしまう結果になりました。
「こんなやつが恋愛小説なんて書けるわけがない!」という指摘がくる思います。きっと書けていないと思います。そこは認めます。でも努力して書くことはします。なにをすることが努力になるのかはわかりませんが。途中からイデオロギー本になってしまいそうでも、なんとか路線を戻して行こうと思います。
さて、三月になりますと小生の予定が混み合っておりまして、特に上旬は多忙です。
ですので、本日のような深夜投稿になってしまうと思います。読んで下さる方にはご迷惑をおかけします。
今後とも、精進して参りますので一つ、ご理解のほどよろしくお願いします。