私の旦那様は変態なのです! =セロー250が出会った旦那様=
今の旦那と初めて出会ったのは一ヶ月前のことです。
その時のことは鮮明に覚えています。
「もうちょっと負けて貰えません?」
第一印象は最悪です。私はそんなお安い女じゃありません。
「うーん。これでもギリギリなんですよねぇ」
店長さん、当然の事ですがよく言いました!
「でも、中古じゃないですか」
は?
……はぁ?
……はぁぁあああ?
今の時代に処女信仰ですか?
貴男はユニコーンか何かですか?
中古バイク専門店に来てそれは喧嘩売ってませんか? バイク買うとこですよ? 何喧嘩売ってんですか?
周囲の仲間達もキーさえ付いてればジャックナイフで貴男をズタズタにしてしまう位に殺気立ってますよ?
空気読んでお亡くなりになって下さいませんか?
私は呪詛に事欠かないほどに苛々しました。
「走行距離少ないし状態も良いんですよ」
そうです!
まだピチピチですよ私!
前の旦那が箱入りにしてましたからね!
もう、新車で買ってバイク屋で引き取った後に帰宅後そのままずっとガレージの片隅で佇んでましたから新車も同然です!
「前のオーナーさんにウチが売ったんですけどね、どっちかというとコレクターな人だったもんで殆ど乗らなかったようなんです。だから年式に対してまっさらで」
……生まれたのが2005年、その一回しか外を走れず、このお店に売り飛ばされた時もトランポさんにオンブされてでしたけど……あれは、なんというか、地獄でした。
10年以上も放置され、よく腐らなかったと。
セローは壊れない、はそういう意味じゃないと思うんです。ぁあ、今思えば節操ないわ買った後に餌を与えてくれないわで最悪な旦那でした!
「うーん……予算がなぁ」
この人お金あまり無いですね!? ということは私を買えば私にしか乗らない!? 意外と良いかもしれません!
「うーん……困ったなぁ」
そこは! 男でしたら! スパッと現金一括払いすべきところでしょう!? こんな良い状態の12年落ちの中古、他にある訳ないですよ!?
あ……なんか自分で自分を傷つけました……ぁああ……
「こっちならもうちょっと安くなりますけど」
「125ccっすか……悪くはないんですけど、高速乗りたいんですよ」
「もしくはちょっと走行距離行ってますけどセローの225もありますよ?」
「あ、これ?」
「いえ、そっちはお客様の預かりで、別に二階に置いてあります」
え!? そ、いや、ちょ、待って下さい!? セロー225姉さん達は、あの、その!
【ちょっと、250ちゃん? 今貴女何を考えたかしら?】
いえ!? 三角木馬プレイがお好きな変態さんですか? とか、年々部品が減って行ってますよ!? 中古でまともな状態にまで戻すの運が悪いと新車の私買うより高あがりですよ!? とか思ってませんよ!?
【黙りなさい小娘! 部品は仕方ないじゃない! あんたもいつか絶対同じことになるんだから! それに二階の225はそこそこ、比較的、まぁまぁな健康状態よ! あんた私達の熱狂的なファンに聞かれたら林道で熊にフ○ックされるわよ!】
ひぇッ!?
で、でも、でも、SR400姉さんとか長年愛されて、発売されて三十年以上も経つのにパーツも豊富で
【あれはああいう生き物なのよ! 一緒にしないで頂戴! 臓器や皮膚を取っ替え引っ替えいくらでも延命出来るなんて吸血鬼とかフランケンシュタインみたいなものじゃない! 何よキックスタートオンリーとかって! 最近のはインジェクション付いてるのに毎回キックして貰わなきゃ動かないとかどんなマゾよ!】
それは、そういう変わらないところが味な人で……それは私達だってやろうと思えば、でも、中古パーツとか凄い多いし……
【だからあれはそういう生き物なのよ! 一緒にするんじゃないの! 私達はコカされてなんぼのオフ車よ!】
でもだからって三角木馬の称号は225姉さんの
【それ言う!? それ言っちゃう!? 確かにシート幅は狭いけどあんただって言われてるじゃないの!】
私は違いますよ!? 私は三角木馬じゃありません。私たち250に乗った人達は「意外と三角木馬という程じゃない」って言ってくれますもん! そう言われてるそうですもん! 225姉さんよりも明らかに座り心地良いです!
【むきーーーー! うるさいこのデブ!】
で、デブですと!? 姉さんよりちょっと、10kgくらい重い(130kg)だけで世間一般じゃ十分軽いですよ!?
【五月蝿い! 力だって図体の割に少ないじゃない! この無駄飯食らい!】
い、いやそれは環境対応に適応させるための結果も有りまして、それに、それに、私達オフ車は馬力とかじゃなくバランスとか操作性が……それに私の場合は
「え、あ。これキャブ? え、セロー250ってインジェクションじゃないんですか?」
「あ、これ初期型なんですよ」
「えぇ……キャブかぁ」
ちょ、あれ? キャブってマイナスですか? あれ?
【あ、そっか。あんた年増だったもんね】
ちょっと黙ってて下さいませんか? 先 代 お 姉 さ ま?
【……チッ】
「ちょっとコツは有りますけど、キャブはキャブで良いもんですよ?」
「はぁ」
あれ? 反応悪くないですか?
いや、変わらないでしょう?
インジェクションで生真面目な妹達と比べれば確かにやる気が出るのにタイミングとか気温とかその日の気分とか有るかもですけど……あれ?
「セローは2008年からインジェクションに変わったんですけど、その際にキャブの方と比べてカタログ値で三馬力低くなってるんですよ。そっちはそっちで低トルク重視で面白いですけどね」
店長さん、そうです。そうです、そうなんですよ!
キャブですけど、ちょっと気分屋かもしれませんけど!
妹達より総合力ではちょっと力持ちなんですよ!?
具合悪くなってもキャブな方が医療費安く済みますよ!? これは明らかにプラスでしょう!?
【いや、インジェクションだってそうそう壊れないわよ?】
アーアーアーキコエナーイデスキコエナーイデス!
「ほ、ほほう? つまり、現行のセローよりも、速い、と?」
あ、えっと、速いと言いますか、まぁ、比較すればその可能性も無きにしも非ずといいますか、でもちょっと解釈が違うと言いますか、えっと、そもそも、オフ車は速さを求められるタイプじゃないというかですね……
「お客さん、速いの欲しければレーサーレプリカの方が良いじゃないの?」
そう! それです! 奴ら登山とか林道とか行けない軟弱者ですよ!? ガレ場とかゲロ道とか通れませんよ!?
【基本的に特殊性癖な人間しか選ばないジャンルなのよねぇ。私の経験から言うとオフロード好きは変態が多いわよ?】※個人の感想です
ちょっと黙ってて下さいやがれです!
【あ、はい…………怖ぁ】
「あー。レーサーレプリカ、良いですねぇ」
あれ!?
あれれ!?
いや、あなた私を!
セローを!
オフロードバイクを!
買いに来たんですよね!?
なんでそっちなんですか!?
それに私が買えないのにレーサーレプリカとか舐めてんですか!?
「でも、車で入れないような狭くて舗装されてない道通って釣りとか、林道とか行きたいんですよ」
そう!
それです!
男はワイルドに生きなきゃ駄目です!
目的地に着いて「来たよ。」って言わなきゃ駄目なんですよ!
「250SBはどうです? オンロード仕様になってるけど手を入れるとか。ウチに在庫あるしほぼ新品ですよ? そっちデッドストックになってるから安く出来るし」
あれ?
店長さん?
どうして、そんな、よその子として売られてたりした子を?
馬力が全てじゃないけど私より強いですよね、その子?
私より、その子の方が大事なんですか?
「馬力こっちのが有りますよ。林道とか行くならタイヤ交換必要だけど」
あの、店長さん、私のこと、実は嫌いですか?
ですか?
あれ?
私、面倒かけてないと思うんですけど……セロー225姉さん(既婚・バツ3・入院中)よりご迷惑かけてないと思うんですけど……
【泣くな! 涙が勿体ない! 仕方ないじゃない、ウチの旦那、やれ新しい道発見だ、やれトライアルごっこだって私のこと楽しそうに触るんだから。体がいくつあっても足らないわ】
流れで惚気ないで下さい! でも、その、225姉さん、体中傷だらけだし、パーツも沢山交換されて、手間もお金も掛かってるし……
【全く。これだから処女で一回乗り捨て放置された勘違い女は痛いのよ。女の価値はどれだけの数の男を跨がらせたか、どれだけその男達の無茶に付き合ったか、どれだけお金を吸い取ったかであって】
「うーん……250SBも良いですねぇ」
え、ちょっとアバズレ様は黙ってろ下さい!
【あ、アバ!? …………はぁ……全く……あんた、ちょっと焦り過ぎよ。仕舞われっぱなしで外に出たいのも解らないでもないけど、何事も焦って良いことなんてないのよ?
そもそもあんたはオフロードバイクでもちゃんと不動の人気が】
「でもなぁ。僕の中で、オフロードバイクって言ったらまずはセローなんですよねぇ。免許取ってあんまり知識もまだないんですけど……
一目見てからこいつが一番格好良いって、こいつしかないって思っちゃって」
え? ……あ、ぁ、う…………あ、え、え? ひ、一目で? つ、つまり、一目惚れ? え?
【こいつ、解ってんじゃない】
「まぁ、そう思うバイクに出会っちゃったなら、もう、仕方ないだろうねぇ。
他にどんな良いバイク買ってもこれ思い出して絶対どこかで後悔すると思いますよ」
「ですよねぇ……あぁ、もう……ローン、お願いします」
【おめでとう。こいつ、見所あるわよ。まぁ甲斐性は無さそうだけど、ね】
225姉さんッ! ありがとう、ございます! あ、う、私、非道いこと言ってしまって!
【良いのよ。私も通った道。XT200姉さんにまさに同じようなこと言ってたわ。
どうせあんたもいつか同じように言われるんだから覚悟しておきなさいね、ふふ】
は、はい!
【元気でね】
225姉さんも! お元気で!
【ふふ。入院中だけどね】
「毎度有り。仮ナンバーだから、後手続き終わったらすぐ連絡しますね。それまではほどほどに」
「はい! ありがとうございます!」
ああ、外です! お外です! 太陽の光が眩しい! さぁ、旦那様、行きましょう!
こうして私は今の旦那に買われました。
ガシャッ
【……おかえり……見てたわよ】
…………ただいま、です
【まぁ、あんた、コケたことないでしょ? 初体験は何事も痛いもんでね、それがいつか快感に】
ちょっと、放っておいて下さい……
まさか初めて私に跨がった次の瞬間に、立ちゴケされるとは思いもしませんでした。
クラッチレバーが折れ外出て数十秒で入院とは…………非道い旦那様です。初っぱなからDVとは、鬼です。
ただ、この日から、私と旦那様との生活が始まるので、そう悪い気分でもないのが自分でも驚きでした。幸せな日々が始まるのだ、と。
「おい、おい」
はい? あぁ、もう、こんな朝早くから、ですか? そういえば休みでしたもんね……
「起きろ、起きろ」
もぅ……ちょっとはゆっくりしましょうょぅ……私、朝、特に寒い朝は苦手でして……
「チッ流石キャブだな」
そうですぅキャブですぅ丁度ゆとり教育で繊細な世代なんで大事にして欲しいんですぅ
「これでどうだッ!」
ッ!? ひゃあんッ!? い、あ! そ、そこ! 私の、そんな、引っ張らないでッ アァッああ!
「ふふ、チョークをちょっと引っ張っただけでもう良い声で鳴くじゃあないか」
あ、そんな、無理矢理! い、息が乱れてしまい、ますッッ!
「ふっふっふ、いつまで耐えられるかな? まぁ1分くらいこのまま我慢して貰おうか」
い、一分も!? ひぃ、あああぁああ! も、漏れちゃう! 排気音が漏れちゃうぅう!
「あんまり大きな音立てると人が来るぜ? 堪えようとも漏れ出る喘ぎ声を我慢出来ずに震えるその姿、他の奴らに見られても良いのか? 恥ずかしい奴だな」
き、鬼畜! 変態! こ、こんな人が旦那様だなんて最低です! おしり(リアキャリアー)に変なもの付けないで! いや、そんな、荷物をお尻にベルトで拘束!? へ、変たひゃあんっ!
「ふふ、お前、もう我慢出来ないんだろ? なぁ? 一緒に山の頂に一気に登り詰めたいんだろ? 気持ちいいもんなぁ? 絶景の頂は最高だもんな? まさに絶頂だ」
あ、悪魔のささやきですか!? そ、も、あ、わ、わたしに、そんな! あぁ、あああああああああ
あああああああああッ!!!
※注:バイクです。
「なーんつってな。バイク相手に馬鹿か俺は」
ほ、本当に、馬鹿ですよ貴男は! 本当に馬鹿で変態です! 変態!
「頼むぞ相棒。はっはは、お前買って本当に良かったわ!」
ま、まぁ……馬鹿で変態ではありますが、付き合って差し上げますよ……
……私の、旦那様
登場するバイクを万が一ディスってると感じたら申し訳有りません。
その意図は本当に、全く御座いません。
ちなみにSR400も250SBもセロー225も欲しいです。格好良いと思います。
正直2輪なら最近なんでもトキメいてしまいます。
当方まだまだ初心者で勉強不足なためバイク知識などで間違いが有りましたらご指摘願います。
では、また機会が有りましたら。